アンティフォナ作戦 3

(投稿者メイン:店長 サブ:フェイ、ニーベル)

「……流石だな」

遠くに移るテレサを、望遠鏡越しに威力を眺めるマークスの呟きは感嘆の満ちている。
コアエネルギーによる強化が成された機関銃は、戦車砲の連射に等しい成果を挙げている。
メードが現在のGとの戦場における主役になっているのも納得できるだろう。
戦車が用済みでメードをその分量産せよという意見が出るのも頷ける。

一方アガトはマークスと同じように戦場を望遠鏡で覗いている。
Gの陣営が人類側の攻撃を受けて、右側は次第にその数を減らしている。
その一方で中央から左舷に掛けては最初の砲撃前の様子を取り戻そうとしていた。
圧倒的な数、これがGの最大の武器であった。

「……ヘレナ、左舷前方、十二秒後にコイルガン、いけるか?」
「ご命令とあらば」

コイルガンを内臓した左腕をもう一度構えなおしながら、ヘレナは明瞭に答える。
しかし、一発目の余韻が残っているのか。
構える義手が錆の入ったブリキ人形のように鈍い軋みの音を聞かせている。
コイルガンを放つたびに内部の構造に少なからずの負担を掛けているのだ。
アガトはこのまま無茶をし続ければヘレナの義手が損傷するだろうと考える。
序盤でコイルガンを含む義手を失えばこちらの戦力ががた落ちするのは目に見えている。

「いや、いい。F隊、前方に扇状に展開、一斉掃射しつつ後退! C隊とD隊が突撃してきた敵を挟み撃て!」

ワモン種が左右からの圧力から眼前に生じた窪みに逃げるように誘導され、C,D隊の前へと誘導されていく。
そのワモンらの鼻頭へと2つの隊からの各種さまざまな砲弾とが敵を駆逐していく。
普通ではワモンの速度が速過ぎて捕らえきれない戦車砲が、鬱憤を晴らすかのように弾丸を群れの中へとねじ込んでいった。

「……アガト、あそこに再度纏まりつつある群れがあるぞ」
「っと、助かるぜ。ヘレナ、コイルガンはもういけるな?
 テレサ、もう一度コイルガンを使う! しばらく援護は出ないが大丈夫か!?」
「このぐらいならっ!」

通信兵経由の無線──流石に受話器を受け取りながら戦うことができないので、教会では通信兵がマイクとスピーカーとを用いて対話者の送受信を助けている──からのアガトの言葉を受けて、機関銃の弾丸でGをなぎ払うように右から左へと銃口を動かしながらテレサは答えていた。

「コイルガン、準備完了。いつでもどうぞ」
「OK! ………十九秒後だ、一番いいのを撃ってやれ!」
「──チャージ、カウント開始」

じっくりと狙いながらきっかり十九秒後に発射されるコイルガンの砲弾は、見事に集まり始めたGらを一撃で本体と生じた風圧とで吹き飛ばしてく。
アガトの読みがGの大よその進路を予測し、その場所にコイルガンの弾丸が飛ぶようにタイミングを合わせたことによる曲芸だった。

盛大に吹き飛んでいくGに、兵士らはひと時喝采を挙げた。

「……そろそろか。A隊からF隊、戻れ! アリッサ、いいな」
「はい!」

自分の身長と同じぐらいの片刃の剣──突先には銃口があり、その刃の先に向かって弾丸が放たれる仕組みの剣銃──を中段で構え、アリッサは応じた。
最初に戦端を開いた部隊の弾丸消費やけが人の収容──特にテレサの火器が尽きた時が最も危険な時を考慮した結果だ──するための時間を稼ぐ為の行動を指示する。

「よし、アリッサ、及びHからJ分隊、全方位突撃! ヘレナは撤退の援護。テレサは殿を頼む」
「……ほう」
「アリッサ、行きます!」
「コレよりヘレナ……出陣します」
「テレサ、弾数に気をつけろ! A~Fは戻り次第弾薬の補給と負傷者は治療だ! 
 前に出れない奴は無理せず後方支援装備に換装!」

テレサの保有する火力の高さを生かした、見事な戦術的”交代”だ。そうマークスは感嘆の声を上げる。
少し懸念があるとすれば、テレサの弾丸の残りが尽きる前に待機組が到着した上で部隊の収容ができるかどうかだ。
その点はへレナとアリッサがいるから、どうにかなるだろう。
ヘレナは義足のかかとあたりに装備されたローラーを回転させ、荒野を疾駆しはじめる。
グランシャリオ・モーター製の車輪が大地をしっかりと捉え、軽快な駆動音を上げながら突き進む。
アリッサはヘレナが出るその前から駆け出していた。

「さって……そろそろ正念場よね!」

殿を任されたテレサは、その自身の持つ強力な火器を駆使して、周囲からの援護の弾丸や砲弾と共に強力な弾幕を形成して迫るGらを蜂の巣のように穴だらけへとしていく。
無事にその横をすり抜けるようにしてアリッサとヘレナは最初に突入した部隊の撤退を援護するべく前に出る。
その間にも部隊の交代は進み、次第に人間側の準備が整っていく。

「くっ…ちょっと弾丸が足りなくなってきたわっ!」

用意してた別のベルトを手早く取り出し、装てんしていく。
これでも大目に弾丸を帯状にしたものを所持してたのだが、目の前のG一匹あたりに一発打ち込むと考えても到底足りない数が押し寄せていたのだ。
その分弾丸の消耗が激しいのは自明の理で、あともう数分もすれば尽きるだろう。
一応パイルバンカーも装備されているが、援護なしに突っ込むわけにもいかないのだ。

「こちらアリッサです。こっちで見る限り全体の大よそ七割が後退に成功」
「ヘレナです。そろそろテレサの弾丸の残量が乏しくなってきた頃合いかと考えます」
「わかった。ひとまずテレサ、下がれ! 後方支援部隊、準備ができたものからテレサ撤退の援護を!」

このあたりは姉妹の関係からか、テレサの弾丸数の欠乏を推測するヘレナの言葉を受けたアガトは了解を示し、テレサに指示を飛ばす。
悔しいわねこの物量!と、無線の終わりにテレサが本当に悔しそうに叫んでいた。

「そう思うなら、早めの復帰を頼むぜ。皆も待ってる」
「分かってるわよ!──予備の弾丸、用意しててよね!」

悔しいと愚痴りながらもテレサは援護されながら後退していく。
テレサの火力が下火となったものの、三姉妹の援護だと躍起になった後方支援からの砲弾でGらの前進はひとまず膠着していく。
準備中の部隊の被害報告を聞いている限りでは、重傷者はいても死人はいないのだという。
運など多くの要素が絡んでいるとはいえ、当初の数を考えれば奇跡に近い状況だといえた。

「……いけるかもしれん」
「ああ!──っておい、しれんじゃない。いけるんだよ」

そこには彼女らを信じるアガトの不敵な笑顔があった。
最終更新:2009年01月09日 22:18
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