馬鹿と助平に効く薬は無し

(投稿者:エルス)




 ――アルトメリア領西部戦線 後方野戦病院

 ベットに横たわり、暇そうに溜息をついたジャックは自分が何処で何を間違えたのか反省していた。
 野戦病院に移動してから既に三日。見舞いに来るラウンドスターズのメンバーなど居る筈が無く、必然的に見舞いには誰も来ていない。
 いや、自由奔放でそこら中を走り回っているジャックには当然、飲み仲間とか気の合う戦友とか居る筈なんだが、今回は怪我の理由が理由だけに呆れて誰もこない。
 そんな事を考えている筈も無く、ジャックが三日使って考えたその間違えた点と言うのが・・・。

「やっぱし、あの時のコートの振り方が悪かったのか?」

 皆、呆れてくれ。むしろ石でも鉄でも爆弾でも投げてくれ。
 そんな本当に下らない事を本気で考えながら、ジャックは新しいナンパ方法を考えようと目を閉じた。
 そこでジャックはふと思ったのである。あら?これはおかしいんじゃない?
 通常、対G戦力のメードは優先的に医療メードが割り振られる筈である。
 それがどうだろう。この三日間、来るのは皺くちゃの軍医とイマイチの看護婦だけだ。
 これはどういう事だ。何故、ボンキュボンな上質なお姉さん看護婦や、幼さ残す医療メードが来ないのだ?
 と、ジャックが悩んでいるとノックも無しにドアが開いた。
 ジャックは目を丸くして訪問者に目を向けた。
 露骨に怒りを顔に出し、まるで動けない戦友の仇を目の前にして見下す殺し屋のようにジャックを睨んでいるカルナックがいた。

「さて、問題児銃声バンシーことジャック。ここで私が質問するのは"非常に"簡単なことだ。答えられるな?」
「質問によ――」
「答えるな?」

 ギロリとカルナックの視線・・・いや、死線がジャックを睨む。
 いや、もうその睨みだけで人殺せます、とジャックは冷や汗を掻きながら思った。

「さ、サー・イエス・サー」
「よろしい。私が聴きたいのは貴様の戯言やつまらない言い訳などではない、何故作戦を無視したかだ」
「あぁ~・・・あれだ。活躍の場を求めて」
「・・・・・・ハァ、ジャック」

 ほとほと呆れ返ったという表情のカルナックは頭を抱え、溜息をついた。
 一方のジャックはカルナックの睨みが消えた事に胸をなでおろしながら、次に来るのが鉄拳なのか蹴りなのか考えていた。
 だが、ジャックの予想は見事に外れた。

「お前ほどの馬鹿を私は見たことが無い、正直お手上げだ」
「へぇ、んじゃ俺はスカーフェイスに勝ったって事で――」
「調子に乗るなよジャック」
「・・・・・・」
「ジャック、女好きなのは咎めないが、物事全て加減と言うものがある」
「だから何だ、俺は俺の好きな事をやるだけさ」
「何もナンパを止めろとは言ってない、ただ下品な言葉を使うのは止めろ。お前も長生きしたいだろう」
「まぁな」
「なら仲間達と喧嘩はするな、仲間割れする為に出来た部隊じゃないんだ、分かるな?」
「あぁスカーフェイス、十分理解した・・・が。俺から幾つか愚痴りたい事がある」

 真剣な表情のジャックを見て、カルナックが何だと言った。
 ジャックは咳払いをして、深呼吸をしてこう言った。

「何で美人の看護婦が来ねぇんだ?」
「そう指示している」
「んじゃ、何で幼さ残る可愛い医療メードが来ねぇ――」
「そう指示している」
「なら、何でボンキュボンなお姉さんが来て俺とベットの上でダンs―――」


 そこまで言って、ジャックの視界が黒く染まり、頭がミシリと言う音をたてた。
 カルナックがアイアンクローをジャックに喰らわせたからだ。

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイ!」

 両腕をジタバタと動かすジャックはギブアップして、何とか地獄から抜け出すことが出来た。
 手で顔を覆いながら唸るジャックにカルナックはまた溜息をついた。

「お前には反省という言葉を知らないのか・・・」
「お生憎様でぇね、んな言葉ゴミ箱に捨てちまったよ」
「捨てるな」
「ゴミ箱を漁る趣味はねぇよ・・・あぁ、女の体ん中・・・・・・スイマセン、反省するから銃を下ろして下さい」
「さっき捨てたと言った筈だ」
「ありました、クローゼットの奥底で眠ってました」
「なら良い」

 カルナックは銃を下ろすと、ジャックの愛銃であるアース&ミッドとビフレストをホルスターと一緒に持って、扉を開けた。
 当然、ジャックが抗議の声を上げる。

「オイオイ、そりゃ俺の銃だぜ?」

 カルナックがゆっくりとした動作で振り返り、それこそ夏の日に干乾びかけているナメクジでも見たような目でジャックを睨みつけてこう言った。

「病院で騒ぎを起こされるのは面倒だ。かと言ってお前を張り付けにすると後々に問題が出る。だから唯一の反抗手段プラス攻撃手段を無くそうと思ってな」

 それに対してジャックは、鼻で笑った後、自信満々に言った。

「甘いなカルナック!俺の武器はそれだけではなく!女を昇天させ、快楽で気をおかしくさせるこのマグナムに―――」

 カルナックが、もうウンザリした顔で溜息をついて、ジャックの言葉を遮るようにして、静かに言う。




「なぁ、ジャック、完全去勢手術でもしてもらうか?」




 さすがのジャックも、この一言には固まった。



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最終更新:2009年02月01日 01:37
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