http://job.yomiuri.co.jp/news/special/ne_sp_06052901.cfm
(2006年5月29日 読売新聞)

 総合商社が、入社10年目前後までの若手社員を対象に、成果主義による人事制度を見直す動きを強めている。行き過ぎた社内競争による弊害を防ぐため、あえて昇格に差を付けないようにしたり、年功色の強い資格制度を復活させたりしている。実力主義の人材登用で知られる商社だが、中長期的な視点で経営戦略を描くには「日本型制度の長所も取り込み、若手をじっくり育成することが欠かせない」との判断があるようだ。(西沢隆之)
入社10年目前後までは、“養成期間”

〜「経験積んで!!」

新人事制度についてのミーティングをする人事部の担当者ら(東京・中央区晴海の住友商事本社で)

 住友商事は4月から、人事制度を6年ぶりに改定した。将来の幹部候補である大卒の基幹職の入社後10年間を「プロの商社マンになるための準備・教育期間」と位置づけ、この間の昇格に個人差を付けないのが特徴だ。若手社員に「出世争い」を気にせず、商取引の基本知識や語学留学など、必要な経験を十分積んでもらいたいとの狙いがある。

 従来は、入社11年目に管理職に昇格したのは、同期の3割程度にとどまったが、今後は原則として同期全員が11年目で管理職層の資格に昇格できる。

 とはいえ、新制度では入社11年目以降、実力主義の世界が待ちかまえる。年功序列を一掃し、各社員が担っている役割に応じて等級が付けられ、その達成度に応じて処遇が決まる。

 人事制度の見直しの背景には、従業員意識調査で、成果主義を前面に打ち出した従来の人事制度への不満が相次いだことがある。新森健之(しんもりけんじ)人事部長は「商社の仕事は複雑で、入社数年で実力差は出ないと考えた。同期の昇格スピードをそろえることで、一喜一憂せずに商社マンとして実力を十分に養成してもらう」と、その狙いを強調する。

〜資格の復活

改定した人事制度について説明を受ける三井物産の社員たち

 三井物産も4月から、人事制度を改定した。人材育成の観点から、1999年に廃止した資格制度を、入社9年目までの社員には復活させ、順次、昇格していくようにした点が最大のポイントだ。若手社員の資格を復活させ、過度な競争意識をなくすことで、「成果につながる行動だけを基準にするのではなく、若い時から仕事への高い志を持ち続けてもらう」(田中誠一・人事総務部長)のが狙いだ。

 同社は7年前に年功序列の人事制度を改め、ポストに見合った人材を起用する「職群制度」を導入した。

 この結果、入社4年目から9年目までの社員は同じ職群に編成されることになり、「競争意識が激しくなると共に、先輩、後輩の関係もなくなって、人材を育てる良き企業文化が薄れてしまった」(田中部長)苦い経験がある。2004年に起きた基準に達していないディーゼル排気微粒子除去装置を販売する不祥事の背景にも、行き過ぎた成果主義の影響があったとみている。今回の改定はこうした反省に立ったものだ。

 新人事制度では、人事総務部が3年ごとに対象年次の全員と面談し、業務の企画立案や実行面に加えて人材育成などの点からも年次に見合った能力が備わっているかどうかを確認する。
短期業績志向など、問題考慮

 本来、成果主義は「より業績や結果を出した社員に賃金で報いる」ことを内容とした制度だ。ただ、「短期業績志向に走る」「個人プレーが横行する」などの問題点が指摘されている。

 成果主義を先行導入した富士通が成果を上げるまでの過程も評価対象に加えるなど見直す企業が少なくないが、今回の総合商社の動きは、若手社員に焦点を当てた見直しを図っている点に特徴がある。人事労務政策に詳しい労務行政研究所の園田裕彦編集部長は「30代半ばまでは家庭を持つなど出費がかさむ。処遇面で大きな差をつけないこうした対応は、社員のやる気を保つ一つの有効な方策だ」と分析している。

 一方、成果主義の本家、米国でも現在、その「副作用」を指摘する声が出てきた。代わりに、「ゼネラル・エレクトリック(GE)社が昇進や評価に際しては、業績だけでなく、会社の価値観に合致した行動を取ることを優先して評価する姿勢を示すなど、『成果』の範囲を広くとらえる動きが強まっている」(園田編集部長)という。成果主義を巡る企業の試行錯誤は今後も続きそうだ。
最終更新:2007年10月10日 10:45