(投稿者メイン:店長 サブ:フェイ、ニーベル)
三姉妹の姿を見た教会の兵らは一斉に喚声を上げる。
前線において彼女らはある種の信仰の対象に近い存在になっていたといっても過言ではない。
それぞれの武器──クロッセル連合軍から買い求めた武装で、突撃銃、ライフルなどさまざまな装備に各々は銃剣を装備しているのが見えた。最も、一般兵が銃剣を使うことはまずない。
これからの戦いに対して一切弱気を見せないという意思表示のためにつけていた。
彼ら自身も肌で感じ取っていたのかもしれない。
彼らの背後にある、自分らが住む国や地域があり、それらを守る戦いがこれから行われることを。
「……かくして戦士は立ち上がる、か」
「そういうこと。さ、行こうぜ、マークス」
「……ふん、手並みを拝見させてもらう」
「ああ、任せとけ!」
☆
クロッセル連合国国境より50km地点 ハイデラ平原
時刻 11:21分
見渡す限りの草原が広がっているはずのこの地域は、現在は乾季を迎えていることからか、やや荒涼とした大地をむき出しにしている。
ザハーラのほうにさらに南下すれば砂漠が広がっていることから考えれば、遠い未来にはここらも砂漠になるかもしれない。
今現在教会はこの地点に陣地を構築しており、着々とGとの戦いの準備を整えつつあった
「さて、あと十分ちょいってとこか。全員準備はいいか?」
「……」
マークスとアガトは夫々兵士達の様子を眺める。
既にいくつかの陣地構築が完了したのか、各々から準備が整ったという報告が伝達されてくる。
兵士らは陣地で構え、いつでも戦えることを無言で返してくる。
「よし、作戦はさっきいったとおり、二陣の構えで行く。一陣は敵の撃破を主目的とする。
中核は
テレサ、援護に
ヘレナ。二陣は、一陣の援護と後退中の防護。
こちらは
アリッサを中核として、一陣建て直しの時間を稼ぐために防衛を主とする」
「いよいよねー」
一番最初に突撃することが決まってるテレサはいつでも出撃できるようにと武装──パイルバンカーと機関銃を内臓した巨大な棺桶状をした『セイントグレイシス』──を構え、腰に巻いていた弾薬ベルトを供給口へと差し込む。
「尚、三姉妹の人数比を考えて、一陣より二陣に一般兵を多く入れる。なるべく防御スキルの高いものを二陣にいれたが、なにか問題ある奴いるか?」
「無茶はしないでね?テレサ姉様」
「もう、心配性なんだから…」
「私はこれで妥当だと判断いたします……マークス助祭は?」
「……私はアガトに任せた」
「了解。そうだな……あと8分32秒。一陣は突撃準備。ヘレナのコイルガンを牽制に戦闘開始だ」
「了解しました」
「りょーかい♪」
ヘレナは陣地で一番G側に近い場所移動して、その巨大な十字架状の杖である『クルセイド』を地面に突き立てるように持つ。
いつでも攻撃に移れるように。
テレサは柔軟体操をして体の調子を整えていく。
動くたびにひらひらとすそが翻ったりするあたり本人の意図的な行為なのかどうかは不明ではあるが
「……見せてもらうぞ」
「──スカートの中身?」
「やらしいな」
「ふん……馬鹿者」
くすくすとテレサが後ろを向きながら答えると、アガトは軽い冗談の苦笑で追従する。
マークスは鼻を鳴らしながら相手にせずにまっすぐ向こうからみえる砂煙──大量のGが迫ってくる証──をにらんでいた。
周囲のものの緊張が、先ほどのやり取りが聞こえていたのかほんの少し緩んでいる。
「緊張すぎるのもいいけど、程よくリラックスしないと思考もがっちがちになるよ?助祭殿♪」
「ならばもう少し気を利かせた冗談を言え」
「……なぁヘレナ。俺よりテレサのがよっぽど喧嘩うってると思うんだが」
「その答えに対しては答えかねます……後で厳しくいっておきましょう」
マークスとテレサのやり取りを横から見ているアガトが素直な感想を呟く。
先ほどから余り会話に参加しなかったヘレナが言葉を濁しつつも──序に苦笑一割混じった笑みを浮かべながら──テレサへの仕置きを考えているような節を見せた。
「えー、もぅ、いいもん」
「テレサ姉さまもそんなこというからですよ……」
ぷんぷんと皆に言われまくって不機嫌そうに頬を膨らませるテレサ。
しかし傍から見ていれば本気で怒っているわけでないことは丸分かりだ。
その証拠に次の瞬間にはアリッサもテレサも微笑を浮かべているのだから。
「ま、緊張はとれただろ?」
「…まったく。アガト、お前も私をおちょくるな」
「なんでだ?」
「…お前を憎めないではないか」
「はは、いいじゃんべつに」
確かにな、マークスはそう呟きながら腕時計を見た。報告からの情報が正確であるならば──、
「──、来ました」
ヘレナが遠くを見つめながらつぶやくと、ほんの少し遅れて見張りを勤めていた兵らがG発見の報告をしてくる。
地面は微かにゆれはじめる。大質量が移動するために発生した振動がその正体だ。
「来たか」
「頼むぜ、ヘレナ。……40秒後に平行射撃!」
「了解、これよりコイルガンの発射準備に入ります。電磁気防御、展開……対電磁対策を要請」
「さーって……いよいよね」
「気張るなよ? 誰か一人でもかけた時点で、俺たちの負けだぜ」
誰も犠牲を出さずに、その方針を達成することを本気で考えているアガトの意思の表れであった。
全員生きて、この戦いを乗り越えよう。
そして全員で生を謳歌しよう。
「うれしいこと言ってくれるじゃない♪」
「可能な限り、お答えしましょう──機械仕掛けの聖母の名の下に」
「私との賭けにもな」
「わかってるさ」
「ならいい」
二人の
異端審問官の呟きを他所に、地平に
ワモン種の黒と茶色の色が埋め尽くしていく。
周囲の兵士らは引き金に指を当て、いつでも射撃を行えるように待機する。
もう最前列の目の良い兵士から、彼らの輪郭がくっきりと見えるほどに近づいている。
「カウント開始、 10、9…」
ヘレナが発射までの時間を数え、左腕をゆっくりと前へと突き出す。
彼女の左腕に備わったコイルガンが、磁力と少しの稲光を生み出す。
その大きさと輝きは、カウントが進むほど増大していった。
「3、2、1──発射ッ!!」
パシュン!と風を引き裂く音速を超えた弾丸が発射され、射線上とその左右とに存在したGを根こそぎ吹き飛ばしていく。
が、僅かに右側の陣容が分厚かったためか他よりもGが残存していた。
Gは仲間が吹き飛ばされていく様子を全く意に介さず、前進を続けている。
「……右が少し残ったか! テレサ、右舷から飛び込め! 一般隊A~Bはテレサとともに。C~Fは混乱した左舷を押さえ込め!」
「いくわよぉ!!」
マークスがじっと戦況に目を凝らしている傍ら、アガトはテレサを含んだ部隊の投入を命じた。
セイントグレイシスを上へと一度掲げ、そしてもう一度構えなおし突撃を開始。
それに導かれるように続く兵士ら。
彼女が最前列のワモンに対して機関銃を放ちながら突入し、一匹のワモンの眼前でパイルバンカーを放ち、その頭部を吹き飛ばす。
そこに合わせるように援護の重機関銃や自走砲の砲弾が炸裂した。
最終更新:2009年01月08日 20:56