荒城の暁 ◆SqzC8ZECfY



紫色の空漠を太陽の白い光が浸食していく。
夜明けのときだ。
荒れ果てた庭園の先に、これまた荒れ果てた古城の跡があった。
森を切り開いて欧州あたりから持ち込んできたのかと思わせる西洋風の巨大な建築物。
だが壁面全体にひびが入り、いつ崩れだしてもおかしくない。
大木からけずり出したと思われる幅数メートルの木製のドアは完膚なきまでに破壊され、その奥に覗く玄関ホールの惨状は目を覆うばかり。
館の内部で暴風雨が発生したと思わせるほどだ。
それを引き起こした一因である二人が今、再びこの古城跡にやって来ていた。
破壊の爪痕には目もくれず階段を登っていく。
装飾が施された踊り場、くるぶしまで埋まる絨毯の廊下などを通り過ぎて、うらぶれた屋根裏部屋へ。
踏み込むと、埃に塗れた板張りの床がぎしりとどこか恨めしげな音を立てた。
薄暗い部屋の中にぼんやりとした光を取り込んでいる、やはり埃塗れの窓枠に手を掛けて、外の屋根へ繋がる道を開く。
入り込んでくる朝の冷気を吸いながら、滑り落ちぬよう屋根の斜面をしっかりと踏みしめて外へ。
空と森林の狭間で太陽が真っ白な光を突き刺すように浴びせてくる。
照らし出された二人の姿は揃って黒。
だが同じ黒でも全くもって類似点があるとは言いがたい。
片方は黒いゴシックロリータのドレスに、色を揃えたように黒い鳥の翼を背中に生やした人形のような少女。
いや、その少女は人形そのもの。その袖をまくれば球体関節が覗く生きた人形、ローゼンメイデン。
銀の髪が緩く冷たい風になびき、そして陽光にきらめく。
汚れ一つないその肌は青白いまでに真っ白で、陶器のなめらかさを思わせる美を宿していた。
薄闇の紫色、地に広がる緑の森、その狭間から差し込む僅かに赤みがかった暁の光、そして黒い翼の人形少女。
荒れ果てた古城の屋根にたたずむその様子は、まるで一枚の絵画のように幻想的な光景だった。

水銀燈、ではよろしく頼む」
「……わかったわよぉ」

そんな雰囲気を打ち破るように言葉を放ったのは、もう一人の「黒」だった。
銀髪の人形少女はけだるげに返事をしてから、漆黒の翼を羽ばたかせて空に舞う。
それをじっと見上げてたたずむのは一人の男。
厳密に言えばその顔は仮面に覆われており判別が付かないのだが、その威圧的な肉体が問うまでもないほど如実に物語る。
水銀燈と呼ばれた少女が絵画なら、その男はまるでコミックヒーローの世界から飛び出してきたような風体だった。
黒いマントに包まれた、言いようのないパワーを漲らせる仮面の男。
ちなみにその仮面も黒だ。
自らを魔王と称するに相応しい迫力をかもし出し、飛び上がった水銀燈を見つめる。
ここはA-2。山の中腹にある古城跡。
地図の境目を確認すると言う目的のため、二人はこの会場に放り込まれた際、最初に転移させられた場所へと戻ってきた。
ここが地図でいう外側に一番近く、かつ森の木の上から辺り一帯を見晴らせる、見通しのよい場所だからだ。
そうしてここへやってきたわけだが、結果としてそこから眺めた「外側」の景色は何の変哲もない森が続くだけだった。
更にその先に目を凝らすと、延々数キロほどもなだらかに続く斜面の向こうに湖らしきものが見える。
そのほとりにうっすらと見えるのは巨大な円状のよくわからない建築物。
さらにアップダウンの激しい曲がりくねった白いレールのようなものがそのそばを囲むように配置されている。
まるで遊園地の観覧車とジェットーコースターのようだ、と仮面の男は思った。
彼はゼロ。
黒の騎士団を纏め上げ、自らを魔王と称する――――だが、この世でたった一人の妹を愛する兄。
飛行できる水銀燈にここからさらに高いところから見渡してもらえば違った情報が得られるかと考えたのだが、その結果は芳しいとはいえないものだった。

「特に変わらないわねぇ。境目っぽいところには柵も壁も何もそれっぽいのは見つからないわぁ」
「そうか……」

戻ってきた水銀燈の報告を受けて、ゼロはさらに思案する。
まずこの殺し合いをゲームと考えてみる。
もちろん人道的、倫理的に考えて許されるような行為ではないが、人命を玩具にするという点を考えなければこれはゲームだ。
隠れる場所は豊富にあり、支給される武器はランダム、つまり運次第。
主催の立場にあるギラーミンに歯向かわない限り、禁じ手もほとんどない。
そして自分と水銀燈のように、一時的に手を組んで他の人間に対して数的有利に立つこともできるし、裏切り行為も咎められることはない。
これらの点から言えることは、このルールは弱者が強者を倒す可能性を助長するものだということだ。
個人やチームの技量を鍛え上げて、そして真っ向から競い合い、ぶつかり合うような正々堂々のスポーツではない。
むしろ運次第、立ち回り次第で力に劣るものでも勝算が見出せるギャンブル的なものに近いだろう。
そもそもゲームでなければこんな無意味な殺し合いを企画する理由が思いつかない。
ギラーミンの復讐とやらを動機として信じるにしても、もっと効率の良い方法は誰でも思いつくだろう。
自分たちを知らぬ間に拉致するような超常の力を用いてまで、何故こんな不可解な殺し合いを企画運営するのか?
が、それについてはひとまず置いておく。
この殺し合いがゲームであるならば、ルールが曖昧であればあるほど、抜け穴というものが存在する。
その抜け穴をつけば勝利の可能性もその分高くなるだろう。
ギラーミンは「会場の外に出れば首輪が爆発する」とは言ったが、「地図の外がイコール会場の外である」とは言っていない。
そしてこの古城の屋根から見つめる景色の中にある、特徴的な施設の配置を見て、ゼロの脳裏にある可能性が浮かび上がる。

「……一人で黙ってないで、いい加減に何か言って欲しいわねぇ」

ゼロの言うとおりに動いてやったにもかかわらず、報告を聞くだけ聞いてそのまま思索にふけっていたことが気に入らないのだろう。
水銀燈は不満を隠そうともしない。

「すまない。だがおかげでとある可能性にたどり着くことができた」
「可能性?」
「ああ、私の考えが当たっていれば、このフィールドに境目というものはない」
「……言っていることがよくわからないのだけれどぉ?」

ゼロは眼前に広がる景色の一点を指差した。
その先には巨大な円形が特徴的な建築物がある。

「あれは、いわゆる観覧車ではないだろうか。遊園地に設置されているような、な」
「そう言われてみればそうねえ……で、それがどうだっていうのかしらぁ?」
「あれが遊園地とすれば、その周りの地形も合わせて考えると、ここからの景色は地図のH-2から見たそれに酷似している」
「何言ってるのよぉ、ここはA-2の古城跡じゃ……」

ぶつくさ言いながらも自分の荷物から地図を取り出し、確認する水銀燈。
そして眼前の景色と地図への視線を往復させ、突如としてその秀麗な眉目を歪ませる。

「これって……」
「気付いたか。そう、この地図の上の境界と下の境界が繋がっているとすれば、この景色にも納得がいく」
「じゃあ、外への出口なんてないってことじゃない! 外に出たら首輪が爆発するだなんてギラーミンの奴……!」
「私達を無理やり殺し合いに巻き込むような輩の言うことを素直に信じたりなどしないことだ」

うるさい! と、ややヒステリックにわめく水銀燈を一瞥し、ゼロは変わらず淡々と言葉を紡ぐ。

「奴が私達にも理解できないような恐るべき力を持っていることは分かるな?」
「くっ……ええ、分かってるわよぉ!」

突然、前触れもなく見知らぬ場所に拉致され、首輪を取り付けられて、さらに一瞬で別の場所に飛ばされた。
ここまでいいようにされては、流石にその力は認めるしかない。

「だが……ということは、この夜明けの風景も、向こう側に見える観覧車も幻影であり、境目には壁なりが存在している可能性も考えられる」
「は? どっちなのよぉ?」

苛々がかなり溜まっているのが傍目にも見て取れる。
水銀燈はあからさまに刺々しい口調でゼロを追及した。

「現時点では境目がループしているかもしれない、と分かっただけでもここに来た意味はあった。
 そのうちにこの情報が重要な意味を持つこともあるかもしれん。
 他の人間と接触した場合、向こうの知らない情報を持っているということは交渉のアドバンテージになる」
「私は他の連中なんて皆殺しにしても構わないしぃ、最後まで勝ち残るのが目標なんだけどぉ?」
「ならば尚のこと無駄な消耗は避けるべきだ。片っ端から殺すのではなく、あくまで最後まで生き残るのが第一目標なのだろう?」
「……」

漁夫の利という言葉がある。
二つの勢力が真っ向から争っているその横から第三の勢力が全てを掻っ攫う。
ただ闇雲に戦うのではなく、利用できるものは利用したほうが良い。
そのことは水銀燈も理解しているようだった。
それにゼロにとっては、まずナナリーの探索のためにも他の人間と接触してなるべく多くの情報を集めたい。
最終的な目標は相容れないが、現時点ではまだ水銀燈とは組むことができるはずだ。
うまくやってみせるさ――――ゼロは心の内で堅い意思を込めて誓う。
ナナリーを、彼女の世界を守ると、そう決めたから。

「もうすぐ6時……そろそろ休む時間も必要だろう。食事をとってから中心部へ向かう」
「……ええ」

二人はどちらからというわけでもなく空を仰ぐ。
この空。この大地。この夜明けすら偽者かそうでないか確かめる術はない。
確かなものは唯一つ。
二人の胸の中に、はっきりと形を成す強い想い。
その想いの名はナナリー・ランペルージ
その想いの名は人形師ローゼン。


世界はそれを愛と呼ぶのだろう。




【A-2 古城跡/1日目 早朝】



【ゼロ@コードギアス ナイトメアオブナナリー】
【状態】:健康
【装備】:大戦槍@ワンピース
【道具】:基本支給品一式、強力うちわ「風神」@ドラえもん、MH5×4@ワンピース
【思考・状況】
1:ナナリーの捜索。そのために情報を集める。
2:ナナリーの害になる可能性のある者は目の届く範囲に置く、無理なら殺す。
3:中心部を目指す。
4:ギラーミンを殺して、彼の持つ技術を手に入れる。
5:自分の身体に掛けられた制限を解く手段を見つける。
【備考】
※都合が悪くなれば水銀燈は殺すつもりです。(だがなるべく戦力として使用したい)
※ギラーミンにはタイムマシンのような技術(異なる世界や時代に介入出来るようなもの)があると思っています。
※水銀燈から真紅、ジュン、翠星石蒼星石、彼女の世界の事についてある程度聞きました。
※ナナリーの存在は水銀燈に言っていません
※会場がループしていると確認。半ば確信しています


【水銀燈@ローゼンメイデン】
【状態】:健康、服に若干の乱れ
【装備】:卵型爆弾@バッカーノ、チェスの長メス@バッカーノ
【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
1:優勝を狙う。
2:しばらくはゼロと組んで行動する。
3:守るべき者って……バカバカしい。
【備考】
※ナナリーの存在は知りません
※会場がループしていると確認。半ば確信しています




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最終更新:2012年12月01日 20:45