オレはここに在り ◆hqLsjDR84w



 ◇ ◇ ◇


 ミュウツーは、これまで以上の速度で森林を飛行していた。
 先ほどの放送の内容を振り払うかのように、飛行するのに念動力を集中させる。
 そんな思惑とは裏腹に、彼の聡明な頭脳は考えてしまう。

『ギラーミンは――殺された』

 聞いたこともない声の男が、自分と約束をしたはずのギラーミンの死をあっさりと告げた。
 さらに、人を疑うことを覚えたほうがいいと続けた。

 はたして、約束は果たされるのだろうか。
 考えたくないのに、意図せず考えてしまう。
 一度浮かんでしまえば、もう永遠に消えることのない疑問だった。

(わかっていたことだ)

 そういう可能性は、それこそ二十四時間前から考えている。
 それを踏まえた上で、行く道を決めた。
 いまさら、いったいなにを迷うことがあろう。

 ――こきゃっ。

 やけに軽い音。
 柔らかな感触。
 子ども特有のぬくもり。
 小枝でも折るかのようなたやすさ。

 硬い機穀剣を持っているはずの手が、未だ彼女の元にあるかのように錯覚しそうになる。

(……わかっていたことだ)

 勢いよく頭を横に振って、さらに飛行速度を上げる。
 加速した甲斐あってか、ほどなくして森林を抜けて市街地が見えてくる。
 そうしてエリアE-5に足を踏み入れるやいなや、脳内にすっかり慣れた例の声が響く。

 ・━━━見えぬところに真実がある。

 ミュウツーは首を傾げる。
 エリアE-5には半日ほど前にも来ているが、その際はこのようにいきなり声が聞こえてくることはなかった。
 そんな疑問は、すぐに氷解してしまう。
 デイパックに入れていたはずの二つの鍵が浮かび上がり、これまで放っていなかった念動力を帯びているのだ。
 カギを両方揃えた上でこのエリアに来て、初めて作用する仕掛けであったのだろう。
 宙を舞う二つの鍵が空中のある点に突き刺さり、ともに四十五度ほど右に回転する。
 次の瞬間、鍵が刺さった箇所にドアノブが一つずつ出現すると、遅れて巨大なドアが姿を現す。
 怪訝に思うミュウツーをよそに、ドアノブが勝手に回転してドアがゆっくりと開いた。

 ドアに呑み込まれたミュウツーは、いつの間にかこれまでとはまったく異なる世界に立っていた。
 眼前にはこれまで見てきた二つの湖とは比べ物にならないほど大きな湖があり、周囲には青々とした木々が生い茂っている。
 ドアをくぐっただけなのだから、さきほどまでいた場所と遠く離れていないはずなのに、市街地の面影はまったくない。
 高く飛び上がって周囲を眺めても森が広がるばかりであり、また漂っていた血の臭いも掻き消えてしまっている。
 いままでいた場所とはまったく異なる場所で、巨大なドアだけがどこまでも異質だった。

 ――三つの湖に隠された力を解き放て。

(ここがそう……なのか?)

 疑問に水を差すかのようなタイミングで、首輪から電子音声が響いた。
 概念空間に入ったとき特有の警告――ではなかった。

『宣告。宣告。あなたは概念空間【第三の湖】へと入りました』

 さらに、首輪ではない別の方向から声が響く。
 首を動かそうと、念動力を張り巡らそうと、音源は見当たらない。
 かといって、テレパシー特有の感覚もない。

『参加者No.58【ミュウツー】を確認しました』

 そうして――ミュウツーの首輪が外れた。

 やけに呆気なく、すんなりと。
 ミュウツーを二十四時間縛り付けていた首輪は、真っ二つに分かれて落下した。

「……なっ!?」

 思わず声を漏らしてしまったミュウツーだったが、力が漲る感覚で我に返る。
 否、これが本来の彼の念動力が。
 これまでが制限されていたのであって、いまの状態こそがベストコンディションのミュウツー。
 幻のポケモンの遺伝子からカツラが作り出した戦闘特化ポケモン。

 同時に足元に出現したポケモン用の回復アイテムにも驚くべきなのだが、そんなものに驚いている場合ではない。
 首に手をやっても、なんの異物感もない。
 地面に落ちている二つの金属片をわざわざ拾い上げてみると、これが首輪なのは間違いない。

(力を解き放て、とはこういうことなのか!?)

 意図が読めない。
 いったい、なにがしたいというのか。
 しかし、ミュウツーはすぐに心を落ち着ける。
 関係ない。いまさら枷が外れたところで、やることに変わりはない。

 怪訝に思いながらも、すぐに視線は湖の中央へと向かう。
 そこに白銀の刀身と黄金の鍔が鮮やかな宝剣があるのは、先ほど飛び上がったときにすでに確認済みだ。
 辿り着いてみれば、やはりいかなる原理かはわからないが、水面に宝剣が浮いている。

 手に取ってみると――その『真名』が頭に流れ込んできた。

(…………なるほど、な)

 ――第1、第2の湖を解き放つ事により、約束された勝利へと導くだろう』

 テレパシーがフラッシュバックする。
 得物はすでにいくつもあると思っていたが、脳裏に流れ込んできた『真名』とは比べ物にならない。
 まさしく約束された勝利と言っていい。

(約束――勝利。
 そうだ。エクスカリバー、俺は)

 ミュウツーは勝利せねばならない。
 交わした約束のために。
 交わした相手がすでにこの世にいなかろうと、果たされることを信じねばならないのだ。
 ゆっくりと飛んで、湖のほとりまで戻って着地する。
 飛行中は超能力で引き寄せていたエクスカリバーを自らの手で握り、決意を新たにする。

 その瞬間――だった。

 湖が振動し、先ほどまでエクスカリバーが浮かんでいた中心部から機械が飛び出す。
 空中に映像が映し出されたことで、ミュウツーはようやくその機械の正体が投影装置だと気付く。

『ご苦労様。中々の名演技だったよ。
 君のために個室を用意してある。放送までは時間があるからね、それまでは休むといい』

 スクリーンもない空間に映し出すことなどできるのだろうか。
 そんな疑問を抱いたが、すぐに掻き消えた。

『シルバー兄さん……これで良かったの?』

 解決したのではない。そんな疑問が吹き飛ぶ代物が映し出されたのだ。

『ああ。バイオレット、お前にも手間を取らせたな』

 聞き覚えのある声だった。
 かつて、湖になにかがあると仄めかしたテレパシーの主だ。
 最初に映った青年とよく似ているが、彼より一回り年上のようで落ち着いた印象を醸し出している。


『なるほどね。いつの間に人質なんか取ったのかと思ってたけど――――【ホログラムでそう見せかけてただけ】か』


「…………は?」

 遺伝子ポケモンたる彼らしからぬ、あんまりにも人間じみた声が漏れた。



 明かされた真実は、予想だにしないもの――ではなかった。
 予想していた。
 それも相当前から。
 可能性の一つとして。
 わかっていたのだ。
 その可能性もある、と。
 その上で行く道を選んだ。
 その上で殺し合いに乗った。
 その上で――

 ――こきゃっ。

 知らず、エクスカリバーを握る力が弱まる。
 先ほど決意を新たに握り締めたはずの剣が地面に触れる寸前で、どうにか念動力でもって宙に浮かせる。
 再び手元まで戻そうとしたが制御が覚束なく、思いのほか上空まで行ってしまう。
 いつもならば、それこそ両手を動かすように念動力を使えるはずだというのに。
 ましてや首輪が解除されて、本来の力を取り戻しているというのに。

(オレは――どうしてここにいる……?)

 あんな映像を見せられるまで、ミュウツーには確固たるものがあった。
 なんのために生きて、なんのために他を切り捨てるのか。
 胸を張ってとはいえないが、それでも断言できる回答は心のなかにあった。
 主のためにここに在る。その確信があった。
 しかしいまとなっては、そんなものはない。なにもない。

 ――なんのためにここに在る?

 わからない。
 前なら違った。
 けれど、いまはわからない。
 いままでの葛藤はなんだったのか。
 たったの一日、たったの二十四時間。
 その一言では流せぬほど、手を罪で染めてしまった。

 ――なんのために……

 わからない。
 考えたくない。
 考えたところで答えが出るとも思えない。
 それだけはわかっているのに、考えてしまう。

『教えてくれ……マスター……』

 テレパシーを飛ばす。
 返答があるはずもない。
 送った相手がいないのだから。
 返ってくるワケがない――のに。

『ふん、またか』

 無意味であるはずのテレパシーに、返答が届く。

「――ッ!?」

 聞き覚えのある声だ。
 湖へとそそのかし、そして主のホログラムを見せた、あの――

『貴様――ッ!』
『くだらないな。俺のせいだと言うのか?
 違うな。あくまで誘導しただけで、決めたのは貴様だ』
『なにを……ッ』

 なにを。
 なにを――
 なにを、なんだというのか。
 そこから先が、一向に出てこない。
 言い返せないのを待って、男はテレパシーを送ってくる。

『俺は貴様に興味を抱いていた。
 同じく他者に作られた存在であり、そして同じく戦闘生命としての生を強要された貴様に』

 戦闘生命という単語に、ミュウツーの肩が跳ねる。
 前にテレパシーを送ってきたときにも、この男は同じ単語を使っていた。

『かつての俺――いやキース・シルバーは、籠のなかの鳥に過ぎなかった。
 父たる兄に導かれた、母によって定められたすでに決まっている運命に従うだけの、な』
『なにを……言っている』

 これは、ミュウツーの本心だ。
 そのはずなのに、すでに決まっている運命という響きが、やけに頭に残る。

『それは違うな。わかるはずだ。貴様なら。
 父に捕獲されて以来その父の命令に従い戦いに投じ、父と己を縛る呪縛から解かれ自由の身になっても、その有り余る力を持て余していた貴様なら――』

 無言。
 なにも言わないというよりも、なにも返せない。

『己の意思がない。
 父や気を許した存在の指示に従うことはあっても、自らの意思でその力をどのように振るえばいいのかわからない。それが貴様だ』
『ちが――』

 う、と。
 たった一文字を送れない。
 ちょっと念じるだけだというのに。
 なぜか、できない。
 制限などすでにないのに。
 あったところで影響ないほど短い言葉だというのに。

『ここに来てから、貴様の根幹にあったものはなんだ?
 時間は腐るほどあった。
 二十四時間あれば、貴様の頭脳ならどれだけのことを考えられる?
 にもかかわらず、ただテレパシーを飛ばすだけだ。マスターマスターと。
 行動の指針を求めるばかり。教えてもらうばかり。道を聞くばかり。戦闘生命と呼ぶにも値しない。機械となにも変わらない。
 戦闘機械であるのなら、それは単なる兵器に過ぎない。使い手の手を離れて自動的に動くというだけで、その実は使い手を離れていない。繰り人形だ』

 反論を送らねばならない。
 そんなものではないと主張したい。
 それなのに、ミュウツーには歯を噛み締めるしかできない。

『仮に俺がなにもしなかったとして、お前という存在に、他にやることでもあったのか?』
『…………』

 たっぷり五分経過する。
 そんな風に数えられるくらいには冷静なのに、飛ばされる疑問には答えられない。
 いや、考えたくないだけだ。
 考えているクセに。
 考えていないことにしている。

『ふん。やはりな』

 一拍置いて、男が飛ばしてきたテレパシーは荒い口調であった。


『ならば、改めて考えろ。
 他の参加者に二十四時間遅れてッ!
 父はいないッ! 気を許した存在もッ、憎むべきカタキもッ、息絶えたッ! いまッ!』


 改めて、ミュウツーは実感する。
 目を逸らしていた事実と向き直る。
 いまこの場には自分しかいない。
 殺し合いの会場に戻っても、以前からよく知る存在は誰一人としていない。


『たとえ作られた存在であろうと、思考する力があるのならッ! お前にも、自分が心から欲している何かがあるはずだッ!』


 同盟を組んだ相手がいるものの、彼もまた迷っている。
 彼は向き合っていた。
 向き合っているフリをしていたミュウツーとは違う。
 彼に遅れること数時間、いま――目の前にあるものに直面せねばならない。


『オレ、は――』


 考える。
 初めて。
 いまになって。
 二十四時間が経過して。
 ようやく、第一歩を踏み出す。
 マスターにどう在るべきか訊くのではなく。
 自らの意思で。
 なにをしたいのかを。
 どう在るべきなのかを。
 なにをするべきなのかを。


『オレは――!』


 まず、過去を思い出す。

 ミュウツーの最初の記憶は、巨大なフラスコのなかから培養液越しに見る世界だ。
 誰もかれもが自分を見ているようで見ていない、そんな冷たい視線。
 唯一、時おりやさしい視線を向けてくれたのが父だった。
 アレがどれだけの期間であったかは定かではないが、とても長かったように思う。
 あの研究所から飛び出し、追っ手を撒き、ハナダシティ郊外に逃げ込んで、静かに暮らそうとした。
 そんな計画は一日と持たなかった。
 研究所以外のところで過ごしたことのないポケモンが、いきなり屋外で過ごせるはずもない。
 生まれ持った戦闘欲と、持て余す念動力が制御できずにいた。
 どうにか払拭しようと、野生のポケモンや通りがかったポケモントレーナーに襲いかかる日々。
 そんな苦しみを終わらせてくれたのは、父とレッドだった。
 そこからの日々は、それまでの日々がやけに長く感じるのとは対照的に、妙に短く感じる。
 対等の存在として触れ合ってくれる一方、将来別れるときのために屋外での過ごし方まで教えてくれた。
 レッドだけでなく、彼の後輩であるイエローも同じように接してくれた。

 そして、いまを見つめる。

 レッドはいない。
 イエローはいない。
 そうして、ミュウツーは人殺しとなった。
 もう、人を殺していない状態には戻れない。
 自己再生で怪我は塞がっても、全身に染み込んだ見えない血は永遠に取れない。
 たとえ帰ることができたところで、これまでと同じ日々は過ごせない。
 帰ることが可能だからといって、帰れるとは限らない。
 あの世界に、いまのミュウツーの居場所は――ない。


『オレは――――!!』


 ◇ ◇ ◇


 御坂美琴は、現在進行形で引いていた。
 引いていたと言っても、クジや綱をではなければ、人目でもない。
 いや、ナース服とかいう人目を引く格好はしていたのだが、それはこの際関係ない。
 そういうのではなく、いわゆるドン引き的な意味で引いていた。

「……うわぁ…………」
「どうした、美琴よ。早く乗らぬか」
「あーうん……わかってるわよ、うん」
「……お前、もしかしてびびっ」
「はあーーーーー!? そんなワケないじゃない! 私びびらせたら大したもんよ!」
「此奴はなかなかに大したもんだがな」
「…………うん、見りゃわかる、うん、マジ」

 ライダーが召喚した彼の愛馬・ブケファラスを前に、御坂美琴はドン引きだった。

 彼女の名誉のために言うが、別に馬を見たのが初めてだとかそういうワケではない。
 パッと見それっぽくはないものの、彼女は常盤台中学というかなりお嬢様学校に通っており、乗馬自体に抵抗があるのではない。
 実際に乗ったこと自体はないとはいえ、すぐ近くで見たりはしている。
 ならば、なぜ引くことがあろうか。
 ましてや、このような非常事態である。
 速く移動できるのならば、それに越したことはないではないか。

 美琴自身もそう思っていた。
 そもそもライダーがブケファラスを再召喚をするだけの魔力を回復したと告げた際、急かしたのは美琴である。
 だったら、なおさら乗れよ。失礼だろ。ご飯まだーを連呼しといてすぐ食わねーみたいなもんだろ。
 そう思うだろう。
 正しい。
 すごく正しい。
 それでも、美琴にだって言い分がある。

 考えてみれば当然なのだが、ブケファラスは身長二メートルをゆうに超えるライダーの愛馬である。
 だから、まあ、ね。
 うん。
 すっごいデカいんだ。

(これ、馬じゃないでしょ! いや、さっきも見たけど!! 間近で見ると余計に!!!)

 再び彼女の名誉のために言うが、御坂美琴はバカじゃない。
 レベル5足りうる演算能力とかはおいておいて、普通に一般的な知識はある。
 だから馬を知ってる。
 美琴、馬、知ってる。

 そしてブケファラスの名誉のために言うが、断じてブケファラスが馬っぽくないワケじゃない。
 カバのようにずんぐりむっくりしているワケでも、ヘビのようにぬめってるワケでも、クジャクみたいに妙な色してるワケでもない。
 むしろ美しい。
 見るからに速く走りそうなほど優れた引き締まったボディに、艶やかな漆黒の毛並み、纏う馬具はそのすべてが高級品。
 まさしく馬。
 馬そのものである。
 なんなら馬オブ馬と言っていい。
 ただ、全体的に普通の馬の三倍くらい大きいだけだ。



「…………ふむ」

 ブケファラスを前に視線を上げたり下げたりするのを繰り返す美琴を見て、イスカンダルはため息を吐いた。
 この反応が意外だったワケではない。
 予想していたのだが、外れて欲しかっただけだ。

(まあ現代日本の小娘であれば、普通はこのようなものか)

 とはいえこのまま時間を浪費する余裕もないので、首根っこ掴んでやろうかと思った――そのときだった。


 ――――東から太陽が昇ってきた。


 六時間ほどフライングしたことに気付いたのか、すぐに再び夜に戻る。

(……なワケあるかッ!)

 当たり前だ。
 それほど大規模な時間操作など、できてたまるものか。

 ただ、『太陽と錯覚してしまうほどの光』が放たれただけだ。

 先ほど美琴が射出したレールガンとは比べ物にならないくらいに、強烈な光が。

 唖然としている美琴をよそに、イスカンダルは思考を巡らす。
 あの輝きには見覚えがある。
 というのも、二度も至近距離で見ているのだ。
 さらに言えば、そのうち一度は自分に目がけて放たれている。

 ゆえに、見紛うはずがない。

 ようやくここまで届いた魔力の残滓が、まさしくあの魔力放出だと雄弁に語っている。
 もはや間違いないという確信が、イスカンダルのなかにはある。

 だからこそ――おかしいのだ。

 いま現在手元にあるランサーの宝具は、常時発動している宝具である。
 対して、『あの宝具』は真名を解放しなくては発動しない宝具なのだ。
 だというのに、使い手である『彼女』はこの場にいない。
 真名解放とは、真名を知っていれば使えるという簡単なものではない。
 特に『あの宝具』のような代物は。

 であるならば、『彼女』がこの場にいるとでも言うのだろうか。
 いや、それもまた考えにくい。
 サーヴァントのクラスではない名で名簿に記されている可能性や、名簿に書かれていないだけの可能性自体はあるが、『彼女』のような参加者がいれば耳に入ってこないはずがない。
 もっと言ってしまえば、出会っているはずなのだ。
 得体の知れぬ殺し合いの首謀者が用意した名簿は信用していないが、イスカンダルはイスカンダル自身の縁を信じている。

 このような狭い会場に、もしもイスカンダルとギルガメッシュとともに『彼女』が詰め込まれていたのならば――引き合わぬはずがない。

 だとすれば、やはり『彼女』以外が使用したことになる。
 本来不可能にもかかわらず、何者かがやってのけたのだ。

(しかもこのタイミング――か)

 残り参加者は十四名。
 死者のペースからすれば、もう殺し合いも終わる寸前だと勘違いしかねない。
 だが、実際はそんなに簡単な話ではない。
 参加者が減れば出会う確率も減る。
 禁止エリアというシステム自体はあるが、会場が狭くなるペース自体は緩やかだ。
 他者の宝具を強引に使用するほどの魔術師ならば、そんなことはよくわかっているはずだ。

 にもかかわらず――真名を解放した。

 魔力を膨大に消費する対城宝具を。
 よりによって、周囲が暗い分だけ余計に目立つ深夜に。

 さて、どうするべきか――

(……む?)

 ここまで考えたところで、イスカンダルは背中に微かな違和感を覚えた。
 振り返ってみれば、美琴がうしろに跨ってぎゅうっと手を回していた。
 どうやら今後の方針を議論する必要も、首根っこを掴んでやる必要もないらしい。

「うむ……まあそうするわな、フツー」

 素っ気なく返したはずなのに僅かに頬が緩んでしまっているのに気付き、イスカンダルはすぐに前に向き直ると思い切り手綱を引いた。


 ◇ ◇ ◇


 エリアE-5に、市街地であった名残はほとんどない。
 戦闘の跡がいくつもあるとはいえ、ほんの少し前まではたしかに市街地であったというのに、いまとなっては瓦礫の山だ。
 電柱は倒れ、電線は引き千切れ、街灯は砕け、街路樹は折れ、車は引っ繰り返り、屋根は剥がれ、壁は粉と化し、標識は歪にねじ曲がっている。
 病院などの強固に作られたと思しき建物はいくつか残っているが、それらも表面は焼け焦げてしまっており、ガラスに至っては割れていないものを探すほうが難しい。

 そんな一瞬にして荒廃した街の中心に、ミュウツーは悠然と立っている。
 エクスカリバーの真名解放によって消耗した体力は、すでに回復薬で取り戻した。
 一つしかない道具を使用してしまったが、断じて惜しいとは思っていない。
 戦闘中にあんなものを使う隙はそうそうないので、使えるときに使っただけだ。
 これまでのミュウツーならば、回復薬を保管して身体を休めただろう。
 しかし、いまとなってはその必要はない。

 ――すでに制限は解除されているのだから。

 両手両足がもぎ取られたり、腹に大穴が開く程度ならば、『自己再生』で十分だ。
 回復薬を消費したマイナスよりも、真名解放をすれば根こそぎに念動力を持っていかれることを知れたプラスのほうが大きい。
 あそこまで消耗してしまえば、自己再生でもすぐには追いつかない。
 多少時間をかければ問題ないだろうが、その多少は戦闘においては大きすぎる。

 それに――狙い通りの結果はもたらされた。
 見覚えのある二人の男女が巨大な黒馬を駆って、凄まじい勢いで接近してきているのだ。


『もはや、どこにもオレの居場所はない。
 故郷には帰れないし――過去には戻れない』


 二人と一匹にテレパシーを送り、黄金の剣を持たぬ左手を微かに上げる。

 直後、ミュウツーの周辺が一変した。
 雰囲気などという曖昧な感覚ではなく、見て分かるほど明らかに『変質』した。
 深夜の肌寒い空気が生温かいものとなり、先ほどまでほとんどなかった風と化す。
 その勢いは見る見る増していき、さらに吹く方向までもがことごとく異なっている。
 ほどなくして風は巨大な竜巻を形成し、周囲の瓦礫をも持ち上げてしまう。

 ――――『サイコウェーブ』。

 元来、その名は超能力で形成した波状光線の総称だ。
 いまミュウツーが行っているものとは、似ても似つかない。
 どちらかと言えば、飛行タイプの『風起こし』や、ドラゴンタイプの『竜巻』に近い。
 しかしながら威力が雲泥の差である上に、全体にミュウツーの強大な念動力を帯びている。

 だから、『呼ぶしか』なかった。

 たとえ、同じ名前をした他の技と大幅に異なっていようと。

 『サイコ(超能力)』の『ウェーブ(うねり)』という大枠に、無理やりにでも『当てはめるしか』なかった。 


『だから帰らないし――戻らない。
 これまでの二十四時間のように死を振り撒いて、生を終わらせるだけだ』


 無数の瓦礫を持ち上げる巨大な竜巻の中心で、ミュウツーはエクスカリバーを前に突き出す。
 剣を向けられた先では、巨馬がすでに瓦礫なき大地に蹄を埋め込んで、漆黒の体毛をなびかせながら強引に踏ん張っている。
 その上に跨る巨漢は、竜巻にうろたえる素振りすら見せずに涼しい顔で切り出す。

「余は、貴様が何者なのか知らん。
 いかなる経緯でそのような結論を出したのかも知らん。
 知る気もないし、考えを改めるよう説教してやるほど物好きでもない。
 貴様がその剣の持ち主のように王ならば話は別だが、そうでないのならな。
 ただ単に……この征服王・イスカンダルと考え方が違って気に喰わないという、それだけよ」

 吹きすさぶ強風でさえ、その声を掻き消すことはままならない。
 何千人もの民衆が一堂に会していようと聞き取れるほど通る声で、巨漢・イスカンダルは高らかに宣言する。


「いかなる失態を犯そうと、王ならば帰還して民に武勇伝を語らねばなるまいッ!
 余は帰るし戻るッ! この下らぬ殺し合いは終わらせても、余の夢は終わらせぬッ!!」


 巨漢のまったく臆さぬ声に応えるように、イスカンダルの背中に必死で掴まっている少女もどうにかこうにか首を前に出す。
 暴風に煽られて髪が全部持ち上げられるわ、ナース服がばっさばっさなびいてるわでえらいヴィジュアルになりつつも、やっとこさミュウツーを睨みつける。
 風に負けないようにという気持ちの表れか、二回深呼吸してから大きく口を開いた。


「こちとら、終わりたいとか知ったこっちゃねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーわよっ!!!」


 その後大きく開けた口に砂埃でも入ったのらしくやたらむせていたが、とにもかくにもミュウツーまで彼女の声は届いていた。



【E-5 /2日目 深夜】

【ミュウツー@ポケットモンスターSPECIAL】
[状態]:全快、首輪解除、制限解除
[装備]:約束された勝利の剣@Fate/Zero
[道具]:基本支給品×3<アルルゥ、仗助、ミュウツー>、どこでもドア@ドラえもん(残り1回)、
    第一の湖の鍵(E-)第二の湖の鍵(-5)
    不明支給品(0~1)<仗助>、ひらりマント@ドラえもん
    トウカの刀@うたわれるもの、サカキのスピアー@ポケットモンスターSPECIAL、機殻剣『V-Sw(ヴィズィ)』@終わりのクロニクル
[思考・行動]
 1:戦って死ぬ。
【備考】
※3章で細胞の呪縛から解放され、カツラの元を離れた後です。
 念の会話能力を持ちますが、信用した相手やかなり敵意が深い相手にしか使いません。
※V-Swは本来出雲覚にしか扱えない仕様ですが、なんらかの処置により誰にでも使用可能になっています。
 使用できる形態は、第1形態と第2形態のみ。第2形態に変形した場合、変形できている時間には制限があり(具体的な時間は不明)、制限時間を過ぎると第1形態に戻り、
 理由に関わらず第1形態へ戻った場合、その後4時間の間変形させる事はできません。
 第3形態、第4形態への変形は制限によりできません。
※概念空間の存在を知りました。
※首輪解除による制限解除により、支給品に課せられた制限まで解除されるかは後続の書き手に任せます。


【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
[状態]:だいぶ再生した
    多大な喪失感、強い決意、≪体内:全て遠き理想郷(アヴァロン)@Fate/Zero≫
[装備]:薔薇の指輪@ローゼンメイデン、ナース服、コイン。
[道具]:基本支給品一式(食料一食、水1/5消費)、不明支給品0~2個(未確認)、病院で調達した包帯や薬品類
    コイン入りの袋(装備中の物と合わせて残り88枚)、タイム虫めがね@ドラえもん、首輪(ジョルノ)
    真紅のローザミスティカ@ローゼンメイデン、蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
    ARMS『騎士(ナイト)』@ARMS、真紅の左腕(損傷大)、不思議の国のアリス@現実他、いくつかの本、ナースキャップ
[思考・状況]
 0:アイツと戦う
 0:そん次、ライダーの同盟者と合流。
 1:首輪を解体できそうな人物(第一候補はグラハム)を探す。
 2:一人でも多くの人を助ける、アイツの遣り残した事をやり遂げる。
 3:人は絶対に殺したくない。
 4:自分と関わり、死んでしまった者達への自責の念。
 5:上条当麻に対する感情への困惑。
 6:ライダーと行動する。
【備考】
 ※参加者が別世界の人間、及び参加時期が違う事を聞きました。
 ※会場がループしていると知りました。
 ※真紅と情報交換し、ローゼンメイデンの事などについて大雑把に聞きました。
 ※あすかと情報交換し、スクライドの世界観について大雑把に聞きました。
 ※地下空間の存在を知りました。地下にループ装置があるのではと推察しています。
 ※会場は『○』の形に成っているという仮説を立てています。
 ※全て遠き理想郷(アヴァロン)が体内にあることを知りません。
 ※ラッドの事を『原石』(天然の能力者)かも知れないと考えています。
 ※参加者についての情報は以下の通りです。
  協力できそうな人物:レナ、沙都子、梨花、ゾロ、チョッパー、アルルゥ、佐山、小鳥遊、グラハム、ウルフウッド
  直接出会った危険人物:ゼロ、ラズロ(リヴィオ)、メイド(ロベルタ)、宇宙人(ミュウツー)
  要注意人物:白仮面の男(ハクオロ)、ヴァッシュ、水銀燈(殺し合いに乗っているようであれば彼女を止める)
 ※首輪の機能について、以下のように考えています。
  確実に搭載されているだろう機能:「爆弾」「位置情報の発信機」「爆破信号の受信機」「脈拍の測定器」
  搭載されている可能性がある機能:「盗聴器」「翻訳機」
 ※首輪は何らかの力によって覆われていて、破魔の紅薔薇にはその力を打ち消す効果があると考えています。


【ライダー(征服王イスカンダル)@Fate/Zero】
[状態]:魔力消費(中)、腹部にダメージ(小)、全身に傷(小)および火傷(小)、腕に○印
[装備]:包帯、象剣ファンクフリード@ONE PIECE、破魔の紅薔薇@Fate/Zero、ブケファラス@Fate/Zero
[道具]:基本支給品一式×3、無毀なる湖光@Fate/Zero
    イリアス英語版、各作品世界の地図、ウシウシの実・野牛(モデル・バイソン)@ワンピース
    探知機(故障中)、エレンディラのスーツケース(残弾90%)@トライガン・マキシマム
[思考・状況]
 0:アイツと戦う。
 0:そん次、グラハム、沙都子との合流地点へ向かう。
 1:バトルロワイアルで自らの軍勢で優勝。
 2:首輪を外すための手段を模索する。
 3:北条沙都子を守る。
 4:サーヴァントの宝具を集めて戦力にする。
 5:有望な強者がいたら部下に勧誘する。
【備考】
 ※原作ギルガメッシュ戦後よりの参戦です。
 ※臣下を引きつれ優勝しギラーミンと戦い勝利しようと考えています。 本当にライダーと臣下達のみ残った場合ギラーミンがそれを認めるかは不明です。
 ※レナ・チョッパー・グラハムの力を見極め改めて臣下にしようとしています。
 ※『○』同盟の仲間の情報を聞きました。
 ※自分は既に受肉させられているのではと考えています。
 ※ブケファラス召喚には制限でいつもより魔力を消費します。
 ※北条沙都子もまずは同盟に勧誘して、見極めようとしています。
 ※現在の魔力残量では『王の軍勢』をあと一度しか発動できません
 ※別世界から呼ばれたということを信じました。
 ※会場のループを知りました。
 ※オープニングの映像資料を確認しました。


 ◇ ◇ ◇


「ブラック兄さん!
 シルバー兄さんがいないんだッ! いったいどこに――!」

「死んだよ」

「な……!?」

「始末された、と言うべきだな。
 ギラーミンのいう『上のヤツら』に。
 我々に指示を下している殺し合いの首謀者に、な」

「ど、どうして――ッ!?」

「どうして? 本当に分からないのか?
 シルバーがルールを破ったから、以外にないだろう?
 参加者への干渉は一度きり、こんなわかりやすく簡単なルールも覚えられないのか?」

「違う!」

「なに?」

「どうして、兄さんはそんなに平然としていられるのかッ! それを訊いてるんだッ!」

「…………ふふ」

「なっ、なにを笑ってるんだよ!」

「さあね。
 模倣品のお前もまた、まだまだ『真理』を見極められんのだな、と思っただけさ」

「……ッ! 兄さん!!」

「――砂はすでに流れ始めているんだ、グリーン」





【キース・シルバー(クローン)@ARMS 死亡確認】



【アイテム紹介】


【約束された勝利の剣@Fate/Zero】

 概念空間【第三の湖】に置いてあった。
 このロワに参加していないセイバー(アーサー王)の宝具。
 生前、アーサー王が湖の乙女から授かった聖剣で、見た感じは鍔がゴールドで柄がブルーの西洋剣。
 普通に斬っても相当強い上、真名を解放したら凄まじい勢いの魔力を放出する。わかりやすく言うと、ビームを出す。


【かいふくのくすり@ポケットモンスターSPECIAL】

 概念空間【第三の湖】にて、参加者No.58【ミュウツー】を確認したら出現した。
 体力が全快するだけでなく、状態異常までなかったことにするすっごい薬。
 通常2ターンかかるところを1ターンで済ませられるので、シナリオクリアではすごく頼りになる。



【備考】
※ミュウツーが参加者No.58なのは、五十音に並べたら五十八番目だからです。もしも数え間違っていたら指摘してください。
※ちなみにライダーとアーチャーは、イスカンダルとギルガメッシュとした場合の順番です。
※エリアE-5が『約束された勝利の剣』で崩壊した上、サイコウェーブで現在進行形でヤバいです。細かい破壊具合は後続の書き手に任せます。






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消失証明・存在証明 ライダー ポケットモンスター ゴールデンソード&シルバーストーム
第四回放送 キース・ブラック [[]]
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最終更新:2014年08月14日 10:23