第24話
激しい頭痛が、リュカを襲う。表に出ていられる限界。これでもリュカは封印されている状態なのだ。
しかししかし、これほどまでに楽しい時間を、そう簡単に終わらせたくはなかった。何か策を。何か何か何か。
「覇王、聞け。俺はもう表に出ていられる限界だ」
「聞きましょう魔王。しかしそれが何でしょう? 何だと言うのでしょう?」
「俺は封印されている状態でな。不便なものさ。まぁそれは良い。この勝負、あずけないか? 一年後か、遅くても二年後、俺は完全に復活する。どうだろう、その時決着を着けるというのは」
「お断りします。シャナン様の敵は今すぐ絶滅するべきです」
「言うと思ったぜ。だがな、覇王、お前は絶対に断らない。なぜなら俺は最高の条件を用意してやるからだ。そこの魔人、元通りにしてやろう。そこの青い髪の龍はな、原型さえ残っていれば手が千切れていようが足がもげていようが、元に戻せるわけだ」
自信はあった。この覇王はあの魔人を愛しているのだろうから。リュカがハカナを愛しているように。だから必ず、この話にのってくる。のってこなければ、終わりだ。
ソラは少し、考える様な仕草をし、シャナンを見つめ。
「本当に元通りにできるのでしょうか?」
予想通りに、のってきた。これで良い。これでこれでこれで、二年後にまた楽しめる。今度は自分の体で。
ソラは初めての好敵手。最高の好敵手。自分の体で徹底的に戦いたい。そして、そして、叩き殺したい。本気で。切実に。
「もちろんだ。俺は嘘はたまにしか吐かない。それにな、俺はお前と自分の体で戦いたいんだ。嘘を言う意味もない」
「…良いでしょう。信用しましょう。シャナン様を元通りにできるのであれば、この勝負、二年後まであずけましょう。もっとも、あなたと青い髪の龍以外は、予定通り死んでもらいますが」
尚徳とミラクルは殺すらしい。家来になったばかりの尚徳は惜しいが、仕方がないだろう。
「では受け取れ覇王。再会と、再戦と、敵意を」
「再会と、再戦と、敵意を。確かに受け取りました、魔王」
これで、めでたしめでたし。ハッピーエンド。そう、その予定だった。
「よし、くぴぴ、お疲れのところ悪いが…」
悪いが、魔人を元に戻してくれ、そう言おうとした。爆発音に掻き消された。
それは。その爆発は。到底動くことなどできないシャナンを。抵抗などできるはずもないシャナンを。ミラクルが葬った音。焼き尽くし、原型など残らず、僅かな肉片が、飛散しているだけの、悲惨な状況。
リュカは現状を理解することができなかった。だから動けなかった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ」
ソラは、シャナンの肉片に駆け寄り、拾い集め、治癒のエネルギーを送る。
肉片を、愛しそうに、愛しそうに、抱きしめ、泣きながら、治癒を。
「シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様シャナン様」
治癒を。肉片に治癒を。どれだけエネルギーを送ったところで、何も変わりはしないのに。それでも。それでも。治癒を。泣きながら。泣きながら。
「すぐに治しますから、すぐに、すぐに。おかしいですね、どうしてでしょう、治らないです、どうしてでしょう、どうしてでしょう。私がダメな子だから、私がダメな子だから、時間かかります、でもでもでもでも治しますからっ」
「予想以上の反応だねぇ。ここまで壊れてくれるとは思わなかったよ。脆いもんだね。多くの人間を殺したくせに。多くの人間を狂わせたくせに。この国を徹底的に汚したくせに。うちは、許さないよ」
ミラクルが、暗黒の剣を拾い上げる。
「そんなに悲しいならさ、そんなに壊れちゃうならさ、君も一緒に逝けばいいと思うよ」
その暗黒の剣を、ソラの背中に突き立てる。
それでも、それでもソラは、治癒をやめようとはしなかった。自分が刺されていることなんて、まるで気にもしていない。
「あぁ…シャナン様…ダメな…子で…ごめんなさい…ごめんなさい」
血を吐き、血を流し。涙を流し。血塗れの顔で。涙塗れの顔で。許しを乞う。返事などないのに。返事など、ありはしないのに。
「原型が残ってると、蘇生できちゃうんだよね?」
ミラクルは微笑み、四重の火炎球で、ソラを焼き尽くす。シャナンの肉片もろとも焼き尽くす。打ち砕く。木っ端微塵に粉砕する。原型なんて残るものか。
この時になってやっと、やっと、血啜りの龍は現状を理解した。自分の好敵手が、滅び去り、それからやっと理解した。
「ロクデナシィィィッィイイイイイ!」
自分の楽しみを、好敵手を、奪われ、ミラクルを、ぶち殺そうと、叫ぶ。しかし。頭痛が、激しい頭痛が、襲う。耐え切れず、リュカは地に倒れる。
「ふぅ。うちにはうちの目的があるわけ。龍のお遊びなんかに付き合ってられないからさ」
リュカがミラクルを睨み、それから、意識が、遠のく。
薄れる意識の中で、ミラクルの言葉が、妙に心を突き刺した。
「策士と最悪が魔人と覇王を相手にして、災厄まで絡んだ物語だよ? 結末はバッドエンドに決まってるでしょ」
この数日後、正規軍による闇商会ブラックナイツ残党狩りが行われた。
それにより闇商会ブラックナイツは完全に消滅、崩壊した。
時を同じくして、葉奏、尚徳、シィルの三人がアグス王国領土内より姿を消す。
シィルには賞金が懸かっていたが、ミラクルが権力を駆使し、無かったことにした。
to be continued