吉良吉影は挫けない◆EHGCl/.tFA



「心の平穏」――それは吉良吉影が何よりも愛し、そして何よりも優先させるもの。この殺し合いの場に於いてもそれは寸分も変わらない。
殺し合いに参加する気など欠片もなく、ただ平穏を手に入れられればそれで満足。
ある二人のスタンド使いを除けば、誰が死に誰が生きようが吉良には全く関係ない。
「平穏」を邪魔する者が居るのならばスタンドで跡形も無く消し飛ばし、自分の秘密を知る仗助と広瀬康一は遭遇し次第抹殺する。
自ら積極的に動くつもりは微塵もなく、また無理に脱出を目指すつもりもない。
下手に主催者へ反抗し、首輪を爆破されでもしたらたまったものではない。
それならば、植物のように平穏に過ごし、それなりに人数が減った時を見計らい漁夫の利でゲームを制した方がまだマシだ。

結局の所、行き着く立場は中立。
ゲームに乗るでもなく、反逆をする訳でもない。
動く時には動き、それ以外は「見」に徹する。さすれば、「平穏」への道は開かれる筈。
―――吉良は冷静に、決して慌てる事なく思考し、歩みを進める。
その足取りには僅かな迷いもなく、また躊躇いもない。
そして彼は目的地に辿り着く。
平穏な時間を過ごすには最適な、だが優雅な時間を満喫する事は不可能であろうその施設。

―――ゴミ処理場に。






「……ついたか……」

その光景を見渡した後、吉良吉影が最初に呟いたものは疲労の籠もった言葉であった。
眼前にはゴミの山が積まれ、鼻の奥に突き刺さるような独特の臭いを発している。
吉良は胸元からハンカチを取り出し鼻と口を覆い、ゴミ山に足を踏み入れ始めた。

(この劣悪な環境ならば滅多に人は近付かないだろう……。……不快で仕方がないがこれも「平穏」の為だ……)

直ぐ近くにはゴミ処理場もあるが、先の温泉の例からして施設内には人が居る可能性も高い。
ならば多少の不快感は我慢し、ゴミ山へと身を隠した方が良いだろう。
それにゴミ山の上からなら他の参加者の接近にも気付き易い。
臭いさえ我慢すれば他の参加者に見付かることもないだろう。

東の空は白み始めているが周囲は未だ薄暗い。時折ゴミに足を取られながらも吉良はゆっくりとゴミ山の登山を続けていた。

「む、あれは……」

そして数分後、吉良は隠れ家としては手頃な雰囲気の粗大ゴミを発見する。
それは白色のワゴン車。車輪は四つとも紛失しており外見もボロボロだが、身を隠すことは可能だろう。

(……もう明け方じゃあないか。今日はまだ一睡もしていないぞ)

いつもなら安眠を貪っている時間。
普段から八時間の睡眠を心掛けている彼にとっては異常とも言える活動時間帯だ。
主催者に悪態を吐く代わりに足元のゴミを蹴り飛ばし、吉良はワゴン車へゆっくりと近付く。
万が一の事態を警戒しつつドアを開き、車内へと身体を滑り込ませた。

「ほう、これはなかなか……」

車内には、吉良にとって幸運とも言える光景が広がっていた。
運転席や後部座席は取り払われており床にはシーツが引かれ、隅には人形や本や電気スタンドが載せられた棚が置かれている。
まるで、子供が作る秘密基地をバージョンアップさせたような内部。
やはりゴミだからか、少々鉄臭いがこれならば充分我慢できる範囲だ。

「だが少し薄暗いな。電気スタンドでも付け…………いや、止めといた方が良いか。そんな事をすれば他の参加者に位置をバラしているような物だ」

伸ばした手を引っ込め吉良は置かれている座布団の上に胡座をかく。
あの温泉施設には及ばないが、それなりに快適な時間を過ごせそうな内装。
何故ゴミ山にこんな物があるのか疑問にも思ったが、考えても分かる訳がないので切り捨てる。
それよりもこの隠れ家を発見した、自身の幸運振りに吉良は軽くハイになっていた。

(素晴らしい……素晴らしいぞッ! この危機的状況でこのような場所を見付けるとは、ついている! 『運』はこの吉良吉影に味方してくれているのだ!)

鼻歌すら歌いそうな気分で吉良は窓の外の景色を眺める。
あと数分もすれば日が登り、電気スタンドを付ける事なく内装も確認できるだろう。

(夜明け……この不快極まりない殺し合いが始まって数時間か。あの二人が死んでくれていると嬉しいのだが……。まぁ、そこまで『運』に頼るのも悪いか)

――と、吉良は薄い笑みを浮かべ自身のデイバックへと手を伸ばす。
放送までの僅かな時間を支給品の確認に当てようと考えたのだ。
ウソップが持っていたデイバックは二つ。吉良自身のも合わせれば計三つ。
ウソップが使用した『神威の車輪』のように強力な武器が入っている事を願いつつ、デイバックから手を引き抜く。
吉良が握っていた物は食べ応えのありそうな大きさの果実。
彩りは確認できないがパッと見はそれなりに美味しそうだ。

「非常食……と言ったところか? まぁ、このようなサバイバルに於いて食料が多い事は有利に繋がるが……」

とはいえ、強力な武器を求めていた吉良としては少々の落胆を覚えのも無理はない。
デイバックと謎の果実を脇に置き、気を取り直しつつ、もう一つのデイバック――ウソップのデイバックを漁り始める吉良。
何かに触れた感触と共にデイバックから手を抜き出す。
その右手に握られていた物は――

「なめてるのか、ギラーミンの奴……」

――亀であった。
まごうことなき亀、誰がどう見ても亀、実は仗助の大嫌いな物の一つである亀。
それが吉良の手に握られていた。
ピクピクとこめかみを痙攣させながらも吉良はソッと亀を地面に置く。
その胸中では亀を叩き付けたい衝動が湧き上がっていたが、何とか耐えた。

「……まぁ、良い。私にはキラークイーンと長鼻が使っていた牛車がある。武装としては充分だろう…………と、何だこれは?」

自身に言い聞かせるように呟くと、吉良はその場に屈んで何かを拾い上げる。
それは亀を取り出すと同時に舞い落ちた一枚の紙――俗に言う説明書であった。
だがそんな事を知る由もない吉良は、目一杯紙を顔に近付け薄暗い車内でそれを読む。

『この亀の名はココ・ジャンボ。甲羅の窪みに専用の鍵をはめ込む事により能力が発動し、部屋の中に入れます。
制限として「二度部屋に入る」、「二時間以上部屋の中に居る」、この二つの規則を破った場合ペナルティとして首輪を爆破するので注意するように。
なお、鍵は会場に置かれた施設の何処かもしくは参加者の支給品の中に隠されている。
部屋の中には殺し合いに役立つラッキーアイテムが隠されているから、頑張って探してね』

――その内容は以上の通りであった。
吉良は二、三度繰り返して説明書を読み直し、無言でデイバックの中へ亀と共にそれを押し込む。
その眼には不信と疑惑の入り混じった光が灯っていた。

(……確かに亀の甲羅には「鍵型の窪み」が存在する。この「窪み」に会場の何処かか参加者が持っている「鍵」をはめ込むと「能力」が発動し「部屋」に入れるという事か……信じられない事だが恐らくスタンドのような能力を持っているのだろう)

その怪しい色に染まった瞳をチラリと亀を入れたデイバックへと送る。

(そして「プレゼント」。殺し合いに役立つという事は強力な武器か何かか……まぁ、私には関係の無い事だ。「鍵」を探す為に危険を冒す程ボケてはいない)

視線をデイバックから窓の外へと移し、ため息を一つ。
完全にハズレという訳ではなかったが、自分にとっては大した意味を成さない支給品。
「鍵」を探すなどリスクが高い行動を起こすつもりなど毛頭ない。
偶然「鍵」が手に入ればそれで良し、「鍵」が手に入らなくともそれもまた良し。
吉良は心の片隅に「鍵」の事を刻み、亀についての思考を止めた。

「さて、少し早いが腹ごしらえでもするか。その後は一眠りしたいものだが……」

そうぼやきながら先程デイバックから取り出した果実を掴み、口へと運ぶ。そして一口、噛じり付く。
口の中に広がるは、空腹を和らげるほのかな酸味と渇いた口に染み渡る瑞々しい甘さ―――ではなく、

「お、おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!?」

餓えた胃を引っくり返す強烈すぎる酸味と、渇いた口を唾で溢れかえさせる猛烈な苦さであった。
まるで時を加速させたようなスピードで車外へと転げ落ち、口の中に残る果肉を吐き出す吉良。
ほんの少量であるが既に喉元を通り過ぎてしまったものもあり、それが胃の底から存在を示し続けている。
脳内の不快指数を示すメーターは、一瞬で針を振り切り今にも爆発しそうであった。

吉良は、まるで毒物を飲んだかのように喉を抑え、キラークイーンを駆使しデイバックから水の入ったペットボトルを取り出す。
主の異常事態に応えて今までの人生の中でも最も早く、そして精密に動いたキラークイーンがペットボトルを吉良の口元に差し出した。
そして、ペットボトルに入った凡そ500mlの水を一気飲み。浴びるように飲み干した。

「な、なんだ、これは! 腐ってるんじゃあないのか!? クソッ、ギラーミンの野郎、こんなふざけた物を支給しやがってッ!!」

それからの行動は殆ど反射的なものであった。
未だ異常を訴える口と胃を抑えながら車内に戻り、先程の投げ捨てた果物を拾い上げる。
果物が腐ってるのか否かを確認する為に腕が電気スタンドのスイッチを押してしまった。
青白い光に照らされる車内。
そして、その光は照らし出す―――今まで暗闇に紛れ隠れていた『異常』を。

「な、なにぃぃぃぃぃいいいいいい!?」

手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、手、
―――真っ赤な手が車内を埋め尽くしていた。
床、棚、窓、壁、天井、ドアの縁に至るまで、全てに真紅の手の跡が塗り込まれている。

「な、なんなのだ、この血はッ!!」

吉良は思いっ切り動揺していた。
彼とて残虐極まる殺人鬼。気に入った女性の前で大事な人を爆散させ、その両耳をイヤリングとして女性にプレゼントしたりと、猟奇的な行動をしたりもする。
だがコレはあまりに不意打ち過ぎた。
それにまるでB級ホラー映画のようなおどろおどろしい光景。
流石の吉良も驚愕に心を支配される。

「だ、誰かがここで殺されたのか!? ようやく「平穏」が手に入ると思っていたものをッ!!」

この惨状を見れば何か異常事態が発生した事は馬鹿にも分かる。
大方どこかの馬鹿共がこの車内で殺し合いでもしたのだろう。
誰かが殺された―――つまりは「平穏」とは程遠い環境。
吉良が望むそれとは余りにかけ離れた場所ということだ。

「ここも駄目だと言うのか! 私の「平穏」は何処にあるッ!」

―――本当の事を言えば、この殺し合いの会場に「平穏」など何処にも存在しないのだが、それに吉良が気付くことはない。
吉良はワゴン車から逃げるように飛び降り、早足でその場から去っていく。
有るはずの無い「平穏」を求め、ただ愚直に先へ進む。
その行為がある意味自分を孤立させている事を知らずに殺人鬼は朝焼けの中を歩き続ける。












そして誰も居なくなった血まみれのワゴン車。
ある世界にて、疑心暗鬼に捕らわれた少女が喉を掻き毟り、手を血に染めたまま一夜を過ごした事により地獄絵図と化した車内。
そこに一口だけ噛じられた果実が残されていた。
ゆっくりと登る朝日は全てを差別することなく照らし出す。
至る所に塗られた赤色の手形も、棚の中にある可愛らしいが手形の付着した人形
も、気味の悪い渦巻き模様が浮かぶ食い欠けの果実も―――。
殺人鬼の掛けられた、生涯解ける事のない海の呪い。
殺人鬼が気付く事の無かった、床に落ちたもう一枚の紙。
燈色の日に照らされたソレの一行目には六文字の言葉が記されていた。
―――ただ無機質に黒色のインクで『ボムボムの実』、と。

【C-7/ゴミ処理場/早朝】
【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]軽度の疲労、動揺、能力者<ボムボムの実>
[能力]スタンド「キラー・クイーン」
[装備]ニューナンブM60(残弾4/5)、GPS
[道具]支給品一式×3、スチェッキン・フル・オートマチック・ピストル(残弾15発)@BLACK LAGOON、スチェッキンの予備弾創×1(20発)、神威の車輪@Fate/Zero、ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険
[思考・状況]
 0:平穏ッ! 探さずにはいられないッ!!
 1:なるべく戦闘には参加しない。どうしても必要な時において容赦なく殺害する。
 2:東方仗助、広瀬康一は始末する
 3:「平穏」に過ごせる場所を探す
 4:亀の鍵を見つけたら「部屋」に入ってみる
[備考]
※参戦時期は単行本39巻「シアーハートアタックの巻」から。シンデレラによる整形前の顔です。
 また第三の爆弾「バイツァ・ダスト」は使えません
※キラークイーンの能力制限にまだ気が付いてません。(視認されてるとは考えています)
※悪魔の実を食べた事に気付いていません

※ゴミ処理場の付近にあるゴミ山にはレナの隠れ家@ひぐらしのなく頃にがあります。
またレナの隠れ家は罪滅ぼし編の時系列から持って来られており、車内には血の手跡が所狭しと塗られています。
ギラーミン「なんでわざわざ血まみれの物を用意したかって? ただの遊び心^^」

【ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険】
五部・黄金の風に出て来たスタンド使いの亀。
背中にある窪みに特定の鍵を嵌める事により能力を発動、鍵を通して亀の内部(テレビ、ソファー、冷蔵庫などが完備された部屋)に入れる。この殺し合いの場では二つの制限(二時間以上部屋で過ごす、二回以上部屋に入る)が設けられており、これを破ったら首輪が爆発する。
また亀の内部には『何か』が隠されている。
鍵は各所施設、もしくは誰かに支給されている。

【ボムボムの実@ワンピース】
この実を食べた人間は、体の各所を爆発させる事が出来る爆弾人間になる。
原作では腕や足は勿論のこと、鼻くそから自身が吐いた息まで爆発させる事が可能だった。また爆発させるタイミングは任意で変更できる。
現段階では四肢を爆発させるのが限度ですが、時間の経過や慣れによって爆弾化できる範囲が増減する可能性もあります。
また爆発の威力にはある程度の制限が掛けられています。




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吉良吉影は静かに過ごせない 吉良吉影 変態×変態×変態×人形


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最終更新:2012年12月02日 04:14