リスタート・ワールド ◆5ddd1Yaifw



クエスチョン

小鳥遊宗太にとって、伊波まひるとはどのような存在ですか?

アンサー

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どうして、彼女が死ななければいけなかったんだ。
俺が第一に思ったのは、伊波さんの死の否定だった。
死。消失。デリート。
言葉では様々ではあるが、確かなことは一つ。

伊波まひるとは、もう二度と会えない。

悔しいに決まっている。悲しいに決まっている。
この胸を締め付ける鈍い痛みは、俺の思考力を削ぎとっていく。
君の笑顔をもう見れないという純然たる事実は、俺をへたり込ませるには十分だった。
出会いは碌なものではなかったけれど、俺にとっては思い出となっていたんだ。
そもそも、いきなり殴られるなんて予想もつかないって。
あれはすごく痛かったなぁ……。

ああ、戯言だ。

もう会えないとわかっていながらも、俺はこの戯言――逃避を抑えることはできない。
伊波さんのことを忘れて、前を向くことなんて出来はしない。
伊波さんはよくもわからない怪物に乗っ取られて、一度は助けられたと思ったのに。
結局、死んでしまった。いや、殺された?

殺したのは誰だ? あの銀色の小さな女の子?

殺されたらどうする? 復讐でもするのか?

「できる訳……ないだろッ!」

小さなものを愛する俺にはどうしても、それができなかった。
復讐に身を任せることが一番の逃げ道と理解しているのにもかかわらずだ。
どうあっても、超えてはいけない境界線を超えることを、俺は許せない。
畜生…………。
畜生、畜生、畜生。
俺は……俺は……っ!


「ああああっ、ぁぁアアア、がああああああああっ!」

口から自然と叫び声が上がる。
大きな声を叫び散らして。掠れた声を何度も何度も絞り散らして。
そうでもしないとやっていられない。
彼女を失った痛みを少しでも和らげる為にも。

そして、和らげるが故に、優勝という甘美な誘惑に一瞬、心を揺らされてしまった。

きっと、望まない。
伊波さんはこんなこと、望まない。
佐山君達を殺して、俺が優勝して。
君を蘇らせるという願い事を――否定するだろう。
そもそも、優勝するにしても……俺一人で残りの参加者達を倒せるのか?

ノーだ。断言できる。

怪我をしている佐山君にさえ敵わない俺が、できるわけがない。
それでも。それでも。それでも……っ!
俺は君の笑顔を、もう一度見たいんだ。
こんなにも辛いなんて思わなかったんだ。
君がいない世界が寂しいと思ってしまうなんて、ね。

それは何故?
どうして、俺はこんなにも伊波さんの笑顔を見れないことが辛いんだ?
もう一度――彼女の蘇生を考えてしまうくらいに、恋焦がれてしまうんだ?

「もしかして?」

そう、あるはずのない可能性。
俺が小さなもの以外で、12歳以上の年増を好きになる訳がない。
だけど。伊波さんともう会えないと知った今、俺は何を考えていた?
どうにかして、彼女の笑顔を見たいと思わなかったか?
また一緒に、君とワグナリアで働きたいと考えなかったか?
少し顔を赤く染めて微笑む彼女を可愛いと思わなかったか?

「……気づくな、気づくなっ!!!! 気づいたら、戻れなくなる…………っ」

――もう遅い。遅すぎた。
散らばっていたパズルのピースは全て揃ってしまった。
もう、気づいてるはずなんだ。
確かめようがないなんて嘘っぱちだ。
そんなの、俺が作った逃げ道でしかない。
彼女の想いの行方はわからずとも、俺の想いの行方はわかるはずだ。
俺自身が認めたくなくて、逃げているだけ。


「俺は、俺は……っ! 伊波さんのことが」

自然と、口から言葉が漏れだしてしまう。
もう、出してしまうしかない。
だって、仕方がないだろう? これ以上は誤魔化しがきかないんだから。
小鳥遊宗太が伊波まひるに対してどう思っていたかって?
そんなの、決まってるだろ……!

「すき、だったんだ――――!」

好きだよ! ああ、好きだったよ!
彼女のことが心の底から好きだった!
そんな彼女が目の前で崩れていくのを見て、俺は思ったさ!
どうしてって! まだ、俺は君にハッキリと好きだって伝えていないのに!

「ごめんっ……ごめん……! 好きって言えなくて、ごめん……!」

もっと、速く。この殺し合いに呼ばれる前に伝えていれば。
俺が勇気を出して、君に向き合っていれば。

「……くそっ。クソっっ!!」

もう過ぎたことだ。伊波さんは死んで、俺はまだ生きている。
俺だけが生きているのだ。
だから――。

「生きてやる……絶対、最後まで生き残ってやる!」

――俺は生きるよ。君が繋いでくれた分まで。
後追い自殺? それだけはやってはいけない。
俺が死んだら、誰が伊波さんの死をワグナリアの皆に、伊波さんのお父さんに伝えられるのだ。
この役目は俺しかいない。否、俺だけしかやってはいけない“仕事”だ。

「このまま不貞腐れてちゃ、いけないよな……!」

結構、時間はかかったけれど。
立ち上がろう。横に君が並び立ってくれないのは悲しいけれど。
心に、君を強く刻み込む。それで、今は我慢しよう。
君の好きなままの小鳥遊宗太でいるから。
他の誰が君を忘れることになったとしても。忘れない、君のこと。

「俺は……伊波さんが好きでした!」

もうすぐ、現実――どうしようもないぐらいにクソッタレっている世界に意識は戻るだろう。
きっと、辛い。何度も君がいない事実に、俺は苦しめられると思う。
ずっと、ずっと。俺は――君を想って痛みを抱えてしまうかもしれないけど。
もう少しだけ、頑張ってみようと思うんだ。
いつか、俺が君の元へと向かう時。
今度は俺から、君に好きだって伝えるまで。
だから、今はまたねって。さよならなんかじゃない、こういう時はいつか会えることを考えた方が楽しいから。


「またね、伊波さん」

――うん。またね。

だから、気のせいだろう。
振り返った瞬間、君の笑顔がほんの数秒だけ。
俺の視界に映ったのは……気のせいだ。
だけど。そんな幻でも。
嬉しいと思ってしまった自分の現金さに少し笑ってしまって。

「行ってきます」

君の分まで、俺は進むよ。
ゆっくりでも、前に。


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クエスチョン

小鳥遊宗太にとって、伊波まひるとはどのような存在ですか?

アンサー

俺が好きだってハッキリ言える女性です。



【A-2 居館一階 応接間/1日目 深夜】
【小鳥遊宗太@WORKING!!】
[状態]:全身に痛み、気絶中(もうすぐ目覚め?)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式(一食分の食事を消費)、地下の地図、伊波まひるのヘアピン@WORKING!!
[思考・状況]
1:絶対に生き残る。
※獏の制限により、過去を見る時間は3分と長くなっています。このことに気づきかけています。
※地下鉄を利用するのは危険だと考えています。
※放送は聞いていません。



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悪役(前編) 小鳥遊宗太 [[]]

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最終更新:2013年04月01日 00:27