第十五章
第十五章「序幕」
横たわるアマックの姿を見下ろし、 アヌビスはふぅっとため息をつくーー | |
アヌビス | 悪しき行いを続けていれば、 その報いは必ず自身に返って来る それは人間も神も同様 |
カシオペア | またカッコつけてアヌビス この男は私達に遭遇してしまって不運だった ただそれだけのことでしょう |
アヌビス | …ともかく この男がやがて来る大戦に不参加になることは 喜ばしいことだろう |
武器を取り上げて止めを刺そうとするアヌビスの目に、 ゆらりと立ち上がろうとするアマックの姿が目に入るーー | |
アヌビス | なん…だと? 一体…どういうことだ? |
カシオペア | どうしたの?アヌビス 誰かの霊圧が消えたの? |
アヌビス | 霊圧とは何だ?そんなことより… この男は…先ほどとは別人だ… |
ランデル | その通りだ、私は邪神アマックではない どうか信じて欲しい |
カシオペア | よくわからないね…どういう状況? |
二柱の守護神が突然の状況変化に少し戸惑っている 目の前の男は先ほどの邪神ではなく、 ランデルが肉体を取り戻したことを すぐに理解できるはずもなかったーー | |
ランデル | 信じろと言う方が無理な話か… 一旦…ここから離れなくては! |
ランデルは倒れているエウィを抱きかかえ、 全力で逃げ去って行ったーー | |
カシオペア | アヌビス、追いかけなくていいの? |
アヌビス | 事情はよくわからないが… あれは先ほどの邪神ではなく、どうやら人間のようだ ならば、我々には関係ないだろう |
カシオペア | 嘘をついている可能性は? |
アヌビス | 知っているだろう? 何人たりともこのアヌビスを欺くことはできない |
二柱の守護神はランデルの後姿を眺めながら話している それは、仮にこれからどんな不測の事態が起きようとも 対応することができるという自信の現れだったーー |
15-1平和の夢境「帰る者」
エウィ | は…離せ…… |
気を失っていたエウィが目を覚ますと、 ランデルの横顔が目に映ったが、 彼女はもちろんそれをアマックだと勘違いしているーー | |
ランデル | 起きたのか? よかった…急がなければ |
エウィ | 何を急ぐと言うのだ!? 一体何をするつもりだ… どんな脅しにも屈するつもりはないぞ! |
エウィはランデルを振り払って離れようとするが、 そこでランデルはようやく まだ彼女に説明をしていなかったことに気付いたーー | |
ランデル | 私はアマックではないんだ この肉体はもともと私のもので、名前はランデル… アマックが倒されて、自分の体を取り戻すことができた |
当然のようにエウィは疑いの眼差しでランデルを睨み 残った力を振り絞って攻撃を繰り出すーー | |
ランデル | 信じるか信じないかは君次第…だが、 我々は君の本来の計画に合わせて行動すべきだろう 私の記憶が確かならば… 君はアマックを永遠に滅する方法を知っているのだろう? |
エウィ | そうれはそうだが… 君の話がもし本当だとしたら、君も死ぬことになる |
ランデル | それは私も望むところだ… 私はアマックに操られ、大きな過ちを犯した… 私の願いは、アマックに体を奪い返される前に、 共に滅ぶことだけだ… |
ランデルの話を完全に信じている様子ではなかったが、 自身の選択肢も限られているため、 エウィはひとまず意見を合わせる事にした | |
エウィ | では…君を連れて行こう 私がアマックを連れて行こうとしていた場所へ… |
ランデル | ここは…? |
ランデルは霧に包まれている周囲を見渡してみるが、 自分がどこにいるのかすら把握できないでいるーー | |
エウィ | ここは現実と夢の意識が交錯するポイント… 現実でアマックを殺しても、 残った意識から、いつかは復活できてしまう 殺すなら…この場所しかない |
ランデル | アマックが… 肉体がなければ復活できない存在だとするならば… 奴は実体を失った神だった…ということか? |
エウィ | いいえ…彼は元々実体のない存在 それを理解するのは難しいかも知れないけど、 それよりもまずは…目的に集中しましょう |
ランデルはエウィの様子について不思議に思っていた アマックを殺そうとしていたはずなのに、 いざその時が近づくと、 どこか憂いているようにも感じられたーー |
15-3孤独の夢境「強敵」
エウィとランデルは必死に走っているが、 ランデルは少しずつアマックの力が戻ってきている事を 感じていたーー | |
ランデル | エウィ、その場所はまだ遠いのか? そろそろ…耐えきれなくなってくるーー |
エウィ | もうすぐよ… |
突然、巨体の悪魔が飛び出てきて、 衝撃で大地がグラグラと揺れるーー | |
ガレロ | ムガッ…吾輩はここで邪神を待っている どっちが邪神だ? |
ガレロはふたりの顔をまじまじと見つめているーー | |
ガレロ | ムガッ…違う、お前達はどちらも邪神ではない…… 復活できなかったのか… 我々が手助けしようと考えていたのだが… |
エウィ | お前は…深淵の… |
ガレロ | お前達は天界の者ではないようだが… 状況はよくわからんが、 とりあえず死んでくれ |
ガレロが大槌を振り回して襲い掛かってくる 頭の弱そうな悪魔だったが、 その力は凄まじいものがあったーー |
ガレロをなんとか撃退したものの、 ふたりは負傷してしまう しかし何とか気力を振り絞り、 目的地へと必死に歩みを進めるーー | |
ランデル | エウィ…君とアマックは…… 一体どういう関係なんだ? |
エウィ | 私はアマックと何の関係もない |
エウィは冷たい口調でそう返したが、 ランデルは答えたくないのだろうと察し、 続けて聞くのを控えた しかし暫くして、エウィが静かに語りはじめるーー | |
エウィ | 彼が完全に変わってしまう前までは… 私と彼は仲間であり…戦友であり… |
エウィは何か悲しい記憶を思い出したのか、 しばらく言葉につまり、息を整えてから話を続けたーー | |
エウィ | 生涯の…伴侶でもあった… |
15-5世界の夢「邪悪離脱」
エウィの話を聞いて驚愕するランデルーー | |
ランデル | 君は…一体…? |
エウィ | 彼と私は…世界の柱のひとり…私達はかつては一緒に… 各時代の戦場で世界を損なう敵勢力と戦っていた…… 多くの悲しみや喜び、出会いと別れを経験したけど、 世界の柱の私にとっては、その感情が一番大切だった… |
エウィ | けど…彼は…耐えられなかった… 終わりのない戦いに身を置くことに… 別れを繰り返す運命に… 結局、私がいなかった戦いの時に…彼は諦めてしまった… |
ランデル | あきらめた…?死を選んだのか? |
エウィ | 世界の柱が完全に死ぬことはない… けど、意識が崩壊して抜け殻になってしまったら、 悪意ある者に利用されてしまって… 昔の戦友にまで手をかける事態になる… |
エウィ | だけど、彼はより極端な方法を選択した… 肉体と記憶を放棄して、魂の柱として自らの魂を追放… そうする事で…愛する世界に留まる事を望んだけど、 結局、利用される運命からは逃れられなかった… |
エウィが話している途中で、 視界に入ってきた人影を確認して、急に押し黙る ランデルもそちらに目を向けると、 そこには穏やかそうな顔の老人が立っていたーー |
エウィ | 何故…ここに…? |
エウィが信じられないといった表情で問い詰めるが、 老人はまったく意に介していない様子ーー | |
パオモア | 君が何をしたいのかはわかっている だが、それは無意味なこととは思わんかね? |
エウィ | そんなことはない! 彼は今はこうなってしまってはいても… かつての世界の柱として、まだ死ぬ資格があるはず 誰であっても…彼を利用する事は許さない! |
パオモア | それは酷い言い草ではないか? 我々とて、この世界のために努力を続けている まもなく起こる大戦に勝利するために、 どのような手段でも、試してみるべきではないのか? |
エウィ | いや、もう二度と貴方の言うことは聞かない! 彼がこんな風になってしまった事にしても… 貴方の責任は免れない! |
第十五章「終幕」
老人は屈託のない微笑みを浮かべながら、 大きな壺を取り出しはじめる それを見たエウィは叫び声をあげて老人に飛び掛かるーー | |
エウィ | それはダメえええっ!!! |
パオモア | いや、私はやる これが私の今回の使命だ… 皆を導き、大戦に勝つためには、何でもする |
老人が壺の蓋を開けると、 ランデルの肉体が引っ張られ、 一瞬にして壺の中に吸い込まれたーー | |
ランデル | な…これは…エウィ! |
エウィ | やめて!お願いだから! |
ランデルは真っ暗な壺の中へ落ちていき、 エウィの悲鳴も遠のいていく… そこは何も無い空間である事をランデルは認識するーー |