“全ての伝説は塗り替えられるためにある”
そのマシンは最強といわれたマシンを抜き去っていった。ソレは負けた走り屋をあざ笑う様にテールを揺らし、夜の闇に消えて行ったと言う・・・・。
・・・・・それ以後彼は「迅帝」と呼ばれ首都高の歴史に名を刻んだ・・・・・・・
名声に飢えた狼たちは新しい伝説に名を刻むために今夜も首都高を彷徨う。
群れを成して獲物を追う者達。
一匹狼となり走りを研ぎ澄ます者達。
そのなかで実力と立場が迅帝に尤も近い者達を、人は畏敬と畏怖の念を抱き、
「十三鬼将」と呼ぶ。
だが誰にでもチャンスはある。
此処は首都高速道路。
最後の楽園だから───
──今夜も頼むぜ、ステージア。
フサはそう言うと運転席に乗り込み、エンジンキーを捻る。
彼のステージアの心臓、「RB-26DETT」が息を吹き返す。
自宅の車庫から夜空の街へと旅立って行った・・・・・。
一般道から首都高環状に上がる車の群れ。
そのなかに紛れて黒いステージアが加速車線から本線に移る。
・・・・・・今夜は少し混んでるな・・・でも走り出せばそんなのは関係ない。行くぜ!
アクセルを踏み込む。それに反応して、RB26が1.5tの固まりを加速させる。
一気に加速する。
・・・・これだよこれ・・・・・すっかり忘れてたぜ・・・・。
RBサウンドが首都高に鳴り響く。
目の前に絶好のカモがノロノロと走っている。
全体をエアロで武装したホンダ シビック。
シビックか・・・・今日も勝負師に化けてやるか・・・・・・。
可哀相だが負けてもらうぜ。シビック野郎!!
今日もまた、狼たちの戦いが始まろうとしていた・・・・・。
プロローグ 終
第一章 黒き狼
フサはすかさずヘッドライトを点滅・・・・─パッシング─させる。
シビック乗りも気がついたらしく、ハザードランプを点滅させる。
彼らの間では、パッシングがバトル申し込み、ハザードランプがOKと言う、ルールがある。
ものの数秒間時速80㎞前後で走行したのち、二台のマフラーから轟音がはじき出される。
・・・・・敗北は・・・・絶対にしたくねえ!だから勝たせてもらうぜ。
メーター読みで時速120㎞を越える。
純正だと普通車は時速180㎞前後でリミッターが稼働される様にセットされている。無論、ステージアも例外ではない。
フサのステージアはライトチューニングカーであるが、リミッターは装着してある。だがしかし、フサはまだその事には気がついていなかったのだ。
速度は160㎞まで鰻登りに登る。
そして・・・・・
・・・・・奇怪しい・・・・・・速度が上がらない。・・・そうか、リミッターだ!リミッター解除をし忘れていた!
そう、問題の速度域に達して初めて事の重大さに気がついたのだ。
刻一刻とシビックが追い上げてくる。このままでは勝ち目はないだろう。
ちっ!あれをやるしかねえな・・・・・・。だが俺に出来るのか?“ドリフト”が。
幸か不幸か目の前にコーナーが迫ってきている。そしてイン側にはトラックが存在している。
その道のプロですらドリフトを躊躇う状況、だがフサはしなければいけなかったのだ。
一か八かだ!
瞬間的にアクセルを踏み込み、不意にイン側へハンドルを切る。
一気に車体がアウト側のコンクリート壁に45度の角度まで横を向く。
ヘッドライトでトラックの横を照らしながら、コーナーを抜ける。
タイヤの削れる大音響の音とゴムの焼けた様な匂いが運転席まで伝わる。
後方をミラーで確認する。シビックの運転手は驚いたらしく、後ろでもたついている。
フサはハザードランプを点滅させ、バトルを終わらせる事を相手側に伝えた。
今日はこの辺でやめておくか・・・・・。
フサはそう言うと出口へと車を走らせて行った。
第一章 黒き狼 終
第二章 チューニングショップ“ギコ・スポーツ”
おーいおやっサン・・・・・・・居るかー?
誰だ・・・・・・忙しい、後にしろ!
声がする方を向く、するとトラックの腹に潜ってしている男が一人。
俺だよ俺。
・・・・あ?・・・・・・フューエル・ルシファー・ギコサーグ、貴様か。
フサでいいぜ、おやっサン。言いづらいだろ?
・・・ところで何の用だ?邪魔しに来たのか?
ステージアのチューニングを頼みに来た訳よ・・・・。
しばらくは黙々と整備をしていた彼だが、その一言で彼の腕の動きが止まった。
・・・・テメエ、自分がどこまで実力があるか判って言っているのか?
今の貴様じゃ時速220㎞の世界にも、その上の世界にもついていけねえ。
もう少し時間が経つまで大人しく待ってろ。
おやっサン・・・・・・ドリフトした、と言っても駄目か?
駄目だ。せめて・・・・・・
一言言いかけて口を閉じ、しばらくしてからまた呟く。
せめて、そのタイヤが丸坊主になるぐらい練習してみろ。
判ったよおやっサン。一ヶ月待ってくれよ。
整備庫から出て行こうと数歩歩いた時、“おやっサン”が呼び止める。
待てやフサ。ただ単にステーションワゴンでドリフトするのは簡単だ。
エスティマを貸してやるからそれで行け。
おやっサン・・・・。
意味をとらえ間違えるなよ。お前の練習次第では死ぬ時が早まるかもしれないんだぞ。
・・・・判ったよ。
さあ、早く行け。
フサが乗って行った後、トラックの下に潜りながら彼は呟く。
あの野郎、大きくなりやがって・・・・・・。嬉しいぜ。
第二章 チューニングショップ“ギコ・スポーツ”完
第三章 因縁の再会
排気抵抗となる純正のモノを全て取り除いたチタン製マフラーの金属の擦れる様な独特な排気音が環七通りに鳴り響き、一つの店舗の前で途切れる・・・。
先程までフサギコが訪れていた“ギコ・スポーツ”の軒先に一台のフルチューンのトヨタ スープラが止まる。
その車から降りたのは名チューナーとして名を馳せている男であった。
ギコ・スポーツの店長さんよ、お前さんも落ちぶれたものだな。
!ナナシア!?貴様何時の間に・・・・・。
「ナナシア」と言われた男、彼のチューニングしたスポーツカー・・・特にロータリーエンジンのスポーツカーは扱いやすさと速さを両立したと言われ、好評であったとされている。
一昔前は肩を並べるほどの腕を持った男だったのによ、堕落したな。
・・・貴様に・・・・堕落したなんて言われる筋合いはねえ!さっさと出て行け!
そうかぁ。まあ、自分の事を自惚れるナルシストになる前に、自覚した方がいいよ?
うるせえ・・・・・さっさと帰れ!
しぶしぶとナナシアは店舗から出て行く。そして店の外に出ようとした時、こう言い残した。
たまには息抜きでもしてみなよ。あと・・・・・
「また会う時は・・・・アスファルトの上だからな」・・と。
・・・・ちくしょう・・・俺だって、腕を鈍らせたくはねえよ・・・。
予想を裏切る言動に、足を止め、動揺を隠せずに振り返る。
だったらなぜ・・・・・。
重い口を開き、ギコは語る。
・・・ドライバーの限界までチューニングの領域は到達しちまったんだよ・・・。
最初は趣味半分、仕事半分で始めたこの商売、ハッキリ言ってパンドラの箱だった。
最初は事故を起こしてしまう奴がいても、車やドライバーの限界に対する速度が差程ではなかった、だから最悪の事態にはなりづらかった。
だがな・・・。
近年になって自分の技量よりも能力の高い車が多くなってきた。
自分の限界を簡単に見出せる様になってきたって事だが、限界を越えて事故死をする奴が増えてきている。
まさに“悪夢”だよ・・・。
なあ、ギコよぉ・・・・俺達は・・・・何も速いだけの車を創るために整備士の、チューナーの資格を取ったんじゃない。
扱いやすく、尚かつ速くて実用性の高い車を創るために整備士の資格を取ったんじゃないのか?
そうじゃなかったら・・・・資格の持ち腐れだ。
「チューニングに終わりはねえ。のめり込んだら壊される・・・しかも命懸けの商売だ。だからメリハリを付けなきゃ駄目だ」
そう言い残し、ナナシアは愛車のスープラに乗り込み、朝日の差し込む環七の彼方へと走り去っていった・・・。
環七通りに朝の交通戦争が始まろうとしていた・・・・。
第三章 因縁の再会 完
第四章 荒くれ者な天才タマゴ
─TOYOTA ESTIMA CUSTOM─
店舗に隣接されたガレージ、そこの内部でフサは化け物じみた車に出会っていた……。
エスティマの姿の、化け物に。
…なんだこのエスティマ…。やけにタイヤが内側に傾いているぞ……?
フサが見ていたエスティマは鬼キャン仕様と言う、タイヤが偏磨耗し、曲がらない、運転が難しくなるなど、百害あって一利なしの仕様だ。
だが、曲がらないからドリフト練習にはもってこいでもある。
黒く塗られたボンネットを開け、さらに、とんでもない事に気がつく。
…エスティマって…こんな大きなエンジンだったっけ…?
ふとエンジンのロゴが目に留まった。
ん?・・・・・2JZだって!?
スープラ用の280馬力を発揮する「2JZ」エンジンに換装され、乗っていたのだ。
しかも、純正ではない。
ざっと見てそれだけで300馬力は出せると思える巨大なターボチャージャーと、10点式ロールバー、ナイトロが装着されていたのだ。
合計は甘く見ても500馬力は下らない。もしかしたら700、いや1000馬力以上を出力させるかもしれない。
それに、とてつもなく車体剛性は向上しているはずだ。
フサ、まだいたのか。
あ、おやっさん・・・・なんですかこのエスティマは。
どうだ、こいつの感想は。文字通り羊の皮を被った狼だからな。
行っておくが、あちこちにカーボンパーツを多用してロールバーを組んだから、尋常じゃなくなっているぞ。あまちゃんには操れない代物だ。
おいおいおやっさん・・・・ただでさえミニバンで鬼キャンなのにさらにハイパワーなエンジンを乗っけちゃ曲がらねえだろ・・・。
だから面白いだろ?それにこいつに慣れた頃にはお前のステージアもとんでもない化け物に仕上がるはずだ。
え、どの位の化け物になるんです?
おっと、それは企業秘密って奴だ。後にしてくれ。ただ─
「乗りこなすには相当のテクニックと度胸、あとセンスが必要になるだろうな。言っておくがFRに改造するぞ」
本当に?
俺が嘘を言うとでも思ったか?
いや、で・・・・チューン代はどうなるんだ?
首都高最速になったらタダ、なれなかったら3億円だ。
……なるほど。さてと……
…曲がらねえんだったら強引に曲げるしかない、か……。
けっ、おもしろいじゃねえか!
ドアを開け、運転席に乗り込み、キーを差し込み、捻る。
エンジンが唸り、爆音がガレージの内壁に響く。
うんうん、エンジンとシャシの相性も良好だな。行ってこい!
滑るようにガレージを出て、暁の都心へと走り去っていった……。
第四章 荒くれ者な天才タマゴ 完
続く
そのマシンは最強といわれたマシンを抜き去っていった。ソレは負けた走り屋をあざ笑う様にテールを揺らし、夜の闇に消えて行ったと言う・・・・。
・・・・・それ以後彼は「迅帝」と呼ばれ首都高の歴史に名を刻んだ・・・・・・・
名声に飢えた狼たちは新しい伝説に名を刻むために今夜も首都高を彷徨う。
群れを成して獲物を追う者達。
一匹狼となり走りを研ぎ澄ます者達。
そのなかで実力と立場が迅帝に尤も近い者達を、人は畏敬と畏怖の念を抱き、
「十三鬼将」と呼ぶ。
だが誰にでもチャンスはある。
此処は首都高速道路。
最後の楽園だから───
──今夜も頼むぜ、ステージア。
フサはそう言うと運転席に乗り込み、エンジンキーを捻る。
彼のステージアの心臓、「RB-26DETT」が息を吹き返す。
自宅の車庫から夜空の街へと旅立って行った・・・・・。
一般道から首都高環状に上がる車の群れ。
そのなかに紛れて黒いステージアが加速車線から本線に移る。
・・・・・・今夜は少し混んでるな・・・でも走り出せばそんなのは関係ない。行くぜ!
アクセルを踏み込む。それに反応して、RB26が1.5tの固まりを加速させる。
一気に加速する。
・・・・これだよこれ・・・・・すっかり忘れてたぜ・・・・。
RBサウンドが首都高に鳴り響く。
目の前に絶好のカモがノロノロと走っている。
全体をエアロで武装したホンダ シビック。
シビックか・・・・今日も勝負師に化けてやるか・・・・・・。
可哀相だが負けてもらうぜ。シビック野郎!!
今日もまた、狼たちの戦いが始まろうとしていた・・・・・。
プロローグ 終
第一章 黒き狼
フサはすかさずヘッドライトを点滅・・・・─パッシング─させる。
シビック乗りも気がついたらしく、ハザードランプを点滅させる。
彼らの間では、パッシングがバトル申し込み、ハザードランプがOKと言う、ルールがある。
ものの数秒間時速80㎞前後で走行したのち、二台のマフラーから轟音がはじき出される。
・・・・・敗北は・・・・絶対にしたくねえ!だから勝たせてもらうぜ。
メーター読みで時速120㎞を越える。
純正だと普通車は時速180㎞前後でリミッターが稼働される様にセットされている。無論、ステージアも例外ではない。
フサのステージアはライトチューニングカーであるが、リミッターは装着してある。だがしかし、フサはまだその事には気がついていなかったのだ。
速度は160㎞まで鰻登りに登る。
そして・・・・・
・・・・・奇怪しい・・・・・・速度が上がらない。・・・そうか、リミッターだ!リミッター解除をし忘れていた!
そう、問題の速度域に達して初めて事の重大さに気がついたのだ。
刻一刻とシビックが追い上げてくる。このままでは勝ち目はないだろう。
ちっ!あれをやるしかねえな・・・・・・。だが俺に出来るのか?“ドリフト”が。
幸か不幸か目の前にコーナーが迫ってきている。そしてイン側にはトラックが存在している。
その道のプロですらドリフトを躊躇う状況、だがフサはしなければいけなかったのだ。
一か八かだ!
瞬間的にアクセルを踏み込み、不意にイン側へハンドルを切る。
一気に車体がアウト側のコンクリート壁に45度の角度まで横を向く。
ヘッドライトでトラックの横を照らしながら、コーナーを抜ける。
タイヤの削れる大音響の音とゴムの焼けた様な匂いが運転席まで伝わる。
後方をミラーで確認する。シビックの運転手は驚いたらしく、後ろでもたついている。
フサはハザードランプを点滅させ、バトルを終わらせる事を相手側に伝えた。
今日はこの辺でやめておくか・・・・・。
フサはそう言うと出口へと車を走らせて行った。
第一章 黒き狼 終
第二章 チューニングショップ“ギコ・スポーツ”
おーいおやっサン・・・・・・・居るかー?
誰だ・・・・・・忙しい、後にしろ!
声がする方を向く、するとトラックの腹に潜ってしている男が一人。
俺だよ俺。
・・・・あ?・・・・・・フューエル・ルシファー・ギコサーグ、貴様か。
フサでいいぜ、おやっサン。言いづらいだろ?
・・・ところで何の用だ?邪魔しに来たのか?
ステージアのチューニングを頼みに来た訳よ・・・・。
しばらくは黙々と整備をしていた彼だが、その一言で彼の腕の動きが止まった。
・・・・テメエ、自分がどこまで実力があるか判って言っているのか?
今の貴様じゃ時速220㎞の世界にも、その上の世界にもついていけねえ。
もう少し時間が経つまで大人しく待ってろ。
おやっサン・・・・・・ドリフトした、と言っても駄目か?
駄目だ。せめて・・・・・・
一言言いかけて口を閉じ、しばらくしてからまた呟く。
せめて、そのタイヤが丸坊主になるぐらい練習してみろ。
判ったよおやっサン。一ヶ月待ってくれよ。
整備庫から出て行こうと数歩歩いた時、“おやっサン”が呼び止める。
待てやフサ。ただ単にステーションワゴンでドリフトするのは簡単だ。
エスティマを貸してやるからそれで行け。
おやっサン・・・・。
意味をとらえ間違えるなよ。お前の練習次第では死ぬ時が早まるかもしれないんだぞ。
・・・・判ったよ。
さあ、早く行け。
フサが乗って行った後、トラックの下に潜りながら彼は呟く。
あの野郎、大きくなりやがって・・・・・・。嬉しいぜ。
第二章 チューニングショップ“ギコ・スポーツ”完
第三章 因縁の再会
排気抵抗となる純正のモノを全て取り除いたチタン製マフラーの金属の擦れる様な独特な排気音が環七通りに鳴り響き、一つの店舗の前で途切れる・・・。
先程までフサギコが訪れていた“ギコ・スポーツ”の軒先に一台のフルチューンのトヨタ スープラが止まる。
その車から降りたのは名チューナーとして名を馳せている男であった。
ギコ・スポーツの店長さんよ、お前さんも落ちぶれたものだな。
!ナナシア!?貴様何時の間に・・・・・。
「ナナシア」と言われた男、彼のチューニングしたスポーツカー・・・特にロータリーエンジンのスポーツカーは扱いやすさと速さを両立したと言われ、好評であったとされている。
一昔前は肩を並べるほどの腕を持った男だったのによ、堕落したな。
・・・貴様に・・・・堕落したなんて言われる筋合いはねえ!さっさと出て行け!
そうかぁ。まあ、自分の事を自惚れるナルシストになる前に、自覚した方がいいよ?
うるせえ・・・・・さっさと帰れ!
しぶしぶとナナシアは店舗から出て行く。そして店の外に出ようとした時、こう言い残した。
たまには息抜きでもしてみなよ。あと・・・・・
「また会う時は・・・・アスファルトの上だからな」・・と。
・・・・ちくしょう・・・俺だって、腕を鈍らせたくはねえよ・・・。
予想を裏切る言動に、足を止め、動揺を隠せずに振り返る。
だったらなぜ・・・・・。
重い口を開き、ギコは語る。
・・・ドライバーの限界までチューニングの領域は到達しちまったんだよ・・・。
最初は趣味半分、仕事半分で始めたこの商売、ハッキリ言ってパンドラの箱だった。
最初は事故を起こしてしまう奴がいても、車やドライバーの限界に対する速度が差程ではなかった、だから最悪の事態にはなりづらかった。
だがな・・・。
近年になって自分の技量よりも能力の高い車が多くなってきた。
自分の限界を簡単に見出せる様になってきたって事だが、限界を越えて事故死をする奴が増えてきている。
まさに“悪夢”だよ・・・。
なあ、ギコよぉ・・・・俺達は・・・・何も速いだけの車を創るために整備士の、チューナーの資格を取ったんじゃない。
扱いやすく、尚かつ速くて実用性の高い車を創るために整備士の資格を取ったんじゃないのか?
そうじゃなかったら・・・・資格の持ち腐れだ。
「チューニングに終わりはねえ。のめり込んだら壊される・・・しかも命懸けの商売だ。だからメリハリを付けなきゃ駄目だ」
そう言い残し、ナナシアは愛車のスープラに乗り込み、朝日の差し込む環七の彼方へと走り去っていった・・・。
環七通りに朝の交通戦争が始まろうとしていた・・・・。
第三章 因縁の再会 完
第四章 荒くれ者な天才タマゴ
─TOYOTA ESTIMA CUSTOM─
店舗に隣接されたガレージ、そこの内部でフサは化け物じみた車に出会っていた……。
エスティマの姿の、化け物に。
…なんだこのエスティマ…。やけにタイヤが内側に傾いているぞ……?
フサが見ていたエスティマは鬼キャン仕様と言う、タイヤが偏磨耗し、曲がらない、運転が難しくなるなど、百害あって一利なしの仕様だ。
だが、曲がらないからドリフト練習にはもってこいでもある。
黒く塗られたボンネットを開け、さらに、とんでもない事に気がつく。
…エスティマって…こんな大きなエンジンだったっけ…?
ふとエンジンのロゴが目に留まった。
ん?・・・・・2JZだって!?
スープラ用の280馬力を発揮する「2JZ」エンジンに換装され、乗っていたのだ。
しかも、純正ではない。
ざっと見てそれだけで300馬力は出せると思える巨大なターボチャージャーと、10点式ロールバー、ナイトロが装着されていたのだ。
合計は甘く見ても500馬力は下らない。もしかしたら700、いや1000馬力以上を出力させるかもしれない。
それに、とてつもなく車体剛性は向上しているはずだ。
フサ、まだいたのか。
あ、おやっさん・・・・なんですかこのエスティマは。
どうだ、こいつの感想は。文字通り羊の皮を被った狼だからな。
行っておくが、あちこちにカーボンパーツを多用してロールバーを組んだから、尋常じゃなくなっているぞ。あまちゃんには操れない代物だ。
おいおいおやっさん・・・・ただでさえミニバンで鬼キャンなのにさらにハイパワーなエンジンを乗っけちゃ曲がらねえだろ・・・。
だから面白いだろ?それにこいつに慣れた頃にはお前のステージアもとんでもない化け物に仕上がるはずだ。
え、どの位の化け物になるんです?
おっと、それは企業秘密って奴だ。後にしてくれ。ただ─
「乗りこなすには相当のテクニックと度胸、あとセンスが必要になるだろうな。言っておくがFRに改造するぞ」
本当に?
俺が嘘を言うとでも思ったか?
いや、で・・・・チューン代はどうなるんだ?
首都高最速になったらタダ、なれなかったら3億円だ。
……なるほど。さてと……
…曲がらねえんだったら強引に曲げるしかない、か……。
けっ、おもしろいじゃねえか!
ドアを開け、運転席に乗り込み、キーを差し込み、捻る。
エンジンが唸り、爆音がガレージの内壁に響く。
うんうん、エンジンとシャシの相性も良好だな。行ってこい!
滑るようにガレージを出て、暁の都心へと走り去っていった……。
第四章 荒くれ者な天才タマゴ 完
続く