ハロー・モンスター ◆Wott.eaRjU



列車とは人間が数多く発明した中でも素晴らしいものだと思う。
列車は地に寝そべった線路を伝い、どこまでも進んでいく。
道が続く限り、旅を求める人間が居る限り、列車は止まらない。
喜び、怒り、悲しみ、楽しみ。誰しもが持つ感情が、人の数だけ詰まっている。
社会的な身分や肩書による違いはない。列車は、ただ彼らを等しく迎えてくれる。
ただし、列車の運行を邪魔しなければという決まりはある。
もし、それが破られそうになった時は。
その時こそが、『車掌』の出番だ。


思えば案外と気に入っていたのかもしれない。
人の想いを乗せて走る、箱船の番人が。
たとえ本業である便利屋を忍ぶための、仮初の姿としてもだ。
今までの業務で手を抜いたことなど一度もない。
だからこそ、途中で投げ出してしまった仕事は終わらせなければいけない。


決めたのだから。
この仕事は必ず最後までやり通すのだと。
車掌の仕事だからというわけじゃない。
そもそも、もう名前や肩書なんて大した意味は持たないのだから。
ただ、自分が決めた世界のルールを覆すような生き方はしたくない。


数々の名を捨て、一人の『“怪物(モンスター)”』は依然として世界に立っている。



◇     ◇     ◇


身体の調子はある程度までは戻ってきた。
赤い毛髪を生やした男は、やや暗い表情を浮かべながらそう考えていた。
数時間前の戦闘が、鮮明に脳裏をよぎる。
勝ちはしたものの、彼が支払った代償は確かにあった。
数を減らした弾薬に、背負わされた疲労に、うちつけられた無数の傷。
だが、弾薬以外の問題は既にかなりといっていい程に解決している。
弾薬だって、新しいものがきっとその内手に入るだろう。
なにせこの世界は彼の一部のようなもの。
すぐには難しいとしても、自分の望みを無下にすることなんて出来やしないのだから、

「あー……どうにも調子が狂うよな。勉強にはなったけどさ」

両手を組み、そのまま頭上に上げて軽く伸びる。
伸ばされた身体と共に吐き出された一言は、内容とは裏腹に呆れるほどに軽い。
死線を潜り抜けてきたばかりとはとても思えない言葉だ。
先程のチョッパーだけでなく、彼はこの殺し合いで多くの参加者と戦った。
力を持つ者、持たない者と分け隔てなく戦った彼は、今までにない苦労を味わった。
力を持った者は誰もが一級であり、力を持たない者も最後まで抵抗をしてくれた。
身体が動かしにくい事も含め、ここでは全てが思い通りにいかないことがよく理解出来た。

「丸一日経ったしなぁ。うん、切り替えていこう。俺は――生まれ変わる!!」

不意に何かを振り切るように頭を左右に振り出し、続けて両手で軽く両頬を叩く。
よし、と自らを鼓舞するかのような勢いがそこにあった。
見る見るうちに表情には生気が戻り、両目にも光が浮かぶ。
ちょうど彼が生やしている、燃えさかる赤髪のような色だった。
たとえ本調子ではなくても、彼は『世界』のために止まるわけにはいかないのだから。

「俺を入れて、あと14人。先が見えないわけじゃない」

先程聞こえてきた放送の内容を想起する。
死者の数は今までの放送とあまり変わらず。禁止エリアとやらも既に記録は取ってある。
自分が殺した参加者の名前も聞いたが、今更抱く感情はなかった。
いくら自分に喰らいついてきたとしても、死んでしまえば意味はない。
この会場のどこかで知らぬ内に死んでいった幼馴染のように。
ただ、忘れることは決してしない。それが彼なりの彼らに対する敬意の現れなのだろう。

「そういえばギラーミンってヤツは死んだんだな」

死んだ人間はもう一人居るらしい。
この殺し合いの首謀者ではなく、進行役だった男、ギラーミン。
切り捨てられたのかはわからないが、彼にとってはどうでもいい。
まだ新しく進行役となった、キース・ブラックという人間の方が気にはなる。
先程の放送で色々と好き放題言ってくれた事を、彼は覚えていた。
いつかはお礼をしなければいけない。
キース・ブラックの話しに出た、願いを叶えてくれる存在を確認した後にでも。

「……まったく、どうしてこんなところに居るんだろうな」

思えば不思議な話だった。
便利屋である自分が、金も貰わずに誰かを殺し回っている。
一銭の金にもならないし、殺してやりたいやつらじゃない。
殺すだけでは飽き足らず、ヘンテコな銃を振り回して、奇妙な人形を引き連れている。
不意に幼馴染達が今の自分を見たらどう思うかを考えたが、直ぐに答えは出た。
きっと笑われて、ぶん殴られる。あいつらならそうに違いないと。
だが、彼はただ殴られるだけで終わる男ではない。
彼なら、殴り返す。殴って、取り戻す。
彼は自らが居るべき場所を取り返すために、人を殺している。

「さてと……しんみりするのはもうなしだ。生まれ変わった俺は一味違う」

死んだ者はもう戻ってこない。
『何でも願いを叶える』という言葉に彼は騙されるつもりはない。
死者が戻ってくる事など絶対に有り得ないと、言われるまでもなくわかっている。
だからこそ、残ったものは取りこぼしたくはない。
まだ生きている筈の幼馴染達の無事をこの目で確認する。
そのために自らの鍛え上げた技術と力以外に、傍らに立つ人形だって利用する。
段々と扱い方に慣れ、時間の止め方のコツも掴めてきたのだから。
やがて、彼の視界に大きな建築物が飛び込む。
どこへ行く理由も目的もなく、ただひたすらに南下し続けていた彼は、表情を崩した。


「“怪物(モンスター)”は“怪物(モンスター)”らしく、お城にでも攻め込むさ。
“騎士(ナイト)”の歓迎の一つでも、あったら嬉しいけどな」


A-2、古城跡。
名前を捨てた『怪物』は、奇しくも同じ『怪物』が待つ場所を見つけた。
そこで待つ『怪物』は、彼が喰らった『怪物』の仲間であることを彼はまだ知らない。




一人の『“怪物(クレア・スタンフィールド)”』は依然として世界を回し続けている。


【A-2/2日目 深夜】
【クレア・スタンフィールド@BACCANO!】
[状態]:疲労(小)、全身に打撲
[装備]:スタンドDISC『スター・プラチナ』@ジョジョの奇妙な冒険、スプリングフィールドXDの弾丸×7、拳銃の予備弾×30
    二重牙@トライガン・マキシマム(20%、70%)、AMTオートマグ(0/7 予備弾×15)
[道具]:支給品一式×5<クレア、一方通行、レヴィ(一食消費、水1/5消費)、クリストファー、カルラ>、未確認支給品(0~1)
    クリストファーのマドレーヌ×8@バッカーノ!シリーズ、ミカエルの眼の再生薬×3@トライガン・マキシマム
    噴風貝(ジェットダイアル)@ONEPIECE、応急処置用の簡易道具@現実、痛み止め
    パ二ッシャーの予備弾丸1回分、ロケットランチャーの予備弾頭2個
    ○印のコイン、AK47カラシニコフ(0/40、予備弾40×3)、蓮の杖@とある魔術の禁書目録
[思考・状況]
基本行動方針:優勝し、キース・ブラック達から元の世界へ戻る方法を聞き出す。
 1:優勝のために他の参加者を殺す。迅速に、あらゆる可能性を考慮して。
 2:フィーロを殺した相手が分かったら、必ず殺す。
 3:スター・プラチナに嫌悪感はあるがある程度割り切っている。
【備考】
 ※参戦次期は1931~特急編~でフライング・プッシーフット号に乗車中の時期(具体的な時間は不明)
 ※ほんの一瞬だけ時間停止が可能となりました。
  ※名前を聞いていなかった為、カズマとクリスの死を知りません。
 ※もう一度ミカエルの眼の再生薬を服用すれば、命に係わるかも知れないため使用しないほうがよいと思っています。
 ※○印のコインの意味は不明です。使い道があるのかもしれませんし、ないのかもしれません。


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最終更新:2013年02月26日 18:15