秘密警察職員の手記(11月初頭迄)

10/27

 ゆうべ、署長から呼び出しを喰らった。
 何やらシュヴェルテ暗殺の目処が立ったらしい。今夜こそ確実に成功させるんだとか。
 今日はそれを踏まえて書類を整理し、明日の約束を新聞社にいるDDに取り繕った。
 今週も部下に、“イイ”感じの記事を書かせるんだろう。
 騙されてる民衆は幸せなもんだ。

 明日の見出しこそ“ジークフリート、ヴォ連スパイを抹殺!”になるな。

 ……それにしても、どうしてMAIDは美女ばっかりなんだ?
 エターナルコアで強くなるんだったら、もともとの素質や人格なんて関係ないって事か。
 そうなると、確かに見た目の贅沢をしたくなるのも解る気がするが……

 煙草の吸いすぎで、肺が痛い。
 にしても本当に上手く行くのか? 失敗続きじゃないか。



10/28

 本当にやりやがった!
 ようやくMAIDのシュヴェルテの抹殺に成功した、という報告を聞いた。
 手柄は親衛隊のエメリンスキー旅団によるものらしい。
 本当だとしたら、レイプばっかりの面汚し共でも、仕事はきちんとこなすって事になるな。
 驚いた。

 連中、意外と大物になるかもしれん。

 何にせよ、予定調和的に上手く間に合わせたんだ。
 マクレーヴィヒも中々有能な奴だって事を改めて思い知らされるよ。



11/3/1943

 取材先でこんな話を聞いた。
 現在、各国で登録されているMAIDの教育担当官は、殆どが男だという。


 ――確かに考えてみればそうだな。
 以前から各方面より取り寄せてきたリストを見ても、彼の云っていた事と矛盾していなかった。

 死体とはいえ、女が常人を遥かに上回る力を手に入れたりしたら、
 全人類の主役たる、男の立場が無くなっちまうだろうからな。
 そりゃあ男も必死だろうよ。

 死んでいるとはいえ生身の人間に手を加え、別の存在に書き換える。
 MAIDにされた女は記憶を失い、教育担当官という“親”に従順になる。
 生まれたてのひよこみたいなもんか。


 そのMAIDを育てて、強くして。
 自分の思い通りの性格に仕立て上げる。
 戦場のアイドルとして、プロデュースする。
 担当官が何を考えていても、だ。

 そうして強くなっていったMAIDは褒め称えられて、
 それを育てた教育担当官はお手柄って事になる。


 なんてこったい。
 どの観点から見てもMAIDの根本には必ず何らかのサディズムと、
 男尊女卑が含まれているという事じゃないか。
 女は結局、財産的価値や商品的価値の領域から解放されちゃいない。

 彼女らの、数々のまばゆいばかりの戦果の報道は、全てその隠れ蓑に過ぎない。
 ジークなんてその最もな例じゃないか。


 それで、宣伝されてきたMAIDをある者は利用し、ある者は僻み、ある者は媚びへつらうんだろう。
 じゃなかったら、俺たちにこんな仕事は回ってこない。
 エターナルコアのまやかしに、みんな騙されているだけなんだ。



最終更新:2008年12月06日 19:00
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