彼女の秘密と彼女の力と◆UcWYlNNFZY



「はぁ……はぁ……頑張ろう伊波さん」
「う、うん……新庄さん」

深い深い森の中、長い黒髪の少女と短い茶髪の少女が懸命に坂道を走っていた。
二人の名は新庄運切と井波まひる。
彼女達はカズマから逃がしてくれたメカポッポの為に休む間も無く唯走っている、ひたすらに。
自分達を信じてくれた唯の機械、でも優しい心持つメカポッポの為に。
そして、メカポッポを信じきる為に、彼の信頼を裏切らない為にも。
二人は何度途中で助けに行こうと思ったか。
でもそれは信頼を裏切る事。
だから、二人をそれを選ばず体力の続く限り走っていた。


(私は……)

そんな中、まひるは走りながら一人沈んでいた。
自分の手を引いて走っている新庄の背を見つめながら。
思うのは自身の事。

(私……何が出来るんだろ……)

無力、そう思ってしまって。
この殺し合いにはカズマみたいな不思議な力を持つ様な人達が沢山居る。
そんな中でまひるは何も力を持っていない。
いや、男の子を問答無用で全力で殴るという癖があるが些細なものだ、きっと。
兎も角、まひるはそんな不思議な力を持つ人達が居る中で自身の無力さをかみ締めていた。

(でも……諦めない。だけど……私は生き残る為に何をすればいいんだろう……)

それでも、まひるは諦めない。
生きる事を、日常に帰る事を。
それが、最初に出会った中年の小父さんとの約束なのだから。
絶対にまひるは歩みを止めない、とめるわけにはいかない。
だけど自身が生きる為にはこの殺し合いでまひるは何をすればいいか。
幾ら自身に問うも答えは返ってこない。
当然だ。

まひるは普通……ちょっと変だけどそれでも普通の女の子なのだから。
普通に学校に言って。
普通にバイトをして。
普通に恋をして。
普通に男をぶん殴って……普通?
……兎も角そんな代わり映えのしない何時もの日々を送っていたまひる。
そんな彼女が突然に非日常の殺し合いで何かの役割を見つけようとしても……簡単にできる事ではない。
いきなり、自身の役割を見つけろといわれても無理なものだ。
そんな事も露知らずまひるは自身の役割を未だに探し続けていた。
見つかるわけもなく心のモヤモヤは波のように広がっていくだけ。
考えれば考えるほど見つからない。

(あ~~~も~~~~~!!)

まひるはクシャクシャと空いている左手で短めの髪を掻く。
有体に言えば焦っていた。
いつまでも見つからない答えに。
あせる必要性など無いのに唯焦っていた。
メカポッポが体を張って頑張ってくれたのに。
何も見つからない自分が恥ずかしくて。
悔しかった。
それだけを考えていたせいかも知れない。

「あっ!?……きゃあ!?」

周りが見えておらず足元にあった大きな木の根にまひるが気付かなかったのかは。
そのまままひるは気づかず木の根に足を取られ前のめりになってしまう。
そして前に居るのは新庄。

「新庄さ……きゃあ!?」
「え?……きゃああ!?」

まひるが注意する間も無く新庄を巻き込んでしまった。
そして新庄達が走っていたのは坂道である。
しかもかなり急な下り道。

つまり


「「きゃああああああああああああ!?」」


そのまま二人は一緒になって転がり下っていく。
それもかなりの速さで。
二人はなす術も無く転がっていき止るのを唯待っていた。
そしてゆっくりと減速していき平らの道で二人は止まった。
しかし未だに二人は目が回って思考が定まらない。

「し、新庄さーん……御免なさーい……」
「ふぇぇ……な、何があったのー?」

新庄は痛む頭を摩ろうと手を動かそうとするが動かない。
何事かと目を明けた先ににあったのは青と白の縞々。
新庄が混乱し始めた時、

「新庄さーん……私、新庄さんの下になってる……」

股間から聞こえてくるまひるの声。
よく考えると体に当たる感触がとても柔らかい。
どうやら転がっている間に何時の間にか新庄がまひるを覆い被さる状態になってしまったらしいのだ。
新庄が上でまひるが下。
そして、体勢は新庄の足の方向にまひるの顔と手があり、またまひるの足の方向に新庄の顔と手が。
……何だかとてもいやらしい体形になっているようだ。
新庄がそう思いこの縞々の謎に思いつく。

(つまりこれは……縞パ……)

そう思い当たり新庄は閉口する。
何だかとっても気まずい。
すごーく気まずい。
そう新庄は思い焦る。
焦る。
とりあえず新庄が今すべき事。

「とりあえず……体を……ど、どけるね……」
「う、うん」

体をどける。
この体勢は凄く不味い。
そう思い起き上がろうとするも

「あれ……なんか体が絡まって……?……あれれ?」

何か足や手がまひるの体が絡まっている様で上手くいかない。

「ひゃぅ!? 新庄さん……そこは……あぅ」
「え!?……あ、御免!?」
「あっ……ひゃ」
「えぇえぇえ?!……なんで嬌声?!」

新庄が体を動かす度に何故か嬌声を上げるまひるに焦りが増していく。
何としても早く退けようそう考えるだけで頭が一杯になっていた新庄はある事に気付かなかった。
ほんの数時間前まで神経をすり減らすまで考えていた事。
それを今、何故か広がっている桃色空間を何とかする事だけに思考をめぐらせたが故に。
その瞬間まで新庄は気づかなかった。
そう

「ど、どうしよう…………あっ」

性別が入れ替わる瞬間を。
女の子から男の子の体に変ることを。
忘れていたのだ。
体が霧のようなものに包まれてそして変わる。

(ああっ!?……ど、ど、どうしよう!?!?)

男の子に。
あっという間に新庄は男に代わってしまった。


その瞬間、まひるは何をしていたかというと。

(な、なんでこんなことに……ひゃん……)

唯、何か不思議な感覚にビックリし目を瞑っていた。
局部には何か新庄の息が吹きかかってくるし。
新庄の豊満の胸が体に当たってくるし。
新庄の手は何処か敏感な所に当たってくるしでまひるはただ驚いていた。
なんか顔が真っ赤になっていた時。

まひるの体にあたる新庄の体の感触が変わり始めていた。
羨ましいぐらいの豊満の胸の感触は無く。
そして顔の近くにあった新庄の局部からなんとも言い表しがたい感触が。

「………………………………え?」

まひるは思わず声を出してしまう。
何か存在してはいけない何かが新庄についている。
女の子には無いもの。
まひるは見たこともないが……何となく解ってしまった。

それは男の子に分類される者が持っているもの。


でもまひるは新庄が女の子だとさっきまで思っていた。
羨ましいぐらいの胸と先ほどまでこの感触は無かったのだから。
なのに唐突にこの男の子っぽいものを感じた。

まひるは考えて……そして思いついた言葉を言う。
何も無い本心から、思ったことを。

「えっと、新庄さんって」
「……う、うん」

なんともいえない静かな時間が流れて。

そして。




「………………………………………………両性類?」
「………………………………漢字はそれっぽいけど意味は全然違うよ…………」



余りにも素直なまひるの感想。
新庄は大きな溜め息をつきながらそれを否定する。
両方の性別を持っていることは確かなのだが『両性類』とは流石に言われたくなかった。
心の、心の底から。
しかも、もともとの両生類の意味と全然違うのだから。

しかし、つまりそれは……


「じゃあ………………………………………………男の子?」


新庄が男の子であることの証明でもあり。
それに新庄はごまかすことが出来ずにいた。
何故なら新庄の局部のアレがまひるの顔に当たっていたのだから。


「………………………………………………う、うん…………今は…………そう」



肯定。
続くのは妙な間。
静かに時は流れて。
聞こえるのは葉っぱが擦れる音だけ。


そして


「きゃあああ!!」


まひるの悲鳴。
上に乗っていた新庄を凄まじい力で突き飛ばす。
沸き上がる嫌悪感から。
新庄はなす術も無くまひるの上から跳ね飛ばされた。
新庄はそして


「……え、えーと…………………………………………やっぱり……………………殴るんですか?」




その時一迅の風が吹いて。





「ええ、御免なさいっ! やっぱり殴るわ!!」




ストレート一閃。


「ひゃん!?」


綺麗に新庄の顎にヒットして。

「はぅ!?」

続いてアッパー。

「あぅ!?」

ジャブ。


最後に

「いやーーーーーー!! 男ーーーーーーー!!!!!」
「うぐぅ!?」


右ストレートが顔面に。


その鮮烈で強烈な一撃を食らった新庄は


「御免ね……伊波さん……ボク……隠していて」



静かに地に伏せた。
予想以上の威力に驚きながら。
言わなかったことに後悔しながら。
やすらかに倒れたのだった。
その様子にまひるは我に返り

「あ……私……そんなつもりじゃ……御免……御免なさい!」

ジワッと涙を溜めて居た堪れなくなり走り去り近くの茂みに身を隠した。
殴ってしまった後悔に苛まれながら。

新庄はそれを見送ることしかできずその背を見ていただけ。
動こうにもダメージ大きく中々立ち上がることが出来ない。
その時、女の子を泣かすなど新庄君も中々悪いとあの声が。

(いや……それ今ボクにかける言葉……?)

何故か聞こえてきた佐山の声に突っ込みを入れつつ思う。
隠していた事。
もし、もっと早く話しておけばまひるを悲しませることは無かったんだろうかと。。
苦しませることが無かったんだろうか。
そう、自問するも答えは一向に返ってこない。
間違ったのだろうかと新庄は一人後悔し。

そして。

静かに。
静かに。

目を閉じた。




新庄・運切@終わりのクロニクル 死亡確認】






「…………いや、死んでないから」




あ、生きてた。



【新庄・運切@終わりのクロニクル 生存確認】






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「私……何やってるんだろう……」

まひるは深い茂みの中、体育座りしながら落ち込んでいた。
原因は新庄を殴ってしまったこと。
何故、新庄が男になったかは解らない。
でも、何も言わず殴ってしまった。
癖とはいっても何発も。
しかも何も言わず逃げ出してしまった。

もっとしっかり謝らないといけないのに。

(あぁ……もう……私……駄目駄目だ……)

生き残ろうと何が出来るかを考え始めた途端この騒ぎだ。
結局、自分は何もできはしない。
そう思いまひるはどんどん自己嫌悪に陥っていく。
頭をポカポカと叩きどんどん落ち込んでいく。
負の連鎖が広がりどんどん哀しくなっていく。
思うのは

(小鳥遊君……あいたい)

想っている人の事。
唯、会いたかった。
会って何もする訳ではないけど会えばきっと落ち着く。
そう思って。
哀しみだけが広がることは無いと思って。
唯、そう想い続けていた。
そんな時

「伊波さん!」

茂みの向こう側から新庄の声が。
殴られたダメージから回復し急いでまひるの元にやってきたのだ。
このまま何も知らないままなんて新庄は絶対いやだったから。

「あの……ボクの話聞いてもらえる?……隠していてそんな事言う立場じゃないけど……」
「うん、聞くよ」

新庄の問いに即答するまひる。
まひるもこのままなんて絶対嫌だったから。
だから茂み越しに話を聞く準備をした。

「えっと信じてもらえないかもだけど……ボクは性別が入れ替わるんだ」
「……え?」
「午前5時半から6時までに男に、また午後5時半から6時まで女に代わる……そんな性質なんだ」
「……そうなんだ……」
「でも精神、人格は『ボク』固有のもの。変わるのは体だけ。精神自身の性別は……答えられないけど」
「そう……」

新庄が体の秘密を明かす。
真実を教える度にまひるの応答の声が弱くなっていく。
当然かもしれない。
そんな事いっても急に信じられる訳ないから。
元々男の子でしたと想われるのが関の山だ。
ある意味常識外れた事、まひるが信じられるわけが無い。
そう結論付けて、でもそれでもこれだけは言いたかった。

「これが隠してた秘密……隠してて御免ね。信じてもらえる訳無いけど……御免ね」


唯、秘密を隠していた事。
これだけは謝りたかった。
その時だった。

「信じるよ、私」

信じるという力強い言葉が返ってきたのは。
それがまひるが下した結論。
凛とした意志の篭った言葉。

「凄い不思議な感じだけど……でも私は新庄さんがいったことを信じる」
「伊波さん……」
「触っちゃったしね……し、新庄さんのあ、あれ」
「う、うん……」

直接感じただけはではない。
まひるは見つけ、決めたのだ。

「ううん……新庄さんの秘密だけじゃない……私はどんな時でも信じる」

『信じる』という事を。
どんな時でも信じ、信頼をする事。
それがまひるがこの殺し合いの場所で出来る事。
何の力も持たないまひるが出来る役割。
仲間を信じる事。
希望を信じる事。
未来を信じる事。

最後まで絶対に諦めずに信じ抜く事。

それを助けって貰った中年の小父さん、メカポッポから教えてもらったたった一つのこと。

でもそれはとても大きく大切なもの。

それがまひるの持つ力。

それをまひるは貫こう。

そう、思ったから。


だから、まひるはあきらめない。
最後まで。





「信じるから……新庄さんの事」
「伊波さん……ありがとう」
「ううん……こっちこそ殴って御免ね」
「ううん……仲直りしよっか」
「うん、そうしよう。新庄さん……これからもよろしく」
「うん、伊波さん……こちらこそよろしく」

そして笑い始める。
もう二人は大丈夫。
そう感じながら。

「あ、でも伊波さん男性恐怖症は……」
「そんなに近づかなきゃ大丈夫。新庄さん男の子に見えないし……多分」
「多分……!?」
「う、うん。大丈夫だよ。大丈夫」

あははーと乾いた笑いを出しながらまひるは思案し始める。
そこまで近づかなきゃ大丈夫だと思っているが不安が頭をよぎっている。
何か無いかとデイバックをあけた時、それをまひるは見つけた。

「こ、これは……!?」






◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





日がもう高い所まで昇り朝を告げている中、二人は手を繋いで歩いていた。

「……伊波さん。いつもこのように小鳥遊君と歩いていたんだ?」
「……ええ」

いや、新庄のが握っているのは機械の手。
別名マジックハンド。
通販で3980円である。
今ならキャンペーンでもう一本ついてきます。

(なんで都合よく入ってるのだろう……)

まひるは溜め息をつきながらマジックハンドの先っぽを握っている。
いいじゃないですか、凶暴な伊波さんの為に主催者が用意したんですよと聞こえてきた小鳥遊の声を無視して。
兎も角、今あるお陰で新庄と無事歩けている。
これも小鳥遊君のお陰だろうかまひるは笑うも。

「伊波さんと小鳥遊君って面白くて不思議な関係だね」
「……ええ」

ガクッと落ち込む。
恋愛関係に発展することは有るのだろうかとまひるは思うも答えは返ってこない。
はぁと溜め息をついた瞬間、

「あっ!?」

木の根にまた足が取られてしまい目の前の新庄にぶつかる。
ちなみに新庄は今男の子である。
つまり

「きゃーーーーーー!?!?」
「あぐぅ!?」

綺麗に決まったストレート。

まひるの恋も男嫌いを治すのも。

殺し合いの場ではあっても。


未だ


前途多難であった。




【A-2/北西部/早朝(放送直前)】



【新庄・運切@終りのクロニクル】
[状態]:健康 、顔面打撲
[装備]:尊秋多学園の制服、運命のスプーン@ポケットモンスターSPECIAL 、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃 6/6 @トライガン・マキシマム
[道具]:支給品一式 予備弾丸36発分
[思考・状況 ]
1:メカポッポの到着を待つ。
2:小鳥遊、もしくは仲介役の女性を捜す。
3:まひると行動する。
4:佐山と合流しここから脱出する
5:ブレンヒルトについてはまだ判断できない。
6:人殺しはしない。
※まひるを信用しています。
小鳥遊宗太については、彼の性癖とかは聞いています。家庭環境は聞いていません
※新庄の肉体は5:30~6:00の間にランダムのタイミングで変化します。
 変化はほぼ一瞬、霧のような物に包まれ、変化を終えます。
 午前では女性から男性へ、午後は男性から女性へ変化します。
※本当に引き金を引けたかどうかは不明です
※カズマを危険人物だと認識しています
※何処へ行くかは次の方にお任せします。
※まひるに秘密を話しました


伊波まひる@WORKING!!】
[状態]:疲労(中)、足に擦り傷・切り傷
[装備]:学校の制服
[道具]:支給品一式、ARMSのコア(中身は不明)@ARMS マジックハンド×2 @WORKING!!
[思考・状況]
1:メカポッポの到着を待つ。
2:新庄と行動する。
3:諦めない。常に信じ抜く。
4:佐山、小鳥遊と合流する。
※新庄を信用しています。また、彼女の特異体質を知りました
佐山・御言に関しては変な人ということを聞いています。ブレンヒルトについては、知り合いということだけ聞いています。
※運命のスプーンのことは知りません。
※ARMSのコアの事は一応目を通しましたが、何の事かよくわかってません。
※メカポッポ :参加者のある程度詳細な情報を持っています。
※何処へ行くかは次の方にお任せします。


支給品紹介
マジックハンド @WORKING!!
小鳥遊がまひるに触れるように通販で買ったマジックハンド。
3980円。
一度まひるに破壊されるも買いなおした。
その時キャンペーンでもう一本ついてきた代物である。




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Believe 新庄・運切 合言葉はラブアンドピース(前編)
Believe 伊波まひる 合言葉はラブアンドピース(前編)



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最終更新:2012年12月02日 04:17