そんな頃、ついに太陽に出会った
ヒッキー達であったが、会談は思った以上に進展していない。
「つまり… 王権の譲渡は「無理」だと… そう言いたいのか?」
「それがレナド大将軍のご意思。 それに私個人の意見からしますと、王権を手に入れたとしても反乱軍にレナド大将軍の様に国を統べる事は出来ないでしょう。」
「このたびの反乱の一番の原因は税の徴収によるものだと聞きます。さらに長い間の戦い… それが終結して訪れた旱魃。 それらによって、上の者達を支える下の階級の者に過剰に負荷がかかり、多くのものが貧困で苦しめられた。」
「餓死者が出るほどの「貧困」… だ。 お前達は下から吸い上げた富を啜り、貧困など関係ないなどと、王宮であぐらでもかいていたのだろう? 」
「…否定はしません。」
「まず、税の話から… レナド大将軍の設けた税が高すぎると言いましたが本当に「レナド大将軍が設けた税」なのですか? 国を統一して間もない、情勢が纏まらない
ハニャン連邦に付け込んで暴利を貪る地方権力者が数多くいる… あなた達が「高すぎる」と言っていた税は、そのものたちの設けた税ではないのですか?」
「だとしてもだ… なぜその者達を取り締まらない?」
「情勢が不安定と言いましたよね… レナド大将軍に従う権力者ならまだしもそれを快く思わないものであれば、反感を買うことになる… また戦いが起きるかもしれません。だからその者達に「税を下げろ」と強くは言えなかったのです」
「手をこまねいて見ているしかなかった…か? ふざけるな。 それでは人身御供となんら変わりないではないか。戦いを避けるためなら農民など、どうとでもなれと考えていたのだろう?
貪られ続けた農民は絶望して死んでいった!結局は戦いを避け己の保身のために強く出れなかったレナドなどにこの国を任せる事などで来るか!!」
「ヒッキー… 暇だね。」
「いきなり何を言い出すのギャシャール! レフティスさんが必死で太陽を説得してくれようとしてるのに不謹慎だよ!」
「しりとりでもする? じゃあ、僕から行くねレモティニア=エーレ=アニス=フォーウィ=ストナージ=ミルエル=アジルシース=ウォトン=セラヴァレーテ=アミュラース=コンヴァティー「ル」。 はいヒッキー。「ル」だよ」
「なにそれ!?」
「静かにしてください… 太陽殿。 では戦いを起こしてでもその税を下げさせますか?その結果、さらに血が流れ畑は踏みにじられ、村が戦場となり壊滅しても言いというのですか? 原野が荒廃した一因は戦いにあるのですよ?
それに戦いには多くのものが必要となります。食料、人材、武器、ぞれらの運搬… どれ程の物が必要になるでしょうか?」
「王宮で間に合うようであればいいです。しかし、足りなくなると結局は農民や平民から物資などを徴収するしかならなくなります。 物資が豊潤なら良いですが、劣勢になればより自分の領土に住まう人たちに、なりふり構わず多くの税を多くの人材を… 反対すれば力ずくでも徴収します。 」
「ベォーディン国… 聞いた事がありますよね? ハニャンと長らく争っていたあの国です。 その国がまさにそれでした… 戦いを続ける中で物資が足りなくなり、下の階級から強制的に税を徴収、結局は自分達を養ってくれる農民達をほとんど失い国は滅んだ…」
「従う位ならベォーディンのように滅んでも良いと言う国は残念ながら多く存在します。 その国を説得し、傘下に加える… 戦闘を行う事は何より愚かな事です。 その結果が下の者たちを苦しめるのですから。」
「…レナドの従者。 はっきり言わせてもらおう… 我々に王などという暴利を統べる者は必要ない。我々は我々の「国」を作る事を宣言する。格差を広げる階級というものを全て廃止して、皆が平等に暮らせる世界を…」
「そんなものは理想です。」
「やってみなければわからない。我々は大いなる志で動いている… そのためにレナドは邪魔なんだよ」
「それははっきりした侵略行為の宣言。戦いの意思があるということで理解して良いのですか?」
「白々しいんだよ、貴様らは最初から私の首を取りにきたのだろう。 城を「明け滅ぼし」に狙われては、ひとたまりもないからな!!」
会話をしていた巨大な机をふちを掴むと片手でひっくり返す。
「血祭りに上げてくれるわ!」
「口だけの賢しげな餓鬼が。 上から見下ろす者に何が分かる!」
「ヒッキー! ここでじっとしてて!」
「ギャシャール!ちょっとまって…」
駆け出していくギャシャールをヒッキーは思わず呼び止めるが「太陽」に向かって行く彼女はそのまま突撃していく
「そして、お前もだ…
ディメスキンやイヨゼル卿から聞いているよ。 元
ララモ党の偽善の徒!」
すばやく攻撃を避け距離を開ける太陽は反撃を行おうとするが何かを感じ取ったように、ヒッキーが入って来た入り口の扉をなにやら凝視する。
「おらあああああ!」
「太陽!覚悟!!」
扉を粉砕して飛び出してきたのはあの二人、ライツァー将とギィさんだ! でも、あれ?ニーダさんは?
「節操のない乱入者だ。戦に飢えた鮮血鬼!そして志を持たぬ根無し草が!」
太陽はその場から動こうとせずに地面に掌を当てると、爆風が発生して突撃してくる二人に向かって石つぶてを飛ばす。散弾の様に舞う小石を避けるため二人は左右に側転して避ける。
「ちぃ!」
「わたしがあいつから聞いていた「役者」はそろったようだな。 選ばれた者… 選ばれなかった者の違いを見せてくれる! 貴様らを殲滅した後はシレモンだ… 明け滅ぼしの力で跡形もなくあの城を吹き飛ばしてくれる!」
怒声を放ちそう太陽はシレモンへ攻撃を仕掛けようと宣言する。 どうしよう… もしここで勝たなければ、戦争がおきてしまう。 戦争が起きる前に何とか太陽を倒さないと取り返しがつかない!
「ヒイヒイ… やっと… 着いたニダ…」
ヒッキーがおろおろとする中、肩で息をしながらライツァーによって粉砕された扉の入り口から部屋に入ってくるニーダ。
「? 誰だお前は?」
「ひどッ!!」
なんていうか、彼の扱いは日に日にむごくなっていく…
「ギィさん! 傷だらけだけど大丈夫ですか!?」
「だまってろ!」
「二人ともそこを動くな。 邪魔になる」
そうヒッキーとニーダに諭すライツァーは臨戦体勢になり、太陽へ向かって長槍を向ける
普通に考えれば武器も扱えない人間がコノ場にいてもライツァー将の言うとおり邪魔なだけだ。彼も場合、本当はもっときを効かして無礼のないように言うのだがそんな今は余裕もない。
「…」
「そうニダね。 ここは邪魔にならないところから見守ってるニダ。 そうするしかないニダよ…」
「はい…」
戦闘の不得手な二人は皆にお荷物として認識されている 実質のところ自分は敵にとって弱点にしかならない。
自分も同じように皆の力になれない事にニーダも軽い苛立ちを感じている。
「あなたなら分かるでしょう… 抵抗は無意味です。 おとなしく投降を」
「それは、私を倒してから言うんだな!」
「くっ!」
レフティスの言葉に全く耳を貸そうとしない太陽はどこからともなく吹き荒れる突風を腕から放ち、攻撃を加えてくる。
その風は喰らえば吹き飛ばされ壁に叩きつけられるだろう。風を自在に操って自身の死角からの攻撃を受けないようにしている。
「くそが…! 元は戦闘訓練も受けてない農民だろ? 何でこんなに強いんだい!」
「私は選ばれたものだからだ! この程度の規模の風を起こす事など造作もない! これがあればな!!」
「水晶? 淡く光っている…だと?」
語り始めた太陽のその右手には赤く染まった石が握られ、そこから再び風が発生する。
「貴様ら愚物には分かるまい。 これこそがハニャンに新しき「風」をもたらし腐ったこの国の真景を暴く奇跡の力の根源よ!」
高々と石を掲げる太陽は歪んだ笑みをみせ、そう叫ぶ
「くくく… 驚け。 死にゆくお前達に良い事を教えてやろう。 この石の名は『
血玉の職人石』…」
「職人石だと!?」
(ちぃ…面倒な事になったね右野郎やレフティス参謀はその存在を知らなみたいだね。)
「気を
つけるニダ!その石は大昔に作られたとされる伝説の石ニダよ!」
いきなりそんな事を言われてもいまいち実感のわかない二人だが「太陽」が風を操るのを見て、その話を信じざるおえなかった。
ほぼ密室であるこの部屋で風が発生しているのだ。それがまやかしではない事を証明している。
(あんな超常現象を起こすとは… 伝説どうりとんでもない石ニダ。)
コンヴァニア財団がこの石のためだけに普段は取らない「武力」を
ルアルネ傭兵団に行使したのだ。浮遊島に安置されている職人石もあれほどの力を持っているに違いない。
その重要性と可能性はおそらく、自分でも計り知れないだろう。
(でも、なんで太陽が職人石をもってるんですか!? 長い間発見されず、半ば伝説になってるくらいなのに!)
(そ、そこまではウリにも…)
ヒッキーとニーダが二人がひそひそと話をする中で、4人の猛攻を風を発生させながら防御していく「太陽」。
どちらが優勢か決まらないまま戦闘は進んでいく。
「埒が明かんな…」
こちらのほうが遥かに多勢だが全く隙を見せない太陽だが徐々に焦りが見え始める。
「全ての物に平等なる光を… 私のよう苦しむ人間が出ないためにも、貴様らを粛清しレナド大将軍を何としても討つ!」
職人石の力をこの圧倒的な戦力差を埋める太陽だが、焦りの色が見え始める。自分は一人… 流石に数が違うと持久戦はヒッキー達が遥かに有利だ
「あなたは「全ての物に平等を…」といったけど、港の人達は津波に飲み込まれて死んでいったんですよ…? それなのに「皆を幸せに…」なんておかしいじゃないですか」
「…多少の犠牲はしかたない。 それに港を潰しておかなければ、向こうのルアルネの連中の増援が来る危険があるのでな。」
「太陽! それこそ偽善ではないか!! あなたは人を苦しみから解放すると謳っておきながらそれか!」
「つまり殉教者だったって訳だ。 一方的に命を奪っておいて笑わせないでくれる? それを聞いてリシァーダの人たちが納得すると?」
「力を見せればレナド大将軍の考えが軟化するとでも思っていたのか! 浅はかな愚者め!!」
「頭悪い奴が変に優越感を求めようとするからこんなことになるんだよ。 今すぐ土下座してあやまんな!」
「あの人たちだって未来はあったのに、その多くの未来を自分の野望のために利用なんて… そんなあなたの言う事なんて、僕には信用できない!!」
「大体言ってるとやってる事が矛盾してるよ? 自分達を省みないレナド大将軍に怒ってるのに、何で平気でそういう事出来るの… それこそララモ党お得意の「偽善」にあたると思う。」
「本当は会話による解決をしたかった…! しかし、あなた達は…! その手段を選ばない結果、民を苦しめられるというのなら私こそ貴様を討つことをもう迷わない。 「太陽」覚悟!!」
(ちょっと「太陽」が可哀想ニダ…)
ヒッキーも合わさっての大罵倒に流石に同情を覚えるニーダ。
彼らの言葉を聞いて下をうつむくと、突然攻撃をやめて怒りを露にする
「気に食わん…」
突然、怒りに顔をゆがめる太陽は、先ほどまでとは比較にならない巨大な風を生み出す。
「なぜ貴様らは邪魔をする!もう少しで皆が幸せになれるというのに!!」
突風に耐えるヒッキー達は城での初めて「明け滅ぼし」に遭遇した時の耳の痛みを覚える。 気圧を圧縮するつもりだ
「そして、貴様だ! 哀れみの目で私を見るんじゃない!」
「え?ええ!? ウリ!?」
どうやら、太陽が一番気に入らなかったのは皆の罵倒よりニーダの哀れみの目線らしい。
「消し飛ばしてやるよ!お前ら全員!! いでよ!「明け滅ぼし」!!」
風が太陽の周りを覆い巨大な竜巻を形成すると、天井を突き破り竜巻は天高く上っていく。
「この石さえあれば… たとえイヨゼルが失敗したとしても俺にはこれが!」
竜巻により、巨大な穴の開いた天井から見えるのはリシァーダの港を滅ぼした「明け滅ぼし」。
「とうとう出やがったね! 」
「アレの直撃を喰らえば我々はひとたまりもないぞ!」
出現したそれに怒声を上げるギィに叱咤するライツァー。
「しかし、アレから逃れる事が出来るのですか!?」
逃げようにもアレほどの大規模な攻撃を人が回避するなど不可能。本人を攻撃しようにも竜巻に覆われすでに姿の見えない太陽に手を出す事が出来ない。
「太陽は死ぬつもり!? いくら自分が守られているといっても、あの爆風で無事なはずがない…」
「いくらなんでも、さっきまであんなに冷静だったはずの太陽がここまで狂変するなんておかしい。 なんで?」
「考えてる場合じゃないニダ! 逃げるニダ!」
「だから、どこに逃げるんだっての!!」
「無駄なんだよ! 吹き飛ばしてやる!」
竜巻からそう声だけが聞こえてくると、「明け滅ぼし」は周りの空気を深く吸い込み全てを吹き飛ばすタメの準備にはいる
最終更新:2009年05月03日 01:15