゚ -゚ )お暇ですか?

(投稿者:トーリス・ガリ)



 今日のテルマはとても元気である。
 午前中は宿舎の庭でじっとしゃがみこんでボソボソと何か話していた。
 よく見ると、宿舎に住み着いた茶色と黒の縞模様の猫に一生懸命声をかけていた。

「猫さん猫さん」
「……」
「猫さんはお暇ですか?」

 口を大きく開けてあくびをする猫。
 猫はテルマの言葉を理解するわけが無かった。

「そうですか」
「……」
「テルマも暇です。昨日から明日までお仕事がお休みです。三連休です」

 何に対して「そうですか」なのか。
 察してやると、恐らくあくびをするほど暇だと思ったのだろう。

「ではテルマのお話に付き合ってくれませんか?」
「……」
「ご迷惑をおかけします」

 猫を相手にキャッチボールなどできるものか。
 一方的にボールをポイポイと投げている。
 ちなみにこの猫、宿舎の住人には癒し担当としてかなり可愛がられている。

「昨日キルシュさんが大きな狼さんといっしょに歩いてました」
「……」
「キルシュさんです」

 テルマには猫が自分の声に応えているように見えるのか。
 もしかしたら本当に猫と会話ができているのではないかと思えてしまう。
 ……が、現実はそんなお花畑とは違うのは言うまでも無い。

「あなたはキルシュさんに頭を撫でてもらったからお知り合いですよね?」
「……」
「狼さんのことはご存知ですか?」
「……」
「そうですか、テルマも知りません」

 大きな狼。彼女はグエンの事を知らないらしい。
 狼の亜人を素体としたメールであるグエンは、Gの群れに素手で突っ込んでいくとんでもない男だ。
 しかもそんなバカが通っているんだから、世の中理不尽なものだ。
 当然、そんな戦い方をしていれば回りにも知れ渡る。有名な話だ。

「本で読んだことがあります。狼さんは女の子を騙して自分の家に連れ込んで、きつね色に焼いて食べてしまうそうです」
「……」
「それはお前を食べるためだー……って言うそうです」

 待て、それは多分エントリヒかクロッセル辺りかの童話だ。
 ……まぁ、食べるというのはあながち間違いではないんだけれども。
 というのも聞いた話ではあるが、グエンには発情期があるそうで、その時期になると若い女性を近くに置くと派手に犯されてしまうらしい。
 顔がよければ男でもやられるそうだから怖い。
 ただ、騙すことは無いだろう。理性など簡単に吹き飛ぶらしいし。

「キルシュさんはきつね色に焼いて食べられてしまうんでしょうか?」
「……」
「わかりませんか? ……そうですか」

 ところで、亜人というのはやはり総じて発情期というものがあるんだろうか?
 グエンは特別発情期の乱れっぷりが凄いというが、他の亜人も一応あることはあるんだろうか?
 まぁ、ベーエルデーのルフトバッフェには亜人でもないのに生まれた時から発情期のメードもいるらしいから、多分あるんだろう。

「今度会ったら食べられないように懲らしめないといけないかも知れません」
「……」
「Gを追い払うのは得意ですが、テルマは喧嘩はあまり好きではありません」

 そういえばテルマも一応亜人らしい、一体なんの亜人なのかはさっぱりわからないが。
 真っ白につぶらな瞳というと、白兎か何かだろうか? いや、白兎とは眼の色が違うか。
 亜人だとすると、やはりテルマにも発情期があるんだろうか?
 普段の彼女がぼーっとしていて掴み所が無いので、発情した彼女が全く頭に浮かばない。
 とはいえ、根本を言うとそもそも本当に亜人なのかもよくわからないんだが。

「キルシュさんはガードが硬いので大丈夫かも知れませんが、それでもすごく心配です」
「……」
「そうなんですか?」

 何が「そうなんですか?」なのか。
 さっきも同じような疑問が浮かんだ気がするが。
 ちなみにキルシュというメードは本当にガードが固い。
 攻撃型ではないが、戦闘時はレーダーの役割を果たし、どこからどんなものが近づいても見逃さないという。
 更に、メード特有のコアエネルギーを使用した放出・形成能力で強力な防壁を作り、防御面では隙が無い。
 戦闘時以外でもある意味ガードは固く、年中暑いザハーラの地にもかかわらず露出とは無縁の暑苦しいコートに身を包み、前髪を伸ばして顔も半分以上隠れている。
 中身を見たことは無いが、噂では絶世の美少女と言われている……が、あまりにも根暗な性格からは想像が付かない。

「ではテルマはヤられる前にヤるを試してみます」
「……」
「はい、付き合ってくれてありがとうございます」

 「喧嘩はあまり好きではありません」と言ったばかりで何やら物騒な言葉が出てきた。
 やはり止めるべきだろうか? いや、あえて止めない方が面白そうだ。
 グエンとテルマのガチンコ勝負。いやいや実に見もの。
 とはいえ、双方今後の仕事に支障が出ないように見守らなければいけないのは多少面倒な所か。

「ご迷惑をおかけしました」
「にゃぁ」

 一言言って軽くお辞儀をし、パタパタと駆けていくテルマに、猫は初めて返事をした。いや、返事なのかはわからないが。
 彼女とグエンの動向には注意する必要が出てきた。二人が出会う日が楽しみである。

――おわり――


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最終更新:2008年12月10日 00:13
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