黄金の精神は男の信念を打ち砕く◆EHGCl/.tFA



サカキさん、まだかなぁ。ヴァッシュさんもヤケに遅いし……」

淡い朝日が差し込む森の中、広瀬康一は木に寄り掛かるように座っていた。
右手には巨大なカタツムリを、左手に食糧として支給されたサンドイッチを持ち、鬱蒼と生い茂る森林を見つめる。
数分前森の奥に消えた仲間は未だ帰っておらず、もう一人の仲間からも連絡は来ない。
心の中で、不安という名の風船が急激に膨張していく事を感じつつ、康一はサンドイッチを口に詰め込んだ。

「サカキさんなら大丈夫だと思うけど……なんか不思議な貫禄がある人だったし。でもあのメイドさんも普通じゃなかったからなぁ……」

全く躊躇う事なく拳銃を撃ったメイド。
その動きは、銃に関して素人である康一にも分かる程に無駄のない動きであった。
対するサカキも素人には見えないが、拳銃と比較すると武装が心許ない。
拳銃に剣で対抗するには、多少腕に自信がある位じゃ全く足りない。
説得に成功すれば良いが、失敗したらどうするのか―――康一の心配は尽きることがなかった。

(あぁ、杜王町のみんなも心配してるんだろうな。由花子さん、荒れてなければ良いけど……)

自分と仗助が突然消えた杜王町。
仲間達はスタンド使いの所為だと思い、調査を始めているのか。
超が付くほど短気な恋人―――山岸由花子は錯乱し、暴れ回っているかもしれない。
八つ当たりで、大量の髪に縛り付けられた親友の姿が目に浮かぶ。
ため息一つ。
早く元の世界に帰らなくてはと、再度決心する康一であった。



――ガサリ



丁度その時、森の奥から葉と葉が擦れ合うような音がした。
音源はヴァッシュが用を足しに行った方向とは正反対の森林。

(誰か居る……!)

止まる事なく、ゆっくりとながら徐々に近付いてくる音。
康一は直ぐさまエコーズACT.3を発現し、警戒心と共に立ち上がる。
魅音と名乗った少女、三つ編みに眼鏡のメイド―――この殺し合いが始まって僅か数時間の間に二人もの危険人物と出会った康一が油断することはない。
ガサリと一際大きい音が鳴った次の瞬間、一人の男が現れる。
整えられた黒色の髪に、理知的な雰囲気の凛々しい顔立ち。
手には朱色の槍を握り、青色の外套と和服のようなで和服でない不思議な服を着ている。
女の人にモテるんだろうなぁ、と場違いな事を考えつつ康一は相手を観察し終え、そして

「ACT3! 奴を重くしろ!!」

躊躇いなく攻撃を開始した。
横で傍観に勤めていたエコーズが動き出し、男に向けて連打を放つ。

「ッ!!」

だが男は弾幕に触れる寸前で後方に大きく跳び回避、同時に槍を構え康一へと向ける。

「……穏やかじゃありませんね」
「その……その返り血は何だッ!?」

康一が相対する男――ベナウィを敵だと判断した理由。
それは甲冑に付着した夥しい量の返り血――桜田ジュンを殺害した際に噴出した血液が甲冑を汚していたからだ。
康一はエコーズを側に戻し、相手の出方を窺うようにベナウィを睨む。

「バレてしまいましたか……まぁ隠すつもりも有りませんしね」
「ッ! エコーズ!!」
『SON OF A BIIIIICH!!』

一歩、エコーズの射程距離に踏み込む為に康一がベナウィへと近付く。
だが距離を詰めに掛かったのは康一だけではない、ベナウィもまた然り。
康一よりも何倍も鋭い速度で自身の得意とする距離へ移動し、槍を振るう。
交差する拳の連打と槍の連突。
一瞬の攻防を制したのは――――あらゆる魔を無効果する槍であった。

「ぐわっ!」

エコーズの拳は器用に動かされた槍に全て防がれ、対する槍はエコーズの頬と左の腕を切り裂く。
そのダメージは康一へと伝達し、康一の身体の頬と左腕に切り傷が現れ、少量の血が滲み出た。

「不思議な魔獣を扱うようですが、速度は大したことがない。その程度の動きなら防ぐのは他愛もない事です」

明らかな余裕を含んだ言葉を吐きつつ、ベナウィは、裂傷により僅かな怯みを見せた康一へと槍を突き付ける。
穂先は康一の眉間を薄皮一枚の所で捉え、離れない。
あと数センチでも押し込めば確実に命を奪うであろう位置に止められた槍。
―――だが、それを見て康一は微笑んだ。

「何故、笑っているのです?」
「……お前は致命的な勘違いをしている。僕は「防がせる」だけで良かったんだ。そりゃお前自身に当てられれば一番だったけどさ」

康一の表情には、敗北感や死への恐怖というものが寸分も宿っていなかった。
逆に自信と確信に満ち溢れた微笑みが映っており、その態度がベナウィに疑問を植え付ける。

「……何を言っているのですか」
「僕の勝ちってことさ……『3・FREEZE』!」
『Let's kill DA HO!』

瞬間、ベナウィの表情に驚愕が生まれ、周囲にズンという重い音が響き渡った。
音の先には、地面にめり込む長細い物体―――宝具・破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルグ)。
急激に重量を増したそれは、ベナウィの手から離れ地面を陥没させていた。
とっさのことにベナウィの意識が康一から破魔の紅薔薇に向く。
そして、その隙を見逃す康一ではなかった。

「今だ! ブチのめせッ、ACT3ッ!!」
「くっ!」

残像を映しながら迫る拳の壁をバックステップとダッキングを駆使し、何とか回避するベナウィ。
エコーズの射程距離外へ身体を逃げ込ませ、大きく息を吐く。

「……やっぱりエコーズが見えてるみたいだな。お前もスタンド使いか……」

だが休ませる暇を与える事なく、康一は槍を拾い上げ、ベナウィへと一歩一歩接近していく。
ある勘違いの為に警戒を解くこともせず、その佇まいからは一縷の隙も見いだせない。
段々と距離を詰めてくる康一を睨み、ベナウィは思考する。

(撤退か、抗戦か……)

謎の能力に武器は奪われ、依然敵には魔獣が付き従っている。
魔獣のスピードに付いていく事は可能だが、素手ではこちらから攻撃することが出来ない。
何らかの策を弄さない限り不利は明確。

(……またコレの力に頼りますか)

だが打開策は直ぐに考え付いた。
百発百中で成功するとは思えないがリスクは低く、試す価値は充分にある。
失敗したら逃走すれば良いだけ――そう考えベナウィは康一へと意識を戻す。
そして、懐から取り出すは一つの巻物。それを口にくわえると康一に背を向け、その場から走り出す。

「逃がすかッ!」

相手が逃亡を図った――康一がその思考に行き着くのも無理はない話であった。
唐突に背中を見せ、隙だらけの姿で走り去る男。逃げを選択したとしか思えない。
だが男は十メートルと走る事はしない。
一本の木の下でピタリと立ち止まり、再度康一へと視線を戻した。

(止まった……? 何をする気だ……)

理解仕切れない男の行動を不可解に思いつつ、何が起きても対応できるよう、エコーズを前方に待機させる康一。
エコーズは康一を護るように立ち塞がり、両の手を合わせ捻りながらベナウィへと向ける。

(ACT3……奴が射程距離に入ったら一気に勝負を掛けるぞ)
『了解シマシタ、康一サマ。アノクソッタレ槍使イヲ、ボコボコノメタメタ二、ブチノシテヤレバイインデスネ』

康一の視界の中では、謎の巻物を口にくわえたベナウィが真っ直ぐにコチラを見詰めている。
康一はベナウィの一挙手一投足に集中する。
攻め込まれても、逃げられても、スタンドを発現されても……どう動いても反応できるよう身構えていた。

「なッ!?」

―――だがそれでも、予想外の事態とは発生するもの。
視界の中、男が動く。康一にとって予想外だったのは男の動いた方向。
男は、前でも後ろでも横でもなく、真上に跳んだ。
まるで縄跳びをするような軽い動作で、三メートル程その身体が宙にに浮く。
そして空宙で前方に90度ほど体を傾けると、先程地面を蹴った両の脚を枝に当て――

「ッ、エコー……」

――弓矢の如く一直線に、エコーズですら反応不可能な速度で、ベナウィは康一へと突進した。
康一の前に立つエコーズに突き刺さったのはベナウィの両脚。
勢いはそのままにドロップキックの要領で放たれた脚がエコーズの胴体にめり込み、本体である康一にダメージを与える。

「うげぇっ!」

肋骨が音を立ててへし折れ、康一の小柄な身体がエコーズごとぶっ飛ぶ。
右手に持っていた電伝虫は何処かに飛んでいき、左手に持っていた破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルグ)も宙を舞う。
だが、破魔の槍が地面に落ちる事はない。
それより先にベナウィが空中で掴み取ったからだ。
そしてベナウィが着地、息つく間もなく疾走し、康一の鳩尾、心臓、左右の肺を槍で刺し貫いた―――。


もう動かない康一を見下ろしベナウィは軽く息を吐く。
『忍術免許皆伝の仮免』を使用しての跳躍、そして木の枝を利用して斜め前方に再び跳躍。
「バッタの術」により強化された跳躍力と重力とが組み合わさり、引き出された神速とも言える速度。
その速度は、康一へ会心の一撃を叩き込むには充分すぎる速度であった。

「……あなたは素晴らしい精神を持った戦士でした」

ベナウィは純粋な感嘆を口から出し、康一へと近付いていく。
そしてデイバックを手に掛けると、口と口を合わせ中身を全て自身のデイバックへと流し込んだ。

(一旦、休息を取りますか……)

先のルフィとの戦闘、そして康一との戦闘により身体には疲労が溜まっていた。
行動に支障が出る程ではないが念には念を入れるべきだろう、と考えベナウィは康一に背を向ける。
そして、気付く。
自分と康一の死体を見つめ、茫然と立ち尽くす一人の男に。
漆黒に髪を染め、漆黒のコートを纏った、黒づくめの男に。
あまりに遅すぎる帰還を果たした男――ヴァッシュ・ザ・スタンピードの存在に、ベナウィは気が付いた。




それは訳の分からない光景だった。
つい数分前まで仲良く話していた少年が血の水たまりに沈んでいる。
その傍らには見知らぬ男が一人、血に染まった鎧と槍を持ち、佇んでいる。
何が、起きた?
自分が居ない数分の間に、何が起きたんだ?

「あなたは……」

振り返った男が自分の存在に気付く。
整った顔に僅かな驚愕が現れる。
コーイチの返り血かそれとも他の誰かのものか、その顔は血に濡れていて、そしてそれを見た瞬間、俺は―――




ベナウィがヴァッシュに気付いて数秒後、パンという渇いた、それでいて暴力的な音が轟いた。
ベナウィにとって幸運だったのは、音がする数瞬前にヴァッシュ目掛け駆け出し、槍を振るっていた事。
誠に偶然だがヴァッシュが放った弾丸とゲイ・シャルグが激突し、互いの攻撃が逸れる。
ヴァッシュの腹部に突き刺さる筈だった槍は脇腹を掠めるだけに終わり、ベナウィの右腕を貫通する筈だった銃弾は何処にも命中することは無かった。

「お前がコーイチを殺したのか……」
「……あの少年はコーイチと言うのですか。仕留めるまでに少し手こずりましたよ」

ヴァッシュへ冷静に言葉を返しながらもベナウィは焦燥を感じていた。
ヴァッシュが持つ拳銃――ベナウィからすれば謎でしかない兵器に、ヴァッシュが見せた超速の抜き打ち。
どちらも最大限の警戒するには充分すぎる要素であった。

「何故コーイチを殺した……」
「あなたもギラーミンの言葉を聞いていたでしょう? この殺し合いは一人しか生き残れないんですよ」
(あの黒筒は遠距離武器ですかね。不可視にして高威力の矢、と言ったところか……あの穴から矢が発射されるようですが……)

会話の間に現状を打破する為の思考を進めるベナウィ。
破魔の槍が朝日に照らされ朱色に光る。

「お前は、あんな言葉を信じ、従うのか……?」
「はい、その通りです。私は聖上を守り抜ければそれだけで良い……」
(矢は相当な速度で射出されるようですが、黒筒の正面に立たなければ回避は可能なはず……勝機は充分にある)

ヒュン、という高い音と共に槍がヴァッシュに向けられる。
ベナウィの中で兵器の把握は完了していた。
あとは優勝という名の頂を踏破する為に、眼前の男を殺害するのみ。

「聖上?」
「……これ以上の会話は不要のようですね。私は道を違えるつもりは有りませんし、それはあなたも同様でしょう」

その締め括りと共にベナウィは槍を掲げ、次いでヴァッシュがゆっくりと拳銃を構える。
地を蹴る音が銃声に掻き消され、それを合図にガンマンと槍兵の戦いは始まった。


相手を殺すため自身の技量の全てを用い連撃を振るうベナウィ。
相手を殺す事のなく無力化しようとするヴァッシュ。


瞬間、轟音。
命中を目的としていない威嚇の為だけの発砲を一回。
この角度では当たらない―――そう分かっていても、銃と存在に馴れていないベナウィは反射的に回避行動を取ってしまう。
その刹那の隙を見逃さず、ヴァッシュは半歩だけ距離を空ける事に成功。
次いで義手の隠し銃を起動し、ベナウィへと狙いを付け引き金を絞る。
勿論、弾など装填されていない。だが、それがベナウィに判断できる訳がなく、隠し銃の射線から逃れようと横に跳ぶ。
そしてそれこそがヴァッシュの狙い。
ベナウィの両脚に銃口を向け、弾丸を射出する。

「甘い!!」

―――が、当たらない。
射線から逃れたベナウィの身体が真上に跳ね上がったからだ。

「バッタの術」を発動と共に頭上の木を利用して再びの方向転換――康一に活用した策を再度用いる。
支給品と重力と脚力による超加速。同時にゲイ・シャルグを突き出す。
予想外の攻撃だったが、異能集団やそれ以上の怪物を相手にしてきたヴァッシュは問題なく反応する。


「……良い反応です。」

ヴァッシュの後方に着地したベナウィが槍を構え、淡々と告げる。

「いやいや、そちらこそ。まさかそんな動きをするとは思わなかったよ」

ヴァッシュも、直ぐさま銃を向け直し口を開く。


「そこの彼は同様の攻撃で仕留められたのですがね」
「……そうかい」

瞬間、轟音。
持ち主の感情を表すかのように放たれた銃弾が音を切って走る。
が、引き金を引く寸前に標的は疾走を開始しており、銃弾は後ろの木を穿つに留まった。
消えぬ轟音の中に鈍い着弾音が響く。それが耳に入ったと同時にベナウィは一直線にヴァッシュへと駆ける。
そして、刺突一閃。
風切り音と共にゲイ・シャルグが紅色の線となり―――しかし、黒金の銃身により軌道を曲げられる。
頬の数センチ横を通り抜けるゲイ・シャルグ。
二人の男の視線がぶつかり合う。

「……他の全てを殺してまで、その『聖上』って人を優勝させたいのか?」
「ええ、彼が死ねば国は滅びたも同然です。私や仲間達の命を賭してでも生還させなくてはいけない」
「皆と協力してギラーミンを打倒する道を――聖上も、仲間も、全てが助かる道を、選ぼうとは思わないのか?」
「一番確実な道を選択しただけです……それに私はもう二人の人間を殺した。今更、戻る気など毛頭ありません」
「……そうか、分かったよ」

言葉と共に一歩で大きく後ろに下がったヴァッシュ。
常人では考えられない距離だがヴァッシュ自身の超常の能力を持ってすれば容易い。
そして手に持っていた拳銃をホルスターに仕舞い、挑発的な笑みを浮かべてベナィを睨む。
ベナウィはベナウィで、ヴァッシュの取った、武器を手放すという奇怪な行動に動きを止めている。

「何の真似でしょうか?」
「……んー、大した意味はないんだけどね。『ハンデ』だよ」

ヴァッシュの言葉に、ベナウィの眉がほんの少し吊り上がった。
心無しか槍を握る力が強まっているようにも見える。

「ま、御託は良いでしょ。早く掛かっておいでよ」
「……分かりました」

続く挑発の言葉を聞き終えたと同時にベナウィが動く。
疾走し突き穿つ狙いは、銃の収まっているホルスターから最も距離のある頭部。
不愉快極まりない微笑みを宿す顔面に向け、朱色の槍が進撃し、

―――そして、ベナウィは体験する事となった。

己を貫く銃弾が醸し出す灼熱の痛みを。
野獣の歯や爪による一撃とも、槍や刀での斬撃ともまた別種の痛みを。
ベナウィの世界には存在しない痛みが身体を包み、そして意志に反して身体は倒れていた。

「ごめんよ……」

ベナウィが地面の冷たさを身体全体で実感していたその時、頭上から声が降り懸かる。
その声は何処までも悲しそうで、今にも泣き出しそうであった。






足元には一人の男が、両脚から血を流し倒れている。
自分が「本気の」早撃ちで戦闘不能にした男。
自身の兄弟にも、兄弟を狂信する最凶の化け物にも知覚される事はなかった「本気の」早撃ち。
それはこの男にも当たり前だが知覚される事なく、両脚を撃ち貫いた。
言葉で阻止したかった。
だが男の決心を目の当たりにしてしまった。
だから、撃った。
止める為に、これ以上の犠牲を――コーイチのような犠牲を出さない為に。

「コーイチ……」

救えなかった名前。
自分が彼を一人にしなければ、あと十秒でも早くコーイチの元に帰っていれば確実に救えた命。
自分は何をしているのだ。
さっきの騒乱で後悔をした筈なのに、同じミスを、いやそれ以上に愚かなミスをした。

「すまない。本当にすまない……」

血だまりに沈むコーイチへと歩み寄り、手を乗せる。
出血はいまだ止まらず、身体中の熱を奪い尽くしていた。
傷跡は殆どが急所を貫いており一目で致命傷だと理解できる。
おそらく即死だったんだろう。

「すまない、すまない……」

ただ謝罪だけを続ける。
許されない事を知りながらも謝罪の言葉を止めることは出来なかった。




―――俯き、まるで壊れたラジオのように謝罪を続けるヴァッシュ。
罪悪感に支配された彼は自身の危機に気付くことが出来ない。
その後方で、血塗れの槍を支えにして一人の男が立ち上がった事に。
両脚は血を流し続けており、貫通した弾丸により骨も折れている。
歴戦のヴァッシュから見ても動ける筈がない傷。しかし男――ベナウィはギラついた瞳を宿し、立っていた。
一歩一歩、気配を悟られぬよう足音を消しながら漆黒の背中に近付き、そして槍を振りかざす。
ベナウィの足が康一の血液が作った水たまりに入り、ピチャリと些末な音を立てた。
それを合図とするように、ベナウィは槍を突き出す。
ベナウィの視界の中では、何を理由に気が付いたのか、信じられない速度で銃を抜き身体を向けるヴァッシュが居た。
だがベナウィは怯まない。
先の戦闘によりヴァッシュの攻撃に殺気が含まれていない事を、ベナウィは気付いていた。
手足にどれだけ攻撃を受けようと構わない。絶対にこの男を始末する―――ベナウィの胸中にはどす黒い執念と殺意が居座っていた。
そしてベナウィの予想通り、穂先が標的に喰らい付くよりも早く銃声が鳴り響く。

「え?」

間の抜けたヴァッシュの声がベナウィの耳に届いた。
それを最期に、男は後頭部から血を撒き散らし―――康一と重なるように倒れた。






――ピチャリと音がした瞬間、ヴァッシュは無意識の内にホルスターから銃を取り出していた。
そして無理矢理に身体を捻り、槍を振り被っていたベナウィに銃口を向ける。
躊躇いを見せる暇すらない刹那の時間。
意識せずとも照準は男の急所から外れ、右肩に定まっていた。
引き金を引く。
もはや身体に染み付いてしまった一連の動作を、ヴァッシュは反射的に行っていた。

「え?」

―――そして銃弾は吸い込まれるようにベナウィの『眉間』に命中した。
糸の切れた人形のように脱力し、康一と折り重なるように倒れるベナウィ。
離さないと決心していた槍は呆気なく手から零れ落ち、血だまりに沈む。

「せ……ょ……」

意識など有る筈のない口から漏れた音。
ヴァッシュは目を見開いたまま動かない。
そして数秒後、自身がした行為を理解し――

「う、わぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!」

――全力で森林の中へと駆け出していた。
自分の成した罪から逃亡する様に、漆黒が駆ける。
数十年の長きに渡って課していた不殺という名の信念は、余りに容易く、唐突に破られた。






何処からか聞こえた「すまない」という言葉の雨に、彼の意識は引き上げられた。
本来ならそのまま死に向かうだけであった「魂」は、自身が持つ「黄金の精神」の恩恵を受けてか、身体の中に戻っていった。
覚醒する意識。だが、視界はぼやけており言葉を発する事も出来ない。
その視界の中、彼は捉える。
自分の死に涙する「仲間」へと忍び寄る、朱色の槍を握った「死神」を。
――死なせない。
――「仲間」は、絶対に、死なせない。

彼は文字通り死力を振り絞り最後の力を発現した。
死の間際、解毒剤を能力に乗せ仲間に届けた少年のように。
死の間際、仲間に敵の能力を伝えるため時計台を破壊した少年のように。
死の間際、敵の手掛かりを仲間に残すためデスマスクを形成した青年のように。
―――死の間際、彼は自分の能力を使用した。

触れた物を重くするという彼の能力により、「死神」は体勢を大きく崩す。
「右肩」があった位置に「眉間」を晒すように大きく―――。

(ヴァッシュ、さん……これが僕、の……最、後の…………)

そして「仲間」が放った弾丸が「死神」を貫き、「仲間」は走り去っていった。
仲間の無事を確認し、彼は満足気な笑みを浮かべ、力尽きる。
「仲間」を護れきれた―――それを誇りに彼の「魂」は天に昇っていった。


【ベナウィ@うたわれるもの 死亡】
【広瀬康一@ジョジョの奇妙な冒険 死亡】




【B-2 森/1日目 早朝】
【ヴァッシュ・ザ・スタンピード@トライガン・マキシマム】
[状態]疲労、黒髪化、身体中に浅い切り傷、左肩に刺突による傷
[装備]S&W M29 6インチ 0/6@BLACK LAGOON
[道具]支給品一式、不明支給品0~1、予備弾丸32/32
[思考・状況]
基本:殺し合いを止める
 0:人を殺して、しまった……
 1:この場から離れる
2:ウルフウッド、リヴィオとの合流。
3:ウルフウッドがいるかもしれない……?
※原作13巻終了後から参加
※サカキ、ロベルタの名前はまだ知りません。
※詩音を『園崎魅音』として認識しています。
※口径などから、学校の死体を殺すのに使われたのはロベルタの持っていた銃ではないかと考えています。
※康一と簡単な情報交換をし、仗助、吉良、スタンドの事について聞きました。
仗助を協力者、吉良を危険人物だと見ています。
※義手の隠し銃には弾が込められていません。弾丸を補給すれば使用可能です。
※何処に向かうかは次の書き手に任せます。



B-2・森にベナウィの死体、広瀬康一の死体、破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルグ)@Fate/Zero、忍術免許皆伝の巻物仮免@ドラえもん、電伝虫@ONE PIECE、和道一文字@ONE PIECE、
康一のデイバック(支給品一式、不明支給品1~3)、ベナウィのデイバック(支給品一式、シゥネ・ケニャ(袋詰め)@うたわれるもの、謎の鍵)が放置されています。




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本気のココロを見せ付けるまで 僕は眠らない ヴァッシュ・ザ・スタンピード 審判-Judgement-
本気のココロを見せ付けるまで 僕は眠らない 広瀬康一 死亡
想いは簡単に届かない ベナウィ 死亡


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最終更新:2012年12月02日 05:35