ダブルファング◆Wott.eaRjU
「……さて、どうしたもんかねぇ」
特徴的なモヒカン頭、ラズロが言葉を紡ぐ。
両眼から映し出される視界に人は居ない。
閉鎖的な空間、ラズロは民家内に腰を下ろしていた。
驚異的な身体能力、回復能力を持つラズロと言えどもある程度の休息は必要不可欠。
担いでいたデイバックは其処らへ適当に放置。
気の赴くままに身体を崩しながら、ラズロはあるものに目を通している。
全参加者に支給された名簿、そしてこの会場の地図が描かれた一枚の地図。
何かを書き写したのだろうか。
思慮深そうにじっとそれらを眺めている。
「15人……やっぱりあの二人は生きてるか。ま、そりゃそうだよな。
あいつらがこんな早く死んじまってたら、張り合いってモンがねぇからなぁ」
禁止エリアの場所についても抜かりはない。
己の頭に叩き込み、いつでも引き出せるようにしてある。
仮初の愛銃――ベレッタカスタム、通称“ソードカトラス”の状態も良好だ。
勝手が違えども、拳銃の整備などそれこそ飽きるほどやっている。
戦闘集団――“ミカエルの眼”で暗殺者として養成された経緯を考えれば可笑しくはない。
血と汗に塗れた訓練は、この状況で著しい成果を上げている。
ここまでの生存に加えて一人の参加者の殺害。
銀色のアルターを駆る男の撃破は、大きな結果と言えるだろう。
しかし、リヴィオは既に男の事について考えてはいない。
何しろ自分は最強だ。
伊達に己の師、マスター・Cに見出されたわけではない。
そうだ。自分の身も厭わずに守ってくれたマスターに――報いなければならない。
何を以ってか。そんな事はわかりきっている。
ガン・ホー(突撃)――マスターの仇を己が存在を賭けて駆逐すればいい。
「なぁ、ニコラス・D・ウルフウッド……アンタはやっちまったんだよ。
わかってんだよなぁ? アンタがマスターをやっちまったコトは、俺にとってどんだけでけぇかってコトが。
代償はテメェの命だぜ、クソッタレの日和見ヤロウが……!」
怒りでは生温い。
最早憎悪の域に達している程までにラズロの感情は昂ぶっている。
一種の絶頂状態。若しくは所謂、“最高にハイ”な状態とでも言えるのだろうか。
マスターを手に掛けただけでなく、反吐が出る程に甘い男となったウルフウッドへの憎しみは消えない。
やがて、感情が命ずるままにラズロは立ち上がる。
荷物を纏め、デイバックを手に取り、油断なく周囲を見渡す。
強化処置を施された感覚の結果――周囲に人影は感じられない。
見敵必殺――サーチアンドデストロイ。己に課した指令を噛み締めるように反芻する。
その時、ふとラズロは動きを止めた。
「……あん? どうした?」
問い掛ける。
目の前に映るものへ問いかける。
両目をギラつかせ、鬼すらも裸足で逃げていきそうな形相。
しかし、その言葉には憎悪の類は宿っていない。
只、機嫌が悪いだけだ。
自分より小さな、弱い存在を見るような目つきで。
「何見てんだ? ええ……“あまちゃんリヴィオ”よぉ?」
ラズロは一枚の大きな鏡で、自分の姿を見ていた。
もう一人の自分。この場でずっと出番がなかった彼。
リヴィオ・ザ・ダブルファングの顔を。
悪意のない睨みを利かせながら、ラズロは口を開き続ける。
◇ ◇ ◇
リヴィオ・ザ・ダブルファング。
名簿に記された名前の一つ。
この場に居るラズロと同じ身体を持つ存在。
ラズロに身体を借していると言ったところか。
本来、ラズロとはリヴィオの現実への逃避から生まれたもう一つの意識でしかない。
そう。ラズロの宿主、リヴィオはそういう位置づけの人間であった。
「もしかして出番がねぇコトにクサってやがんのか?
ああ、そいつは悪かったなぁ。だがなぁ、リヴィオよぉ、ちょいと考えてもみろよ」
ラズロはそんなリヴィオへ、さもぞんざいな様子で言葉を掛ける。
己の宿主という認識などこれっぽちも感じられないような口調。
何故ならラズロは知っている。
今まで何年も同じ身体に意識を据えた仲だ。
リヴィオの性格から彼が自分に対して反抗を示すなど。
何があろうともきっとそんな事はあり得ないという事を。
その理由――勿論、リヴィオの性格自体に未だ甘さが残っているのも一つの要因だ。
しかし、何よりも大きく、そして単純な理由は他にある。
「意味わかんねぇが俺の力はかなり落ちてやがる。
そうさ、この俺が腕一本持っていかれる程になぁ……」
強化改造により跳ね上がったスペックを誇る躯体を駆使し、二挺銃――ダブルファングを操るリヴィオ。
彼とてミカエルの眼で養成を積み、並大抵の存在には引けを取らない。
最凶の戦闘集団であるGUNG-HO-GUNSのメンバーの一席も与えられた。
しかし、確かにリヴィオ自身の力による所以でもあったが彼だけの成果ではない。
リヴィオがGUNG-HO-GUNSに迎えられた一因、遡ってはミカエルの眼の一員たる理由には彼が一枚噛んでいたのだから。
言うまでもない、それはラズロの存在。
たとえ意識だけであろうとも、リヴィオの身体を借りたラズロは将に稀代の一材。
そう。もう一人の自分であるにも関わらず、リヴィオはラズロの圧倒的な強さに頭が上がらなかった。
彼が居なければ今の自分は居なく、きっと何処か街の隅でのたれ死んでいた事だろう。
あの時、あの汚い大人共に足蹴りにされ、いつか力尽きてあのまま――
更にこの状況だ。ラズロの言う通り、以前の彼では考えられない負傷を負っている。
背中の義手の破壊、リヴィオは反応に窮し、沈黙を通す。
只、ラズロはからかうように口を開き続ける。
「なにシカトかましてんだよリヴィオ?
滑稽だろ? 笑えるだろ? 声に出して笑って良いんだぜ? よかったなぁ、これでお前の天下がやってくるってもんだぜ?
なにせ俺はもう全力が出せねぇが、お前なら腕二本でオーケーだからなぁ。
ハーッハッハ、こいつはめでてぇぜ……リヴィオ・ザ・ダブルファングさんよぉッ!」
声高らかに叫ぶ。
先程の戦闘で感じた怒りを発散するかのように。
沈黙を余儀なくされたロボットアームは大きな意味合いを兼ねている。
最強の個人兵装と称されたパニッシャーを三挺振るう。
それがラズロの戦闘スタイル。
しかし、先程の男――劉鳳によりそれは潰えた。
修理をしようにも此処には、自分の従者達やミカエルの眼の修理班は居ない。
暫くの間は三挺のパニッシャー――トライ・パニッシャーは封じられる事になる。
当然、ラズロにとっては面白くはない。
そのためか、リヴィオに敬称をつけるなど普段では考えられない口ぶりでラズロは戯れる。
リヴィオが示す反応、既に予想がついているそれを見るのが楽しいのだろうか。
答えは――イエス。言葉とは裏腹にラズロは愉快げに表情を歪ませる。
一方、依然として無言のままなリヴィオには、ラズロが飽きるのをじっと待つしかない。
何故なら今はラズロの“時間”だ。
この殺し合いに呼ばれる既に前から、交代を果たしていたリヴィオとラズロの二人。
次の交代を決める権利は生憎リヴィオにない。
性格、そして純粋な力関係によりラズロの方が発言権は強い。
だが、たとえこの場だけでもリヴィオの意思が優先されようとも、彼は今すぐに変わろうとはしないだろう。
「それによぉ、俺でさえもこんなザマなんだぜ?
今ここでお前と変わっちまっても本当に大丈夫か?
てめぇのコトだ、なんかつまんねーコトでサクっとやられちまうんじゃねぇの?
頼むぜ、オイ。てめぇはもう一人の俺なんだ。
だから……要するにだ、自信がねぇんなら――すっ込んでろや、リヴィオ」
リヴィオとてこの場で殺されるつもりは毛頭ない。
ラズロ程ではないにしろ、殺し合いとやらにも乗る覚悟はある。
だが、同時に自分よりラズロの方が戦闘に関しては優れている事も実感している。
故にラズロのこれまでの負傷はリヴィオにとっては衝撃であった。
もしも、先程の戦いがラズロではなく自分であれば――思わず弱い考えが過った。
そしてラズロもまたその事に予想がついている。
何せ、二人は同じ意識から生まれたもう一人の自分であるのだから。
だからラズロには、どうせリヴィオに大それた事は出来ないのだと確信出来る。
ある程度までリヴィオで憂さ晴らしをしたラズロはドアの方へ歩き出す。
「心配すんな、黙って見てろ。
なぁに、これからさ。やってやるさ、ああ、やってやる。
てめぇのぶんも俺がブッ殺してやる。
全ては今から……そう、お楽しみは――――これからさ」
両腕に握ったソードカトラスの感触をじっくりと感じながら。
【F-7/市街地・民家内/朝】
【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]健康。ラズロ状態。肋骨を粉砕骨折、内臓にダメージ中(治癒中)、背中のロボットアーム故障
[装備]M94FAカスタム・ソードカトラス×2@BLACK LAGOON、.45口径弾×9、.45口径エンジェルアーム弾頭弾×22@トライガン・マキシマム
[道具]支給品一式、.45口径弾24発装填済みマガジン×4、45口径弾×24(未装填)
[思考・状況]
1:片っ端から皆殺し。
2:ヴァッシュとウルフウッドを見つけたら絶対殺す。あとクーガーとゾロも。
3:機を見て首輪をどうにかする。
4:ギラーミンも殺す。
【備考】
※原作10巻第3話「急転」終了後からの参戦です。
※どこへ向かうかは次の方にお任せします。
リヴィオは考える。
結局ラズロに対して何も言えはしなかったがそれはいい。
何故なら既に何度も何度も経験している。
ラズロのお陰で、自分はミカエルの眼に拾われたのだ。
それにラズロの言うことも否定できない。
使い慣れたダブルファングもなく、自分達の身体も相当細工がされている。
正直、絶大な自信があるわけではない。
よってリヴィオはこれからも沈黙を守ろうと考える。
ラズロであれば自分が死ぬよう状況でも切り抜けられる――
その時、不意にリヴィオは思う。
今まで敢えて意識しなかったのだろうか。
唐突に投げ掛けられたラズロの汚らしい言葉の数々。
それらにより、自分もこの殺し合いに参加している事実を再認識したのかもしれない。
だから考えてしまった。
強く、どうしても気になってくる程に。
(どうしているだろうか、あの人は……)
自分に温もりを見せ、そして自分達の師を殺した男。
優勢だった。間違いなく自分の方が優勢だった。
ボロボロになってでも立ち上がり、酷く異質な存在に見えた。
どうにも――勝てる気がしなかった、あの人を。
ニコラス・D・ウルフウッドが今、どんな世界を見ているのか。
それが今のリヴィオにはどうにも気になった。
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最終更新:2012年12月02日 18:20