楼蘭の大晦日

(投稿者:フェイ)



194X年、12月31日 深夜。
楼蘭皇国の首都、倭都にある輝銘館は騒がしく、そして賑やかな声に包まれていた。

「神楽ぁー!! あーしの嫁かーぐらぁー! あーしがじきじきにカドマッツのお届けだぜー!!」
「秀雄せんぱーい! どりすから門松でーす!!」
「おぅ、それは表に飾ってくれ…ってなんで竹の代わりにバズーカ三本つつまれてんだああああっ!!!」

スパーンッ!
と鋭いツッコミの音が響く。
阿吽の呼吸で光義がバッグから取り出したハリセンを受け取り、振りぬく。
思いっきり頭をはたかれて仰け反ったどりすはがばっと起き上がる。

「あにすんだよぉー!!」
「ここに入んのは竹だっ!! なぁんでこんな物騒なもん突っ込んであんだよ!」
「楼蘭のカドマッツは対空攻撃可能な三連装砲塔だってきいたぞー!!」
「誰からだぁー!!!」

肩をつかんでがくがくとどりすを揺さぶる秀雄にまぁまぁ、と光義がようやく抑えにかかる。

「いいじゃない、少しぐらい羽目を外したって」
「…少しか?」
「だってほら」

くいくい、と指差す先にいるのは、渇朱と壱。
甘酒ではあるものの、すでに飲み始めており、十一が甲斐甲斐しく次の甘酒を運んでいる。
遠くでは匠真が茉莉になつかれうっとうしそうにしながら銃を弄っている。

「…………匠真のやろーはいつもどーりじゃんか」
「…………まぁそうだけどね? あと……」

光義が一瞬だけ横目を向けたほうを秀雄は見て。



「うわぁ」



思わず声が出る。
視線の先にいるのは、安綱、久国、兼定の三人組に加え、さらに皇呀。
こちらもまた、杯を交し合っているが―――どうやらこちらはマジ酒のようである。

「いやー、ひっさびさじゃねぇか最近どうよ~皇呀の旦那」
「戦い続きの日々故、我はどうというようなことも。そちらこそどうなのだ、久国」
「どうもこうも。お前さんみたいにガンガン前線に出るわけでもねぇしよ。オッサンには前線はつらいし、最近は若いモンに任せっきりよ」
「ふむ……」

手酌に酒を注ぎながら皇呀は頷き、久国はぐい、と酒を煽る。

「兼定も我らとそう年は変わらんはずだが」
「あーほらあいつは。精神が若いというかエロいというか思春期というか発情期というか」
「そこまでいうかね!?」
「言われてもしょーがねーだろー。こないだだってほら、皇呀の旦那が羨ましいとか言ってたじゃネェかお前」
「羨ましい?」

はて、と首を傾げる皇呀に安綱が肩を組んで囁くように言う。
アレアレ、と軽く視線で方向を示しつつ。

「ほら、あのダブルポニーの嬢ちゃん達。同じ海軍所属っしょ」

視線の先には、仲良く飾りつけを行う風蓮と凛翠の姿。
高いところにあるかざりをつけるために、軽やかに踏み台を上り下りするたびにポニーがゆれる。

「さらに茜ちゃんまでいるだろ!? ある意味ハーレム! くう羨ましい!!!」
「……だからエロ定とか呼ばれんじゃねぇかこの薔薇族」
「薔薇族っていうんじゃねええええ!!!」



騒ぐ男連中を遠巻きに見つめ、秀雄は思わず呟く。

「むさい……」
「あー見てもベテランの方々なんだからそんな事いっちゃダメでしょ」
「だってよぉ」

辺りを見回し、見つけた残りもう一人の男を指差して。

「ほれ、樺菜みてーなのが混ざったってさ」
「それはそれでまずい絵だと思うのよね、私」
「…………」

思わず無言になり、再びうんざりとした眼で男ドモを見る。

「そうよ秀雄。先輩にはちゃんと敬意を…」
「…………いたのかよ桜花」
「……………最初っからね」


「みぃんなー! 新しいお客さんでござるよぉー!」


「お、かざま。来たのか」

ぶんぶんと手を振るのは、忍装束にかっぱのバッグを下げた少女、かざま。
元気なその後ろには、見慣れない少女が二人。

「その子達は…?」
「だから新しいお客さんでござるよ。さっき来たお姉さんから預かったでござる!」
「お姉さん? どんな人?」
「えーと……左目から頬にかけて傷があって、華国の服の上に陣羽織着た変な人でござる!」
「「ああ…」」

言わずとも理解されてしまう。
光義だけでなく、秀雄のことすらも口説こうとした経歴のあるメードを。

「じゃあ、この子達は華国の?」
「あ、はい」

後ろに控えていた少女が前に出て、深々と礼をする。

「華国所属、飛酉です」
「おなじ華国所属、華人第一世代、小燕です!」
「はい、ようこそ。歓迎するわ二人とも」

にっこり笑って迎え入れる光義。

「歓迎は楼蘭式になっちゃうけど大丈夫?
「はいっ、永花さんや飛酉から色々聞いてますから、お任せですっ!」

笑顔でぴょん、とはねる小燕を飛酉が苦笑いしながら眺める。
仲の良さそうな二人に笑って頷く光義は、ふと思い出したように尋ねる。

「そういえば、当の永花は? 一緒に来てるなら彼女もくれば良いのに」
「あ、はい。永花さんは後からくると……なんでも、寄る所があるとかで」









気配を感じ、巴は相手を伺うために動く。
相手の顔を確認し、顔見知りであると同時に招待相手であるのを確認すると、ゆっくりと物陰から出る。

「…永花殿か」
「いたのか巴。相も変わらず見事なまでの隠密術だな。息災そうで何よりだ」
「貴女こそ。何も変わらぬ様で」

うむ、と大仰に頷いてみせる永花に、軽いため息を一つ。
巴は身を翻し先に歩くと、永花はゆっくりと後に続く。

「貴女を疑うわけではないが、一人か?」
「当然だ。私が信濃内親王様との約束を違えると思われているとは…それこそ心外だ」
「すまないな。今日は珍しく客が多いので、警戒心が沸く」
「ほう? 私以外の客か。それは楽しみだ」

院の奥の奥へと入っていく。
そして帳の前で、ひとまず跪く。

「信濃内親王様。永花を――」
「倉羽永花、で頼む。巴」
「……。倉羽永花様を、お連れしました」
「うむ、下がって――いや、巴も入ってくれぬか。汝も一緒におるとよい」

思わぬ一言に、一瞬巴の顔が世にも珍しい驚き顔になる。
すぐに顔を引き締めなおし、深々と頭を垂れて。

「承知いたしました」

帳が捲くられていき、十二単に包まれた信濃の姿が眼に入る。
普段とは違いその奥にもう一人、男性型MAIDの姿もまた、在った。

「おっと、私達はお邪魔でしたかな、姫」
「? そのような事はない。相変わらず永花は愉快なことを言うの」
「………私だ。永花」
「久しぶりだな、童元。流石は大晦日、君との再会とは、八百万の神々も粋な計らいをしてくれるものだ…!」

狭い帳の中、信濃を中心とし、童元、巴、永花が座る。

「君が去って後、私も華国へと向かう事となり、この国を離れた。戦場以外でもはや合うこともあるまいとは思っていたが」
「縁はある。信濃内親王様という縁が」
「……そうだったな」

何時の間に外へ出ていたのか、帳の外から巴の手によって軽い料理が運ばれてくる。
それぞれの前に供えられ、酒が運ばれる。

「……巴の料理か」
「…はい」
「ふ」
「正直に言ってはどうか、永花?」
「…ならば遠慮なく言わせて頂こう。非常に楽しみだ、胸が躍る」
「……あまり期待はするな」
「無茶を仰る」

笑いながらそれぞれが杯を持つ。
最後に、ゆっくりと信濃が杯を持ち上げ、その場にいる三人を眺める。

「皆、集まってくれたことに感謝を。そして…今年一年の労いと来年の息災を」
「……」



永花は外を眺める。
遠く輝銘館に灯る光――あの中にいる教え子達と、戦友たちを。





「………皆、良い年を」





除夜の鐘が響いた。

あけましておめでとう。

今年も、よろしく



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最終更新:2009年01月01日 00:20
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