あの忘れえぬ日々に(後編) ◆Wott.eaRjU
さっきまでの戦いをウルフウッドは今となって振り返る。
ラズロとの戦いは一瞬のようであり同時にとても長いものにも感じられた。
これといって目立ったミスはなかったが決め手が一発の弾丸とは拍子抜けだ。
以前にも見た弾丸。身体半分が持っていかれたあの威力は無茶苦茶にも程があると思う。
だが、仕方ないと受け入れる自分が居ることをなんとなく悟っていた。
自分達のような人間が逆立ちをしても届かない、次元が違う領域に足を突っ込んでいる代物なのだろう。
まあ、真実がどうであれ自分にはもうどうでもいいのだが。
「ずっと不思議でした、ウルフウッドさん」
そんな時、リヴィオの声が聞こえた。
ラズロと同じ声色のものだが今の彼はリヴィオだとわかる。
何度も何度も入れ替わって面倒なやつだなと考え、少し鬱陶しい。
「あなたはわざわざ足手まといを連れていた。あなたほどの腕があれば、一人でも生き残れただろうに……」
あくまでも真剣な様子にますますイラつく。
もう一度殴ってやりたいと思うがそこまでの気力はない。
そもそもこいつが不意打ち気味にあの弾丸を撃ってきたからこうなったというのに。
色々と言いたい事もあるが口の方も碌に動かせない。
色々と無理をしてきた結果がようやく今になってやってきたのか。
確かにリヴィオが言ったように一人ならば今までもう少し身軽に動けたかもしれない。
誰にも会わなければ、誰とも共に歩いたりしなければ、良かったかもしれない。
「俺はそれが今のあなたの生き方なのかと思った。あなたはあの男……
ヴァッシュ・ザ・スタンピードと出会い、変わってしまったから。
昔からあなたは施設のみんなにも優しかったから……誰かを守ることは、あなたにはとても似合うと俺は今でも心の底から思っています」
リヴィオは勝手なことを言っている。
確かにトンガリ……ヴァッシュと出会って自分が変わったのは確かだ。
だが、他人を守る生き方を決めたわけじゃない。
誰だって精いっぱいなのだ。今日という日を過ごすためにがむしゃらに生きている。
自分こそその典型的な奴だ。施設では単に自分が仲間内で年上だったからに過ぎない。
あの頃は余裕があったから。施設の手伝いをすればそれだけで生きていられたから。
施設を出てミカエルの眼の使徒として生きるようになってからも、ただ自分のために生きてきただけだ。
だからこそリヴィオの言葉は聞いていて虫唾が走り、そして辛い。
自分をあのヴァッシュのように立派な人間だとは思って欲しくはなかった。
「……それならあなたには貫いて欲しかった。
一人も死なせるなとは言わない。せめてあの少女一人ぐらいは守り、新しい生き方を貫いて欲しかった。
出来るはずだから、あなたの力があればきっと出来るはずだったから……!」
一方的な押しつけもいいところだ。
自分はヒーローでもない。しけた巡回牧師にしか過ぎず少しばかりイカレタ改造を受けているぐらいだ。
それでも心底悔しそうに言葉を吐き出すリヴィオを見て考えてみたくなった。
あいつなら、ヴァッシュならリヴィオが望んだ事を出来るだろうか。
具体的にリヴィオが望んでいたかはわからないが、あいつならやれそうな気がする。
何十年とどんなものも両手で掴み、何も手放ずに生きてきたあいつには不可能なんてないと思えた。
「だけどあなたは守れなかった。あなたがどう思うが知りませんがあなたが殺したものでしょう、あの子は。
守れないなら、最初から連れて行かなければいい……それこそ無理やりに突き放すなり何か方法があったはずだ」
当然自分も考えた。
あの子を、梨花を連れていくべきかどうかを。
絶対に守り切るという保証があったわけではなく、死なせてしまう可能性もあった。
そもそも赤の他人である梨花を守る理由は自分にはない。
近くで死なれたら気分が悪くなるといえど今更人が死んだことで動じることもない。
だから離れようと思えばいつでも出来るはずだった。
それがいつの間にかこの場での殆どの時間を彼女と過ごすようになっていた。
きっかけは何だったのか。一日にも満たない短い時間の間なのになかなか思いだせない。
いや、たしかあれは――
「それでもあなたはしなかった。俺は……失望しました。
俺の知っていたニコラス・D・ウルフウッドは自らに不相応な生き方を決して選ばない。
たとえ憧れることがあっても、あなたは……あなただけはそんな……!」
初めて怒鳴られた時だったか。
あの時はびっくりした。
小さいくせに偉そうなガキがあの時から急に大きくなったような気がする。
『信頼している』、その言葉が自分にとって向けられるとは思わなかったから。
柄にもなく、正直、いやかなり――嬉しかったのだと今では思えてしまう。
「やかま、しい……わ」
ようやく声が出た。案外やれば出来るものだ。
肺も持っていかれ、少しの声を出すのも苦しいというのに。
これ以上、リヴィオのどうでもいい話を聞きたくなかったのか。
それとも自分の身体を『信じる』ことが出来たせいか。
わからないがこれでラズロを倒し、リヴィオを取り戻すという展開にでもならないだろうか。
もしそうなれば自分も信じていいかもしれない。
今まで見捨ててきたものを拾って、今度は手放さないようにしっかりと掴む。
あいつのように、どんなものも見限ることなく生きることを。
どうにかふらりと起き上がりながらそんなことを考える。
「無駄ですよ、ウルフウッドさん。俺は、いや俺達はあなたの怖さを良く知っている。
もう時間は掛けない……あなたは俺達が殺します」
そう言ってリヴィオが拳銃を向けていた。
まだ武器を隠し持っていたらしい。
その銃が何故かとても大きなものに見えた。
死ぬ気配しかしない。
だが、自分の両腕は動いている。
もう使えない右腕も何かを求めるように蠢いている。
パニッシャーは離れた場所にあるというのに。
自分のことなのに他人事のように思えどこか可笑しい。
身体はまだ生きたがっている。自分はまだ、生きたがっているのかと。
こんなボロボロな身体で、いつ死んでも可笑しくないというのに。
この現実を認めたくないように動き続けている。
「……憧れていました、ウルフウッドさん。ずっと」
撃鉄の音が響く。
銃口が向けられる。
それでも両腕は求めている。
諦めが悪いにも程があった。
確かにまだやり足りないこともある。
もう少し永く生きて、やれることはもう少しあったはずだ。
だけども不思議と後悔はない。
頭は既に諦めているのか。たぶん、違うと思う。
自分の生き方は決して褒められたようなものじゃない。
だが、それでも今までの自分を棚に上げていいわけはしたくなかった。
「……きしょく、わる…………」
自分よりももっと過酷な道を生きつづけた、トンガリ頭のあいつは決していいわけをしなかったから。
そして、あの小さな少女は、梨花は決して泣きごとを言わなかった。
ありがとう、と。守ってくれてありがとう、と。
自分に恨みごと一つ言わずに、死んでいった。
きっと泣きたいぐらいに痛かっただろうに、無理をしてだ。
憧れてしまう。自分は目的を達せずに死ぬことが泣き出したいほどに怖いのに。
つい考えてしまう。
自分もあいつらのようにタフな人間になれたら。
あいつらと同じ日をもう一度生きられたらどんなに良いか。
「すみません。では、ウルフウッドさん――」
色々な顔が浮かぶ。
ここで出会った参加者。
施設の幼い兄弟達。
そしてヴァッシュ・ザ・スタンピードと
古手梨花。
ふわふわと、空から降ってくるように落ちては消えていく。
だんだんと意識が薄れてきた。
血が逆流する。
視界は白濁している。
耳鳴りが鼓膜をマヒさせ、鉄の味と臭いが口と鼻を満たす。
自分の身体がまっすぐなのかどうかもわからない
だけども生きている実感は、生きてきた実感はある。
他の誰でもない、ニコラス・D・ウルフウッドは今まで生きてそして手に入れた。
掛け替えのないものが。
自分にも友達が出来た。
愛すべきタフな友達が二人も、自分には出来たから。
それだけは確かで堪らなく嬉しい。
だから――
「お疲れさまでした」
無性に、眠たくなった。
◇ ◇ ◇
風が吹いていた。
そよ風程度の、とても台風には成れない小さな風だ。
その風に合わせるように大柄な男の両肩が揺れている。
ダブルファング、そしてトライ・パニッシャー・オブ・デス。
リヴィオとラズロの名前を持つその個体はただ空を眺めていた。
やるべきことはまだまだ沢山ある。
マスターの仇を討ったはいいがこの場にはまだヴァッシュ・ザ・スタンピードが居る。
ミリオンズ・ナイブズと同等の存在であり、ウルフウッドのパートーナー足る男。
プラントである彼らは根本的に人間という存在とは違い、その力はあまりにも強大すぎる。
街一つを地図から消すことなど造作でもなく、月に大穴を空けてしまうぐらいだ。
そんな力を持っていながらヴァッシュが殺し合いに乗っていない事は明らかだった。
ヴァッシュが殺しをするとは思えない。あのウルフウッドを変えてしまったほどの男なのだから。
あの男はどうにかしなければならない。
しかし、今のリヴィオは何も考えずに佇んでいた。
もう少しこうしていたいと考える自分が居て、ラズロは何も言わなかった。
あんなに憎んでいたのに、今では何も思えない。
あんなに慕っていたマスターの顔もどこかぼやけている。
自分でも自分が何を思っているのか、何を思っていたのかがわからない。
懐かしい思い出が音をたてて崩れていっただけだった。
密かに憧れた日々はもうやってこない。
兄弟に囲まれ、施設のきつい仕事を手伝って、頼れる兄貴分も居る。
あの愛すべきタフな日々はもうやってこない――。
そう考えるとただ悲しくて、両腕に握られた二挺のパニッシャーがひどく重かった。
【ニコラス・D・ウルフウッド@トライガン・マキシマム:死亡確認】
【残り16名】
【H-3/1日目 真夜中】
【
リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
【状態】:ラズロ帰還。激しい憎しみ。内臓にダメージ。両手両足にダメージ、筋肉断裂。その他全身にダメージ(大)、全て再生中。背中のロボットアーム故障
【装備】:パ二ッシャー@トライガン・マキシマム(弾丸数35% ロケットランチャーの弾丸数1/2) ラズロのパ二ッシャー(弾丸数35% ロケットランチャーの弾丸数0/2)@トライガン・マキシマム
【道具】:支給品一式×9(食料一食、水1/2消費)、スチェッキン・フル・オートマチック・ピストル(残弾20発)@BLACK LAGOON、
M94FAカスタム・ソードカトラス×2@BLACK LAGOON、.45口径弾×19、.45口径エンジェルアーム弾頭弾×2@トライガン・マキシマム
ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険、.45口径弾24発装填済みマガジン×2、.45口径弾×24(未装填)
天候棒(クリマ・タクト)@ワンピース、ミリィのスタンガン(残弾7発)@トライガン・マキシマム、三代目鬼徹@ワンピース
、コルト・ローマン(6/6)@トライガン・マキシマム
投擲剣・黒鍵×4@Fate/zero、
レッドのMTB@ポケットモンスターSPECIAL、コルト・ローマンの予備弾35
グロック26(弾、0/10発)@現実世界、謎の錠剤入りの瓶@BLACK LAGOON(残量 50%)
パ二ッシャーの予備弾丸 1回分、キュプリオトの剣@Fate/Zero 、首輪(詩音)デザートイーグル50AE(0/8 )、包帯
【思考・状況】
0:南あたりで参加者の探索。
1:参加者の排除。
【備考】
※原作10巻第3話「急転」終了後からの参戦です。
【備考】
※ウルフウッドの死体はそのままです
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2012年12月05日 03:19