覚醒 の 黒き 者達 ◆Wott.eaRjU


殺し合いの会場に設置された一件のログハウス。
特に記述する事もない、一般的な造りで建てられたもの。
風に吹かれる度に、もの寂しい様子をひしひしと感じさせる。
そんなログハウス――無人の空間とも言うべき場所に小さな活気があった。
否、外部に気取られぬように密かに動く影が姿を見せていた。

「で……質問はもう良いわけぇ? 私はアンタとお喋りなんかするのはこれっぽちも楽しくないのよ。
わかってるんでしょうねぇ、そのコト」

心底つまらなそうに言葉を吐き出す小さな少女――少女の姿をしたアンティークドール。
漆黒と真白で織り成ったゴシック調のドレス、黒い天使を彷彿させる真っ黒な翼、ワインレッドに輝く妖艶な瞳の持ち主。
細い指で、長く伸びた銀混じりの長髪の一部をクルクルと回しながら、壁に背を預けている。
少女の名は水銀燈――人形師ローゼンのより造り出された、命を持つ人形達の一体。
それも一番目、誇り高き第一ドールの薔薇乙女(ローゼンメイデン)――それが彼女を指し示す言葉の羅列。
“アリスゲーム”と名付けられた闘いで、同じ姉妹達を倒し、最後の一人になる事が彼女の目的。
アリスゲームに勝利するという、何百年の時を経ても未だ一向に消えない願いを叶えるためにも壊れるわけにいかない。
ローゼンメイデンの命ともいうべきローザミスティカを集めて、究極の少女――アリスになり、お父様とお会いする。
よって彼女には他の参加者がどうなろうとどうでも良い。
周囲の人間を殺せば、こんな馬鹿げた場所から抜け出せるというのなら何も抵抗はない。
だから彼女はこの殺し合いに乗った。
そう、たった一人でこの殺し合いとやらに勝ち残る――その筈だった。

「ああ、手間を掛けさせて悪かった。感謝しよう」

現実は水銀燈が想定していたものと少し違っていた。
水銀燈の言葉に一人の男が答える。
男は此処に来るまでの間、そしてたった今まで水銀燈について幾つか質問をしていた。
水銀燈の素性など様々な事を。
そして男は不敵にも備えられたテーブルに両脚を投げ出し、両腕を組んでいかにも思慮にふけている。
それだけなら良い。
いささか態度が大きくとも、この異常事態で冷静に考え事をするのは賢い行動といえるだろう。
だが、問題は男の身なりがとても多少とは言えない程に奇抜なものであったせい。
成り行き上、共に――但し、互いに信頼関係などはないが――この殺し合いに身を投じる事になった男。
ゼロ、またの名をルルーシュ・ランぺルージの姿が水銀燈にとっては異質以外の何ものでもなかった。

(……慣れないわねぇ、この格好は)

胸部を始めとして、身体の各所を守るような防護装甲らしき装飾――許容内
特徴的な漆黒のマントを、身体中に巻きつけている――まだ許容内。
更に全身にもこれまた黒色のかなりピチピチなスーツ、所々に走るものは幾つもの線――辛うじて未だ我慢は出来る。
極めつけに、薄い青色で塗られたまん丸の円盤状の物体が中心に付随した仮面――流石に無理。
俗にいう変質者にしか見えない。
だが、幾ら言ってもゼロは気に留めないだろう。
何故なら、ゼロの提案でこの民家に身を潜めようと、移動を始めた時から既に何度か言及していたのだが効果はなかったからだ。
嫌味ったらしく言ってやったというのに。
半ば諦めに似た感情に浸りながら、水銀燈は思わず盛大な溜息をつく。
別に隠す必要もなく、目の前の男が気を悪くしても構わない。
わざわざ見せつけるかのように、いかにも男の服装を疑うような素振りを見せる。
しかし、水銀燈の予想通りに男は何も言わない。
予測が当たっても当然嬉しくも何ともない水銀燈は、ふと首を回す。
水銀燈の視線の先――窓の外、何処までも続いていそうな漆黒の闇。
それは何度も何度も、この場に送られる前からあの病室のベッドの上で見た光景――

「確か――桜田ジュン、真紅、翠星石蒼星石。この四名は君と対立している、で合っていたな?」
「……ええ、そうよぉ。あの子達はみーんな、わたしの獲物……アンタが出る幕はないわ」
「ふむ、了解だ」

そんな時、ゼロの言葉が結果的に水銀燈の意識の中断を担う。
あまりいい心地はしない。水銀燈の表情に険しさが増していくのは言うまでもない。
当のゼロは知ってか知らずかはわからないが依然、憮然とした態度を貫くのがまた腹立たしい。
そしてゼロの言葉を受けて、水銀燈が思い浮かべるは三人の姉妹達と一人の人間の姿。
蒼星石――自分と同じように、己の目的のためなら何かを犠牲にする覚悟はあり、見所はある。条件次第なら仮初の協定を結べるかもしれない。
翠星石――双子の妹の蒼星石とは違い、どうしようもない。蒼星石が居なければ何も出来ない愚図であり、ローザミスティカ以外に特に価値はない。
桜田ジュン――憎々しい、真紅に力を与える媒体。 真紅と二人揃われると厄介だがバラバラでは恐るに足らず。
真紅――気に入らない。アリスとなるには一番の障害と思える存在であり、自分をジャンクと称した女。第一の目標――絶対に倒すべき相手。
水銀燈の答えを聞いた後、ゼロは拡げていた自らの分の参加者名簿を静かに閉じ終える。
今度こそ気が済んだだろう。
さも迷惑を被ったと言わんばかりにゼロから顔をそむけて、水銀燈は徐に歩き始める。
自分のデイバックを忘れずに、先程見ていた窓の方へ視線を飛ばす。

「何処へ行く?」
「ちょっと外の空気を吸ってくるだけよぉ、だいたい水銀燈が何をしようがアンタには関係ないでしょ」
「いつまでもここで時間を無駄にするわけにもいかない、可能な限り早く帰ってきたまえ」
「うるさいわねぇ。 わかっているわよ、そんなコト!」

ゼロの忠告にも似た言葉に感情的な返事をぶつけ、水銀燈はそのまま彼を無視して窓際で立ち止まる。
次に窓を開けて、両の翼を振って外の世界へ向かう。
デイバックの重みで普段通りの優雅さは生憎叶わなかったが、それでも外へ出る事ぐらいは出来る。
フラフラと飛び立っていた水銀燈を横眼で見送り、其処にはゼロ一人だけが残される事となった。

――己を『魔王』と自称する男が。

◇     ◇     ◇


依然、テーブルに足を投げ出し、両腕を組んだままのゼロがじっと天井を見つめている。
無言――話すべき相手も居ないため、一時の静寂が場を我が物顔に居づく。
仮面で隠されているために、ゼロの表情の変化は見えない――そして、彼が潜ませる真意すらも。
そんな時、ゼロはふと呟く。
水銀燈の話から訊き出した、信じ難い情報を思い出しながら。

「……日本、か」

日本――ゼロが知る限りでは、ブリタニア帝国に侵略され、11(イレブン)と不名誉な名で呼ばれる事となった国家。
ゼロことルルーシュが己の妹であるナナリー、そして後の親友となる枢木スザクと幼少時代を過ごした場所でもある。
だが、水銀燈から聞いた話では日本はブリタニアに占領されていないらしい。
此処に連れて来られる前はどの国の何処にいた――何気なく訊いた質問による成果。
日本は日本のままであり、イレブンという忌々しい名の概念もない。
俄かには信じられない話だが、ゼロは水銀燈が嘘を言っているようにも思えなかった。
寧ろ、言う必要がないだろうと考えている――彼女は割と自分のや知り合いの事について話をしてくれたのだから。
別に無警戒だったと言うわけではない。
具体的に何が出来るか、などの返答は拒否されたため、自分を信用していないのはわかる。
只、関係ない、興味がないためだったのだろう――どうせ、自分はこの殺し合いに勝ち残る。
ならば、最低限の警戒は厳守し、自分が勝ち残るために必須ではない情報――たとえば自分が居た世界などは重視しなくても可笑しくはない。
しかし、水銀燈にとって重要ではない日本についての情報は、ゼロにとってこの上ない程に大きな意味を持っていた。
そう、ゼロは主催者、ギラーミンなる男について思考を巡らす――

(あのギラーミンという男の持つ技術……明らかに異常だな)

仮説と言う程のものでもない――既に確信すらにも近く、改めて確認するまでもない。
ブリタニアと日本の関係の相違は既に言うまでもなく、それに加えてゼロが居た世界にはローゼンメイデンと呼ばれる人形はない。
自律行動すらも可能になる人形が確認されれば、直ぐに何処ぞの国の軍事機関の目に止まるだろうに。
未だ情報を完全に訊き出せたわけでもないのに、現時点であまりにも違う、ゼロと水銀燈の各々の世界。
更に総勢60名以上の参加者の拉致すらも可能にさせるギラーミン――もしくは彼の一派の技術力。
最早、『強大』との表現では生温い、『異常』なのだ。
今現在、ゼロ達を取り巻くこの世界を含めて彼らの存在は。
よって、ゼロはあっさりと捨てる――あくまでも普通の人間による『常識』を。

(そして、ブリタニアによって侵略されない日本……奴は私が知らない世界の住人すらも、呼び寄せる手段を保有している可能性があるという事か)

そう、タイムマシンのような、異なる時代や世界に介入出来る装置。
何かの空想科学雑誌で、以前に読んだ事のあるようなものをギラーミンは保有しているとゼロは考える。
何を馬鹿な事と、碌に信じようとはしない人間も居るかもしれない。
わからなくもない、寧ろ自然な反応とも評価出来る。
タイムマシンなど所詮、空想上の産物でしかなく、実現に移すのは到底不可能だろう。
だが、ゼロは魔女――C.C.との融合を果たし、常識では考えられぬ力を手にした存在。
その能力――銃撃すらも碌に意を介さない生命力、長距離すらも可能なワープ、5m程の機動兵器と戦闘を行える驚異的な身体能力など。
人間を超えた、所謂『超人』であり、それら超常のものに触れたゼロだからこそ考え付く。
どんな経緯かは検討がつかないが、ギラーミンもまた、C.C.のような人類の手には余る力を手に入れたのだろう。
タイムマシンの原理と酷似した、何かとてつもない力を――と。
そうでなければ水銀燈の話と己の世界を照らし合わせ、浮かんだ矛盾に納得がいかない。



わかっていた事だが、状況はかなり深刻のようだ。
残り全ての参加者――勿論、一人は除いて――を倒し終わった後でも、未だ障害は残っている。
最期の参加者には自分と闘う権利を与えようと言っていたギラーミン。
言動からはかなりの余裕が窺える。
実際、首輪の起爆スイッチも保持している事だろうし、余裕なのだろう。
思わず虫唾が走る。
大方、今もなんらかの手段で自分達を安全な場所で観察しているであろう――しかし、何もしないわけがない。

(だが、裏を返せば奴の持つ技術を接収さえすれば全てを覆せる。
ブリタニアを潰すコトすらも可能な力を……私の手中に収められるというものだ。
そのためにもこの殺し合いを制する必要がある……!)

態々最後に自分と戦う権利を与えると言ったところから、ギラーミンは戦闘行為に少なからず快感を覚えるタイプなのだろう。
同時に、それなりに自分自身の力に自信を持っているとも窺える――勿論、程度は不明だが。
しかし、ギラーミン自身が戦場の舞台に立つというのならば突けいる隙はある。
なんらかの力で制限を掛けられている自分の能力の問題もあるが、それはこの先どうにかすれば良い。
まあ、この場に呼び出されてからいつの間にか付けられた忌々しい首輪か、得体の知れないこの会場。
どちらか二つに参加者達の力を制御する何かがあるのではないかと、若干の予想はつくが――所詮は憶測でしかない。
そして、最終的に時間や世界すらも超えられる力は必ず手に入れる。
今はもう、既に居ない母上――マリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの仇。
かつての祖国である、ブリタニア帝国への正義の裁きを下すにはもってこいだ。
ならば勝つしかない、回りの人間を蹴落としても必ず。
水銀燈と組んでいるのは只、効率が良いため――そして監視だ。
どうやら完全に優勝を狙っていると思われる水銀燈に、態々教える必要もない。
自分が守るべき存在が、この会場に居るという事は。
やがてゼロは両腕を解き、固く握りしめた拳を上へ突き上げて、無言で決意を打ち立てる。
あの時、黒の騎士団の存在を全世界へ知らしめた時の高揚感を胸に秘めながら。



悪魔とすらも契約してまでも繋ぎとめたこの命――無駄には出来ない。
この身を今以上に返り血で染める事になろうとも――構わない、
修羅の道を進み、世界の全てを敵に回す事になろうとも――構わない
地獄に叩き落とされ、永遠の時を苦痛で濁す事となろうとも――構わない
己の復讐を、そして何よりも為すべき事を、守りたいものを守れれば――それでいい。
全ての参加者を殺し、自分とナナリーだけになった時、彼女は自分を拒絶するかもしれない――ならばナナリーの生存を優先するだけだ。
故にゼロはギラーミンの意図に、自らが死ぬというもしかすればあり得るかもしれぬ未来に――


――全てに反逆する。



(優しい世界……創って見せるさ。 だから、全部お兄ちゃんに任せておけ…………ナナリー)



たった一人の妹、ナナリーを必ず守る。
彼女が絶えず笑って生きていけるような世界を造る為に、今の腐った世界を創り変える。
ゼロは本当に一瞬だけ、己の全ての感情を晒して、そう宣言する。
其処には魔王でもなく、ゼロでもなく、ましてやルルーシュ・ランぺルージでもない――



――只、妹を気遣う、心優しい一人の兄が居た。



◇     ◇     ◇


「そろそろ行こうとするか、水銀燈」
「わかったわ、それで何処か目的場はあるわけぇ?」

程なくして戻ってきた水銀燈とゼロは出発の準備を整える。
互いに一人で何をしていたのかを、二人は特に聞き合わない。
彼ら二人が同盟を組んだ理由はこの殺し合いに生き残るため。
そのために、会話は最小限に、必要以上に言葉を交わす必要もないためだ。
やるべき事は残りの参加者の数減らし――だが、未だ具体的な目的は決めていない。
よって水銀燈はゼロに疑問をぶつける。

「中心部に集まる人間は多いかもしれない、標的を捜すにも困らないだろう。だが、それよりも私はこの地図の端はどうなっているのか気になってね。
まあ、恐らく楽に此処から脱出出来るようにはなっていないだろうが、行き止まりか何処かへ続いているかは知っておいて損はない」
「……真ん中に急ぐ理由もないわよねぇ、わたしもべつに構わないわ」

そういえばそうだ。
思い出したように水銀燈は地図に書かれていた端のエリアを考える。
この先は、地図に書かれていない先には何があるか。
既に何人かの参加者はこの地形が反対側のエリアにループしている事に気付いているが、水銀燈には知る由もない。
それは勿論、ゼロにとっても同じ事。
そしてギラーミンが用意したこの会場を調べる事は、彼の力の一端を知る機会になるかもしれないとゼロは考えていた。

「では、改めて行こう。守りたいものを取り零すコトのないようにな」

ゼロの意思は固い――言うなれば不退転の意思。
漆黒のマントを翻して、ゼロは歩き出す。
水銀燈もデイバックを担ぎ、ゼロ少し後ろを追うようについていく。
大きい、漆黒のスーツに覆われたゼロの背中が水銀燈には嫌に大きく見える。
『守りたいものを――』ゼロがそう口に出した時、水銀燈は彼の雰囲気が変わったように思えた。
しかし、ゼロとは信頼関係もなく仮の協力者に過ぎない。
直ぐにゼロの事など意識の片隅に置き、水銀燈はあくまでも自分の事について考え始める。


(わたしの守りたいもの……ばかねぇ、そんなコト考えるまでもないじゃない。アリスになって、お父様に会う……これが私の望み。
それ以外はなんにもいらなぁい……だけど――)

自分達を造って、直ぐに消息を絶ったローゼン。
愛するお父様の事を考えるだけで、水銀燈はいてもたってもいられなくなる。
一刻も早く、抱きしめてもらいたい、褒めてもらいたい――頭を撫でてくれるだけでも構わない。
自分の名前を優しく呼んでくれ、自分だけに愛を注いで貰える日を掴むまで、水銀燈は脱落するわけにもいかない。
だが、その筈であったのに何故か、水銀燈の脳裏にローゼンの他にもう一人の人間が浮かぶ。
何故、浮かびあがったのかは幾ら考えても理由はわからない。
そう、病弱な身であり、いつも病院の病室で自分を待っていた少女――自分を“天使様”と称した不思議な人間。


(まったく、なんなのよ……もう……)


自分の媒体、柿崎めぐが自分に向かって笑みを浮かべている姿が水銀燈にははっきりと見えていた。




【B-3 中心部 ログハウス近く/1日目 黎明】

【ゼロ@コードギアス ナイトメアオブナナリー】
【状態】:疲労(小)
【装備】:大戦槍@ワンピース
【道具】:基本支給品一式、強力うちわ「風神」@ドラえもん、MH5×4@ワンピース
【思考・状況】
1:ナナリーの捜索。
2:ナナリーの害になる可能性のある者は目の届く範囲に置く、無理なら殺す。
3:マップの端がどうなっているか調べる、その後中心部を目指す。
4:ギラーミンを殺して、彼の持つ技術を手に入れる。
5:自分の身体に掛けられた制限を解く手段を見つける。
【備考】
※都合が悪くなれば水銀燈は殺すつもりです。(だがなるべく戦力として使用したい)
※ギラーミンにはタイムマシンのような技術(異なる世界や時代に介入出来るようなもの)があると思っています。
※水銀燈から真紅、ジュン、翠星石、蒼星石、彼女の世界の事についてある程度聞きました。
※ナナリーの存在は水銀燈に言っていません

【水銀燈@ローゼンメイデン】
【状態】:健康、服に若干の乱れ
【装備】:卵型爆弾@バッカーノ、チェスの長メス@バッカーノ
【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
1:優勝を狙う。
2:しばらくはゼロと組んで行動する。
3:守るべき者って……バカバカしい。
【備考】
※ナナリーの存在は知りません



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最終更新:2012年11月27日 23:26