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六十名以上の参加者による殺し合い、通称“バトルロワイアル”の進行も順調の至り。
早くも十人以上の参加者が、この場でその命を散らせている事実を知る者は恐らく居ない。
主催者であるギラーミン、そしてポケベルにより知り得た者達を除いては。
だが、確かな数字は分からずとも、大体の目星をつけている参加者は居るかもしれない。
なんといってもこの異常な状況だ。
他の人間はどう動くか、どのくらいの人数が殺し合いに乗ってしまったのか。
果たして自分の知り合いは今も無事で居られているだろうか。
色々と思う事はあるだろう。
そしてその答えを知る事が出来る定時放送の時間は刻一刻と近づいている。
数十分――いや、十分もないか。
支給された時計を見ればその位の事は直ぐにわかる。
しかし、敢えて確認はしない。
何故? いや、それよりも寧ろ――誰が?と聞いた方が正しい。
これは失礼、彼の紹介をすっかり忘れていた。
演目者は一人、舞台はその辺の茂みの一帯、舞台器具や照明設備はあるわけがない。
ギラーミンによる殺し合いの中では、ほんの一時にしかならない時間。
そう、今から話すのは実はあっても無くても構わないお話
それは流石に言い過ぎか。
兎に角、紹介しよう。
殺し合いもとい馬鹿騒ぎを演出する一人であり、少なくともこの瞬間での主役――


ラッド・ルッソの小さな話を。


◇     ◇     ◇




「さぁーーーてっ、何人死んだかなぁ!?」


一人の男が大声で叫ぶ。
短髪とも長髪とも言えない髪型。
体型も一般的な成人男性のそれと特に差異はない。
筋肉が程良く付いた身体とは言え、筋肉隆々とは言い難い。
あくまでも標準の域だ。
そう、男にはこれと言って他の人間との相違点はない。
只、ギラついた双眸、不自然に歪んだ口元、そしてたった今彼が口にした言葉は少し異質とも言える。
今は小休憩も兼ねて、大木に身を寄せながらその場に座り込んでいる。
ラッド・ルッソ――限りなく平凡な風貌でありながらも、歪んだ価値観を持つ男が其処に居た。


「先ずは俺が殺した分で三人だろ? あとはどうだろーなー? まさか俺以外、誰も殺してねぇってコトはねぇよな――あるわけねぇか!
だってよ、殺し合いだよ殺し合い? ぶっ殺しまくれるんだぜ? もおーーーーやり放題って感じ?
トンデモねぇ銃ぶっ放したり、ドでかいナイフとか振り回せられるんだぜ?
楽しまねぇとそりゃあ人生損してるぜと言いたくなっちまなぁ! 」


狂っている。
ラッドの事を表現するにはこれ以上しっくりくる言葉はない。
死ぬだとか殺すだとか言葉にするだけで嫌悪する人間は居るだろう。
だが、ラッドの場合そんな事はない。
自分の叔父が率いるマフィアで、殺し屋を担っているせいなのだろうか。
その事にも関係性がないわけでもないが、そもそもラッドには殺人という行動に戸惑いを感じない。
何か心に大きなトラウマを負ったせいで――生憎そういうわけでもない
ラッドが少年時代を過ごした家庭環境は平凡そのものだ。
只、生きる事と死ぬ事を考えた結果――何処で歯車が狂ったのか、忌避感はこれっぽちもなくなった。
無論、他人を路上に転がるゴミ屑のように扱う事について。
故にラッドは良識を持った人間が聞けば、耳を疑うような内容でも大いに語る事が出来る。


「まあ、なんだ。結局、それも放送とやらでわかるコトだがよ……なんかワクワクしてきたなぁ、もしかしてもう半分ぐらい死んじゃってるとか!?
かーーー頑張るねぇ、みなさん! いいねぇいいねぇいいねぇーーーそういうのは大好きだ! 俺も負けないようにサクっとぶっ殺しまくっちゃうからよろしくぅ!!
んーいや待てよ……おいおいおいおいおいおいーーーそれじゃあ俺のブッ殺せる数が少なくなっちまうじゃねぇか!
そいつは駄目だ。認めねぇ、ぜッてぇーに認めねぇ。最低でもあと10人は殺してぇからな」


誰かを殺す時、用いる方法は別に選ばない。
拳でボコボコにしたり、銃で頭をブチ抜いたり、機関銃でハチの巣にしてやってもなんでも構わない。
まあ、効率良く殺せる方法がどちらかと言えば好のみかもしれない。
だってその方が一杯殺せるだろうし――所詮、そんなもの。
ラッドの中では他人の命を殺す事など、全く造作もない事だ。
殺人享楽者――その言葉が恐ろしく良く似合う。
人を殺す時に湧き上がる感覚。
ラッドの場合、それは溢れんばかりの快感を齎してくれる。
故にラッドは時放送での死者の発表を今か今かと心待ちにする。
ちなみに時計は見ていない。
特に理由はないが、敢えて言うならドキドキを楽しみたいからだろうか。
いつ来るかわからない時間をこうして楽しみながら待つ――それもまたその位の認識だ。


「――つかやっぱ惜しかったよなぁ、あの女……あれだろ? その辺のパン屋に居るようなババァじゃなくて、ぶっちゃけ俺らみたいな種類の奴だろ?
傭兵や軍人、それか軍人崩れってところかぁ? どっちにしろ似たようなもんだが訊いておけばよかったぜ。
覚悟を持って覚悟してる奴を殺す時はどんな気持ちがしますかぁ~?……ああ、どんな心地がするんだろうな、そいつはよぉ。
あんまり興味はねぇけど訊けるもんなら訊いておくベだったなぁ、マジでマジで勿体ねぇ」


そして、陽気な声でラッドは一人の女の事について語る。
彼女はバラライカ、先程ラッドと戦った相手であり顔に大きな火傷の傷を負った女性。
口振りから平和ボケした一般人ではないのは明確。
明らかに離れした様子もあり、立ち振る舞いや銃器の扱いからしてその筋の人間だとラッドは考えている。
もう良い年齢の癖だろうになかなかやる――そう思いはしたが既にそれは意味のない思考だ。
何故ならラッドは彼女にブチ込んでやったからだ。
支給された、大きな大砲を構えて――こう、ドカーン!と。
ついでに自分をブッ飛ばしてくれたガキと少女を巻き添えにして、砲弾による爆炎の餌食にした。
やった時は実に爽快な気分ではあったが、今は少しその興奮は冷めている。
無論、殺さなければ良かったなどと思っているわけではない。
只、もう少しじっくりと殺してやっても良かったかと思う気持があった。
何せバラライカは散々自分をコケにしてくれた相手だ。
それ相応の“礼儀”を以って丁寧に――ぶっ殺してやるのが筋だっただろう。
そう、バラライカはきっと思っていただろうから。


『自分はこんなチンピラには殺されない』――それは最適な感情。
最適? 何に対して?――言うなればそれは一種の鍵だ、スイッチと言っても良いだろう。
ラッドの殺人は特別な条件は特に必要なく、可能な範囲で気が赴くままに行われる。
しかし、其処には一種の要素が絡む。
標的となる人間が緩み切っている場合――ラッドのぶっ殺したいと思う感情は一際大きくなる。
自分は絶対に死なないと思っている奴に、段々と己の死を理解させ、殺していく。
その時の高揚感はとても形容出来ず、ラッドにとってこの上なく心地良い。
格好の対象であるバラライカは既に死んでしまったが、未だ当てはある。
そう、他の参加者の中でも特に目星をつけている人間がラッドには居たのだから。
上がりすぎたテンションを少しずつ落としながら、ラッドは声を上げる。
最早言うまでもない、そいつは――ギラーミンが言っていた存在。


「あのくそヤロウは言ってたよなぁ……『決して死ぬ事のない不死の身体を持つ者』って。
要するにアレだ。ホウレンソウ喰ったポパイみてえに頑丈な奴ってことか?
いーや、もしかしたら腕とか脚をブッ千切ったら新しく生えてくるとかか?
良くわかんねぇが まぁ、いい。大事な事はよーくわかってるからな……なんせ不死の身体だ。
緩んでんだろ、そいつは? 誰にも殺されないって……思ってんだろう――そいつはッ!!」


ルーアとデューンを殺した、ギラーミンの言った言葉をラッドは忘れてはいない。
人間台風の異名を持つ者――台風?腹に風車でもついてんのか?――気になる。
幻想殺しの能力を持つ者――幻想?自分は絶対殺されないと思っている奴の幻想か?――気になる。
概念という名の武装を施し戦闘力に変える者――概念?何だそりゃ、人をぶっ殺せるのか?――気になる。
三刀流という独特な構えで世界一の剣豪を目指す者――三刀流?三本目はどこで持つんだ?――気になる。
だが、何よりも気になるのは『決して死ぬ事のない不死の身体を持つ者』――最高だ。
これ以上にない得物につい、ラッドは舌舐めずりさえしたくなってくる。
決して死ぬ事のない?
名前も知らないそいつの余裕に満ち溢れた顔を想像するだけで、感情が爆発しそうだ。
ゾクゾクする、身体中の血液が沸騰しているかのように、全身がほのかに熱くなっていく。
ここまで格好な対象も初めてだ。
ならば、自分はどうするか――そんな事は決まっている。


「よーし、決めた。 殺す、俺が直々にぶっ殺す。生まれてきたコトを後悔させながら殺してやる。
不死の身体なら頑張って耐えて見せろよ?簡単に死ぬんじゃねぇぞ?俺に出会うまでの人生を精々楽しめよ?
今すぐ向かってやるさ――」


碌な情報はない。
が、そんな事はこれから先にでも集めて行けばいい。
まあ、何せ不死の身体と言われているくらいだ。
馬鹿みたいにしぶとい奴がアタリだろう。
捜すのはそう難しいコトではない。
不死身の肉体を持つ人間と、いちいち言うのは面倒だ。
よってラッドは自分なりにその者の名前を変えて、メッセージを送る。
放送の時はもう直ぐそこまで来ているが、気にしない
ギラーミンの次に優先すべき対象、必ず殺すべき存在へ。
偶然にも、自分自身が同じそれと同じ存在になった事に気づかずに――


「なぁ、『不死者』さんよぉ?」


『不死者』の殺害をラッドはしっかりと心に留めた。



【D-1/西端/早朝(放送直前)】
【ラッド・ルッソ@BACCANO!】
[状態]:健康、不死者化
[装備]:ワイパーのバズーカ@ワンピース、風貝@ワンピース
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
 1:あのギラーミンとかいう糞野郎をぶっ殺す。
 2:そのためにこの会場にいるやつを全員殺す。とにかく殺す。
3:ギラーミンが言っていた『決して死ぬ事のない不死の身体を持つ者』(不死者)は絶対に殺す
4:ギラーミンが言っていた『人間台風の異名を持つ者』、『幻想殺しの能力を持つ者』、『概念という名の武装を施し戦闘力に変える者』、『三刀流という独特な構えで世界一の剣豪を目指す者』に興味あり。
【備考】
 ※麦わらの男(ルフィ)、獣耳の少女(エルルゥ)、火傷顔の女(バラライカ)を殺したと思っています。
 ※自分が不死者化していることに気づいていません。




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終わらない夢 ラッド・ルッソ 覚醒? いいえ、不死者です





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最終更新:2012年11月30日 01:32