ペンタグラムエキスパンション(ストーリー19)

すっかり夜になり、新月のため月もなく、星明りしか頼りにならない真っ暗な夜を迎えた。
ララモールを救出するために皆は危険を顧みず、カスムの屋敷に忍び込もうとするギィ達には絶好といったこの夜。

「皆、集まった?」
メルディリーナの言葉に小声で返事をする
「この通り」
皆が集まったことを確認すると。 すぐに返事をするギィ

「ああ、逢いたかったとメルたん。 早速愛の歌をメルたんに捧げま…」
「空気嫁。」
ギャシャールは言うが早し、わき腹に肘鉄を入れるとヒャクハチはいたそうに蹲る… 
容赦のないそれを見て皆は思わず苦笑いを浮かべる
「さて、行こう。 ララモールを助けにね。」

屋敷の前で集まった皆はおのおのの行動を取り、自分の決められた場所を目指す。

屋敷の塀を飛び越えようとしたそのときナタリアは突然立ち止まり辺りを見渡す。

「どうしたのナタ、何か聞こえた?」
耳の人一倍良い彼女が何か気になる物音が聞こえたのか、メルディリーナは心配そうに彼女に何か異変がないか伺う

「いや… 動物の唸り声が聞こえたような。 居るわけ無いんだけど…」
彼女に耳には動物の唸りが聞こえた… 野犬のような、そうでもない様な… 聞いた事のないような声が聞こえたような気がする。

「…とにかく見張りじゃないんなら、さして問題じゃない。 先へ急ごう。」

「さてと… 急がないとね。 全く世話を焼かせるなララモールの奴は…」
「そうね。 でも、悪態をつくのはそこまでにしたほうが良いわよ? ほら、私達はララモールに良く仕事を手伝ってもらってるじゃない。 ララモールに聞かれたらどっちが世話を焼かしてるんだ!って、怒られるわ。」
「今回もそれの恩返しなんだよね… じゃあ、行くね皆。」
先ほどの事は気のせいだとナタリアは自分に言い聞かせるとメルディリーナと共に玄関近くにある部屋へ向かった。

ギィとギコイルは軽やかに塀を飛び越え、屋敷の庭を通って地下室が近くにある窓に向かう
「以外に運動神経あるねぇ。 頼りになるよ」
ひょいひょいと障害物を飛び越えて行く彼をギィは褒めると、得意そうな顔して自慢げに答える。

「当たり前さ。 どんな時でもナタたんを守れる様になるために日々鍛えてるんだ俺!」
「なるほど。 あんた、体動かすの得意そうだしルアルネ傭兵団に入らないかい? 歓迎するよ。」
「冗談! そんなことしたらナタたんに会えなくなるじゃないか!!」
ふーん、じゃあナタリアがルアルネ傭兵団に来たら?」
「ルアルネに行く!」

「分かりやすいねェ…」
これは一種ののろけなのか、そんな事を考えながら窓から屋敷に侵入する

「…さっさと仕事を済ませよう。」
「そうだなぁ。 さっさと終わらせて、メルたんに愛の歌を聞かせてあげないと!」
「本当に君はさっきから自分の事ばかりだな… 生き方が正直って言うか、素直って言うか、煩悩丸出しというか…」
「煩悩だらけなのはしょうがない。なんせ名前が108だからね」
「だれうま。」

屋敷の庭を通ってギャシャールは一階の窓の少しの引っかかりを利用して二階へと移動すると、彼女が二階から垂らしたロープでヒャクハチも2階へ向かった。

(正直、さっきから胸騒ぎが納まらないな… 本当はこんな所に居たくはないけど、ララモールを助けてササッと抜け出せば良いか…)



かくして6人はかなりあっけなく屋敷に入る事に成功した。 ララモールをみつけるために、屋敷を詮索しなくてはいけないのでここからが本番なのだが、見張りがほとんどいないことが少し気になる。 
それがギャシャールの胸騒ぎの正体でもあるのだが…


突如、6人集まっていたその場所の後方、立ち並ぶ住宅街の暗がりから、ゆらりと人影が現れる。 

「…ありゃギィか? こいつはいいぜ、さぞ愉快なことになりそうだな。」
そしてその人影はすぐ近くに居る巨大な「何か」を、ゆっくりと撫で上げると嬉しそうに言葉を漏らす
「グルルルル…」
「もう少しだ…  長い間狭い場所で待たせたんだ、うっぷんも堪ってるんだろが…。 まあと少し経てば、存分に暴れさせてやるぜ。」

自身の野生を唸り声として上げる「何か」はその言葉を聞き再び息を潜める。
その人影はこれから始まる事を思い浮かべ、潜入する彼女達を見届けると再び住宅街の闇の中に消えていった。


「さてと… 人は居ないねぇ。」
「さっさと地下室に向かおうぜギィーラさん。」
窓から潜入したのは良いが少し違和感を感じる。 屋敷の庭には人影がほとんど見られない… 
意図的な何かを感じるが、自分達はもうすでに屋敷に潜入してしまった。 

(まあ、何か起きたらその時に何とかすれば良い、ルアルネ傭兵団では今までそうしてきたし。)
来るなら来いや! の行き当たりばったりの精神で足を先に進める。 

「…静か過ぎないか?」
昼より夜のほうが静かなのはしょうがないが、自分がメイドになって潜入したときとより、不自然なくらい静かだ。 言いようのない不安が押し寄せてくる彼はギィに意見を求める。
その上、廊下は真っ暗で何も見えない

「そうだねぇ。 もしかすると…」

「も、もしかすると?」
「…皆、寝てんじゃないのかい?」

「そうでふか…」
この人に聞いた俺が馬鹿だった… とギコイルはちょこっと後悔する。

「広い屋敷なんだし、昼ならともかく夜なら警護以外居ないんじゃないかい…」
シンと静まり返っている建物中を突き進んでいく2人はあっけなく地下室への階段を見つける。
「…そして一瞬にして、地下室の階段にたどり着いてしまった。 良いのかこれで?」

「クソ! この日のために徹夜でMGSをしてたのに無駄になった!」
何のない事が一番良い事なのに、なぜかブチブチと文句を言うギコイルは階段を下りていく。

「…」
「どうしたんだ、いきなり立ち止まって… 早くこっちに来てくれよ」
ギィはなぜか階段を下りようとせずに、その場で立ち止まっている。 ギコイルはギィを急かすが、なぜか彼女は突然後ろを振り返る

「…いや、ギコイル殿。 あたいがここで見張りをしているから、地下室の様子を見に行ってくれないかい?」
「え? ああ、いいけど…」
ギコイルが地下の階段を降りて行くのを見届けると、ギィは階段を下りようとせずに、廊下の方へ腰の帯剣を向ける

「居るんだろ? 出て来いよ。」
にやりと笑って、自分が感じていた潜んでいる何かに向かって言葉を投げかける。
すると、廊下の壁にかけられていた蝋燭に次々と灯がともり、通路の暗闇をぬぐっていく

どういう原理だ? と、疑問に思うのも束の間、通路には大柄の男が仁王立ちしている。
その格好は明らかに、メイドや使用人の類ではないのは明らかだ。 不気味な何かの頭蓋骨を被った男は、両腕に巨大な鉤爪を装着している。

「い、い、何時から気付いていた?」
その男はギィの感覚の鋭さに警戒して、慎重にもすぐに飛び掛ろうとせずに様子を見ている。

「なんとなく。 こっちとら闇討ちや待ち伏せを喰らうなんて仕事柄、日常茶飯事なんでね。 そういうのはいやでも肌で感じれるのさ。」
まあ、索敵の能力ならギャシャールのほうが上なんだけどね… っというのはむかつくから言わないとして、彼女が言っていたカスムが党率議員である事から、この人物は名も亡き者である可能性がある。
「お、お留守番。 ひ、ひ、暇でしょうがなかった。 でも、お前が来てくれたいおかげで退屈無くなった。 た、楽しませろ」

「嫌だね!」
舌を突き出して挑発的な態度を取ると、男はいきなり大声で雄叫びを上げながら体躯には見合わないスピードで突進してくる。

「こ、こ、ころ、ころ、ころしてやる!」
(あたいはなんで、こんな変態としか戦えないんだろうか。)
仮面代わりにつけている頭蓋骨の奥から血走った眼が見える。 とんでもなく頭に血が上りやすいようだ。
ギィは鉤爪を剣で受け流すし、心の中で悪態をつく。

その頃ナタリアたちペアは入り口前の部屋に向かっていた。
「ここは、倉庫?」
ギコイルたちと同様に見張りという見張りに出くわす事もなく、あっけなく目的に到着する。
楽に到着できたにもかかわらず、ナタリアの機嫌はなぜか悪そうである

「クソ!何もなかったじゃないか… こんなことだったらMGSをノンアラートでクリアする必要は…!」
「せめて2chかマジックのネタを言いなさい…」
ギコイルと同じ様なことを言う彼女。 メルディリーナはナタリアと作者に釘を刺しておくと、ゆっくりと扉を開けて部屋に侵入する。

「ずいぶんとゴチャゴチャとしてるな、倉庫かな?」
「ララモールは… いないわね。」
ハズレか… ガッグシと肩を落とした2人はさっさと屋敷から脱出しようとする。すると、隣の部屋から会話をしているのか声が聞こえてくる

「こ…な…… ララ… も… い…」

「声が聞こえる?」
「みたいだ… しかも複数の人たちの声、しかも女性だ。」
ゴチャゴチャと聞き取り辛いらしく、何を言ってるのかが良く分からない。

「壁に耳をつければ詳しい事が…」
冷たい壁にヒタリと耳をつけその会話を盗み聞きをするナタリア。

「…そんな!」
聞き入っていたナタリアだが、衝撃を受けたかのように突然壁から離れると、メルディリーナに聞こえたことの報告をする。

「どうしたのナタリア?」
「大変だ…!」

「ララモールはもうこの屋敷に居ないって!」
「それ本当なの!?」

ララモールはもう居ない… それが分かった今もなお潜入しているギコイルやヒャクハチたちはただ単に危険に身をさらしているだけじゃないか…
そうと分かれば早く屋敷から脱出しないといけない。
「…なんて事よ。 そうと分かれば、ここに長居する意味なんてないわね。 すぐに屋敷を抜け出しましょう。」
「え? ちょ、ちょっと待って!!」

「ギィーラさんやギャシャールたちならきっと大丈夫。 ギィーラさんはプロだし、ギャシャールも見つかる様なヘマをする子じゃないわよ。」
「違うって! 何かまた聞こえたんだ… 獣の唸り声が! 」
屋敷の正門辺りから、最初に聞こえた獣の唸り声が今度がはっきりと聞こえた。
ナタリアが言うにはそれは犬や猫のようなものの類ではないらしい。 嫌な予感がする…


そんなやり取りのちょっと前のギャシャール、ヒャクハチ ペア。すでにララモールが屋敷に居る事を知るよしも無く天井裏から、忍びの如くゆっくりと目的地を目指していた。
「屋根裏から行くとは考えたなギャシャール。」
「こういうのは慣れてるからね。」

「慣れてる? そうか、そういう事か、お前も好きな人が出来たんだな。」
…何で好きは人が出来たら屋根裏部屋に侵入するんだよ、っと一応は突っ込んでおき そんな会話をしている間に自分達の潜入する部屋の下に差し掛かる。

っていうか、廊下には見張りがほとんど居ないので別に天井裏を通っていく必要はなかったりするのだが、それも彼らが知るよしも無い…

「ここら辺かな」
ゆっくりと慎重に天井の壁をはずしていき、極力物音を立てずに床に着地をする2人。
天井のその穴から部屋に飛び込んだ二人は厳粛な感じの部屋に少しびっくりした。

「だーれも居ないです。」

「残念。 俺達はハズレ 人のいる気配はないみたいだ。」
「…なんてこったい。 まあいいや、ほかの誰かがララモールを助けてくれるでしょ。」
吐き捨てるようなその態度に可愛げの欠片もない… ギャシャールの態度にララモールが少しかわいそうになったのか彼女を茶化しだす。

「愛想無いな~ 「ああ、私がララモールを助けたかったのに、他の人に助けられるなんて嫌だわ~」 的な事、たまには言ってみたらどうだ? って、いたたたた!」
「愛想無くて悪かったな。 ああ、ララモールの奴助けられなくて、非常に悲しい。 これで満足?」
茶化されてムッときたのか突っぱねるようにヒャクハチに言う

「まったく、おかげに可愛げも無いと見えた ララモールに嫌われるぞー」
「安心してよ、とっくの昔に愛想尽かされてるから…」
「そりゃ、どういう意味だ?」

「…」
今ではかなり前に言われたセイフだが「お前には失望した」と面といわれて言われたんだ。 愛想を尽かされたに決まってる… ララモールにコンヴァニアに送られたのがいい証拠だ。

「ちょっと、いらない事を言いすぎたか?」

「別に良いよ。 そんな事より、この部屋は…」

大量の書籍が立ち並び、大き目の棚には隙間なく本がしまわれている。 そして、偉そうな机に偉そうな椅子に偉そうな装飾がちりばめられている小さなペンがある
「ここは間違いなくカスムの部屋だな、うん」
「…ララモールはいないことは分かったけど一応は何かの情報を掴むためにはね。」

机の上には大量の書類が散乱している。 2人はそれを近づいてそれをみるとなにやら腹黒い事が色々書かれている…

コンヴァニア財団の援助について」「ハニャン連邦の騒乱」「ヴァイラ教の邪神の捕獲」「ルアルネ傭兵団のコンヴァニア財団襲撃の処遇」

「この邪神って何だ? アホか… 」

「ルアルネ傭兵団の処遇… あのおっさん(タカラード)のことかな…」

「えーと何なに、コンヴァニア財団の…」
ヒャクハチはコンヴァニア財団の援助を声を上げて読もうとする

「それ以上は読まないほうが良いよヒャクハチ。」
パッと手に取ったその資料を奪うと、その資料を奪い返そうとするヒャクハチと組合いになる

「良いじゃん、減るもんでも無し」
「止めろって言ってるのに、この男は… ヒャクハチ。 メルディリーナの素敵なところを10点挙げなさい。」
「はは~ん! 1.彼女は女神であるから。 理由は…」

(これで資料のことも忘れてくれるでしょ、ヒャクハチは放っておいて、今のうちに僕は別の資料でも拝見させてもらおう)
そしていざ資料に眼を通そうとした瞬間に突然、ガチャリと扉が開かれる。
「…」
部屋に入ってきたのは… ギャシャールにとって面識のある人物だった。

もちろん、カスムの部屋に入ってくるんだ。 カスム本人である…


「…オワタ
「9.愛だよ、愛。 何だかんだで全ての挙動に俺への愛が込められているんだ~ ふふん!」


「動くな。 手を後ろにし、壁に向かって立て。」
有無を言わさずに拳銃を取り出すカスムは恐ろしいほど冷ややかに、そして淡々と侵入者である2人に銃口を向ける。

「うるさいんだよぉ! このデコッパチが、まだ素敵なところを…」
(ヒャクハチ! バカ…!)
状況をニーダ並みに読めていないヒャクハチは、拳銃を取り出しているカスムに向かって罵声を浴びせる。
警告はしたぞ、っと言わんばかりにカスムは片頬に笑みを浮かべると、叫ぶヒャクハチの脳天に銃口を向け、静かに引き金を引いた。
最終更新:2009年05月03日 11:00
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