合言葉はラブアンドピース(後編)◆Wott.eaRjU



「フン……やはり、か」

時間は少し遡る。
黒服の男、サカキが思慮深げに声を漏らす。
サカキが現在いる地点は、エリアA-2――古城跡近く。
ヴァッシュが来たと思われる場所を探す内に辿りついた地点。
そしてサカキもまた聞いた者の一人だ。
ヴァッシュの“ラブアンドピース”という、か細い言葉で締め括られた告白。
彼は事実の顛末がほぼ自分の予想通りであった事を確認した。

「ヤツが使い物になるかはわからんが……使えないようで困るな」

やはり放送で名前を呼ばれなかった事もあり、ヴァッシュは無事らしい。
取り敢えずそれは幸運な事であったと言える。
しかし、サカキの表情は依然として冴えてはいない。
正直サカキは呆れを通り越してヴァッシュに対し、失望すらも覚えていた。
彼の性格を考えれば、自分から他者を狙うは考えにくい。
大方、襲撃者を返り討ちにし、その過程で広瀬康一を死なせてしまったのだろう。
確かにあまりいい結果ではないが、まあいいと言える程度。
重要なのはヴァッシュがとんだ平和主義であった事実。
やはり数時間前、自分達の前に奇天烈な事をのたまいながら現れた事は伊達ではなかった。
言うなれば現実を見ようともしない、なんとも馬鹿げた姿勢を取っている事だ。


「人を殺すな……言う事は驚くほどに容易く、呆気ないものだ。
そうだ。そんな戯言はいとも簡単にかき消されてしまう。
あのロベルタという女……いや番犬か、彼女のようなタイプの参加者とは決して相容れまい。
やらなければやられる――闘争の基礎を、ヤツは死ぬまで理解しそうにないだろうな……」


結果を出せば、ヴァッシュの言葉はきっと他者からの信頼を得られよう。
だが、ヴァッシュは既に一人を死なせ、更には一人を殺したと告白している。
ヴァッシュの人並み離れ能力を垣間見たサカキですらも、彼の言葉には疑惑を抱いてしまう。
どうせ、そんな事は無理なのだ――そう思う参加者はきっと数多い。

物事の道理の判らぬ、理想に燃える者や妙齢の者ならば心惹かれる可能性もある。
別にそれは構わない。どこの誰が、どんな理想を掲げていようがサカキは意に介さない。
知るべき事は一つ、果たしてそれが自分の目的にどう利用出来るかについて。
この場での目的はギラーミンとやらの殺害。
そのために集めるべきは人員、きたるべき仮初の組織結成への足掛かり。
名前をつけるとなれば新生ロケット団、崇高な響きがサカキの胸を打つ。

しかし、そこには条件がある。
少なくともメンバーには自分の指示に従って貰う必要がある。
現実を直視しようとはしない輩は、実に手を焼く存在になるかもしれない。
そして何よりも彼らには有能な能力を持っていてもらわなければならない。
只、死ぬ事だけを恐れ、何も出来ずに逃げ回るだけの人間は――要らない。

よってサカキは懸念する。
ヴァッシュの言葉や理想に賛同し、使い道のない者達が無作為に集まる事に。
計画を頓挫しかねない足手まとい共があまりにも増えたらどうするか。
その時は決断しなければならない。
残りの、有能な部下達から信用を失わずに、彼らを上手く――処理する事を。
だが、それよりも先に今のサカキにはやる事があった。

「……そろそろ出てきたらどうだ?」

後ろへ振り向く事なく、サカキは言ってみせる。
誰も居ないと思われた空間だが、サカキは確信に満ちた笑みを零す。
自分と同じく、いや、もしかすれば違うかもしれない。
先程、康一と襲撃者の荷物を漁っている際に発した声が呼んだのだろうか。
まあいい――そう思っていたが、そろそろ対応も必要であろう。
だからわざわざ自分の方から接触を図ってやったのだ。
今までずっと自分を追跡していた存在も、待っているように思えたのだから。


「……にゃー。人が悪いですなぁ。
気づいていたなら、もっとはやく言って欲しかったですたい」


軽い口振り。
派手なアロハシャツを羽織り、襟元を大胆に開けている。
如何にも流行を先取りしたようなサングラスに潜む両の瞳は何を映すか……
一見だけでは計り知れない、幻想とも取れる不思議な目つき。

「よく言う。
接触しようと思えば、幾らでも出来ただろうに」
「あれー。もしかして誘ってたってやつですかい?
生憎、オレにはおじ様のような、ダンディズム溢れるお方に自分から声をかけるなんて度胸は――」
「話を進めるぞ」
「……はーい」

サカキが制す。
笑いながら言葉を紡ぎだす青年が答える。
意外にもそれほどに嫌悪感は見られない。
寧ろ、強引に話を断ち切ったサカキの方に若干の苛立ちがあったように見えた。
但し、それもほんの小さなものでしかない。
極めて冷静に、青年の人を小馬鹿にしたような態度に対処する。


「キサマも聞いていたな?」
「なにを? きっと、そんな質問は野暮なんだろうにゃー」
「そうだな……わかっているのであれば話は早い。
ならば、移そうではないか。少し話でもするにためにも……ゆっくりと出来る場所でな」
「……ああ――」



言わずともわかる。
そう。青年も確かに聞いていた。
道の途中で見かけたサカキ、この殺し合いの最中で……
既に守るものは居ない、一人の“鬼”として動く決意は既に終えた時に見つけた。
取るべき手段は問わない。
いつかは殺すべき存在である事に変わりはない。
だが、あまり目立つ行動を取ってしまえば他の参加者の注意を惹いてしまう。
それでは駄目だ。所詮レベル0の能力でしかない自分が、殺し合いに乗っている事を知られてしまえば……
何人もの人間に眼をつけられては、生き残る術などない。
故にあくまでもわからないように、一目につかないように減らしていくしかない。
元の世界へ帰るためには、あのギラーミンという存在との接触が必要になるだろう。
なら、ギラーミンとやらが殺し合いを求めるのであれば乗ってやるしかない。

青年は思う。
わざわざ自分から提案してきた事もあり、この男も処理のし易さの点で学校を選んだに違いない、と。
先程の大きな声の主はこの男の仲間である事は、男の口ぶりからわかる。
仲間が居るのであれば、自分を連れて彼らの元へ行けばよい話だ。
どこの馬の骨かわからない者とわざわざ二人きりになる理由はない。
ならばこの男には何か考えがあるのだ。
只、他者と手を取り合って主催者に立ち向かうだけでは収まらない。
大きな目的、他者の命を蹴落としてまでも成すべき事を。
もし、その必要があるならば、自分と同じように他者を処理していくのだろう。
仲間に気づかれず、自分の地位を揺るがす事はさせないように。
そうであるなら自分の方も――好都合だ。


「――望むところだ」


だから頷いて見せる。
サカキが地図を取り出し、指をさした其処は学校、おあつらえの場所。
そこが一つ目の正念場だ。学校には無数の教室がある。
誰も居ない教室であれば、処理にも困る事はないだろう。
男に更に味方が居ないとは限らないため油断は出来ない……
だが、このまま先程の声の主の元へ連れて行かれるよりかはマシだ。

そう。なにせ男は周囲の参加者へ殺し合いの停止を呼びかけている。
余程自分の力に自信を持っているのだろうか。
それとも、彼もまたあいつと同じだろうなのか。
まっすぐに、いつもがむしゃらに自分の道を諦めなかったクラスメート。

そして裏切る事を決めたあいつと、ヴァッシュは同じタイプの人間に見えた。
ならば自分はヴァッシュの事も裏切ってしまう事になるのだろう。
なんとも現実は非常なものだ。
だけども後悔はない――もう、決めてしまったのだから。
あいつ――幻想殺し<イマジンブレーカー>、上条当麻を裏切りし青年は一人暗躍する。
土御門元春の活動は未だ終わろうとはしていない。



【A-2とB-2の境界付近 /一日目 午前】
【サカキ@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:健康
[装備]:投擲剣・黒鍵 5/10@Fate/zero、防刃ベスト@現実
[道具]:支給品一式×3、電伝虫@ONE PIECE×2、破魔の紅薔薇(ゲイ・シャルグ)@Fate/Zero
     忍術免許皆伝の巻物仮免@ドラえもん、和道一文字@ONE PIECE、シゥネ・ケニャ(袋詰め)@うたわれるもの、謎の鍵
[思考・状況]
基本:ゲームを潰してギラーミンを消す
1:同士を集め、ギラーミンへの対抗勢力を結成する(新生ロケット団)
2:先ずは土御門と学校で話し、邪魔な存在であれば消えてもらう。
3:ヴァッシュとの合流。
[備考]
 第三部終了(15巻)以降の時間から参戦。
※康一、ヴァッシュの名前はまだ知りません。
※詩音を『園崎魅音』として認識しています。
※ギラーミンの上に黒幕が居ると推測しています。
※康一の死亡を確認しました。
※表記されている道具のほかに、通常のベストが一着、デイパックに入っています。
※防刃ベストは通常のベストに偽装したもので、銃弾等を防ぐほどの性能はありません。
※B-2・森にベナウィの死体、広瀬康一の死体が放置されています。荷物は空のデイパックのみです。
また、その周辺にサカキの声が響き渡りました。
※ヴァッシュの声を一通り聞きました


【土御門元春@とある魔術の禁書目録】
[状態]:左の肩付近に軽傷。肋骨1本骨折。失血で衰弱。超能力により自動回復中(微弱)
[装備]:レナの鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:どんな手を使ってでも学園都市に帰る
 1:殺し合いに生き残る
 2:あくまでも証拠は残さずに、目立つ行動は取らずに行動。
 3:サカキと学校で話し、機があれば殺害する

[備考]:
ウソップの本名を把握していません。
※地図や名簿は大まかに把握しています。
※会場がループしていることに気付いていません。
※ヴァッシュの声を一通り聞きました。
※原作4巻以降、原作9巻以前からの参戦です。



◇     ◇     ◇


「ちょっとぉ、放っておいていいの……?」

依然として、微妙に膨れっ面な顔を浮かべて水銀燈がそう愚痴る。
内容は先程の一件について。
表情を見れば明らかに不満がある事は直ぐに判る。
また、今の彼女のデイバックには一枚のうちわ、“風神”が入っている。
それは元々ゼロが持っていた支給品の一つだが、ゼロとの交渉で手に入れた。
交渉といっても極簡単なものでしかないが。
そう。ゼロがヴァッシュを試すために使用した長メスとの交換による賜物だ。
風神の強力さは既に実感している。
よってその取引自体には不満はないが、疑問は消えたわけではない。
そのため水銀燈は口を開いたというわけであった。

「問題はないさ。
彼は殺し合いに乗った者を何としてでも止めるだろう。
彼が一人を止める度に、我々の障害はまた一人消える……まあ、精々頑張ってもらおうではないか」
「ふぅん……まあ、邪魔なヤツは居ない方がいいわよね。
もちろん、あんな足手まとい二人も要らないわねぇ」
「ふむ、わかっているではないか」

突如として聞こえたヴァッシュの大声。
少しだけ話し合い、結局は水銀燈が持ち前の飛行能力を駆使しての先行。
ゼロは一人、裏口に残り、その場で水銀燈とヴァッシュを待った。
目的はヴァッシュの品定めもとい人間定め。
ヴァッシュが自分達に害を為す存在であるかという事の判別。
その結果は――白、ヴァッシュはゼロ達にとって脅威ではなかった。

ならば、利用させてもらおう。
ゼロはそう考え、ヴァッシュに言葉を送っていた。
ヴァッシュのためではなく、あくまでも自分のために。
一人でも多くの人を守り、一人でも多く“引きつけてもらう”ために。
ゼロはヴァッシュに利用価値を見出し、罪悪感というものは感じていなかった。

「さて、色々とあったがそろそろ中心部を目指そう。
それに一応首輪のサンプルでも取っておきたい。
何かの役に立つかもしれないからな」
「そういうめんどうなコトは任せるわぁ。
わたしはお父様の元へ行く――それだけだよ」

そして漆黒の二人は共に歩きだす。
未だ仮初の同盟が切れる事はない。
このまま何も起こらなければ、案外と二人の結託は長く続くだろう。
しかし、それが許されるほど、この殺し合いという状況が優しいものとも思えない。
そう。この瞬間ですらも――二人は別の事を考えていたのだから。

ヴァッシュ・ザ・スタンピード
もし、ナナリーと出会う事になれば、必ず守ってくれ……これは本心からの願いだ)

愛すべき妹、ナナリー・ランぺルージの守護をゼロは密かに託す。
同盟関係を結んだとはいえ、水銀燈とはいつ手が切れても可笑しくはなく、彼の方にも躊躇はない。
故に水銀燈にナナリーの存在を知られれば、それは後々弱みにも繋がる恐れがあったためだ。
いささか神経質過ぎるかもしれないが失敗は許されない。
用心に越した事はなく、またナナリーはゼロにとって大きな意味がある。
もしナナリーが死んでしまうことになれば……
今後の行動に見直しを迫られる事は最早避けられないだろう。


(ばっかみたい……気安く守るだなんて、ほんとうにおばかさんだわ……)

そして水銀燈もヴァッシュについての感想を密かに漏らす。
守る、とヴァッシュは自分さえにもその言葉を言ってみせた。
心底馬鹿ばかしいとも思う。
此処は殺し合いの会場だ、そもそも一人も殺さないなど夢のまた夢のような話だ。
だから自分は嘲笑って見せというのに……
何故か水銀燈の気分は晴れる事なく、掴みどころのない感情がこびりついている。
水銀燈はそんな自分に一抹の疑問を抱くが、それが一向に消えることはなかった。
少なくともこの現時点では――ヴァッシュと再び出会うその時までは。
水銀燈は絶えず抱き続ける事になるだろう。
不思議な、それでいて然程不快ではない感覚に浸りながら、水銀燈は尚も歩き続ける。




【A-3 西部/1日目 午前】
【ゼロ@コードギアス ナイトメアオブナナリー】
【状態】:健康
【装備】:大戦槍@ワンピース
【道具】:基本支給品一式、MH5×4@ワンピース
【思考・状況】
1:ナナリーの捜索。そのために情報を集める。
2:ナナリーの害になる可能性のある者は目の届く範囲に置く、無理なら殺す。
3:中心部を目指す。
4:『○』に関しては……
5:ギラーミンを殺して、彼の持つ技術を手に入れる。
6:自分の身体に掛けられた制限を解く手段を見つける。
7:『○』対する検証を行うためにも、首輪のサンプルを手に入れる。
【備考】
※都合が悪くなれば水銀燈は殺すつもりです。(だがなるべく戦力として使用したい)
※ギラーミンにはタイムマシンのような技術(異なる世界や時代に介入出来るようなもの)があると思っています。
※水銀燈から真紅、ジュン、翠星石蒼星石、彼女の世界の事についてある程度聞きました。
※ナナリーの存在は水銀燈に言っていません
※会場がループしていると確認。半ば確信しています
※古城内にあった『○』型のくぼみには首輪が当てはまると予想しています。
※ヴァッシュの声を一通り聞きました


【水銀燈@ローゼンメイデン】
【状態】:健康、服に若干の乱れ
【装備】:卵型爆弾@バッカーノ、強力うちわ「風神」@ドラえもん、
【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
1:優勝を狙う。
2:しばらくはゼロと組んで行動する。
3:『○』についてはどうしようかしら……。
4:守るべき者って……バカバカしい。
【備考】
※ナナリーの存在は知りません
※会場がループしていると確認。半ば確信しています
※古城内の大広間に『○』型のくぼみがあります。このくぼみに何が当てはまるかは不明です。
※ヴァッシュの声を一通り聞きました




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最終更新:2012年12月02日 23:34