Moonlight Syndrome ◆R34CFZRESM
声が聞こえる。それは遠くに置き去りにしてしまった記憶の一片なのだろうか。
心臓に突き立てられた白木の杭、地面に臥す男を見下ろす初老の男。
彼は何か言っている。口だけをもぞもぞと動かして何かを言っている。
心臓に突き立てられた白木の杭、地面に臥す男を見下ろす初老の男。
彼は何か言っている。口だけをもぞもぞと動かして何かを言っている。
倒れた男は言った。私の負けかと。
初老の男は静かに頷いた。
初老の男は静かに頷いた。
城も領地も消え果て配下の下僕も死に果てた不死の王――かつて伯爵と呼ばれた吸血鬼の哀れな姿があった。
紅く染まった朝焼けの空。
いつか見た敗北の空。
沈むことも明けることもなく止まったままの空はなんて美しいのだろう。
いつか見た敗北の空。
沈むことも明けることもなく止まったままの空はなんて美しいのだろう。
「……スター! ――てくだ……」
声がする。
懐かしい声がする。
ああ――なんだ――あいつか――
懐かしい声がする。
ああ――なんだ――あいつか――
久方ぶりの夢から吸血鬼は目を覚ますのだった。
◆
「……五月蠅いぞ婦警」
目を覚ました男――アーカードはひどく不機嫌そうな表情で声の主に顔を向けた。
いつもおどおどおどとした雰囲気でいつまでたっても人間の気分が抜けない下僕がいつにもまして不安げな表情で見つめていた。
いつもおどおどおどとした雰囲気でいつまでたっても人間の気分が抜けない下僕がいつにもまして不安げな表情で見つめていた。
「マ、マ、マ、マスター! それが大変なんですってば!」
「大声を出すな。私は実に気分が悪い」
「すっすみません~」
「大声を出すな。私は実に気分が悪い」
「すっすみません~」
アーカードが睨み付けると婦警――セラス・ヴィクトリアは身を小さくして静かになった。
「マ、マ、マ、マスター! それが大変なんですってば!」
「大声を出すな。私は実に気分が悪い」
「すっすみません~」
「大声を出すな。私は実に気分が悪い」
「すっすみません~」
アーカードが睨み付けると婦警――セラス・ヴィクトリアは身を小さくして静かになった。
「セラス、状況を答えろ」
「それが……そのぉ……えっとですね。怒りません?」
「いいから答えろ」
「は、はいっ」
「それが……そのぉ……えっとですね。怒りません?」
「いいから答えろ」
「は、はいっ」
セラスは大きく息を吸い込んで呼吸を整える。
そしてアーカードの顔色を伺うように今彼らに訪れた状況を語り始めた。
そしてアーカードの顔色を伺うように今彼らに訪れた状況を語り始めた。
「えっと、私たち誰かに眠らされて拉致されちゃいました!」
「なに……?」
「なに……?」
薄暗い部屋の中に連れてこられたアーカードとセラス。
窓一つなく異様に広い部屋の中には他にも数十人の人間がいた。
いずれの人間も今置かれた状況をうまく把握できないのであろう不安げな声が囁かれている。
窓一つなく異様に広い部屋の中には他にも数十人の人間がいた。
いずれの人間も今置かれた状況をうまく把握できないのであろう不安げな声が囁かれている。
「婦警、壁をブチ破れ」
「無理無理ムリーっ! 絶対ムリですってば」
「無理無理ムリーっ! 絶対ムリですってば」
使えない下僕だ。
だがそこが愛らしい自慢の下僕だと。アーカードは笑った。
だがそこが愛らしい自慢の下僕だと。アーカードは笑った。
「あのぅ……そのうマスター、さっきからずっと気になっているんですけど――」
セラスは落ち着きのない様子で周囲を見渡している。
「なんか私たちと同じ人――いや人じゃないですね。吸血鬼がいるんですよ」
「ほう」
「ほう」
部屋の中に充満する独特の臭い。
それは間違いなく吸血鬼の物。
ふと、視線を感じアーカードとセラスは視線の主へと顔を向けた。
それは間違いなく吸血鬼の物。
ふと、視線を感じアーカードとセラスは視線の主へと顔を向けた。
少女が静かに笑っていた。
人間に換算すると十歳そこそこの幼い少女が唇を歪めて笑っていた。
アーカードの視線に気づいたのか、少女の隣に立つ従者であろうエプロンドレス姿の女が軽く会釈をした。
人間に換算すると十歳そこそこの幼い少女が唇を歪めて笑っていた。
アーカードの視線に気づいたのか、少女の隣に立つ従者であろうエプロンドレス姿の女が軽く会釈をした。
「露骨に挑発されてますね……」
「フン……」
「フン……」
一目でわかる。あれはミレニアムの出来損ないの吸血鬼共とは別格だ。
面白い。久方ぶりの骨のある吸血鬼だ。相手から仕掛けてくるのを待つのもよし、こちらから仕掛けるのもよし。
どっちに転んでも楽しませてくれることは間違いないことは確かだった。
さてどうするか――
面白い。久方ぶりの骨のある吸血鬼だ。相手から仕掛けてくるのを待つのもよし、こちらから仕掛けるのもよし。
どっちに転んでも楽しませてくれることは間違いないことは確かだった。
さてどうするか――
『穢土に住まう罪深き者達よ――』
その時、声がした。
凜とした女の声。部屋の全員がその方向を注視する。
そこにはいつのまにかに帽子を被り手に扇子を持った女が佇んでいた。
彼女がこの事態を引き起こした張本人だろうか? ざわめく室内が静まりかえる。
凜とした女の声。部屋の全員がその方向を注視する。
そこにはいつのまにかに帽子を被り手に扇子を持った女が佇んでいた。
彼女がこの事態を引き起こした張本人だろうか? ざわめく室内が静まりかえる。
「忠義ある者達に支えられたあなた達がやるべきことは一つ。それは最後の一組になるまで殺し殺され合うこと
主が死ねば新たな主を、従者が死ねば新たな従者を見つけなさい。いつまでも一人で行動するのは――止めておいたほうが身のためよ
主の者には金の首輪を、従者の者には銀の首が取り付けられているわ。相方を失ったらそれを参考に再び主従関係を結びなさい
ああ、無理矢理その首を外そうとするのもおよしなさい。ニュートリノやクォークの粒へと還元されたくなければ、ね?」
主が死ねば新たな主を、従者が死ねば新たな従者を見つけなさい。いつまでも一人で行動するのは――止めておいたほうが身のためよ
主の者には金の首輪を、従者の者には銀の首が取り付けられているわ。相方を失ったらそれを参考に再び主従関係を結びなさい
ああ、無理矢理その首を外そうとするのもおよしなさい。ニュートリノやクォークの粒へと還元されたくなければ、ね?」
女は扇子を口元に当てて微笑みながら殺し合いのルールを伝えてゆく。
「それと、6時間ごとに私から死亡者と進入禁止箇所を伝えるわ。もし――禁止箇所にとどまるようなことがあっても首輪は作動することをお忘れなく
スタートの際、各参加者には武器や食料などが支給されるわ。それを使って穢れた者同士殺し合いをすることね
最後に、こちらから殺し合いの期限を決めさせてもらいます。もし期限を過ぎても決着が見られなかった場合、この会場もろとも素粒子の塵へ帰することになるわ。
期限については残り二十四時間を切った時点で放送でお知らせするので頑張りなさい。他に何かルールについて質問はあるかしら? 答えられる範囲なら答えます」
スタートの際、各参加者には武器や食料などが支給されるわ。それを使って穢れた者同士殺し合いをすることね
最後に、こちらから殺し合いの期限を決めさせてもらいます。もし期限を過ぎても決着が見られなかった場合、この会場もろとも素粒子の塵へ帰することになるわ。
期限については残り二十四時間を切った時点で放送でお知らせするので頑張りなさい。他に何かルールについて質問はあるかしら? 答えられる範囲なら答えます」
静寂する場。誰もが女の説明を呆然と聞いているだけだった。
「質問はないようね――それでは――」
「ほんと宇宙人って何考えているのかしら、笑っちゃうわぁ」
「ほんと宇宙人って何考えているのかしら、笑っちゃうわぁ」
静寂を打ち破る少女の声。
淡い桃色のドレスと帽子を身に纏った幼い少女。それはアーカードに挑発の眼差しを送った吸血鬼だった。
淡い桃色のドレスと帽子を身に纏った幼い少女。それはアーカードに挑発の眼差しを送った吸血鬼だった。
「この中にはあなたのお仲間もいるのに何をトチったことをしてくれるんだか。長い間生きすぎると脳にも冬虫夏草が生えるのかしら?」
「黙れ――吸血鬼。質問以外の発言は認めない」
「黙れ――吸血鬼。質問以外の発言は認めない」
少女の言葉に初めて女は苛立つ表情を見せた。
「くっくっく、何か癇に障ることわたし言ったかしら? どうやら月の民と言ってもメンタリティはあんた達が見下す地上人と何ら変わらないのね。咲夜もそう思わないかしら?」
ピーーーーーー!
突然、室内に鳴り響く電子音。それは少女の首輪から発せられる音だった。
突然、室内に鳴り響く電子音。それは少女の首輪から発せられる音だった。
「これ以上の発言は私への反抗とみなします」
「お嬢様!」
「大丈夫よ咲夜。やれやれ……首輪のことはブラフじゃないようね。おお、こわいこわい」
「お嬢様!」
「大丈夫よ咲夜。やれやれ……首輪のことはブラフじゃないようね。おお、こわいこわい」
電子音が止む。
少女は肩を竦めるとそれ以上何も言うことはしなかった。
少女は肩を竦めるとそれ以上何も言うことはしなかった。
「さあ穢れに満ちた地に生きる不浄の者共よ、存分に殺し合うがいい」
開幕を告げる女の声。
闘争――そう誰もが地獄に向かって驀地に走る闘争の時間が始まる。素晴らしい恐怖劇の幕開けだ。
アーカードは静かに嗤っていた。
闘争――そう誰もが地獄に向かって驀地に走る闘争の時間が始まる。素晴らしい恐怖劇の幕開けだ。
アーカードは静かに嗤っていた。
【全25組 残り50人】
【主催者 綿月豊姫@東方儚月抄】
【主催者 綿月豊姫@東方儚月抄】