天使ノ同盟 外伝
姫乃ノ受難
(序)
片瀬姫乃という少女がいる。
実生活では花も恥じらう女子高生。しかしてその実態は愛と正義の美少女戦士、翼聖姫エンジェルナイツとして夜の闇で蠢くテロリストだとか悪の秘密結社の人達と一戦つかまつるような人だったりする。
実生活では花も恥じらう女子高生。しかしてその実態は愛と正義の美少女戦士、翼聖姫エンジェルナイツとして夜の闇で蠢くテロリストだとか悪の秘密結社の人達と一戦つかまつるような人だったりする。
それで現在、なんやかんやあって悪の秘密結社サクセスの幹部『ウォルフ狼元帥』に弟子入りなんてしちゃっている彼女は、師匠に連れられて人里離れたへんぴな山奥まで足を運んでいた。
「こ、コ~チ。まだ着かないんですか?」
電車で二時間、さらにバスに揺られて小一時間。
そこから徒歩で延々山道を歩き続けること三時間。
景色は鬱蒼と生い茂る木々で塗り固められていて、振り返れば舗装もされていない獣道が細々と続いている。
衣類やら携帯食料やらを詰め込んだリュックサックを肩に担いで師匠の後を追う姫乃は、この時点ですでに足はガクガク目はグルグル。いつぶっ倒れてもおかしくないような状態だった。
そこから徒歩で延々山道を歩き続けること三時間。
景色は鬱蒼と生い茂る木々で塗り固められていて、振り返れば舗装もされていない獣道が細々と続いている。
衣類やら携帯食料やらを詰め込んだリュックサックを肩に担いで師匠の後を追う姫乃は、この時点ですでに足はガクガク目はグルグル。いつぶっ倒れてもおかしくないような状態だった。
「もうじきだ。 ……疲れたのか?」
大きな男の背中が肩越しに少女を見る。
薄汚れた胴着から飛び出している首から上には犬だか狼だか分からない獣の頭がくっついているが、片目は黒い眼帯で覆われているので少女を見遣る瞳は一つきりだった。
薄汚れた胴着から飛び出している首から上には犬だか狼だか分からない獣の頭がくっついているが、片目は黒い眼帯で覆われているので少女を見遣る瞳は一つきりだった。
「はい、ちょっとだけ」
だったら負ぶってやろうか?
そんな優しい台詞を期待しつつ恥ずかしそうに答える姫乃。
しかし彼女の師匠が弟子を甘やかすことは無かった。
そんな優しい台詞を期待しつつ恥ずかしそうに答える姫乃。
しかし彼女の師匠が弟子を甘やかすことは無かった。
「馬鹿者が。正義の戦士が簡単に弱音を吐くでない!」
口元に生え揃う鋭い牙を剥いて怒鳴った大男。
あう、としょんぼり頭を垂れる姫乃さん。
いや確かに彼の言葉は的確なのだけれども、仮にも悪の秘密結社で四天王の一角に数えられているような人間(?)が言うには不適切極まりない台詞だったりするワケで。
甘えたい盛りの子犬のような上目遣いで見上げる少女のことなんてお構いなしに、豪傑無双のウォルフ狼元帥閣下は今日も我が道を行くのでしたとさ。
あう、としょんぼり頭を垂れる姫乃さん。
いや確かに彼の言葉は的確なのだけれども、仮にも悪の秘密結社で四天王の一角に数えられているような人間(?)が言うには不適切極まりない台詞だったりするワケで。
甘えたい盛りの子犬のような上目遣いで見上げる少女のことなんてお構いなしに、豪傑無双のウォルフ狼元帥閣下は今日も我が道を行くのでしたとさ。
この一人と一匹。もとい、二人は山奥にあるという一軒の寺を目指して歩いていた。
それは『犬鳴寺』と呼ばれる場所で、しかし寺と呼ばれているわりには住職の無い無人の建物だった。
ウォルフの所属している組織はどういった経緯なのか法的にこの寺と敷地を保有していて、今回、修行中の姫乃をさらにパワーアップさせようと二人してやってきたのです。
それは『犬鳴寺』と呼ばれる場所で、しかし寺と呼ばれているわりには住職の無い無人の建物だった。
ウォルフの所属している組織はどういった経緯なのか法的にこの寺と敷地を保有していて、今回、修行中の姫乃をさらにパワーアップさせようと二人してやってきたのです。
おかげで高校生であるハズの姫乃ちゃんの夏休みは根こそぎ失われようとしている。
そりゃあまあ、彼女の考えでは二人っきりで一つ屋根の下、一ヶ月間も生活するのだから色々とあれやこれや妄想しちゃうような展開もなきにしもあらず。
学園一の美少女ともてはやされている自身としては多少の自信だってあるし、大好きな人からのアプローチなら喜んでお受けしたって良いかなとか思ったり思わなかったり。
なのだけれど。
愛しの師匠は「フンッ」と鼻を鳴らして先を行くばかり。
姫乃ちゃんは悲しいかな「凄く可愛らしい女の子」としか見られていないようなのです。
肩を落として溜息吐いて、それでも師の後に続く姫乃はどうにも思っていたのとはえらい違う展開になりそうな雲行きに不安を隠しきれずにいた。
そりゃあまあ、彼女の考えでは二人っきりで一つ屋根の下、一ヶ月間も生活するのだから色々とあれやこれや妄想しちゃうような展開もなきにしもあらず。
学園一の美少女ともてはやされている自身としては多少の自信だってあるし、大好きな人からのアプローチなら喜んでお受けしたって良いかなとか思ったり思わなかったり。
なのだけれど。
愛しの師匠は「フンッ」と鼻を鳴らして先を行くばかり。
姫乃ちゃんは悲しいかな「凄く可愛らしい女の子」としか見られていないようなのです。
肩を落として溜息吐いて、それでも師の後に続く姫乃はどうにも思っていたのとはえらい違う展開になりそうな雲行きに不安を隠しきれずにいた。
(1)
「よし。まずはここに巣くっておる妖怪を薙ぎ倒してこい!」
夕暮れ時。老朽化につき崩れ落ちる寸前といった趣の古寺を前に、師匠は仰せられた。
「え、あたしが、ですか?」
「他に誰がおる? 儂がやると今夜は野宿だが、それでも良いのか」
「うあぁ……」
世の中には『妖怪』だなんて呼ばれる化け物が多々存在する。
特に八百万の神を信仰する僕らのニッポンじゃあ、いつどこで遭遇したっておかしくないような愛すべき隣人達だったりする。
夕暮れ時。老朽化につき崩れ落ちる寸前といった趣の古寺を前に、師匠は仰せられた。
「え、あたしが、ですか?」
「他に誰がおる? 儂がやると今夜は野宿だが、それでも良いのか」
「うあぁ……」
世の中には『妖怪』だなんて呼ばれる化け物が多々存在する。
特に八百万の神を信仰する僕らのニッポンじゃあ、いつどこで遭遇したっておかしくないような愛すべき隣人達だったりする。
そんな妖怪達がようやく到着した一ヶ月間お世話になるはずの犬鳴寺に住み着いちゃったりしているものだから、か弱い姫乃としてはたまったものじゃあない。
豪傑無双のウォルフ狼元帥様は美少女一人で全部ぶちのめしてこいなんて仰せになっているわけさ。
そりゃあ確かにコーチが自慢の戟を振り回したりなんかしちゃった日には妖怪どころか建物までぶった切って、結局は何が住み着いていようと関係のない更地にしちゃうんだろうけどさ。
こういうのって巫女服とか着た人達が刀とか呪符とか振り回してやる事じゃあないの? とか思ったりするわけでして。
豪傑無双のウォルフ狼元帥様は美少女一人で全部ぶちのめしてこいなんて仰せになっているわけさ。
そりゃあ確かにコーチが自慢の戟を振り回したりなんかしちゃった日には妖怪どころか建物までぶった切って、結局は何が住み着いていようと関係のない更地にしちゃうんだろうけどさ。
こういうのって巫女服とか着た人達が刀とか呪符とか振り回してやる事じゃあないの? とか思ったりするわけでして。
「はようせんか、馬鹿たれが!」
「ひ、ひゃい!」
「ひ、ひゃい!」
しかしガルルと威嚇よろしく唸られたんじゃ身を竦ませてリュックを下ろすしかない。
都会を道行けば殿方であれば大抵が振り返るであろうほどに可愛くキメた服装の美少女が
人里離れた山奥で溜息混じりにポケットから青い石を取り出す様は違和感がどうとか言う前に怪奇でしかなかった。
都会を道行けば殿方であれば大抵が振り返るであろうほどに可愛くキメた服装の美少女が
人里離れた山奥で溜息混じりにポケットから青い石を取り出す様は違和感がどうとか言う前に怪奇でしかなかった。
「エンジェライズ・リフレクション!」
渋々ながらの変身。
微かに蒼い輝きを放つブローチ、つまりは聖神石を両手に握り込んで合言葉を唱えればたちまち光の粒子が少女の身体から溢れ出る。
溶けていくのはそれまで身に付けていた衣服。
新たに纏うのは白地に青色を基調としたプリマドンナよろしくの聖なる衣。
背中から生えだした真っ白な翼と手の中に出現した細身の、それでいてしなやかさと強靱さを併せ持つ薙刀らしき武具。
渋々ながらの変身。
微かに蒼い輝きを放つブローチ、つまりは聖神石を両手に握り込んで合言葉を唱えればたちまち光の粒子が少女の身体から溢れ出る。
溶けていくのはそれまで身に付けていた衣服。
新たに纏うのは白地に青色を基調としたプリマドンナよろしくの聖なる衣。
背中から生えだした真っ白な翼と手の中に出現した細身の、それでいてしなやかさと強靱さを併せ持つ薙刀らしき武具。
聖狼戟と名付けられたその矛は、少女が師匠について修行を行った末に手に入れたモノだった。
やがて纏わり付いていた光の欠片達がその輝きを失ったとき、そこには愛と正義の美少女戦士が仁王立ちしており。
すぐ隣で彼女の変身シーンを見つめていた師匠が狼だか犬だか分からない顔にびっしり生え揃う顎ヒゲを指で掻きながら、こんな感想を漏らした。
やがて纏わり付いていた光の欠片達がその輝きを失ったとき、そこには愛と正義の美少女戦士が仁王立ちしており。
すぐ隣で彼女の変身シーンを見つめていた師匠が狼だか犬だか分からない顔にびっしり生え揃う顎ヒゲを指で掻きながら、こんな感想を漏らした。
「しかしアレだな。変身の最中は素っ裸になっておるが、恥ずかしいとは思わんのか?」
「み、見たんですか?」
「うむ。武人としては貧相すぎる身体だな。しかし案ずるな、この一ヶ月間で見違えるほどの肉体に鍛え上げてやるわ!」
「コーチのエッチ!」
「み、見たんですか?」
「うむ。武人としては貧相すぎる身体だな。しかし案ずるな、この一ヶ月間で見違えるほどの肉体に鍛え上げてやるわ!」
「コーチのエッチ!」
ちょっとちぐはぐな会話を織り交ぜつつ、頬を真っ赤にしつつの姫乃が背にした翼をはためかせる。
ウォルフ狼元帥としては少女の言い分が理解出来なくて小首を傾げるばかり。
「まあいい、ともかく事を済ませろ。日が暮れると色々と厄介だからな」
「は~い (……なによヒトの裸見ておいて感想ってそれだけ? ぶつぶつ)」
「なんだその返事は!!」
「ひゃい!」
沈みゆくオレンジ色の太陽を尻目に師匠が一つきりの眼を細め。
変身中は『エンジェル・ランス』なんてご大層な芸名を持つ少女が微妙に切ない面持ちでそんな狼人間と今にも倒壊しそうな古寺とを見比べる。
ウォルフ狼元帥としては少女の言い分が理解出来なくて小首を傾げるばかり。
「まあいい、ともかく事を済ませろ。日が暮れると色々と厄介だからな」
「は~い (……なによヒトの裸見ておいて感想ってそれだけ? ぶつぶつ)」
「なんだその返事は!!」
「ひゃい!」
沈みゆくオレンジ色の太陽を尻目に師匠が一つきりの眼を細め。
変身中は『エンジェル・ランス』なんてご大層な芸名を持つ少女が微妙に切ない面持ちでそんな狼人間と今にも倒壊しそうな古寺とを見比べる。
そしてキッと表情を引き締めたエンジェルランスが前に向けて足を踏み出した。
(2)
犬鳴寺は周囲をススキか何かの雑草で取り囲まれている。
老朽化は著しく、細い柱の何本かはすでに腐食が進んで折れていたし黄ばんでしまっている障子の紙も穴だらけになっている。
夕日に取って代わろうとする月がやけに綺麗で、もの悲しい風情はさしずめ荒城の月、といったところだろうか。
そんな中に、人影があった。
でも、それは真っ当な人間の輪郭ではなかった。
老朽化は著しく、細い柱の何本かはすでに腐食が進んで折れていたし黄ばんでしまっている障子の紙も穴だらけになっている。
夕日に取って代わろうとする月がやけに綺麗で、もの悲しい風情はさしずめ荒城の月、といったところだろうか。
そんな中に、人影があった。
でも、それは真っ当な人間の輪郭ではなかった。
「うみゃ~」
鳴き声を上げた輪郭には女性特有のしなやかさがあって、長くほつれた白髪が夕日と月光に淡く照り返している。
その輪郭は腐りかけた縁台に寝そべっていて、時折ゴロゴロと床板の上を転がっている。
鳴き声を上げた輪郭には女性特有のしなやかさがあって、長くほつれた白髪が夕日と月光に淡く照り返している。
その輪郭は腐りかけた縁台に寝そべっていて、時折ゴロゴロと床板の上を転がっている。
「あの~、あなたが妖怪さんですか?」
自分でも間の抜けた問いかけだとか思いつつ、その輪郭へと近づいていったエンジェルランスが声を掛ける。
「うにゃ?」
それは、一言に要約すれば猫人間。妖怪っぽい名前で言うなら猫又とか呼ばれそうな容姿をしている。
人間のよりちょっと上に付いているモフモフの猫耳。お尻の所から生えだしている白くて長めの猫尻尾。
でもって白い毛並みが服の無い全身を覆っている。
そのワリに面立ちはすっきりしていて美人顔ときたもんだ。
猫又は声を掛けてきたエンジェルの方に顔を向けるとしばし注目、それから素早い動きで縁台から飛び降りると中腰姿勢のまんま少女の方ににじり寄ってくる。
自分でも間の抜けた問いかけだとか思いつつ、その輪郭へと近づいていったエンジェルランスが声を掛ける。
「うにゃ?」
それは、一言に要約すれば猫人間。妖怪っぽい名前で言うなら猫又とか呼ばれそうな容姿をしている。
人間のよりちょっと上に付いているモフモフの猫耳。お尻の所から生えだしている白くて長めの猫尻尾。
でもって白い毛並みが服の無い全身を覆っている。
そのワリに面立ちはすっきりしていて美人顔ときたもんだ。
猫又は声を掛けてきたエンジェルの方に顔を向けるとしばし注目、それから素早い動きで縁台から飛び降りると中腰姿勢のまんま少女の方ににじり寄ってくる。
「え、えっと。突然の事でごめんなさいなんだけど、そのお寺に一ヶ月お世話になるんでもし良かったらぶっ倒されて貰えませんか?」
私ったら何を言ってんのよ。
エンジェルランスは手にある聖狼戟をしゃんと持ち替えて矛先を向けた。
鋼の冷たい光を見たせいか、それまでのんびりリラックスモードだった猫又さんが一気に臨戦態勢へと移行する。
エンジェルランスは手にある聖狼戟をしゃんと持ち替えて矛先を向けた。
鋼の冷たい光を見たせいか、それまでのんびりリラックスモードだった猫又さんが一気に臨戦態勢へと移行する。
「シャー!」
「あ、あの。師匠の命令なんです。大人しく立ち退いてくれるなら私も無闇に傷付けたりはしませんから」
「あ、あの。師匠の命令なんです。大人しく立ち退いてくれるなら私も無闇に傷付けたりはしませんから」
猫又さんは別に誰かを襲っているワケでもないし。こうやって地上げ屋よろしく一方的に宣告して襲い掛かるなんてヤクザみたいな所行はどうにも気分の良いものではない。
だからといって「戦えませんでした」なんて言ったところで師匠は納得しないだろうし、出来るまで何度でもけしかけられるのは目に見えている。
いやいや、業を煮やしたウォルフ先生がぶち切れて今晩からの住処を木っ端微塵に粉砕しないとも限らない。
だったら、なるべくなら友好的に立ち退いて貰えれば嬉しいかなあ、とか考えた姫乃の台詞。けれど意図は全くもって相手に伝わらなかったようで、
指先に鋭い爪を生やした猫又さんがじわりじわりとすり足で距離を詰めてくる。
だからといって「戦えませんでした」なんて言ったところで師匠は納得しないだろうし、出来るまで何度でもけしかけられるのは目に見えている。
いやいや、業を煮やしたウォルフ先生がぶち切れて今晩からの住処を木っ端微塵に粉砕しないとも限らない。
だったら、なるべくなら友好的に立ち退いて貰えれば嬉しいかなあ、とか考えた姫乃の台詞。けれど意図は全くもって相手に伝わらなかったようで、
指先に鋭い爪を生やした猫又さんがじわりじわりとすり足で距離を詰めてくる。
戟を構えて腰を落としたエンジェルとしては何時でも必殺の突きが放てる体勢を維持しつつ相手の出方を窺うのが上策に思えた。
ところが……。
ところが……。
「え、消え――!?」
ふっと猫又の姿が真横にスライドしたかと思えば、次にすぐ真横から伸びてくる腕の気配。エンジェルランスは咄嗟に身を引く。目の前に艶光る鋭い爪が飛び出したかと思えばすぐさま引っ込んだ。
まずい、次の手が来る!
そう感じ取って相手の姿を確認する前に斜め後ろに跳躍する。翼で一回扇いだから手合いの射程圏内からはとりあえず脱したはず。
そう思って得物を構え直そうとした少女は、しかし白い残像を間近に感じて戟をそちらに向けた。
そう感じ取って相手の姿を確認する前に斜め後ろに跳躍する。翼で一回扇いだから手合いの射程圏内からはとりあえず脱したはず。
そう思って得物を構え直そうとした少女は、しかし白い残像を間近に感じて戟をそちらに向けた。
ガキンッ!
金属を激しく打ち鳴らす音がこだまする。
手向けた刃と鋭い爪とがぶつかり合ったのだ。
しかも腕力では向こうが数段上らしくて他に何かする前に弾き飛ばされてしまうエンジェル。
手向けた刃と鋭い爪とがぶつかり合ったのだ。
しかも腕力では向こうが数段上らしくて他に何かする前に弾き飛ばされてしまうエンジェル。
「この子、強い……!」
思わず吐いて出た呟き。背筋に嫌な汗が伝う。
そういえばと思い返すのは、エンジェルランスは一人では必殺技を使えないんだよなあ、なんて事。
そういえばと思い返すのは、エンジェルランスは一人では必殺技を使えないんだよなあ、なんて事。
エンジェルランスは相方であるエンジェルハープと二人で一対。
そのハープこと蒼井聖ちゃんは、物凄く不機嫌そうな笑顔で少女の修行行脚を見送った後は夏休みの宿題に追われ、
と言いつつも今頃はテレビゲームに夢中になっているかそうでなければ部屋でゴロゴロ漫画本など読みあさっているに違いない。
それはともかくとして。コンビ名『エンジェル・ナイツ』はランスとハープ、そのどちらが欠けても戦う変身ヒロインにあるべき必殺技が使えなかったりする。
そのハープこと蒼井聖ちゃんは、物凄く不機嫌そうな笑顔で少女の修行行脚を見送った後は夏休みの宿題に追われ、
と言いつつも今頃はテレビゲームに夢中になっているかそうでなければ部屋でゴロゴロ漫画本など読みあさっているに違いない。
それはともかくとして。コンビ名『エンジェル・ナイツ』はランスとハープ、そのどちらが欠けても戦う変身ヒロインにあるべき必殺技が使えなかったりする。
「うにゃあ!」
少女の考えを遮って間合いを詰めてきた猫又が鋭い一撃を放つ。
咄嗟に身を捻ってやり過ごしたエンジェルが自分の腰を軸にして戟を回転させて牽制、どうにかこちらの距離に持って行こうとする。
咄嗟に身を捻ってやり過ごしたエンジェルが自分の腰を軸にして戟を回転させて牽制、どうにかこちらの距離に持って行こうとする。
「シッ!」
だが、得物の回転に鋭さが足りなかったのだろう。地べたに這いつくばるまでの低姿勢で切っ先をやり過ごした猫又が双眸に妖しい光を灯して懐へと飛び込んできた。
しまったと思う瞬間。
敗北と死。それまでのお気楽な考えが全て吹っ飛ばされて、頭の中が白く染まった。
突き上げられるのは貫手。
指先にある鋭い爪があれば少女の腹を抉ることだって容易だろう。
白翼の天使の顔が、自分でも分かるくらいに引きつった。
しまったと思う瞬間。
敗北と死。それまでのお気楽な考えが全て吹っ飛ばされて、頭の中が白く染まった。
突き上げられるのは貫手。
指先にある鋭い爪があれば少女の腹を抉ることだって容易だろう。
白翼の天使の顔が、自分でも分かるくらいに引きつった。
「そこまでっ!」
鋭い声があがったのはそんな時のこと。
一喝で猫又の動きを制したのはウォルフであり、それまで戦っていた二人は同時にそちらへと顔を向ける。
一喝で猫又の動きを制したのはウォルフであり、それまで戦っていた二人は同時にそちらへと顔を向ける。
夕暮れから夜に移り変わろうかという頃合いで、闇の中に浮かぶシルエットはやはり薄汚れた胴着に身を包む半狼半人の大男であり。
その手に握られた巨大な矛がギラリと月明かりを照り返す。
ウォルフは畏怖堂々と両者の間に割ってはいると、こう言った。
その手に握られた巨大な矛がギラリと月明かりを照り返す。
ウォルフは畏怖堂々と両者の間に割ってはいると、こう言った。
「久しいな、タマや」
「にゃ~☆」
「にゃ~☆」
文字通りの猫なで声で師匠に向けて小走り、飛び掛かった猫又さん。
呆気にとられて見守るエンジェルランスの事なんて眼中にも無いとばかりにじゃれる白猫女と、その長くて艶っぽい白髪を無骨そのものの手で撫でる狼男の図がそこにはあった。
呆気にとられて見守るエンジェルランスの事なんて眼中にも無いとばかりにじゃれる白猫女と、その長くて艶っぽい白髪を無骨そのものの手で撫でる狼男の図がそこにはあった。