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第5話

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第5話

ディスの強い言葉に、ただロランは肩をすくめただけだった。
「今日のところは、一旦退いておくか」
相も変わらず無機質な声で呟く。
「後悔するなよ、ディス」
コートを翻し、ロランが背を向ける。スカイラインもそれに倣って、大剣を背中に戻した。
そしてロランだけが、酒場の入口へと歩き出す。
スカイラインは軽い嘆息をし、未だ剣を構え続けているショーティに向き直った。
「ショーティ、だったかな」
どこか余裕がある微笑を浮かべながら。
「今度は邪魔されずに、一対一で戦いたいな。いい勝負ができそうだ」
ショーティは何も答えず、震える手で剣を鞘に戻す。スカイラインは再び嘆息して、「おい、スカイ! 早く来い!」というロランの声に従って、ショーティに背を向けた。
二人が酒場の外へ出てから、ディスを除く全員が大きく息をつく。
「やっばい・・・」
冷や汗を手で拭いながら、ショーティが呟いた。
「まじあの人強いよ・・・。私じゃ勝てない・・・」
「あたし達が三人でかかっても、良くて引き分けだね・・・」
葉奏が小さく呟く。ティンカーベルと歌妃も頷いた。
「ま、あいつらは『七魔団』でも最強クラスだからねぇ」
ディスが悠々と席に座りながら言った。
「それより、しょー」
「うん??」
呼ばれたショーティが顔中に疑問符を浮かべる。
「なになに〜?」
「矢の精度はマシになったけど、相変わらずうっかりは直ってないねぇ」
にやにやと笑いながら、ディス。ショーティが不満げな表情を浮かべた。
「あっち、見てみ」
ディスの指差した方向――。
ショーティの流れ矢に肩を射られてもだえ苦しむ、男の姿があった。

「・・・失礼致します」
やけに大仰(おおぎょう)な扉を開き、女が呟いた。
「謁見を求める者が来ております、ミラクル様」
王の専用執務室。中央にある椅子に、扉に背を向ける形で男が座っていた。入ってきた女の問いに答える事もなく、その椅子へと座り続けている。アグス王国国王にして龍殺しが一人、ミラクル。
「・・・ミラクル様?」
女がゆっくりと椅子に近づいた。
「くー」
「寝るなぼけぇっ!」
スパーン、とどこからか出したハリセンでミラクルの頭を叩く。ミラクルは一瞬びくっ、と体を震わせ、きょろきょろと辺りを見回した。
「あ、おはよ。ソレンちゃん」
寝ぼけ眼で女――ミラクルの秘書、ソレンセンを見る。
「今日もいい天気だね〜、どっか出かけない?」
「ミラクル様。謁見を求める者が来ております」
「きゃー、見事に無視されてる。それよりなんか頭が痛いんだけど何でかな? なんかハリセンで叩かれたみたいな」
「恐らくは気のせいかと存じます。後々に悪化するようでありましたら主治医を手配しておきますが」
「いや・・・まぁ、気のせいならいっか」
ミラクルが小さく嘆息して立ち上がった。
「で、謁見だっけ?」
「はい。相手はトシヤ様です」
「そっかー。男とサシで会話する趣味はないんだけどなぁ。王様の義務だし、仕方ないよねえ」
あははー、とミラクルが笑う。そして机の上に置いていた幾つかの紙を懐に入れ、謁見の間へと歩いていった。

玉座の前に、一人の男が片膝をついて座っている。商人にして暗殺者、トシヤ。主のない玉座に頭を下げ、そこへと座るべき人物を待ち侘びている。
「やー。お待たせ〜」
とても軽い調子でミラクルが玉座へと向かい、おもむろに座った。
「ミラクル王、ご尊顔(そんがん)を拝し、恐悦至極(きょうえつしごく)に存じます」
「あーっはっはっは。ただでさえ男相手でテンション下がりまくってるんだから、長い前置きなんざいらんよー。五秒でよろしく」
「とてつもなく極上の笑顔で言われると逆に辛いな・・・」
トシヤが溜息をついて、立ち上がる。
「まぁ、頼まれたことは終了したよ」
「おー、ご苦労様♪」
労をねぎらうミラクル。
「女の子だったら嫌がられるほどにハグをかますんだけど、としやんだから別にいいや。ま、お疲れ」
トシヤが目を細めて苦笑する。
「それで、聞かせてほしいんだが」
「ん?」
「何故わざわざ、『愛染』と『七魔団』両方に調査依頼を出した? 本来ならダブルブッキングはルール違反だ。『七魔団』だけに頼めば十分だろう」
クスクスと、ミラクルが笑う。愛(め)でるように玉座に据え付けてある水晶玉を撫でながら言った。
「それは言えないんだよなぁ。いくらとしやんの頼みでも」
「・・・何故だ?」
「物語ってのは、その中に綴(つづ)り手は存在しないものなんだよ」
にや、とミラクルが笑む。
「知れば、もう物語には関われない」
謎を含んだ、どこか憂(うれ)うような眼差しで。
「だから知らない方がいい。『賢者の石』に選ばれた、うちだけがこの結末を知っておくよ」
「・・・」
トシヤが沈黙した。
「・・・なら、追求するのはやめておこう」
「それが賢明だね」
にか、とミラクルがまた笑った。
「ああ、そうだ。ついでなんだけど、この手紙を渡しておいてくれないかな」
「・・・またかよ」
ミラクルが差し出す、四つの包み。トシヤはそれを受け取り、表に書かれた宛名を見る。
『可愛い可愛いラブリーしょーちゃんへ』
『妖艶(ようえん)でビューティなマイラバー姫へ』
『キュートな姿に心ドキュン♪リオちゃんへ』
『冷たく綺麗なマイパートナーソレンセンちゃんへ』
トシヤはその場で破り捨てたくなった。
「・・・ってかソレンセン相手ならその場で渡せよ・・・」
「やだなぁ、そんなことしたら〜」
ミラクルが両手で顔を隠す。
「は・ず・か・し・い♪」
トシヤはその場で殺したくなった。

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