嘘と嘘の狭間で ◆8rr.5gW.q2




――ズガン、と一発の銃声が、夜の闇の中に響き渡った。


「や、やっちまったぜ……!」

硝煙を上げる拳銃を手に、ウソップは荒い息をつく。
何か不可思議な力によってこの場に飛ばされてから、十数分。
最初は混乱したものの、まずは身を守らねばと荷物を漁り、中身を確認し、調べ、手に取って……

そこで唐突に背後に気配を、いや枯れ枝を踏み折る音を感じ、咄嗟に振り向いて――撃ってしまった。
たまたまその時、手にしていた拳銃の引き金を、引いてしまった。

仕方ないじゃないか。ウソップは心の中で弁明をする。
何しろ暗がりの中から出てきたその青年は、その手に見るからに凶悪な鉈を握っていたのだ。
夜だというのにかけていたガラの悪いサングラスと、口元に浮かんでいた挑発的な笑みも恐怖を生んだ。

元々彼は恐ろしく気が弱い。咄嗟に「殺される!」と思っても仕方あるまい。
そして……幸か不幸か、射撃のセンスは超一級品だ。
ろくすっぽ狙いもつけずに撃ってしまったその銃弾は、しかししっかり金髪の青年の胸を貫いた、ようだった。
そのまま声もなく倒れた青年は、ピクリとも動かない。地面に血が広がっていく。

まだ、かろうじて生きているかもしれないが――
船医のチョッパーが今ここにいれば助けられる傷なのかもしれないが――
それでも、ウソップには分かってしまった……これはたぶん、致命傷だと。
そもそも、左胸の辺りを撃たれた時点で大体は致命傷だし、溢れて広がる血の勢いは相当なものだ。
仮に即死でなくても、この出血では助かる気がしない。
周囲に他に人の気配はなく、普通に考えて、他の人の助けを呼ぶのも間に合わないだろう。

ウソップは、ぼんやりと手の中の銃を見つめる。
スチェッキン・フル・オートマチック・ピストル。
21世紀初頭の人間にとっては半世紀ほども前に世に出た拳銃。
だが、先込め式の銃が基本のウソップたちの世界から見れば、数世代も先を行く超技術の産物だ。
からくりや大砲、射撃武器に長けたウソップであればこそ、なんとか扱えるようなものだ。
当然、威力は高い。
だから、ウソップが普段愛用しているパチンコと違って……直撃して、急所に当たれば、人が死ぬ。

そう……ウソップは、人を殺してしまったのだ。
ロクな敵意も殺意も覚悟もないままに、あっさりと、あまりにもあっさりと人を殺してしまったのだ。

何か、とても大切なモノを失ってしまった気がする。
あの麦わら帽子の海賊旗の下、再び仲間たちと共に笑うために必要な「何か」を。
幾度も命を賭けて戦ってきた。幾度も死闘を潜り抜けてきた。
けれどもそれらはどこか突き抜けた明るさを伴っていた。正々堂々とした輝きを放っていた。
決して、こんな暗がりで、不意打ちで、言葉も交わさず暗殺者のように人を殺す戦いではない。
彼らと共に歩む資格を失ってしまったのかもしれない――それは、ウソップにはとても耐えられない感覚。

だけど……その一方で、また思う。
この場に呼ばれた仲間たちを、ルフィやゾロやチョッパーたちを『守る』には、殺すしかない。
この金髪のように、闇の中から足を忍ばせて忍び寄るような危険人物は、片端から殺すしかない。
でないと、きっとこっちが殺される。
正面きっての戦いならば、仲間たちは相当に強い。ウソップは相当に弱い。
けれど彼らは素直すぎるがゆえに、奇策や不意打ちには弱いところがある。不覚を取ることがある。
そういう部分は、逆にウソップが補わなければならない。

だからウソップは……

「……今は、『しゃげキング』。そう、射撃の島からやってきた射撃の王様、『しゃげキング』だ」

だからウソップは、『嘘』をつくことにした。

自分を守るための嘘。
みんなを守るための嘘。

荷物の中から取り出した奇妙な覆面(いや、帽子?)を手に、彼は自らの『新たな名前』を決める。
ここに居るのは、麦わら海賊団の『ウソップ』ではない。
『ウソップ』に助っ人を頼まれ入れ替わった別人、『しゃげキング』。そう、『嘘』の『設定』を決める。
そして、『ウソップではない』から――殺しも、出来る。
きっと、麦わら海賊団には相応しくないような行動も、出来る。

「……み、みんな、殺してやるぜ。あ、あ、あいつらのために。どんな手を使っても」

思わず声が上ずってしまうが、そこに篭められた決意は本物だった。
あくまでも殺すのは怪しい人物、危険人物。しかし、怪しいと思ったら容赦なく引き金を引かねばなるまい。
今ここで殺した金髪の青年だって、凶悪そうな武器を片手に、足音を忍ばせ近づいてきたのだ。
あそこで躊躇していたら斬り殺されていたのはウソップの方だったかもしれない。
いや――今は『ウソップ』ではないのだったか。

彼は、鮮やかな橙色をした覆面を頭に被る。
少しキツくはあったが、強引に引っ張って顔の上半分を収めてしまう。
頭の上に三角形の耳が揺れ、描かれた大きな目がギョロリと見る者を威圧する。
これを被っている間は、彼は『ウソップ』ではない。『射撃の王様・しゃげキング』だ。
そう自分に言い聞かせ、彼は歩き出す。
倒れた金髪の青年の傍に転がった鞄を拾い上げ、2人分の支給品を手に、『しゃげキング』は歩き出す。
その足取りがどこかおっかなびっくりで腰も引けていたのは、ちょっとしたご愛嬌ではあったが。


ともあれ――お父さん帽子を被った『しゃげキング』の冒険は、こうして始まったのだった。


【C-8 1日目 深夜】
【ウソップ@ワンピース】
[状態]:健康。超ビビリ。射撃の王様・『しゃげキング』状態。
[装備]:スチェッキン・フル・オートマチック・ピストル(残弾20発)@BLACK LAGOON、
     お父さん帽子@あずまんが大王(注:木村先生風に顔の上半分を隠すように装備)
[道具]:支給品一式×2、スチェッキンの予備弾倉×1(20発)、
     不明支給品0~3(ウソップの分が0~1、土御門から奪った分が0~2)
[思考・状況]
 基本:仲間のため、別人「しゃげキング」を装いながら危険人物を排除していく。
 1:危険人物(と思える人物)を探して歩き、見つけたら殺す。
 2:仲間を見つけたら、正体を隠したまま仲間を守って戦う。

[備考]:
 偽りの姿『射撃の王様・しゃげキング』は、仮面と名乗りが違うこと以外、『そげキング』とほぼ同じです。




――そして、『しゃげキング』が立ち去った暗闇の中。
十数分の間を空けて、小さな呻き声が上がった。

「……にゃー。この土御門さんとしたことが、ちいっと油断しちまったようだぜぃ」

そう、それは――確かに『死に至るような銃創』を受けたと思われていた、金髪の青年。
いくつか幸運は重なった。紙一重のところではあった。
それでも常人ならば、きっと死んでいただろう。
そして彼は……ある意味において、常人ではない。

未だ立ち上がるだけの気力も体力もなく、大地に倒れ伏した格好のまま、彼は蒼白な顔だけを上げる。
相手の様子を窺いつつ、万が一に備えて戦える備えのまま、声をかける……
その慎重に慎重を重ねた接触の試みが、裏目に出てしまったのかもしれない。
そうは思っても、彼の口から漏れたのは自らの行動への反省ではなく、自分を撃った敵への賞賛だった。

「隙だらけの背中見せてたくせに、あの抜き撃ちはすごかったにゃー。
 半分くらいは運なのかもしれないけど、ありゃ油断ならない相手ぜよ。
 チカラが無かったら、きっとくたばってたですたい」

土御門元春。かつては天才陰陽術師として魔術を極め――しかし、『学園都市』にて超能力の開発を受け。
魔術を使えば生死に関わるほどの反動を受けるようになった代償として、彼が得た力。
超能力の分類上最下位に位置する『無能力(レベル0)』、微弱で貧弱な『肉体再生(オートリバース)』。
放置されれば死に至ったであろう傷から彼を救ったのは、まさにこの、落第モノの能力(ちから)だった。

弾丸が着弾したのは、大雑把に言って『左胸』のあたり――と言ってもその中央ではなく。
『左肩』と呼ぶべきか『左胸』と呼ぶべきか迷うような、やや外側に逸れた位置。
そこはちょうど、鳥かごのような形をした胸郭の、外側縁近く。
大胸筋を貫いた弾丸は、そして弧を描いて存在する肋骨に絶妙な角度で命中し――
それをへし折りながらも衝撃で進路をずらし、胸郭からさらに外側の方に離れて――
『背中』と『脇の下』の境界とでも呼ぶべきあたりから、後に抜けたのだった。

とはいえ、肺や心臓を傷つけずとも、実は『脇の下の近く』というのは十分に急所である。
特にそこに走る太い動脈は、外傷による失血で人間が死ぬ可能性のあるポイントの1つだ。
溢れる血の勢いを見たウソップが「これは死ぬ」、と思ったのも無理からぬこと。
ギリギリのところで『肉体再生』によって血を止められたが、かなり際どい所ではあった。
もう少し傷の位置がズレ、もう少し動脈の損傷が激しかったならば命を落としていただろう。
いやそもそも肋骨で弾丸が逸れず、肺や心臓をグチャグチャにされていたなら、まず即死だ。
そこまでの傷を負ってしまったら、無能力(レベル0)程度の超能力ではどうしようもない。

「生きるか死ぬかの瀬戸際な怪我は、魔術の反動で慣れっこだけど……こいつはかなりキツいにゃー。
 とりあえず血は止まったけど、無理は禁物さね。どっかで改めて手当てをしておきたいぜよ」

元より、最下位クラスの能力である。
治ったと言っても傷口にかさぶたが張った程度、ここで無茶な運動でもすれば再び傷口が開きかねない。
左腕を動かす度に痛みが走るし、流れてしまった血も戻ってはこない。
それでもたっぷり時間をかければ、いずれ傷も塞がり、貧血も解消するのかもしれないが……
今はまさに、その『時間』こそが惜しい。
ここでのんびりしていては、あの凶弾を撃った男がどれだけの被害を撒き散らすことか。

「あの『しゃげキング』とやら……トドメの『もう1発』を撃たなかったあたり、『殺し』には慣れてないのかね?
 いや、慣れてないのは『拳銃』って武器の方かもにゃー。
 ま、だからって放置できるわけじゃねーけど……。
 あの手の『手段を選ばない卑怯な殺人者』は、カミやんあたりにはキツい相手だぜい」

倒れても握り締めていた鉈を放置したり、生死の確認を怠ったり、『しゃげキング』には甘い所がある。
また、拳銃を使った殺しのプロならば、まず大抵は2発以上の銃弾を打ち込む。
ライフルほどの威力があれば一発の命中でも対象の死を期待できるが、通常の拳銃弾ではそうはいかない。
人間の身体というのは案外丈夫なもので、今の土御門のように九死に一生を得ることがままあるからだ。
だから、2発。トドメのもう1発があれば、瀕死の対象に確実な死を与えられる。
逆に言えば――あの『しゃげキング』はそこまでの知識も経験もない、ということだ。

だが、それでも油断は出来ない。
あそこで咄嗟に土御門を撃ち、『参加者の皆殺し』を宣言し、手段を選ばないと言い切った『しゃげキング』。
この敵は、あまりにも真っ直ぐでストレートな親友・上条当麻には、おそらく最悪の相性だ。
魔術も超能力も絡まぬ『ただの銃弾』の前には、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の右手も意味が無い。

「ああいうのは……『しゃげキング』だけじゃない、ああいう卑怯者の相手に相応しいのは……オレだ。
 闇夜の中での、誇りも何も無い殺し合いを演じるべきなのは……このオレだ。
 『Fallere825(背中刺す刃)』、この魔法名に賭けて」

土御門元春は、顔から笑みを消して小さく呟く。
いつもお調子者の仮面を被っている彼が、その一言だけは真顔になって、誓いの言葉を口にする。

手にした鉈を杖代わりに、ひどくゆっくりした動きで身を起こす。
回復を待ってのんびりするつもりは全くないが、それでも今は、これが精一杯。
荷物は奪われ、手元に残ったものはこの鉈1つ。
魔術の1つも使う間もなく身体はボロボロで、また、彼の魔術の媒体になる紙吹雪や折り紙の材料すらない。
今現在も『肉体再生』による治癒は進んでいたが、その速度はあまりにも遅々としたもの。
そして、やらねばならないことも、数多くある。
傷の手当て。奪われた荷物の補充、あるいは代用品の獲得。
『しゃげキング』のように殺し合いに積極的な連中も、速やかに静かに排除せねばなるまい。
現状の把握もまだロクに出来ていないし、そもそも現時点で何を最終目的に据えるべきなのかも分からない。

だが、それがどうしたというのか。
あまりにも危険過ぎる多重スパイ、裏世界の住人として、この程度の修羅場、既に潜り慣れてしまっている。
自慢のアロハシャツを己の血で真っ赤に染めたまま、土御門元春は立ち上がり――


ともあれ――こうして、『背中刺す刃』は、その暗躍を開始したのだった。


【B-8 1日目 深夜】
【土御門元春@とある魔術の禁書目録】
[状態]:左の肩付近に重傷。肋骨1本完全骨折。失血で衰弱。超能力により自動回復中(微弱)
[装備]:レナの鉈@ひぐらしのなく頃に
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:上条たちのために危険人物を排除しつつ、状況を把握する。
 1:どこかで傷の手当てをする。あるいは回復を待つ。
 2:『しゃげキング』と名乗った長鼻の男に警戒。次に会ったら殺す?

[備考]:ウソップの本名を把握していません。



【スチェッキン・フル・オートマチック・ピストル@BLACK LAGOON】
バラライカ愛用の旧ソ連の拳銃。
使用弾薬は9mmマカロフ弾、全長225ミリ、装弾数20発+1発。セミ、フルオートの切り替えが可能。
ホルダーと、予備の20発入りの弾倉が1つセットでつけられている。

【お父さん帽子@あずまんが大王】
ちよたちが高校2年生の文化祭の時にクラスで作った帽子。
なお、本来は普通に頭に被るものだが、作中では木村先生が顔の上半分を隠す覆面のように装着していた。
ちょうど帽子に描かれた目が目の辺りに来る格好になる。何故かこの状態でも視界はちゃんとあるらしい。

【レナの鉈@ひぐらしのなく頃に】
ひぐらし、と言えばすぐに脳裏に浮かぶ、あの有名な鉈。
先端の鉤状の突起が見る者に凶悪な印象を与える。


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最終更新:2012年12月06日 04:05