消失証明・存在証明 ◆GOn9rNo1ts
『人の存在、もしくは消失は、他者に認識されることで初めてその事実を浮き彫りにする』
◇ ◇ ◇
劇場。
老若男女の役者によって、華やかさをもたらす大道具によって、アクセントを加える小道具によって、あっと驚く様々な仕掛けによって。
恋した少女と結ばれる喜びを、最愛の夫を喪う哀しみを、裏切った親友への怒りを、ハッピーエンドで締めくくられる楽しみを。
そして、それ以外の大げさな細やかな、ありとあらゆる感情さえも。
観客たちに見せて、聞かせて、感じさせる、人が創り上げてきた文化の拡散場。
そんな世界が、壊されていた。
このホールの主たるステージ。その壁はへこみ、幕は穿たれ、床は抉られた上に一部は『消失』している。
ガンマンたちによる決闘の爪痕は、整えられていた演劇の場をいっそ芸術的なまでに戦いの場へと仕立てあげていた。
一方、客席を汚しているのは折れたり曲がったり絶たれたりしていて元の管の形を保てていない鉄や、もはや誰にも座ってはもらえない千切れたクッション材だ。
砕け散り、散乱している材料たちをよくよく観察すれば、それらが魔王の力によって散らされたパイプ椅子のなれの果てだと分かる。
舞台裏では、男女を助ける役を請け負う人形(デウス・エクス・マキナ)が地面に這いつくばっていた。
とある参加者を殺人鬼から救った見返りを求めることもなく、天から現世へと落とされた天使(大道具)は温和な微笑みを地の底に向けて浮かべ続けている。
まるで小さな戦争が起こったかのような、荒れ果てた様相を露わにする空間だった。
舞台は荒らされ、武器の欠片が打ち捨てられ、天からの遣いは神託を寄越すこともなく沈黙を保っている。
無惨に破壊されたモノたちは、この場で行われた戦いの激しさ、苛烈さを己らの欠損した身体を以て語っている。
しかし、それでもまだ足りないと言わんばかりに、この空間に充満しつつあるモノがあった。
ただの戦いではないと、単なる争いではないと。
まるで戦争のようだと表現し得る、行われたのは殺し合いだと証明し得る要素。
死の香りだ。
それは、人と人とが傷つけ合った結果、外界へと剥き出しにされる命の証。
生を奪い合う戦いの、死を与え合う争いの果てに流出し、戦場を赤黒く染める色。
血の匂いだ。
夥しい量の血液が、一人の人間の身体中から零れ落ちていた。
数々の気に食わない人間を殴り倒してきた、両の腕が断たれていた。
死体を踏みつけ生きている人間を足蹴にしてきた、両の脚が切られていた。
いわゆる四肢たる部分が、本体と永遠の別れを余儀なくされ、客席に転がっている。
作り物では決して有りえない生々しいヒトの残骸が、劇場という優雅たるべき世界を完全にぶち壊していた。
壊れた世界の隅っこで、彼は空(くう)を見上げていた。
スポットライトの当たらない位置で。
見上げる先には、天井がある。
飽きることなく、何かを求めるかのように。
彼は、届かない高みへと獰猛な笑みを送った。
「なんで」
『落ちていた』彼を見つけ、嘆きを漏らした少女の声がした。
男は返答を行えない。いつもの軽口も、狂ったような叫びも、発しはしない。
当然だ。
彼――
ラッド・ルッソは「頭と身体を切り離されて」喋ることのできる存在ではない。
不死の力を以てしても、力が制限されるこの空間では五体不満足で生きてはいられない。
四肢が奪われるのみならず一首を切り離されてしまっては、彼に出来ることなど何も残されてはいなかった。
「なんで――――死んでるのよ!」
結論を言ってしまえば。
同行者だった一人の男が、世界を壊され、死んでいた。
◇ ◇ ◇
「余は人ってもんを王として束ねる上で、沢山の人間を見てきた」
時間がないのはここに来るまでの話で分かっていた。
ここでただ混乱しているだけでは、征服王が追っていたもう一つの命をも取りこぼしてしまいかねない。
「中には、愛する者に先立たれて屍のようになってしまった者もおった」
それでも、何もせずに立ち去るのはどうしても気が引けた。
死んだらおしまい、さようならなんて別れは、したくなかった。
「ただ死に場所を探して、我武者羅に戦場を駆け抜けた兵もいた」
そんなこちらの空気を敏感に感じ取ったのか、ライダーは一歩を踏み出す。
何をしていいのか分からない、それでも何かしたいという私の想いを代行するかのように。
「それで、だ」
埋葬をする時間はない。
その代わりに、とでも言わんばかりに。
「こやつは行く先々で誰彼構わず噛みついていたらしい」
物怖じすることなく生首に手を伸ばし、死者の顔を眠りの形へと変えていく。
いつもやっているように。自然な手つきで。
「グラハムの坊主によれば、最初に集められた場所で殺された女はこやつの恋人だったそうだ」
ホールに響く言葉は、決して私に対する慰めなどではないだろう。
ただ、彼自身が感じたことを、そのまま口に出しているだけのこと。
「これはただの憶測にすぎんが、もしかしたらこの男は」
だけど
瞼を閉じ、永遠の眠りについたラッドの顔は
「死にたかった、のかもしれんなあ」
安らかなものに、見えてしまって。
「それでも、私は」
「アンタに生きていて欲しかった」
◇ ◇ ◇
その森は生命に満ち溢れていた。
草木は生い茂り、緑を飾るように色取り取りの花がぽつぽつと咲いている。
虫は地を這い小鳥が空を舞っている。湖を調べれば小魚の影を見ることもできるだろう。
元気いっぱいの少年少女が駆け回り、暇を持て余した大人たちが散策を行うに相応しい、健全な自然環境。
そう。健全すぎる、自然環境。
お手本のように澄んでいる大気。
誰かに見せるように整えられた景観。
排除されたかのように存在していない害獣、害虫、毒花。
穿った見方をしてしまえば。
参加者たちが不自然だと思わない程度に。
まるで、一つの目的をもってして造られた実験場のような。
まるで、神の手をして完璧たる形に創られた箱庭のような。
『意図をもって互いに殺し合わなければ死人が出ない』ように設計されたような、理想の世界。
つくられた世界の中心で、彼女は空(そら)を見上げていた。
ガサガサと茂みをかき分ける音がしても、彼女は何の反応も起こさなかった。
例え「王様」が迎えに来ようとも、耳をパタパタさせて近づくことも人見知りを発症し離れることもしない。
起き上がることのない彼女の様子を見て、大きな男の陰から息を呑む声がした。
『殺し合い開始から、ついに丸一日が経過した』
無機質な声が難しいお話を始めようとも、彼女の瞳が興味深げに輝くことはない。
なにかを呟くように半開きになった口は、もはや何の呼気も発しはしない。
蟻が、障害物であるかのように彼女の身体を登って、降りていく。
「…………………」
王は何も言わず、悟りきった表情で彼女の前までやって来た。
目線を合わせるようにしゃがみこんだ彼の背中は、普段よりもずっと小さく見えた。
木の枝にとまった小鳥が、淋しげに囀りを奏でる。
「―――――」
男が大きな口から小さく漏らしたのは、いかなる思いを込めた囁きだっただろうか。
彼の言葉は少女に届かず、諦めたかのように開かれた掌の上に零れ落ちていく。
触れた瞼は、生者の手の温かさを拒絶するかのように、冷たかった。
ぱたぱたと動いていた獣の耳は、もう動かない。
ふんわりした尾は、だらりと力無く垂れたまま。
小さな小さな身体は、汚れのない綺麗なままで。
ただ魂だけが散歩に行ってしまったかのようで。
『では、死者の発表に移るとしよう』
結論を言ってしまえば。
征服王イスカンダルの、目の前で。
同行者だった一人の少女が、世界に絶望して、死んでいた。
◇ ◇ ◇
「……あの」
「そっちはそっちの思惑があって余を止めようとしたのだろ。誤解は互いに存在した」
それでも。
私の放った電撃によって、探知機という便利な道具が壊れてしまったのは確かな事実であり。
もしもイスカンダルが何の邪魔もされずにこの場へ駆けつけることが出来ていたならば、彼女は死なずに済んだのかもしれない。
それに、私が軽率な行動に出なければ、ラッドだって死なずに済んだかもしれない。
それをいうなら真紅だって。ブレンヒルトだって……。
放送という名の、主催者からの絶対的宣告によって。
死なせてしまった、救えなかった仲間のことを思い出してしまう。
仲間のおかげで何度立ち上がることが出来ても、また新たな重みが私を押し潰していく。
仕方のないことだと、どうしようもなかったのだと。
開き直れるほど、私は強くはなかった。
「懺悔も、謝罪も、後悔も、いくらでも後でするが良い」
気弱な考えを、見透かされたのだろうか。
野太い、芯のある言葉が私を現実に引き戻した。
ライダーは、アルルゥの頭を一撫でして立ち上がり
己が胸に確認するように、静かに彼らの名前を呼んだ。
放送で呼ばれた彼ら彼女らは。死んだと伝えられた彼ら彼女らは。
いずれも、志を同じくする仲間だったのだと。
イスカンダルは毅然とした態度で語った。
彼だって、死んでしまった仲間たちのことを悼んでいるに違いない。
救えなかったおのれの不甲斐なさを、痛感しているに違いない。
だけど、彼は真っ直ぐな眼差しを私に向けた。
「仲間の死から、逃げるのではない。目を逸らすのではない。
背負った上で、進み続ける気概を見せよ!」
叫びは、イスカンダル自身に言い聞かせているようにも感じた。
きっと今まで、この場に呼ばれる以前にも王として沢山の死を、見てきたのだろう。
それでも、何があっても。何十、何百、それ以上の屍を得ながら。
夢を諦めることなく、悲しみに足を止めることもなく。
沢山の想いを抱いて、背負って、進み。
これからもそのつもりで、生き抜いていく。
これはその証明だと言うかのように。
今まで歩いてきた大地の感触を確かめるように、強く一歩を踏み出し。
見たこともないどこかに声を届かせんとするかのごとく、大きく一呼吸を済ませ。
イスカンダルは空に向かって――――吼えた。
「聞いておるのだろう、胸糞悪い神気取りよ!」
あの放送で、新たに放送を行った男は言った。
この殺し合いにはギラーミンなど駒のように扱い、殺してしまえる首謀者がいるのだと。
さながら演劇を楽しむ観客のように、語り部にさえもならずに、遥か高みで嗤っているだけの存在がいるのだと証明された。
イスカンダルが行うのは、そんな未だ姿の見えない黒幕に向けた、雷鳴のように響く宣言だ。
「貴様のような臆病者なんぞが『我ら』を折れると思うなよ!」
一転、ニヤリと笑い、大きすぎる手でばしりと私の背中を叩いてくる。
その衝撃に思わずつんのめり、悪態をつきながらも、私は嬉しかった。
ただ、何もかもを失っただけじゃない。新たに得た繋がりもあったのだと。
ヒリヒリする背中の痛みで、実感出来たのだから。
「せいぜい、ぬくぬくと温まったせまーい穴蔵で怯えながら、我が軍勢の到来を待つが良い!」
死んでいった仲間たちの遺志を継ぎ。
生きている仲間たちと力を合わせながら。
立ちはだかる全ての壁を制覇し、蹂躙した暁には。
きっとその場に、到達すると。
征服の限りを尽くしこの世の果てを夢見た、と豪語する『王』は
「貴様は――――――余が首を取る」
高々と、宣戦布告を告げた。
「さて、余は往くぞ。着いて来れるか、小娘?」
イスカンダルはこちらに向き直りながら、わざとらしく意地の悪い笑みを浮かべた。
同盟者を試すかのように、いまさら小娘なんて記号で呼んで見せて。
この宣言を聞き、お前の方は何もせずにあとを着いて来るだけか、と。
落ち込み、悲しみ、いつまでも燻っているだけなのか、と。
彼なりに発破をかけているのだと分かってはいるけど――――火が付いた。
もう、大丈夫だ。
「私には『御坂美琴』って名前があんのよ、おっさん」
努力の末に辿り着いた学園都市第三位という肩書を。
超電磁砲≪レールガン≫と渾名される御坂美琴を。
「ナメんな!!!」
いつものようにコインを弾く。
今はまだ届かない高みからこちらを見下ろしてる、誰だか知らないムカつくヤツを狙うように。
散り散りになりながらも未だ残っている、私たち以外の12人の参加者に見せつけるように。
『超電磁砲』として放つ先は、星が輝く夜空の向こう。
轟音を置き去りにして撃ち出されたコインは燃え上がり、闇を切り裂き、光となって。
数瞬の後には、儚く大気に溶けていった。
これが、こんなゲームを思いついた大馬鹿野郎に送る、私なりの宣戦布告。
そして「私はここにいるぞ」とこの世界に見せつける、御坂美琴の存在証明だ。
それでこそ我が同盟者に相応しいと呵呵大笑する大男を見上げ、私はふと、この『王』の有り様を思った。
言葉も、行動も、自分の言いたいことしたいことばかりで、理屈も何もあったもんじゃない。
でも、だからこそ人は彼に惹かれ、魅かれていくのだろう。
奪い取った何もかもを受け入れ、背負っていく巨大な旗頭に、みなが集まっていくのだろう。
脳裏をよぎるのは――――何故か、アイツのツンツン髪だった。
「良い顔になったな、美琴よ」
「とーぜん。負けてなんか、いられないんだから」
出来る限り不敵に、力を籠めて笑ってみる。
子供みたいに夢を追い続ける男に。
どんな時でも諦めず、前を向いて進む馬鹿に。
追いつこうと、そう思った。
【F-4 湖岸/一日目 深夜】
【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(小)、胴体に貫通傷×3(小)、全て再生中
多大な喪失感、強い決意、≪体内:全て遠き理想郷(アヴァロン)@Fate/Zero≫
[装備]:薔薇の指輪@ローゼンメイデン、ナース服、コイン。
[道具]:基本支給品一式(食料一食、水1/5消費)、不明支給品0~2個(未確認)、病院で調達した包帯や薬品類
コイン入りの袋(装備中の物と合わせて残り88枚)、タイム虫めがね@
ドラえもん、首輪(ジョルノ)
真紅のローザミスティカ@ローゼンメイデン、
蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
ARMS『騎士(ナイト)』@ARMS、真紅の左腕(損傷大)、不思議の国のアリス@現実他、いくつかの本、ナースキャップ
[思考・状況]
0:ライダーの同盟者と合流。
1:首輪を解体できそうな人物(第一候補はグラハム)を探す。
2:一人でも多くの人を助ける、アイツの遣り残した事をやり遂げる。
3:人は絶対に殺したくない。
4:自分と関わり、死んでしまった者達への自責の念。
5:
上条当麻に対する感情への困惑。
6:ライダーと行動する。
【備考】
※参加者が別世界の人間、及び参加時期が違う事を聞きました。
※会場がループしていると知りました。
※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました。
※あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。
※地下空間の存在を知りました。地下にループ装置があるのではと推察しています。
※会場は『○』の形に成っているという仮説を立てています。
※全て遠き理想郷(アヴァロン)が体内にあることを知りません。
※ラッドの事を『原石』(天然の能力者)かも知れないと考えています。
※参加者についての情報は以下の通りです。
協力できそうな人物:レナ、沙都子、梨花、ゾロ、チョッパー、アルルゥ、佐山、小鳥遊、グラハム、ウルフウッド
直接出会った危険人物:ゼロ、ラズロ(リヴィオ)、メイド(
ロベルタ)、宇宙人(
ミュウツー)
要注意人物:白仮面の男(
ハクオロ)、ヴァッシュ、
水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める)
※首輪の機能について、以下のように考えています。
確実に搭載されているだろう機能:「爆弾」「位置情報の発信機」「爆破信号の受信機」「脈拍の測定器」
搭載されている可能性がある機能:「盗聴器」「翻訳機」
※首輪は何らかの力によって覆われていて、破魔の紅薔薇にはその力を打ち消す効果があると考えています。
【ライダー(征服王イスカンダル)@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(やや大)、疲労(小)、腹部にダメージ(小)、全身に傷(小)および火傷(小)、腕に○印
[装備]:包帯、象剣ファンクフリード@ONE PIECE、破魔の紅薔薇@Fate/Zero
[道具]:基本支給品一式×3、無毀なる湖光@Fate/Zero
イリアス英語版、各作品世界の地図、ウシウシの実・野牛(モデル・バイソン)@ワンピース
探知機(故障中)、エレンディラのスーツケース(残弾90%)@トライガン・マキシマム
[思考・状況]
0:グラハム、沙都子との合流地点へ向かう。
1:バトルロワイアルで自らの軍勢で優勝。
2:首輪を外すための手段を模索する。
3:
北条沙都子を守る。
4:サーヴァントの宝具を集めて戦力にする。
5:有望な強者がいたら部下に勧誘する。
【備考】
※原作ギルガメッシュ戦後よりの参戦です。
※臣下を引きつれ優勝しギラーミンと戦い勝利しようと考えています。 本当にライダーと臣下達のみ残った場合ギラーミンがそれを認めるかは不明です。
※レナ・チョッパー・グラハムの力を見極め改めて臣下にしようとしています。
※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
※自分は既に受肉させられているのではと考えています。
※ブケファラス召喚には制限でいつもより魔力を消費します。しばらく召喚出来ません(詳しい時間は不明)。
※北条沙都子、アルルゥもまずは同盟に勧誘して、見極めようとしています。
※現在の魔力残量では『王の軍勢』をあと一度しか発動できません
※別世界から呼ばれたということを信じました。
※会場のループを知りました。
※オープニングの映像資料を確認しました。
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最終更新:2013年11月30日 19:05