その幻想を――◆SqzC8ZECfY



状況を確認しよう。
周囲は360度全部、木に囲まれた夜の森。
今の俺には鉈一本しかない。
地図もない。名簿もコンパスもライトも、水と食料が入った荷物も取り上げられちまった。
ぶっちゃけた話……ここがどこだかわからない。
見上げた山のてっぺんの向こう側の空が僅かに白んでいる。
あれが東の空というなら、そうだな……つまり俺は山の西側にいる。
ここは地図で言う左上のあたりか?
スパイってやつは、ことのほか色々なスキルを要求されるモンだ。
数十秒で地図や名簿を頭に叩き込むくらいの暗記力がなけりゃ、それで命を落とすか拾うかの瀬戸際に立たされる場合だってある。
しゃげキングに遭遇して弾丸ぶち込まれる前に、地図の大まかな内容は暗記できていた。
流石に名簿を完璧に、ってのは無理だったが。
カミやんの他に、一方通行御坂美琴といったレベル5能力者がいたことくらいは確認してある。
つーか、これやばくねーかにゃー?
カミやん見たいな例外はともかく、こいつらとまともに殺り合ったら、並みの人間じゃあ命がいくつあっても足りないぜよ。
――そう、まともに殺り合ったらの話だ。
こいつは狭いリングに閉じ込めてプロ格闘技みたいに戦わせるようなルールじゃない……。
裏切り、騙まし討ち、何でもあり。
……つまりはそういうことだ。
殺し合え――与えられた情報はそれだけ。
だがこの会場の広さや、与えられた支給品を考えれば、こいつはサバイバルの要素もでかい。
殺し合うという以前に、いかにして生き残るか、というスキルも要求されるだろう。
まー、このダメージじゃあ当分まともに戦うことなんざ無理だが。

「さて……」

周囲に人の気配はなし。
たしかあの山のてっぺんには学校があったはずだ。
逆に麓に下りようとすれば地図の外に出ちまう。
遠目に見たところ、柵や壁みたいなもので囲まれてるわけではないようだが、会場の外に出れば首輪が爆発するとギラーミンは言っていた。
だったらこの首輪を外す手がない現状では、それは却下だ。
となると――あの学校に行くしかないか。
保健室に治療器具があれば、この怪我もだいぶマシになるだろう。
水道が機能していれば飲み水も補給できる目処が付く。
なんせ今の俺には他の奴らが持ってるような水や食料すらないんだからな。
もっともギラーミンが地図上の施設からそういった機能や現地調達品を取り上げちまってたらお手上げなわけだが。
俺はそれはないと踏んでいた。
そういったファクターこそが実力差をひっくり返す鍵になるからだ。
このゲーム……胸糞悪いが、まともに殺り合ったら俺じゃあ勝てない。
俺の知らない他の連中がどれほどの力を持ってるのかはともかく、こいつがもしギャンブルで、誰が生き残るかに賭けろといわれれば、大本命はまず一方通行だろう。
俺なんかは大穴もいいとこだ。
それでも勝ち目があるとするなら……まともにぶつかる以外の方法をとるしかない。
おっと、それはこの時点で言わぬが華だぜい。

「さてさて、それでは背中刺す刃こと土御門さんのサバイバル。お手並みご披露と行きますかにゃー」

俺の声はすぅっと夜の森に溶けるように消えていった。
答えるように、ざざ、と森の木の葉が揺れる。
オーディエンスは森の木々だけ、か。
そのざわめきは「死んじまえ」かそれとも「せいぜい頑張れ」か?
益体もないことを考えた自分に苦笑しつつ、俺は学校へ向かう一歩を踏み出した。


   ◇     ◇     ◇


「つ……着いたぜい」

学校に着いた頃にはすっかり夜が明けていた。
広々とした校庭の向こう側には、太陽に照らされた乳白色の校舎がみえる。
その中央に掛けられたでっかい時計はそろそろ六時を指そうとしている。
まあ、日の出の具合からして、だいたいそんなもんかにゃー?
怪我を庇って、しかも視界が不安定な明け方の森を抜けるためにかなり慎重に進んだせいで時間がかかってしまった。
しかし、ここは襲い掛かってくるような人間がいなかっただけでもよしとするべきぜよ。
できれば「大丈夫ですか!?」とかいって優しく駆け寄ってきてくれる美人の姉ちゃん(できればロリ)でもいればよかったのが。
だが、現実は非情である。
ここにはバニーガールのおしゃまなロリも、スク水ドジっ子のロリも、メイドでお兄ちゃんスキー(ここ重要)のロリもいないんだにゃー!!




――――神は死ンだッ!!




……とまあ、あまり馬鹿なこと考えてる場合でもない。
俺はとりあえず保健室を探すべく、校舎に向かって歩を進める。
校庭の砂が俺の足の下で、じゃり、じゃりと微かに音を立てる。
校舎の入り口。
下駄箱が並んだ正面玄関が見える。
こうして見ると人が少ない早朝の学校にはよくある風景だ。
ここが殺し合いの場だということを僅かの間、忘れそうになる。
学校――――俺にとっての日常の象徴。
カミやん。
青髪ピアス。
小萌先生。
馬鹿みたいな話で盛り上がったクラスメートたち。
…………舞夏。


たわいない日常。


俺はそれを守りたいと思った。
俺はスパイだから。
だからそれは一時の、偽りのものに過ぎない。
それでも守る価値があると思った。
人間なんてのは簡単に死ぬ。
本当に簡単に死ぬ。
不幸は常に幸福の隣に潜んでいる。
理不尽は常に前触れなく、容赦なく、誰かの幸せを破壊する。
俺はそれをよく知っている。
今もそれを現在進行形で思い知っている。
誰か一人しか生き残れない、この殺し合いのさなかで。


『認めない。誰かが犠牲にならなきゃいけないなんて残酷な法則があるなら、まずはそのふざけた幻想をぶち壊す!!』


なあ、カミやん。
以前、オマエはそう言ったな。
それは幻想じゃない。
オマエが知らなかっただけで、オマエの認識の外にあった数え切れないくらいの現実に、確かに存在する法則だ。
俺はオマエより広くて、だが暗い世界で生きてそれを思い知った。
だけど。
でも、だからこそあの言葉は良かったな。
あの言葉は響いたな。
もしそうだったら、それはとても素晴らしいことだと、そう思ったな。
だからよ。
頼むから生きてろよ、カミやん。
オマエは悲しんでる人間や助けを求める人間を見ると、後先考えず飛び出すタチだからさ。
でもたとえ誰かを助けたって、オマエ自身が死んだらそれは『誰かが犠牲になる』っていう、残酷な法則に絡めとられるってことなんだから。




【B-2 学校/1日目 早朝(放送直前)】

土御門元春@とある魔術の禁書目録】
[状態]:左の肩付近に重傷。肋骨1本完全骨折。失血で衰弱。超能力により自動回復中(微弱)
[装備]:レナの鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:上条たちのために危険人物を排除しつつ、状況を把握する。
 1:保健室で傷の手当てをする。あるいは回復を待つ。
 2:『しゃげキング』と名乗った長鼻の男に警戒。次に会ったら殺す?
 3:一方通行(念のため御坂美琴も)を警戒。


[備考]:ウソップの本名を把握していません。
    地図や名簿は大まかに把握しています。
    会場がループしていることに気付いていません。
    原作4巻以降からの参戦です。




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嘘と嘘の狭間で 土御門元春 笑顔の道化師





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最終更新:2012年11月30日 00:51