炸裂―エクスプロード―◆SqzC8ZECfY
荒涼たる不毛の大地を、凍てつく風が吹き抜ける。
冷たい夜の闇の中、いつ訪れるともしれぬ死を身近に感じる、そこは寒くて残酷な場所だった。
飛来する榴弾砲の音が大気を切り裂いていた。
攻撃ヘリが敵陣に爆炎を巻き起こす。
硝煙によって燻された血の匂いが辺り一帯を満たしていた。
苛烈極まりない地獄の戦場。
その真っ只中で共に命を賭けて戦い抜いた同志たち。
もはや誰も在り処を知らぬような大義も誇りも名誉も栄光も何もなく、ただ仲間たちの命のためだけに駆け抜けた、在りし日の戦場がそこにあった。
――――だが、これは夢だ。
もう二度と還っては来ない。
砕けて散って、もう元の形には戻らない。
だからこそ自分は、自分たちはせめて、その粉々に砕け散った破片をかき集めて、歪みきっていようとも、過ぎ去った夢の残影を見続けている。
もはやそれしか残されていないから。
意味などというものを問う時間はとうの昔に過ぎ去った。
ただ眺め続ける――――夢の残滓を。
狂気の炸裂をその胸に抱きながら。
さあ、戻ろう。
偽りの戦場へ。
血と硝煙の匂いが嗅げるのならば、どこだろうと構わない。
虚飾に満ちた名誉や栄光などというものに頓着さえしなければ、それは世界中のいたるところで繰り広げられているのだから。
◇ ◇ ◇
世間一般の人間はトイレがどれだけ崇高なものかわかっていない。
トイレは排泄行為をするだけの場所ではなく、ゆるやかに物事を考えることのできる個室空間なのである。
個人宅のトイレもいいが、やはり通なら公共トイレの個室だろう。
他人が近くにいて、天井には外との隙間があるというのに、プライベートが保障されている矛盾に満ちた空間。
自らの恥部をさらけだした開放感に酔いしれつつ、今後の生き方を考えるのもよし、過去を振り返るのもよし、壁に書かれている落書きを楽しむのもまた一興。
しかも、誰かに覗かれているのではないかという、マゾヒスティィックな要求にも、覗きたいというサディスティィックな要求にも、応えてくれる柔軟性がある。
ここに速さは必要ありません。
気持ちを落ち着かせ、開放感に浸りながら便器と友達になる!
その便器は友達でーす!
トイレと僕とぉぉぉ……。
さて、ここはC-4駅内の公共トイレ。
ぶっちゃけた話が男子トイレである。
他に誰もいないその個室。
本来ならば、いついかなるときでも速さを追い求めるこの俺、
ストレイト・クーガー。
そんな俺でもトイレの個室ではゆっくりと時の流れを楽しむただの男に戻るのである。
だがしかし、今の俺には使命がある!
そのためにはトイレすらも最速で済まさなければならない!
それは美しき女性を守るということ。それは男の本懐、いや義務といってもいいだろう。
女性なくして男は立たず、その逆もまた然り。男女とはつまりふたつでひとつ表裏一体三位一体創聖合体!
見捨てるという紳士として有るまじき行動を取るなど俺の中のシヴァルリィが許しはしない。
なお、シヴァルリィというのは騎士道精神のことで、忠義と礼節を重んじ、か弱きものをお助けするといった内容のものである!
ごぼごぼごぼごぼ
じゃ―――――――――――――――――――――――――――ッッ。
駅についてからというもの、その事務室内で気を失った女性に付き添っていた俺は突如、生理現象の脅威に襲われた。
まあ、生物としては致し方ないこと。
いつ誰が殺し合いに乗って襲い掛かってくるかもしれない現状では、少しばかりといえど気絶した女性を放って席を外すのは不安だ。
が、最速でトイレに駆け込み、戻ってくれば大丈夫だろうと俺は考えた。
案内盤を眺めてトイレを確認、即ダッシュ。
最速で飛び込んだ公共トイレ、その個室のドアをノック。
最速を追い求めるさなかといえど、エチケットは忘れてはならない。
返事がないのを確認してドアを開け、最速でズボンを下ろし、最速で便器へと座る。
なお、この駅のトイレは清掃が行き届いており、匂いも気にならない。なんという文化的なトイレであろうか。
ここだけはジラーミンに感謝するとしよう。
そして気分よくリラックスした俺の胃腸は今日も変わらず絶好調であり、便秘などとは縁のない最速っぷりを見せ付けた。
色つや文句なし。カズヤあたりが近くにいたら、思わず呼んできて自慢したくなるほどの一品である。
ああ、だが今は最速を求め続けるこの俺、ストレイト・クーガー!
ここで立ち止まっているわけにはいかない! 涙を呑んで傑作のブツをトイレに流し、素早くトイレットペーパーで後始末。
ちなみに俺はウォシュレットにはどうにも馴染めない派である。
文化の結晶と言われようが駄目なものは駄目。
科学の発展とは素晴らしいものだが、置いてきぼりにしてはならないものもあるのだということを俺は本土の文化に触れて学んだのだった。
ズボンを上げ、全てを終えた俺は個室のドアを開ける。
便器の汚れは一切なし。立つ鳥、跡を濁さず。
イッツ、パーフェクト!
トイレットペーパーを三角に折りたたむことも込みで、我ながら最速かつグッドジョブである。
さらに俺は洗面台で手を洗う。
ロストグラウンドでは手を拭くどころか尻を拭く紙にも困るときがあったものだが、やはり文化とは素晴らしいものだ。
液体石鹸を手のひらに取って泡立たせ、爪の先から指の間まで満遍なくこする。
そして石鹸を水で洗い流し、手首のスナップを利かせてしずくを切る。備え付けのタオルで手を拭く。
鏡を見る。相変わらずナイスガイな俺。
手櫛でヘアスタイルを整える。さらに男前だぜ俺。
ああ、ここまで全工程で二分十二秒!
またひとつ世界を縮めてしまったァ~~~~~~~~!
……さて、戻るか。
…………おや?
◇ ◇ ◇
ぼんやりと夜が明け始めた頃。
レッドという少年と別れてから、他の誰かを探してあてどなく歩き続けたフィーロは、誰にも会えないまま、それでも歩き続けていた。
首輪を外すための技術を持つ誰かを探すためだ。
自分ひとりなら首輪が爆発したところで平気なのだが、他の不死でない人間は、そうはいかない。
そしてフィーロはどうしても他の人間を蹴落とすことができない。
その身に取り込んだセラードに取り込まれないためにも。
ひょっとしたらギラーミンはそれを承知で不死者であるフィーロをこの殺し合いに参加させたのかもしれない。
たとえクレアがいようと、不死のアドバンテージがあれば優勝を狙うのも、決して可能性ゼロというわけではないからだ。
それにしても気になるのはラッドのあの姿だ。
刑務所で知り合った頃の1930年代と殆ど変わらない。
いつのまにか不死者になったのだろうか。会うことがあったら聞いてみよう。
少なくともあいつが殺し合いに巻き込まれたからって、そう易々と死ぬようなタマには見えないし。
フィーロはそんな取り留めのないことを考えながらも歩き続ける。
不死者は疲労で乳酸の溜まった筋肉も自動的に再生する。
ゆえに限界まで運動すれば力尽きはするが、すぐに回復できるのでほとんど疲れ知らずということに等しい。
だが精神のほうはそうはいかなかったようだ。
ややもすると流石に少々うんざりしてきたので、この近くにある駅へと向かうことにしたのだった。
一休みして腰を下ろす椅子くらいならあるだろうし、地図にも載っているのだから、何もないところよりは他の誰かが来る可能性は高いと踏んだからだ。
かくしてC-4駅へとたどり着いたフィーロ。
正面から入って、やや広いスペースの待合室に出る。
電車を待つ客のためのものであろう長椅子に溜息を付きながら腰を下ろした。
年寄りくさいな、と自分でも思う。
もっとも実際にそれくらいの年ではあるのだ。十代の外見をキープしているだけで。
しかも年より若く見られる童顔なので、どうせならもっと年食ってから不死者になればよかったと思うことがしょっちゅうあった。
そこで、おや――と、あることに気がついた。
何気なく向けた視線の先、駅員用の事務室に続くドアが見える。
忍び足でここに入ってきたわけではないし、もし誰かいるとしたら足音などで気付いていそうなものだが。
誰か、いるのか――声に出す。
返ってくるのは静寂だけ。
よく考えれば今は殺し合いの真っ只中にいるのだから、誰かいるとしても返事があるほうがおかしい。
むこうから見ればフィーロが殺人者かもしれない可能性がある。
そもそも声を出して呼びかけるほうもどうかとはフィーロ自身も思うが、自分が不死者であるという事実が多少大胆な行動を後押ししていた。
そして何故かフィーロはむしろそこで返事をかえす変人にばかり縁がある。
だが今は少なくともそのような変人はいないようだ。
受付の窓口からそっと中を覗いた。
ありきたりな机と書類、電話、FAXなどの通信機器がならぶ光景。
部屋の中央にソファ。ここから見た限りでは無人。
だが電話がどこに繋がっているのかは興味がある。
もしかしたら他の施設に連絡が取れて、自分が探す技術者が見つかるかもしれない。
そこまで考えながら、ふと思う。
殺し合いに不死者が参加していたらどうにもならないよなあ、と。
最初の空間でのギラーミンの話を聞く限り、それを知りながら自分のような者を参加させたようだし、一体どういうつもりなのかわからない。
――後から思えばそこでもっと考えるべきだったのだ。
不死者を殺し合いに参加させる理由について。
もっとも不死そのものを限定的ながらも無効化するなど、今まで同じ不死者以外には誰も殺せない存在として長年生きてきた彼には、教えられたとしてもにわかには信じがたかったであろうが。
フィーロはアルミ製のドアに近づいて、そっとノブを回した。
◇ ◇ ◇
明滅する意識。
光――浮上する感覚。
ぼんやりと目を開ける。
どこかの事務所のような風景。
ソファに寝かされている。
起き上がろうとして腹部に鈍痛。吐き気がしたが堪える。
そして意識を失う前のことを鮮明に思い出す。
急速に五感を覚醒させて身体を起こすと、目に入ったのは二つのデイパック、自分が所持していたオートマグとカラシニコフ。
デイパックの一つが自分のものだとして、もう一つは誰のものだ?
急いで中身を確認した。
まず出てきたのはデザートイーグル。マガジンは空のまま。
他にも出てきたのは探知機と食料などの基本支給品。
これは
バラライカ自身の荷物。ならばもう一つを調べる。
そこにはこちらと同じ基本支給品。他には金髪の男が朗らかに笑う写真が貼られた手配書。
通貨の単位がよくわからないが随分と高額な賞金首のようだ。
そのわりに写真からはそんなに恐ろしい男だというイメージが微塵も伝わってこないのはどういうことだろうか。
他にも手書きで『モヒカン男と麦藁帽子の男に気を付けろ byストレイト・クーガー』と走り書きがしてあった。
このストレイト・クーガーという人間が自分をここまで連れてきたのだろうか。
そしてそいつはどこにいったのだろうか?
そこで思い至ったのが探知機の存在だった。
急いで調べると反応は至近距離に二つ。
荷物をそのままにしておいたということは、おそらくすぐに戻ってくるということだろう。
直ちに戦闘準備。
予備弾を取り出して、たまたま手に取っていたデザートイーグルに熟練の手さばきで弾丸を込めていく。
「――誰か、いるのか」
初めて聞く声。
近い。
とりあえず弾込めを終えた銃とカラシニコフ、残りの荷物を詰めた二つのデイパックを手に取り、机の影に身を潜める。
どうするか。
数的に不利。地の利もなく撤退戦も困難。
相手があの麦藁や不死者の同類であった場合、勝ち目は薄い。
どうせならいっそ特攻でも悪くはないか――と考えた矢先、クーガーというらしき人間のデイパックに入っていた未知の支給品に思い至った。
説明書きを読むと、それは普通に考えれば荒唐無稽な戯言。
だが不死の酒すらある程度の効果はあった。
ならばこれも試す価値は充分。
バラライカが取り出した、一見なんの変哲もなさそうな輪のようなもの――――説明書きには【通り抜けフープ】と書かれていた。
クーガーがトイレに行かなければ――、
バラライカがその二、三分の間に目を覚まさなければ――、
そこにフィーロがやってこなければ――、
なぜ銃を取り上げていなかったのか――クーガーが銃弾をものともしないアルター使いでなければ――、
そこに通り抜けフープがなければ――、
フィーロが不死が不完全ということに思い至っていれば――、
様々な偶然が重なり、そしてこの状況が生まれた。
どれかの要因が欠ければ成り立たなかった偶然。
だが、そうはならなかった。
そうはならなかったのだ。
だから――――もしもの話はここで御仕舞。
◇ ◇ ◇
何者かの声を聞いたクーガーがアルターを脚部限定で展開し、駅の離れに位置するトイレからほぼ一瞬で戻ってきた瞬間のことだった。
見知らぬ少年。
そこを開けた途端の攻撃に用心するかのように、事務室のドアの正面に立たないようにして、横からドアノブを回そうとしていた。
一見して怪しい振る舞い。
あの女性のいる部屋に忍び込んで何か不埒な振る舞いをするつもりだろうか、と考えても無理はない。
だが、クーガーが目を奪われたのはそこではなかった。
少年の背後の『壁』。
そこから『上半身だけが抜け出して銃を構える女』の姿。
狙いは少年の後頭部に固定。
銃声。
一発目――少年の頭に文字通り風穴が開いた。
二発目――頭蓋の中身が飛び出して床に飛び散った。
三発目――少年の下顎から上が綺麗さっぱり消失していた。
一瞬が、まるでコマ送りのように引き伸ばされた時間のように変化した。
致命的な火薬の匂い。
女の上半身は壁の中にずるりと入り込んでいく。
血煙。硝煙。
そしてドアに寄りかかるようにしてゆっくりと崩れ落ちる『少年だったモノ』。
「――お待ちなさいぃぃぃぃッッ!!」
クーガーが弾け跳んだ。
まさしく弾丸と化して女が消えた壁に向かって突撃。
「衝撃のファーストブリットォォォォォォォォ――――――――!!!!」
突き抜けた壁の先――吹き荒れる爆風。
凄まじいスピードが大気をも巻き込み、猛烈な勢いで入り込んできては、流出していく。
窓から差し込む朝日の輝きはレーザーのようで、舞い上がる埃が微細な羽毛のように浮かび上がる。
だが、少年を撃った――――クーガーが助けた女の姿はすでにどこにもなかった。
そこには一つの死と、虚無だけが残った。
【フィーロ・プロシェンツォ@バッカーノ! 死亡】
【C-4/駅・事務室内/早朝】
【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:やや混乱 、左肩、右脇腹などに銃弾による傷(アルターで処置済み)
[装備]:HOLY部隊制服、文化的サングラス
[道具]:なし
[思考・状況]
0:女を捜す
1:ジラーミンに逆らい、倒す
2:無常、ラズロ(リヴィオ)、ヴァッシュ、ルフィ、バラライカ(名前は知らない)には注意する
3:
カズマ、劉鳳、
橘あすかとの合流。弱者の保護。
【備考】
※病院の入り口のドアにヴァッシュの指名手配書が貼ってあります。
※ジラーミンとは、ギラーミンの事です
※
ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚に『モヒカン男と麦藁帽子の男に気を付けろ byストレイト・クーガー』とメモ書きされています。
※C-4駅事務室入り口にフィーロの荷物が落ちています。
【C-4/駅のそば/早朝】
【バラライカ@BLACK LAGOON】
[状態]:腹部に中程度のダメージ、身体全体に火傷(小)、頬に二つの傷
[装備]:デザートイーグル(5/8、予備弾×24)AK47カラシニコフ(30/40、予備弾40×3)
[道具]:デイパック(支給品一式×3)、デイパック2(支給品一式×1/食料一食分消費)、AMTオートマグ(0/7)、不死の酒(空瓶) 、探知機
のび太の不明支給品(1-3)、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚、通り抜けフープ
[思考・状況]
0:一旦、体勢を立て直す。
1:戦争(バトルロワイアル)を生き抜き、勝利する。
※のび太から、ギラーミンのことや未来のこと、
ドラえもんについてなどを聞き出しました。
※のび太の不明支給品の中には武器、秘密道具に属するものはありません。
※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚に『モヒカン男と麦藁帽子の男に気を付けろ byストレイト・クーガー』とメモ書きされています。
※デイパックを二つ持っています。
※これからどう行動するかは次の書き手さんにお任せします。
【通り抜けフープ@ドラえもん】
クーガーに支給された。
形状は現代のフラフープと同じ形。これを壁やドアなどに接地すると、フープをくぐってそのドアや壁の向こうへ抜けられる。
ただし、次元を操作することによって、通り抜けできなくしたり、全く違う所への抜け道になったりする。
フープの形は基本的に円形で固定されているが、ポケットから取り出した後や、壁に設置した後取り外す時に形が変形する時もあり、ある程度柔軟な素材で出来ている。
なお、ロワ内では制限であまり厚い壁、および遠距離には抜けられないようになっている。
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最終更新:2012年12月02日 05:33