第3話
それはただの鎧の様に見えた。色はど派手な真紅。兜の先端に、ヤカンの先のような突起物があった。少し体格の良い男がそれを着こんで立っている。…そんな風に見える。
「これが…機械人形アルバート試作型…か」
真紅の鎧…アルバート試作型を見つめ、シャナンが呟いた。
「ふふふ…シャナン様、気に入りましたかぇ?」
白衣を着た男。帽子を深くがぶり、マスクを付け、完全に顔を隠している。
「ドクターベロ。感謝する」
シャナンが白衣の男…ベロに握手を求める。ベロは軽くシャナンの手を握り
「私はこれで失礼する…まだまだ研究課題が山のようにあるんでね」
言い残し、ゆっくりとした足取りで立ち去った。
「尚徳が失敗すれば…お前の出番だ」
アルバートの胴体部分に触れてみる。冷たかった。シャナンは中身がどうなっているのか少し気になったが、それを知るすべはない。
ミラクルと葉奏は紅茶を飲んでいた。
「…けだもの…」
ミラクルの入れた紅茶をすすりながら、葉奏が呟く。意外にも、紅茶の味は絶品だった。
「え〜? うちのこと?」
同じく紅茶をすすりながらミラクル
「あなた以外に誰がいるのよ…」
「でも姫、あんなに喜ん…」
最後まで言う前に、葉奏が茶菓子をミラクルに投げつけた
「いつか殺す」
「あはは。まぁうちの力は完成されてるから、後は衰えるだけだしぃ〜。いつかは勝てるんじゃない?」
それがいつになるのかは、誰にも分からなかった。
「いつになるのやら…」
葉奏にも、もちろん分からなかった。
「それより姫、ブラックナイツの本部はどこにあるの?」
突然、ミラクルの口調が変わった。真剣な声音。葉奏は紅茶を飲み干し「酒場」短く答えた。
「…酒場…? 姫、嘘じゃないよね?」
「嘘だったらどうするの? 殺す?」
「いあ〜、もっかいベッドに運ぶ♪」
「…嘘じゃないわ…」
もう二度とごめんだった。でももし、二度目があったなら、その時は…噛み切ってやる。誓った。
こうもあっさり王宮に侵入できるとは思わなかった。警備の者が酒をかっくらって寝ている…自分なら処刑する。尚徳は国王の危機管理の無さに拍子抜けしていた。
最初、葉奏の後をつけてきた時も、警備の少なさに驚いていた。しかしまさか寝ているとは夢にも思わなかった。
「…私に…あの女を殺せるか…」
言葉に出そうになったが、なんとか口の中だけに留めた。尚徳は侵入者だ。声や物音は立てないほうが良い。
国王を殺すことには、何の問題もない。問題はあの女…葉奏の方。正面から格闘戦になれば、ほぼ互角。しかし問題は戦闘能力ではない。葉奏を殺したくない…そんな思いが、頭の中で渦をまく。
殺せばもう、彼女は喋らない。動かない。そっと見守ることも…できなくなる。
「耐えられるか?」
自分で自分に質問してみた。返事はなかった。
そして気付けば、そこは国王の寝室の前だった。
このドアを開ければ、待っているのは地獄かもしれない。愛しい者を自ら殺め、永遠に苦悩する地獄。その始まりの場所かもしれない。
「闇に染まった者は…闇の中にしか生きる道は無い」
尚徳は、そのドアをゆっくり開けた。これから始まる地獄。せめて武器を使わず、自分の両手で絞め殺そう。そしていつか死するその時まで、苦悩しよう。それは誓いではなく、どこか祈りに似ていた。
to be continued