motosehiroyasu @ ウィキ
細胞の分化を調節する分泌性因子
最終更新:
motosehiroyasu
-
view
多細胞生物は1つの受精卵から出発して、多様な細胞を分化させ、複雑な体制を構築することができる。この形態形成と呼ばれる過程がどのようにして成立しているのか、現在もわかっていない。形態形成機構を明らかにする鍵のひとつとして、細胞間相互作用が挙げられる。細胞はお互いに情報伝達することで、時間や位置情報を認識し合い、適切な挙動を行うと考えられる。私たちは、連続した位置にある細胞が分化することで形成される植物の維管束をモデル系として、細胞間相互作用の機構とその生物学的意義について研究を行っている。
維管束形成では、隣り合った細胞間の相互作用によって、空間的・時間的な分化パターンが制御されることが示唆されているが、その実体はよくわかっていない。そこで、ヒャクニチソウの木部分化系を用いて細胞間相互作用の解析に適した培養方法を確立し、この方法を用いることにより新規の分化誘導因子xylogenを明らかにした(Motose et al. 2001a, 2001b, 2004)。Xylogen は脂質輸送ドメインを持つアラビノガラクタンタンパク質であり、木部分化を促進する活性を持つ。また、xylogen は分化しつつある細胞から極性をもって分泌され、隣接した未分化な細胞を木部分化系路に引き込むことにより、維管束の連続性や網目状のパターン形成に関与していることが示唆されている。
維管束形成では、隣り合った細胞間の相互作用によって、空間的・時間的な分化パターンが制御されることが示唆されているが、その実体はよくわかっていない。そこで、ヒャクニチソウの木部分化系を用いて細胞間相互作用の解析に適した培養方法を確立し、この方法を用いることにより新規の分化誘導因子xylogenを明らかにした(Motose et al. 2001a, 2001b, 2004)。Xylogen は脂質輸送ドメインを持つアラビノガラクタンタンパク質であり、木部分化を促進する活性を持つ。また、xylogen は分化しつつある細胞から極性をもって分泌され、隣接した未分化な細胞を木部分化系路に引き込むことにより、維管束の連続性や網目状のパターン形成に関与していることが示唆されている。

図1.Xylogenの局在.
A, B, C, D, ヒャクニチソウの茎頂付近の組織において抗 xylogen 抗体を用いて検出(A, B, 免疫組織化学法. C, D, 間接蛍光抗体法).
E, F, 分化しつつあるヒャクニチソウ培養細胞を抗 xylogen 抗体を用いて間接蛍光抗体法により検出.
(Motose et al. 2004, 2006)
A, B, C, D, ヒャクニチソウの茎頂付近の組織において抗 xylogen 抗体を用いて検出(A, B, 免疫組織化学法. C, D, 間接蛍光抗体法).
E, F, 分化しつつあるヒャクニチソウ培養細胞を抗 xylogen 抗体を用いて間接蛍光抗体法により検出.
(Motose et al. 2004, 2006)
Xylogen の局在・輸送システムを明らかにするため、xylogen と緑色蛍光タンパク質(GFP)の融合タンパク質の観察を行った。その結果、xylogen は細胞膜とエンドソームの間を往復すること、液胞に輸送されて分解されるなど、ダイナミックな挙動を示すことが明らかになった。現在、xylogen の輸送を制御する因子について研究を進めている。
Xylogenは高分子の分化促進因子であるが、これとは別に、低分子の分化阻害因子が培地中に蓄積することがわかった。この因子(TDIF)は、CLEペプチドの一種であることが示された(Ito et al. 2006)。
硫酸化ペプチドホルモンphytosulfokine (PSK) は、ヒャクニチソウの木部分化を顕著に促進するが、その作用機構は不明だった。ヒャクニチソウ木部分化系を用いて、PSKの役割について解析した結果、傷害により誘導されたPSKが傷害応答を沈静化することにより、細胞を再分化経路に向かわせることが示唆された(Motose et al. 2009)。
Xylogenは高分子の分化促進因子であるが、これとは別に、低分子の分化阻害因子が培地中に蓄積することがわかった。この因子(TDIF)は、CLEペプチドの一種であることが示された(Ito et al. 2006)。
硫酸化ペプチドホルモンphytosulfokine (PSK) は、ヒャクニチソウの木部分化を顕著に促進するが、その作用機構は不明だった。ヒャクニチソウ木部分化系を用いて、PSKの役割について解析した結果、傷害により誘導されたPSKが傷害応答を沈静化することにより、細胞を再分化経路に向かわせることが示唆された(Motose et al. 2009)。
Xylogenの論文
- Motose, H. , Fukuda, H., and Sugiyama, M. (2001a) Involvement of local intercellular communication in the differentiation of zinnia mesophyll cells into tracheary elements. Planta 213, 121-131.
- Motose, H. , Sugiyama, M., and Fukuda, H. (2001b) An arabinogalactan protein(s) is a key component of a fraction that mediates local intercellular communication involved in tracheary element differentiation of zinnia mesophyll cells. Plant Cell Physiology 42, 129-137.
- Motose, H. , Sugiyama, M., and Fukuda, H. (2004) A proteoglycan mediates inductive interaction during plant vascular development. Nature 429, 873-878.
- Motose, H. , Watanabe, Y., and Fukuda, H. (2006) Glycosylphosphatidylinositol-anchored proteins in plants. Frontiers in Life Sciences. Ed. Fujiwara, M., Sato, N., Ishiura, S. Chapter 8. p111-126 Research Signpost.
TDIFの論文
- Ito, Y., Nakanomyo, I., Motose, H. , Iwamoto, K., Sawa, S., Dohmae, N., and Fukuda, H. (2006) Dodeca-CLE peptides as suppressors of plant stem cell differentiation. Science 313, 842-845.
Phytosulfokineの論文
- Motose, H. , Iwamoto, K., Endo, S., Demura, T., Sakagami, Y., Matsubayashi, Y., Moore, K. L., and Fukuda, H. (2009) Involvement of Phytosulfokine in the Attenuation of Stress Response during the Transdifferentiation of Zinnia Mesophyll Cells into Tracheary Elements. Plant Physiology 10.1104/pp.109.135954.
添付ファイル
