無題 - (2012/04/13 (金) 20:57:34) の1つ前との変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
地平線の彼方まで続く砂漠に夕暮れが訪れる。
砂を纏った暴風は、山肌に聳える巨大なヨットの帆のような「防砂膜」と風車にぶつかり、程よく澄んだ風が街に送り込まれる。
山を埋め尽くすように建つ街が防砂膜を通して夕日を受け、オレンジ色に輝く。
鉄と石の街は活気に溢れ、大小様々な種族の人々が通りを行き交っていた。
チノフ。彼らはこの場所をそう呼び、また彼らもチノフと呼ばれていた。
「いたぞ!追え!23番街だ!」
ただでさえ騒がしい人ごみの中に怒号が響く。
この街じゃ怒号なんて物は毎日のように行き交うものであり、その証拠に道行く誰一人、気にも留めない。
そんな大衆を強引に蹴散らして、数人の男達が追う。
顔には肉食獣のような不敵の笑みが混じり、無意識に渦巻く強欲が見て取れた。
息を荒げる若い男達の視線の先では、真っ白な髪の子供が人ごみの上を飛び回っている。
「くっそ、逃げ足だけは速ぇーな!」
頭を掴み肩を蹴り、子供は通りを埋め尽くす人々の上を縦横無尽に駆け回る。
髪は一見真っ白のようだが、先端部分は黒髪が残っていて妙な髪色をしている。
サイズの合わないぼろぼろの服をなびかせ、まだ数歳とも行かない少女のような身体は驚くほど身軽に力強く躍動している。
珀巻は人ごみを掻き分けなければならない追っ手と違い人ごみを足場にする事で、森を飛び回る猿が如く路地を駆け抜けていた。
時折足場となった人間の驚く声が聞こえてくるが、そんなものを相手にしている暇はない。
「待てぇぇ!」
待てといわれて待つ鬼ごっこも無い。それも多数対一で、だ。
生憎、この辺りの地形は珀巻を圧倒的に有利にさせてくれている。
まともな整地もされず無造作に建てられてきた街はそこらじゅう隙間だらけで深い路地に入れば一分で迷子になってしまう。
砂利道は長く日差しに照らされ、乾燥していて滑りやすく、長く走るには体力が要る。
辺り一面張り巡らされた電線や、ガスとか蒸気を運ぶパイプが枝のように伸び、さながら鉄のジャングルと言った所だった。
渾身の力で一際背の高い頭を蹴り、手近の屋根に飛び乗る。
ちらと追っ手の一人の赤い帽子が見え、横に見えた建物の隙間へ走っていく。
そうして壁を這うように取り付けられた太いパイプの上で、珀巻の体力は限界を向かえた。
壁に寄りかかり、しゃがみ込む。
「・・・・はぁっ、はぁ、はぁ・・・!げほっ、げほっ」
あまりの激しい運動で呼吸はひどく乱れている。頭で脈動する血管がどくどくと響いてうるさいほどだ。
昼の熱気が嘘のように引いていく。相変わらず乾燥しているが、街には涼しい風が吹き始めていた。
「・・・・はぁ―――
あらゆる場所で幾度となく追われてきた。監禁と脱走の繰り返しでこんな事は慣れっこだった。
何度か捕まりかけた事もあるし、どう転んだって碌な目に会わない。
ある時は殺されそうになり、銃を持った人間が追いかけて来たこともあった。
液体の力こそ強力だが、珀巻そのものにはまだ屈強な男をねじ伏せる腕力も、物騒な魔法も武器も無い。この街で拾えて殺傷能力があるとしたら鉄パイプくらいか。
一人くらいなら噛み付くか引っかくかするだけですぐ無力化できるが複数となるとそうはいかない。
結局、鉄パイプを振り回すくらいなら逃げるほうがずっと楽であった。
とはいえ、単体なら良くて食物程度でしかない存在が、ひとたび徒党を組むだけでまるで刃が立たないというのは悔しくて仕方がなかった。
全力疾走の後の、喉が張り付くような気持ち悪さと上がりきった体温が疲労した身体を襲う。
今回は結構きつい方かもしれないな、と思った。
いくらでも逃げれる場所といえ、かれこれ数十分はぶっ続けで追い回されている。いい加減お終いにしたい所だった。
「いたか?」
「いいや、隙間に逃げられた・・・今度またこの辺探すか。」
「おし、今度は俺の兄貴も呼ぶよ。なんたって魔術師だからな。」
「うおお、本格的になってきたな」
「なら朝早いうちから行こう。もう街中噂だらけだぞ。賞金もあるしな・・・
「ほんと。歩く札束だぜ、あんだけ手に入ったらまずは・・・・
街の喧騒にかき消されて、追っ手と思われる男達の会話はどんどん遠ざかっていく。
賞金という単語まで出てくるあたり、もう此処でもかなりの有名人らしかった。
諦めたのかとは思ったが、会話からしてその期待には応えてくれそうにない。
「・・・・・・・・ふぅぅ・・・」
この街は逃げやすいが、その分人も多い。日に日に噂は広まり追っ手は増える一方だった。
今日のは特に数が多かったような気がする。さすがにもう走るのは御免だ。
沈む夕日はどんどん街の陰影を濃くしていく。涼しかった風はどんどん温度を下げ、肌寒くなっていく。
あのぎらぎらと照りつける光は消え、暗くなっていく街には人の作りし光が灯り、夜の顔を見せ始めていた。
暗くなればほとんど追われる事はなくなる。ひとまず安全と言っていいだろう。
ただ、この調子だと此処にはもう長くは留まれないな、と思った。山向こうなら小さな村の一つくらいあるかもしれない。
「よいしょっ・・・わぁっ!?」
ドシャン!
立ち上がろうとしたその時、珀巻は足を滑らせて、パイプの隙間から路地へ滑落する。
少しの浮遊感のあと、かなりの衝撃が身体に響き、後から痛みが襲ってくる。
結構な高さがあったのか、ちょうど階段の角に激突した足と尻がひどく痛んだ。
「っつ・・・・」
ぶつけた足は赤く腫れて、真一文字に血が滲み始めて見るのも痛々しい。
これまで怪我と無縁だったわけではないが、珀巻の治癒能力では大抵の怪我はすぐ治る。
とはいえこれはさすがに大怪我の部類で、骨を折るまでには至らなくとも歩行を困難にするには十分だった。
「うー・・・・」
思わず涙があふれ出る。
見た目からしたら大泣きしていてもおかしくない年頃だが、珀巻の場合は助けを呼ぶことそのものが命取りだ。
だから、泣くに泣けない。
砂の色の染み付いた襤褸切れのようなのコートで涙を拭い、コンクリートの壁に寄りかかってなんとか立つ。
いつもなら露店街に忍び込んでパンでも盗みに行く頃だったが、これではしばらくは走れないだろう。
「・・・我慢」
そうつぶやき、足を引きずりながら薄暗い小路の奥に進む。
昨日は一応食べたし、ここで隠れていれば明日には治っているだろう、と安直な考えを巡らせるほどには疲労していた。
きっと、この状態で見つかればひとたまりも無いだろう。恐怖感が身を震わせる。
しかし階段の向こうで行き交う人々は、無数の細い路地になど目もくれず、忙しなく歩くだけだった。
小路の奥にはベンチが掛けられていた。ペンキの赤い色が僅かに残るぼろぼろの長椅子に、老人が一人座り、杖を突いて寝ている。
身体はそこまで老いぼれた風には見えないが、それでも顔は深いしわをたたえている。
浮浪者だろうか。
とはいえ同じ浮浪者だとしても、長らく逃避行生活をしてきた自分の格好よりは幾分か清潔な服に見えた。
腹は十分に減っている。いざとなればこいつも腹に収めることになるだろうが、流石にもう動ける体力は残っていない。
薄れる意識の中足を引きずりながらなんとか隣に座ると、先客の肩にもたれ掛かって目を閉じた。
地平線の彼方まで続く砂漠に夕暮れが訪れる。
砂を纏った暴風は、山肌に聳える巨大なヨットの帆のような「防砂膜」と風車にぶつかり、程よく澄んだ風が街に送り込まれる。
山を埋め尽くすように建つ街が防砂膜を通して夕日を受け、オレンジ色に輝く。
鉄と石の街は活気に溢れ、大小様々な種族の人々が通りを行き交っていた。
[[チノフ]]。彼らはこの場所をそう呼び、また彼らもチノフと呼ばれていた。
「いたぞ!追え!23番街だ!」
ただでさえ騒がしい人ごみの中に怒号が響く。
この街じゃ怒号なんて物は毎日のように行き交うものであり、その証拠に道行く誰一人、気にも留めない。
そんな大衆を強引に蹴散らして、数人の男達が追う。
顔には肉食獣のような不敵の笑みが混じり、無意識に渦巻く強欲が見て取れた。
息を荒げる若い男達の視線の先では、真っ白な髪の子供が人ごみの上を飛び回っている。
「くっそ、逃げ足だけは速ぇーな!」
頭を掴み肩を蹴り、子供は通りを埋め尽くす人々の上を縦横無尽に駆け回る。
髪は一見真っ白のようだが、先端部分は黒髪が残っていて妙な髪色をしている。
サイズの合わないぼろぼろの服をなびかせ、まだ数歳とも行かない少女のような身体は驚くほど身軽に力強く躍動している。
珀巻は人ごみを掻き分けなければならない追っ手と違い人ごみを足場にする事で、森を飛び回る猿が如く路地を駆け抜けていた。
時折足場となった人間の驚く声が聞こえてくるが、そんなものを相手にしている暇はない。
「待てぇぇ!」
待てといわれて待つ鬼ごっこも無い。それも多数対一で、だ。
生憎、この辺りの地形は珀巻を圧倒的に有利にさせてくれている。
まともな整地もされず無造作に建てられてきた街はそこらじゅう隙間だらけで深い路地に入れば一分で迷子になってしまう。
砂利道は長く日差しに照らされ、乾燥していて滑りやすく、長く走るには体力が要る。
辺り一面張り巡らされた電線や、ガスとか蒸気を運ぶパイプが枝のように伸び、さながら鉄のジャングルと言った所だった。
渾身の力で一際背の高い頭を蹴り、手近の屋根に飛び乗る。
ちらと追っ手の一人の赤い帽子が見え、横に見えた建物の隙間へ走っていく。
そうして壁を這うように取り付けられた太いパイプの上で、珀巻の体力は限界を向かえた。
壁に寄りかかり、しゃがみ込む。
「・・・・はぁっ、はぁ、はぁ・・・!げほっ、げほっ」
あまりの激しい運動で呼吸はひどく乱れている。頭で脈動する血管がどくどくと響いてうるさいほどだ。
昼の熱気が嘘のように引いていく。相変わらず乾燥しているが、街には涼しい風が吹き始めていた。
「・・・・はぁ―――
あらゆる場所で幾度となく追われてきた。監禁と脱走の繰り返しでこんな事は慣れっこだった。
何度か捕まりかけた事もあるし、どう転んだって碌な目に会わない。
ある時は殺されそうになり、銃を持った人間が追いかけて来たこともあった。
液体の力こそ強力だが、珀巻そのものにはまだ屈強な男をねじ伏せる腕力も、物騒な魔法も武器も無い。この街で拾えて殺傷能力があるとしたら鉄パイプくらいか。
一人くらいなら噛み付くか引っかくかするだけですぐ無力化できるが複数となるとそうはいかない。
結局、鉄パイプを振り回すくらいなら逃げるほうがずっと楽であった。
とはいえ、単体なら良くて食物程度でしかない存在が、ひとたび徒党を組むだけでまるで刃が立たないというのは悔しくて仕方がなかった。
全力疾走の後の、喉が張り付くような気持ち悪さと上がりきった体温が疲労した身体を襲う。
今回は結構きつい方かもしれないな、と思った。
いくらでも逃げれる場所といえ、かれこれ数十分はぶっ続けで追い回されている。いい加減お終いにしたい所だった。
「いたか?」
「いいや、隙間に逃げられた・・・今度またこの辺探すか。」
「おし、今度は俺の兄貴も呼ぶよ。なんたって魔術師だからな。」
「うおお、本格的になってきたな」
「なら朝早いうちから行こう。もう街中噂だらけだぞ。賞金もあるしな・・・
「ほんと。歩く札束だぜ、あんだけ手に入ったらまずは・・・・
街の喧騒にかき消されて、追っ手と思われる男達の会話はどんどん遠ざかっていく。
賞金という単語まで出てくるあたり、もう此処でもかなりの有名人らしかった。
諦めたのかとは思ったが、会話からしてその期待には応えてくれそうにない。
「・・・・・・・・ふぅぅ・・・」
この街は逃げやすいが、その分人も多い。日に日に噂は広まり追っ手は増える一方だった。
今日のは特に数が多かったような気がする。さすがにもう走るのは御免だ。
沈む夕日はどんどん街の陰影を濃くしていく。涼しかった風はどんどん温度を下げ、肌寒くなっていく。
あのぎらぎらと照りつける光は消え、暗くなっていく街には人の作りし光が灯り、夜の顔を見せ始めていた。
暗くなればほとんど追われる事はなくなる。ひとまず安全と言っていいだろう。
ただ、この調子だと此処にはもう長くは留まれないな、と思った。山向こうなら小さな村の一つくらいあるかもしれない。
「よいしょっ・・・わぁっ!?」
ドシャン!
立ち上がろうとしたその時、珀巻は足を滑らせて、パイプの隙間から路地へ滑落する。
少しの浮遊感のあと、かなりの衝撃が身体に響き、後から痛みが襲ってくる。
結構な高さがあったのか、ちょうど階段の角に激突した足と尻がひどく痛んだ。
「っつ・・・・」
ぶつけた足は赤く腫れて、真一文字に血が滲み始めて見るのも痛々しい。
これまで怪我と無縁だったわけではないが、珀巻の治癒能力では大抵の怪我はすぐ治る。
とはいえこれはさすがに大怪我の部類で、骨を折るまでには至らなくとも歩行を困難にするには十分だった。
「うー・・・・」
思わず涙があふれ出る。
見た目からしたら大泣きしていてもおかしくない年頃だが、珀巻の場合は助けを呼ぶことそのものが命取りだ。
だから、泣くに泣けない。
砂の色の染み付いた襤褸切れのようなのコートで涙を拭い、コンクリートの壁に寄りかかってなんとか立つ。
いつもなら露店街に忍び込んでパンでも盗みに行く頃だったが、これではしばらくは走れないだろう。
「・・・我慢」
そうつぶやき、足を引きずりながら薄暗い小路の奥に進む。
昨日は一応食べたし、ここで隠れていれば明日には治っているだろう、と安直な考えを巡らせるほどには疲労していた。
きっと、この状態で見つかればひとたまりも無いだろう。恐怖感が身を震わせる。
しかし階段の向こうで行き交う人々は、無数の細い路地になど目もくれず、忙しなく歩くだけだった。
小路の奥にはベンチが掛けられていた。ペンキの赤い色が僅かに残るぼろぼろの長椅子に、老人が一人座り、杖を突いて寝ている。
身体はそこまで老いぼれた風には見えないが、それでも顔は深いしわをたたえている。
浮浪者だろうか。
とはいえ同じ浮浪者だとしても、長らく逃避行生活をしてきた自分の格好よりは幾分か清潔な服に見えた。
腹は十分に減っている。いざとなればこいつも腹に収めることになるだろうが、流石にもう動ける体力は残っていない。
薄れる意識の中足を引きずりながらなんとか隣に座ると、先客の肩にもたれ掛かって目を閉じた。
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