審判-Judgement-◆YhwgnUsKHs
また会ったな。
あまりいい顔ではないな。もう会いたくなかったのか?
まあいい。せっかくの再会だ。また話に付き合え。
なに、聞いてくれたなら礼にお前の分の酒は俺が奢ろう。味は俺と俺の仲間が保障する。
前に話したのは、タロットの死神の話だったな。なら、今日もそのタロットの話にしようか。
折角だ。そのタロットに相応しい、ある男の話をしよう。
ある、楽しく……そして悲しい男の話だ。
タロットは、20のカード、『審判』。
男の名は……
*****
走り続けている
僕は、走り続けている。
違う、僕は逃げ続けているんだ。
誰、から?
何、から?
そもそも、どうして?
*****
『審判』の逆位置の意味は……『弱さ』、『罪の意識』、『真実を見失う』。
*****
「うあっ!」
男、
ヴァッシュ・ザ・スタンピードは勢いよくつまずき、目の前の地面に倒れこんだ。
その前に必死に走り続けていただけに転んだ勢いもかなりのもので、擦り傷ができたかもしれない。
けれど、彼にそんなことに考えが及ぶ余裕はなかった。
「僕は……僕は……!」
唇は振るえ、目は見開いていて常軌を逸した表情だった。
それでも立ちあがる意志はあるようで、よろよろとした様子で立ち上がる。
「っ!!」
その時、ふと目に入った自分の手。
地面の土でも付いてしまったか、と何気なく見ただけだった。
それだけ、だったのに。
両手が、血に塗れていた。
「う、うわああああああああああああ!!」
ヴァッシュは頭を抱えてその場で暴れ狂った。
血が更に顔についてしまう。それでも。
その血が、自分が殺した相手ではなく、自分が守れなかった少年の者だと、気付かずに。
(僕は、僕は、殺した…!殺してしまった……!)
目を閉ざしても、どうしたって目に浮かんでしまう光景。
銃を撃つ自分。
肩を狙った銃弾は、相手の予想外の動きによりその照準がずれ……相手の頭に当たった。
その、方向修正も聞かないようなシビアなタイミングによる相手、
ベナウィの動きが、まさか死ぬ直前だった康一によ
るものだったとはヴァッシュには考えもつかない事だった。
たとえ、考え付いたとしても、そんなことは彼には関係ない。
人を殺してしまった、その一点だけが重大だったのだから。
(殺した……殺した……つまりそれは、僕があの人の何もかもを奪ってしまったんだ……。
あの人がこれから生きていく人生の、楽しみも、悲しみも、大切な人たちと過ごす時間の、何もかも!)
ヴァッシュは苦しむ。
自分がやってしまったことに。
あの男にも大切な人がいただろう。もっと一緒にいたかった人がいただろう。『聖上』という人がおそらくそうなんだろう。優勝させてでも生き残らせたかったのだから。
逆に、あの男が大切だった人も多分ここにいるのだろう。自分と一緒に、ウルフウッドやリヴィオがここにいるように。
つまり、彼にもう逢えない人がここにいる。自分はその人たちからも、奪ってしまった。楽しい時を。幸せのときを。
代わりに、与えたのは……なんだ? 愛と平和? 違う
――悲しみと、永遠の別れ。
与えたのは、自分。
僕が、奪った。
(やめろ!やめてくれ!!)
脳裏にあの男の影がちらつく。
自分を見下ろすあの男の影が。
自分にとって大きな存在であり、自分の敵対する存在である男の姿が。
――所詮、お前には
「やめてくれぇえええええええええええ!!」
『さて時間だ。おはよう諸君』
ギラーミンの放送が聞こえてきたのは、ヴァッシュの慟哭が響いてから、すぐの事だった。
*****
放送が終わってしばらく、ヴァッシュはやっと顔を上げた。
顔には、康一の血が付いているが、彼にそれを拭う気力はなかった。
どこか疲れきったような、魂の抜けたような表情で虚空を見つめているだけだった。
15人。
それが6時間で死んだ人数。
自分が殺した相手と康一を除いても13人が死んだ。
魅音という少女は死んでいないみたいだが、メイドの女性と黒服の男は名前を知らなかったので、生死は分からない。
校舎で見かけた少年はメイドの女性に殺されたのかどうかはわからない。けれど、13人の殺人者が…多くても自分の他にいるのだろう。
自分の、他に。
(誰にも、伝わらないのかなぁ……)
ラブ・アンド・ピース。
愛と平和。
それがちっとも伝わらない。誰にも届かない。
なぜだろうか。
――簡単だ。お前自身が否定したんだ。
――自分に伝わっていないのに、他者に伝わるわけがない。
「もう黙ってくれよ!」
ふたたびちらつく男の影に、ヴァッシュの足が落ち着かずにふらふらと動き、幽霊のように歩く。
カッ
「……?」
何かが足にぶつかった。
ヴァッシュはそれを反射的に見下ろした。
「あ……」
*****
正位置の意味は……『復活』、『再起』。
*****
それは自分の支給品だった。
前に確認し、そのままデイパックに入れてあったのが倒れた拍子に転げ落ちたらしい。
前に、確認したそれを…ヴァッシュは初めて見たかのような顔で見下ろしていた。
力ない抜け殻のようなその目には、いつのまにか力が蘇っていた。
(そうだよ……なんで思いつかなかったんだ?)
ヴァッシュはそれを拾いあげる。
それを握り締めると、力は思ったより強くなった。
彼の中に、何かが芽生えようとしていた。
(伝えよう……ラブ・アンド・ピースを……できるだけ、多くの人に! 僕の声を、叫びを、みんなに届けるんだ!
僕みたいに……人を殺してしまった人にだって!)
自分が握っているそれを使えば、多くの人に自分の叫びを届けることができる。
そうだ、そうしよう。なんでこんな簡単なこと、思いつかなかったんだ?
(でも……こんなところで叫んだって、聞こえる範囲は限られてるよなぁ)
今ヴァッシュがいるのは地面の上。
もっと山の上など、できるだけ高い所からの方が聞こえる範囲は更に広がるだろう。
彼は手近なところがないか、辺りを見回す。
「あ……」
辺りを見回すヴァッシュ視界に入ったのは…大きな城だった。
西洋風のそれは、かなり古ぼけたり崩れている箇所もあるが、その大きな様相を自慢するかのように聳え立っている。
ヴァッシュもまたそれを見上げるようになっていて、いつの間にか城の近くまで走ってきていたようだ。ろくに周りを見ていなかった彼は今の今まで気づかなかった。
「そうだ、ここなら……」
最上階の方は屋根になっているが、最悪そこによじ登っても自分なら大丈夫だろう。
ヴァッシュはうん、と頷くと、その古城を自分の叫びの発信地に決めた。
荷物を拾い上げ、目の前にある裏門らしき入り口に向かって歩き出す。
いくら最後はよじ登るとはいえ、安全の為にできるだけ中を進んだ方がいいと思った。
彼は歩き出す。
目には蘇った力を秘めて、愛と平和を叫ぶと決めて。
その手に、いつもの銃ではなく、拡声器という『武器』を握って。
けれど、その瞳の力は、信念を砕かれる前の彼とは何か違うようだった。
それは、輝きは身を潜め、薄暗い、濁ったような闇に染まったような力だった。
砕けた信念は……未だ、砕けているままだった。
*****
奴は気付いていない。
愛と平和を叫ぶ、その肝心の目的を奴は自覚していないのさ。いや、その濁った目で見ようとしていないのさ、自分の行動の目的を。
だから、『やる』という事しか今考えないようにしている。
では、その目的は何か? 愛と平和、内容は問題ではない。奴が城の上で叫び、何者かを引き寄せる、この目的だ。
反抗者に届くと信じて、新たな仲間が欲しいのか?
それとも、殺戮者を呼び寄せて、自分を殺して欲しいのか?
お前はどちらだと思う?
――――なるほど。まあいい。
答えは……両方だ。奴は、新しい仲間も、そして殺される事もまた望んでいる。
奴には最初から仲間と共に殺し合いに反抗する意志があった。だが、人を殺した事により奴は自分自身に嫌悪の念を抱いた。自分の罪を赦せないと思った。
自分で命を断ちたかっただろう。だが、それでも奴は諦め切れなかったのさ。人を助けていく道をな。それほどまでに、奴は人間を愛しすぎた。
どっちの道を歩めばいいのか、奴には判断がつかなかった。
その果てに、信念を砕かれ、疲れきった奴は判断を放棄した。判断を別のものに委ねたのさ。
それは、奴の叫びに呼び寄せられる参加者、いや、もっと大きく言ってしまえば……天運だ。
もし、自分の叫びによって来た人物が友好的で、あわよくば自分を赦してくれる人だったならば、その者と共に行き、その人を守る。要はそいつに従う、と。
もし、自分の叫びによって来た人物が殺戮者で、自分を殺そうとしたならば……何の抵抗もなく、死のうと。自分はそいつによって、断罪されるのだ、とな。
つまり、運任せなんだ。誰が来るか分からない。その人物によって、行く末を決める。この判断を情けないとみるか、哀れと見るか……それは人次第だ。
奴が最も来て欲しく、最も来て欲しくない人物は……恐らく、たった一人。死んだ筈のある男、だろうがな。
奴は自らの罪の裁定を天に委ねた。
『有罪』は確定。だが、生きていていいのか?それとも、死ぬべきなのか?
お前はどう思う?――なるほど、な。まあいい。
ここまでの思考は、奴が自覚しないままに成り立ったものだ。
信念を砕かれ、罪に苛まれ、思考を止めた頭には『城の上で愛と平和を叫ぶ』しか残っていない。
奴がこのまま死ぬか、それとも復活するか、あるいはまったく別の第3の道があるのか……それこそまさに、奴の声を聞き最初にやって来た者が奴の運命を決める、『審判者』となる。
誰が来るのか、そいつは奴をどうするか。どのような『審判』が下るのか。
それ以前に、罪に苦しむ奴は城の上で愛と平和を叫べるのか。ひょっとしたら、全く別の言葉を叫んでしまうかもしれん。
更に言えば、奴は城の上に辿り着く事自体、できるのか。
奴がどうなるか……それはまたの機会にしよう。
また、お前と巡り合えた時が会ったなら、必ず奴の行く末と、また良い酒を馳走してやる。
その機会を……神か『悪魔』にでも祈っておくといい。
ああ、ちなみに今の話を俺の創作と考えるか、それとも本当にあった話なのかはお前の考えに任せる。
なぜか? わざわざ聞くのか? ……まあいい。
こういう話は、ソースが分からん方が……面白いだろう?
【A-2 古城跡・裏門前/1日目 朝】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]疲労、黒髪化、身体中に浅い切り傷、左肩に刺突による傷、思考停止
[装備]S&W M29 6インチ 0/6@BLACK LAGOON
[道具]支給品一式、拡声器@現実、予備弾丸32/32
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める・・・?
0:人を殺して、しまった……
1:古城跡の最上階まで上り、拡声器で叫び人を呼ぶ。
2:ウルフウッド、リヴィオとの合流。
3:ウルフウッドがいるかもしれない……?
※原作13巻終了後から参加
※
サカキ、
ロベルタの名前はまだ知りません。
※詩音を『
園崎魅音』として認識しています。
※口径などから、学校の死体を殺すのに使われたのはロベルタの持っていた銃ではないかと考えています。
※康一と簡単な情報交換をし、仗助、吉良、スタンドの事について聞きました。
仗助を協力者、吉良を危険人物だと見ています。
※義手の隠し銃には弾が込められていません。弾丸を補給すれば使用可能です。
※拡声器で叫ぶ本当の理由を自覚できていません。
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最終更新:2012年12月02日 16:27