目覚めた朝に◆WDKcDkBO8c
行けども行けども森ばかり。
空は徐々に青みを帯びてきているというのに、相変わらずここは暗いままだ。
これだけ歩いているのに町どころか建物ひとつ見えやしない。
先ほどのゴタゴタのせいもあり、
東方仗助は完全に道に迷っていた。
どうやら逃げ切ったらしいのはいい。後方からは何も聞こえてはこない。
けれども身体的にも疲れ、先の見えない状況で精神的にも気力が落ちてきている。
その上迷子になるのがこんなに不安になるものだとは思わなかった。
迷子の子供がピーピー泣く理由にようやく納得した仗助は大きくため息をついて、
近くにあった太い幹の木の根元に腰を下ろす。
背負っていた
アルルゥはすやすやと気持ち良さそうに寝息を立てている。
気持ち良さそうに寝やがって、と心中で苦笑しながら木を背もたれにするようにして寝かせる。
仗助自身も地べたに座り込むと、アルルゥを横目にしながら一時休憩することにした。
改めて眺めると、獣のような耳があるという奇異な姿ではあるもののほんの小さな子供だというのが分かる。
どんなところに住んでいるのか。どんな暮らしをしているのか。何も知らない。
そう、赤の他人でしかない。けれどもここにいるべき人間ではないというのだけは分かる。
思い切り遊んで、存分に親に甘えたい年頃だろうに。
家族の大切さと温もり。表にこそ出さないが仗助も知り抜いているかけがえのないもの。
……同時に、自分がなくしてしまったもののひとつ。
町の平和を守ることを生き甲斐にしていた祖父。仗助の誇りでもあったそのひとを失ってしまったこと。
仕方がなかった、とは口が裂けても言わない。仗助自身もその原因のひとつであることは十分認識している。
だからこそ意思を継ぐと決めた。祖父の誇りを、崇高なる精神を失わぬためにも。
そして何より、これ以上の悲しみを増やさぬためにも。
もう見たくはない。家族を失って、泣き崩れる誰の姿も……
それが仗助の決めた事だ。まるで先の見えない、曖昧で茫漠とした暗闇の中でも忘れまいとする約束だ。
必ず、親に会わせてやる。それだけでなく、共に元いたところへ帰してやる。
口に出しては言えない台詞だな、と仗助は思った。あまりにも恥ずかしすぎる。
隠しておくことがまたひとつ増えてしまった。こんなのが友人達に知れればどんなにからかわれるか……
虹村億泰がここぞとばかりに小馬鹿にする光景がありありと浮かんで、また苦笑する。
それと同時に一抹の寂しさも生じた。まだ友人どころか味方と思しき人物にも出会えない。
一体どれほどの人物が好戦的なのだろうか。自分が思っている以上の人物が、既に殺しあっているのか。
僅かに、とはいえ傷も負っている。いかなクレイジー・ダイヤモンドとはいえ、
たった一人で何十人ものスタンド使いに挑むには心許なさ過ぎる。それは杜王町において仗助がよく認識している。
無論一人一人に負けるとは思わないが、一人で戦い続ける自信は、正直なところない。
それだけでなく他の問題も山積みだ。ここはどこなのか、爆発するという首輪をどうするのか……
スタンド使いとしては一級の強さを誇る仗助といえど、所詮は一介の高校生であるという事実は変わらない。
承太郎さんがいれば……その思いは何度か込み上げていたが、助けは望めないと思い直し、その度に断ち切っていた。
守らなくてはならないという重責と、未だ頼れる仲間がいないという不安。
高校生でしかない仗助の精神にはそれがかなりの負荷となって圧し掛かっていた。
(……クソッ、じっとしてるのは性に合わねェしオレだってこんなところにいつまでもいたくないんだがよォ〜……)
視点を変えてじっと闇に目を凝らし、少しでも遠くを見ようとするがまだまだ暗く、一寸先は闇の状態が続くばかりだ。
完全に夜が明ければもっとよく見えるようになるのだろうが、まだ完全な夜明けまでには時間がかかりそうだった。
「ん……」
と、仗助の横でごそごそと動く気配があった。アルルゥだ。まだ眠たげに目をこすりながら欠伸をしている。
お姫様のお目覚めか。予想より早かったなと思いながら、仗助は見るのを中断してアルルゥの相手をする。
「よぉ、起きたか。調子はどうよ?」
「んー……」
頭が目覚めきっていないのか、曖昧に返事をしてぷるぷると頭を小刻みに揺らす。
本当に子供なんだなァと今更のような実感を持ちつつ「どこも痛くはないか?」と続けて尋ねる。
「ん」
ぷるぷると再度首を横に振る。顔も平気そうな風だったので、我慢しているのではないと判断する。
仮に怪我をしていたとして、多少のかすり傷程度ならクレイジー・ダイヤモンドですぐ治せるのではあるが。
……なんだか、本当の『おにーちゃん』みてーだ。
こうしていると実にそう思う。妹がいればこのような感じなのだろうかと想像する。
兄弟がいない仗助にとってこの感覚は新鮮であった。
「……おなかすいた」
と、今度は唐突にしょんぼりした表情になり腹を抱えるアルルゥ。同時にくー、と分かりやすい音がした。
お姫様は朝飯を御所望のようだ。アルルゥのデイパックを手繰り寄せ、中からおはぎを取り出す。
「また変なのが入ってるとヤベーからな。チョチョイと確認するぜ」
おはぎを半分に割り、中に針が入っていないかどうかチェック。こんな作業はスタンドを使うまでもない。
中身を指先でつついていると、チクリとした感覚が走る。ビンゴだ。
卑怯くせーことしやがって、とおはぎの製作者(主にギラーミン)への怒りを溜め込みつつ針を抜き取る。
他には何も混じっていないことを確かめ、アルルゥに手渡す。
「ホレッ。今度は大丈夫だぜ」
「ん!」
目を輝かせて割れた半分をすぐさま口に放り込むアルルゥ。ぱたぱたと獣の尻尾が揺れてまるで犬のようだった。
耳といい、あの尻尾といい、体の構造はどうなっているのだろうか。好奇心を持った仗助だったが、
流石に確かめるのは憚られた。子供とはいえ、性別は女の子であるし、確かめるということはアレでアレなのである。
硬派にして純情な仗助には到底不可能な行為だった。
もしゃもしゃと半分を平らげると、続けてもう半分も口の中に入れようとした。
「ん〜……」
が、その動きが止まり悩ましげにおはぎと睨めっこを始めるアルルゥ。
ダイエットか、と思いかけて相手が子供だということに気付きんな訳ねー、と仗助は思った。
ひょっとするとまだ何かが入っていて、見落としでもしていたのだろうかと考えて、
おはぎを覗き込もうとした仗助の前に、「ん」とおはぎが差し出された。
予想しなかった行為に目をしばたかせていると、少し照れたように頬を赤らめてアルルゥが言った。
「半分こ」
言葉の中身が伝わるまでには数秒の間があった。反応しない仗助にもう一度「半分こ」と、
幾分か大きくなった声が聞こえたと同時、仗助はそういうことかと体の芯が温まる感じを覚えた。
自身も照れ臭さを感じながら「ありがとな」と受け取る。
差し出されたおはぎにはアルルゥの手のひらの熱が伝わり、ほんの少し温かくなっていた。
口に含んで、じっくりと咀嚼する。じんわりと広がっていくほのかな甘味に素直な感想が漏れた。
「うめぇ〜ッ……!」
* * *
結局、二人でおはぎを全て食べてしまった。
一個一個何かが入っていないか調べながらだったので結構に時間がかかってしまった。
スコアとしては約4分の3に針が混入されていたことが判明。
おはぎ全てに針が入っているわけじゃないという部分に、仗助はせこさを感じるのであった。
とはいえ、腹が膨れたのは事実であり、おはぎの甘さが精神的疲労を取り去ってくれてもいた。
何より……アルルゥが少し懐いてくれたことが仗助には嬉しかった。
味方にも、友人にも出会えない。それでも自分にはアルルゥがいる。
決して一人ではないという事実が不安を僅かにではあるがなくしてくれていた。
子供と一緒にいて安心を感じるのもどうなんだという気持ちもないではなかったが、今は素直にそう思っておく。
思っていれば、暗闇に惑わされることはないだろうから。
「さて、と。メシも喰ったことだしよォ〜、そろそろ動かなくっちゃなァーッ! 働かざるもの喰うべからずだぜ」
「ん! 食べたらお仕事する!」
すっ、と立ち上がった仗助に合わせてアルルゥも元気良く立つ。
この調子なら当分やっていけそうだと思いながら、仗助は地図を取り出しつつ、森の奥を指差す。
勿論方向は適当だった。何となくやりたかっただけである。
「オレたちは取り合えず地図にある街を目指さなくっちゃいけねぇ。
だが方向が全然分からない……さてアル公よォ、どうするべきだと思う?」
「ん〜……?」
アルルゥに振ってみたが、やはり子供というべきか首を傾げて困ったような表情をするだけだった。
話の展開を広げるべく、仗助はいくつかのアイデアを打ち出すことにした。
「まず一つ目。オレの勘を信じて進む」
「むー」
「二つ目。枝を投げた方向へ進む」
「うー」
「三つ目。上から探す」
「うえ?」
仗助が上を指差す方へ合わせて、アルルゥも上を向いた。
そこには背の高い木がいくつも立ち並んでおり、軽く10メートルを越すような長い木もあった。
この森がほの暗い理由の一つがこれら背の高い木々である。
「木登りをして、少しでも高いところから何か目印を探すんだ。問題はそこまで登れるかってことなんだが」
と、アルルゥの方を見てみると、いつの間にかその姿がなかった。
消えた……だとッ!? 新手のスタンド使いかッ!?
一気に緊張感が高まり、同時に気配を探りにかかる。
一体どこから? それにこんな音もなく攻撃が出来るものなのか?
クレイジー・ダイヤモンドを展開させて襲撃に備えようとした瞬間だった。
「おにーちゃん」
「……あ?」
上のほうから聞こえてくる、聞き覚えのある声。自分でも間抜けだと思えるくらいの反応だった。
見てみるとアルルゥが一際大きな木に登って、途中の枝に腰掛けていた。
いつの間に、と思う一方でその素早さ、行動力に感心する。スタンド能力かと思うくらいだ。
それと同時に、過剰に反応してしまった己の馬鹿さ加減にため息をつく。
億泰をもう馬鹿に出来ないと嘆息しながら、アルルゥに声をかける。
「大したモンだぜ……で、何か見えるか?」
「んー、なんか、ヘンなのが見える」
「ヘンなの?」
「おっきなわっか」
なんだそりゃ、と思いながら地図を見てみる。近くに目標となりそうなものは……
「『観覧車』かッ!」
この近辺で『おっきなわっか』と表現できそうなものはそれしかない。観覧車自体も大きいので誤りはあるまい。
でかしたぜッ、と仗助は快哉を叫ぶ。ここから見えるということは距離もそんなに遠くはないはず。
「アル公、そりゃどっちで見えた?」
「あっち」
ん、とアルルゥが指差す。仗助の立っているところからはまだ森が続くばかりで見えない。
だがとにかく方向は分かった。後はそこへと向けて歩き続ければいい。
日はすっかり昇り始めていたが、もう迷うことはないだろう。
降りて来い、と仗助が言おうとした瞬間、耳障りな雑音が届く。
それは二人が始めて聞くことになる『放送』の瞬間だった。
【H-2/森/朝 放送前】
【東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]頬に細い傷、右太股に銃弾による掠り傷
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明支給品(0〜1)
[思考・状況]
1:プッツン女(
レヴィ)から逃げる
2:アルルゥと遊園地に移動
3:しばらくしたら、劉鳳を捜す事も検討。
4:ギラーミンを倒し、ゲームから脱出する
5:うたわれ勢や康一と合流する
6:軽率な行動は控え、できるだけ相手の出方を見て行動する
※アルルゥからうたわれ勢の名前を聞きました
※ループしたことに気が付いていません
※レヴィ(名前は知らない)をスタンド使いだと勘違いしています
【アルルゥ@うたわれるもの】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、ニースの小型爆弾×4@BACCANO!、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]
1:おっきなわっかを目指して移動
2:
ハクオロ達に会いたい
3:仗助と行動する
※ココが殺し合いの場であることをイマイチ理解していません
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最終更新:2012年11月30日 02:34