第四回放送 ◆hqLsjDR84w
◇ ◇ ◇
【0】
「『存在』を規定するのはなんだと思う? 『環境』? 『資質』?」
◇ ◇ ◇
【1】
モニターのスイッチを乱暴に消して、ギラーミンは葉巻に火を点ける。
ニコチンとタールが肺に染み込む感覚を堪能してから、天を仰いで息を吐く。
白い煙は室内を僅かに漂っただけで、すぐに天井に吸い込まれていった。
煙草よりも強い葉巻独特の甘い匂いさえ、根こそぎに飲み込まれてしまう。
とうの昔に勘付いていた事実が、いまのギラーミンには腹立たしい。
彼がいる部屋は、窮屈で、無機質で、必要最低限の物品以外は存在しない。
嗜好品のなかで唯一葉巻だけは許されているが、このように空気清浄機能はやけに優れている。
また部屋を出ることも許されず、この扱いは奴隷や囚人のそれと大差ない。
かつては宇宙一の殺し屋とまで称されたというのに、現状はこのザマである。
なにも――脱獄前と変わらない。
当然、この仕事が終われば、莫大なマージンが入ってくる。
そういう契約は交わされているし、『上のヤツら』にしてみればその程度大した痛手でもないだろう。
契約をいちいち守ってくれる理由もないが、同時に約束を反故にしてくる理由もない。
そういう輩のほうが支払いがいいことくらい、これまで培ってきた経験でギラーミンは承知している。
ゆえに、仕事を請けた。
もとより、職を失った身であったのだ。
自由を得られるのであれば、飛びつかぬ理由がない。
(『誰でもよかった』……ねえ)
かつて告げられた言葉が、ギラーミンの脳裏を掠める。
自分を選んだ理由を尋ねた際、『上のヤツら』はそう言ってのけたのだ。
辺境宇宙の連中でもなければ、名前を聞いただけで震え上がる――宇宙一の殺し屋に向かって、だ。
あえて反発を買おうとしてきたような、挑発じみた言い方ではない。
単に当たり前のことを当たり前に告げるだけの、そんな口ぶりであった。
「けッ」
不快感を露に吐き捨てて、被っていたテンガロンハットを深く押さえつける。
全身を包むボディスーツやマントと同色の黒い帽子で、強引に視界を覆ってしまう。
『上のヤツら』がギラーミンをどう見ているのかなど、とうに分かっていたはずだ。
それを理解した上で、失ってしまった自由を得るために仕事を請けたのではないか。
むしろ、膨大な選択肢のなかから自分に白羽の矢が立ったのは、運がよかったと言えよう。
にもかかわらず、どうしていまになって苛立っているのか。
――考えるまでもなかった。
このこじんまりとした部屋には、殺し合いの会場を映し出すモニターが設置されている。
六時間ごとの放送時刻をただ待つだけというのも味気ないため、ギラーミンは時折そのモニターを眺めて時間を潰していた。
さしておもしろいものでもなかったものの、この場には酒も女もないのだから仕方がない。
当初は
野比のび太と
ドラえもんの二人を追っていたが、どちらも早々に脱落してしまった。
他に気になる参加者もいないため、適当にザッピングして大きな動きのある映像を眺めるのが恒例となっている。
先ほどもそうしていたところ、一人の少女が脱落した。
ギラーミンは彼女の名前を覚えていなかったが、数時間後に読み上げることになるのだろう。
ともあれ、その少女がギラーミンの癇に障った。
彼女は死んだ。殺された。
この場での脱落とは、すなわちそういうことだ。
別段、驚くことではない。
が――その態度が問題である。
彼女は満足して死んでいった。
自ら率先して、他人に自分を殺させた。
体内に魔獣が棲んでいるからといって、他人に引き金を引かせたのだ。
「気に喰わねえ」
帽子で表情を隠したまま、ギラーミンは歯を軋ませる。
死に行くなか、少女は安堵の笑みを浮かべていた。
これでいいと確信しているかのように、微笑んでいたのだ。
なにより、それが気に入らない。
死ぬというのに。
自由を失うというのに。
どうして、満足しているというのか。
人間は死ねば、もう終わりだ。
この仕事を請けて以来、様々な世界について知ることになった。
それでも、本当にありとあらゆる世界を見てきたというのに、死ねばどうにもならないという点だけは変わらない。
あらゆる世界における常識を知らぬワケではないだろうに、彼女は死に際に笑ったのだ。
「気に喰わねえ」
再度、吐き捨てる。
いや、違う。
再度ではない。
再度どころではない。
もう何度目かになるか分からないほど、毒づいてばかりだ。
はたして、なにがこんなに気に喰わないというのか。
ゆっくりと思い返していこうとした――そのときだった。
微かな物音もなく。
一切の兆候もなく。
なにか――形容し難い気配が現れた。
それも、すぐ近くに。
この狭い部屋のなかに。
手を伸ばせば届く範囲に。
「……ッ」
反射的に、ギラーミンは腰かけていた椅子から跳び上がる。
凄まじい速度で、視界を遮っていたテンガロンハットをかぶり直す。
明らかになった視界の先には、一人の男が悠然と立っていた。
身に纏っているのは、高級そうな黒いスーツ。
金色の髪はきめ細かく、背中の半ば辺りまで伸ばされている。
初対面の男だったが、ギラーミンはその目に見覚えがあった。
猛禽類を連想させる鋭い目付きは、これまで放送の原稿を手渡してきた三人の男女と同じものだ。
その三人からも奇妙な雰囲気を感じたが、眼前の男は別格だった。
彼らは得体のしれないものを隠しているような気配を放っていたが、この男だけは違う。
すべてを呑み込んでしまいそうな――そんな、得体の知れなさを上回る底知れなさがある。
「いったいなにが気に喰わないんだい、ギラーミン」
ギラーミンの動揺を見透かしたような笑みを浮かべて、男が尋ねてくる。
それに対して、ギラーミンは平時と変わらぬ口調を作る。
「…………まだ次の仕事には早いはずだ、四人目さんよ」
すると、男は大げさに肩を竦めた。
そんな演技じみた動作ののちに、ゆっくりともったいぶって口を開く。
「この部屋に来たのは四番目だが、私は『四人目』などではない」
ギラーミンが眉をひそめると、男は聞いてもいないのに説明を始めた。
「母(アリス)の葛藤を移し、それぞれに異なる解答を導き出すように生まれた『キースシリーズ』。
私は、その長兄たるキース・ブラックの『模造品』だ。決して『四人目』ではないし、また断じて『一人目』でもない」
真の一人目は、殻のなかに潜んでいた父に呑み込まれた。
ブラックは自嘲気味な笑みを浮かべながら続けたが、ギラーミンにはその意味を察することはできなかった。
◇ ◇ ◇
【3】
――――ギラーミンが指をほんの少し動かしただけで、銃口を向けられていた扉は消し飛んだ。
彼の手元で白煙を吐く拳銃の名は、ジャンボガンと言う。
その名に恥じぬ威力でありながら、反動は驚くほど少ない。
『上のヤツら』が用意した得物であり、野比のび太が手にしたこともあるらしい。
「大層なもん用意してくれたもんだ」
満足げに呟いて放送室を一歩出ると、そこには闇が広がっていた。
闇のなかにいくつか気配があるが、そのいずれもギラーミンの求める相手ではない。
ゆえに気配のほうに向き直ることもせずに、目指すべき扉へと歩み寄っていく。
「ギラーミン……!? 貴様、いったいどういうつもりだ!?」
声をかけられたので仕方なく振り返ると、三人の男女がいた。
これまで三度の放送の度に、原稿を用意してきた連中だ。
「どういうつもりもなにもねェ」
彼らも、所詮は『上のヤツら』の指示に従っているだけだ。
そんな操り人形に用はないので、ギラーミンは短く答えることにした。
「テメェらと違って、俺は俺だ。
俺本人であって、他の何者でもねえ」
返事を待たず、闇のなかにある一つの扉に駆け寄っていく。
緊急時用に備え付けられた『上のヤツら』の元に通じる扉だ。
扉を開けると、眩い光が漏れ出してくる。
あまりの光度に内部の様子は窺えないが、ギラーミンは躊躇せずに一歩踏み込んだ。
――――瞬時に、視界が切り替わる。
次の瞬間には、ギラーミンはこれまでいたのとは違う場所に立っていた。
殺し合いの説明を行った大広間でも、窮屈な放送室でも、闇だけが広がる空間でもない。
完全に異なっている、また別の場所。
遠く離れた地点なのか、あるいはすぐ近くなのか、そもそも同一世界であるのか否か――
推測することさえまったく不可能であるが、ともかくギラーミンが求める相手はそこにいる。
あるいは――在る。
もしくは――有る。
なんにせよ、たしかにそこに存在していた。
「よォ……遅れたな」
そう、遅れた。
あまりにも、遅れてしまった。
殺し合いが始まってから二十時間ほど経過しているが、そんな程度ではない。
二十時間前よりずっと早く、こうして相対するべきだったのだ。
なぜなら、ギラーミンは決闘者であるのだから。
すでに大局が決まっていてなお、一対一の決闘を申し込むような男であるのだから。
なまじ決闘後も生き延びてしまったために、刑務所などに収容されてしまったために、うっかり忘れてしまっていた。
欲しているのは自由などではない。
仕事を成し遂げるという成果でもない。
ただ、納得をしたいのだ。
戦争屋は生き抜くためにあらゆる手段を使うが、決闘者は――納得がいく結末を得るために手段を絞る。
なぜ、満足した笑みが気に入らなかったのか。
そんなものは、一度気付いてしまえば明白だった。
自分がどういう人間であったのか思い返せば、すぐに分かった。
なによりそれを求めていたはずの自分が、それを放棄していたからに他ならない。
ギラーミンがギラーミンであるのなら、他ならぬギラーミン自身を許してはならなかったのだ。
(…………感謝してやるぜ)
自分自身を思い出すきっかけを与えてくれた男に、ギラーミンは胸中で頭を下げる。
そうしてから、テンガロンハットを高く掲げた。
「こいつが合図だ」
言って、テンガロンハットを上空へと放り投げる。
戦争屋なら問答無用で銃を抜くだろうが、ギラーミンはそれをしない。
舞い上がった帽子が地面に触れるのを待ちながら、口角を吊り上げる。
少し前まで苛立たしかった笑みとて、現在のギラーミンには浮かべることができるのだった。
◇ ◇ ◇
【4】
闇の広がる部屋に残された三人は、ギラーミンが入っていった扉を見据えている。
扉の向こうからは銃声はおろか、物音一つ聞こえてこない。
すでにギラーミンが入ってだいぶ経っているが、はたしてどうなったのであろうか。
誰一人として口を開こうとせず、闇のなかには静寂が広がっていく。
「――ふふ。この場合、放送はどうなるのだろうな?」
静寂を破ったのは三人の誰でもなく、放送室から戻ってきたブラックだ。
三人は目を見開いたのち、合点がいったような表情となる。
「ブラック兄さん、貴方がギラーミンをけしかけたの?」
問いかけたのはバイオレットだったが、その疑問は三人共通のものであるらしい。
シルバーとグリーンは驚いた素振りも見せずに、ブラックに鋭い視線を飛ばしている。
「けしかけた? バイオレット、君がなにを言っているのか分からないな」
「その演技に付き合うのにも飽きた」
「辛辣だな、シルバー。
飽きるほど長い付き合いじゃないだろう。私たちが作られてから、三日と経っていないのだから」
やれやれと口に出して、ブラックは長い金髪を掻き揚げる。
「私が他人をけしかけたりなどしないことは、『アレックス』の記憶を持つお前がよく知っていることだろう?」
シルバーの視線が、よりいっそう鋭くなる。
キースシリーズ随一の威圧感が膨れ上がるが、ブラックは意に介さずに続ける。
「私は、父とは違う。
他者の意思に干渉などしない。あくまで、少し言葉を交わしただけだ。
ギラーミンの造反は彼が勝手にやったことであり、私のあずかり知るところではない。
ただ、私たちの知るギラーミンという人間らしい行動ではあったが、それはやはり彼自身の『意思』ゆえのものだろう」
再び、静寂が闇のなかに広がる。
たっぷり一分ほど待って誰も切り出さないのを確認してから、ブラックは胸ポケットに手を伸ばす。
取り出されたのは、掌に乗るサイズの小さな砂時計だった。
「命というものは、このように止まることなく落ち続けている。
我々ARMS適正者とて、いずれすべての砂が落ち切って息絶えてしまう。
死は避けられないにもかかわらず、こうしてガラスに閉じ込められている。
自分ではない何者かによって作られた、目に見えないガラスにだ。
あの男は自らの手で、ガラスを砕きに行った。その結果すべての砂が落ちると承知の上で――な」
言い終えても、返事はない。
繰り返したりはせず、ブラックは砂時計を胸ポケットにしまう。
「ではな、放送まで休む予定だったのを忘れていたよ」
三人に背を向けて数歩踏み出したところで、いきなり呼び止められる。
キースシリーズの末弟、グリーンだ。
「待って、兄さんッ! もしかして、兄さんは――みんなに『希望を探せ』と言うの!?」
予期せぬ内容に、ブラックは言葉を失ってしまう。
しばしの時間をかけて意味を理解すると、思わず笑いがこみ上げてくる。
どうやら、弟妹たちは随分と壮大な勘違いをしていたらしい。
「なにを言い出すかと思えば、『希望』とは……下らないな」
どうにか笑みを抑えて、嘘偽りない真実を告げてやる。
「そんなものを探せなど、私は一度として思ったことはないよ」
断言して、ブラックは闇のなかに消えていく。
弟妹たちの声が背中へと浴びせられたが、もう止まってやるつもりはなかった。
◇ ◇ ◇
【5】
――――放送の原稿は、時間通りに出現した。
◇ ◇ ◇
【6】
殺し合い開始から、ついに丸一日が経過した。
幸運な、あるいは不運な生存者の諸君、放送の時間だ。
これまで通りに、禁止エリアと死者を告げていく……が、その前に報告しておくことがある。
すでに気付いているだろうが、放送の担当者が変わった。
私の名は、キース・ブラックという。
単なる進行役でしかないので、別に覚えてもらわずとも結構だ。
私の名前よりも気になることが、君たちにはあることだろうしな。
余計な疑問を抱いたせいで殺し合いに支障が出るのも好ましくないので、君たちの抱いている疑問を解消するとしよう。
ギラーミンは――殺された。
この殺し合いを企てた首謀者の手によって、な。
君たちが目の敵にしていたギラーミンは、所詮は表向きの進行役に過ぎなかったというワケだ。
この私のような替えが、いくらでも利く――ね。
少し頭の回るものならば、すぐに違和感を抱いたことだろう。
殺し屋稼業を営めなくなったからといって、このように大それた汚名返上の場など設けるものか。
だいたい、諸君らほどの手練れを気付かれずに一気にさらえるのならば、殺し屋でなくとも十分に裏稼業で儲けられる。
殺し合いの首謀者を殺せば願いが叶うというのも、なかなかおかしな話だ。
裏に願いを叶えてくれる存在がいなければ、そんなものは到底不可能だろう。死人がどうして願いを叶えられる?
にもかかわらず、ギラーミンが首謀者と疑わぬものが少なからずいたのには、多少驚いてしまった。
随分と素直で、見ていて微笑ましくなるほどだった。
諸君らは、もっと他人を疑うことを覚えたほうがいい。
せっかくここまで生き延びたのだから、下らぬ勘違いで命を落としたくはないだろう?
…………話題が逸れてしまったな。
いい加減に、本題に入るとしよう。
まずは禁止エリアから発表していこう。
決して復唱しないので、考え込むのはあとにしたほうがよいだろう。
01:00よりH-6。
03:00よりC-3。
05:00よりC-5。
以上、三エリアだ。
では、死者の発表に移るとしよう。
真紅
ニコラス・D・ウルフウッド
メモを取るなどして死者の名を数えているものならば分かるだろうが、残る参加者は十四名となった。
つまり未だ生存している諸君らは、他の十三名より長生きすればいいということだ。
盤上に最後に唯一残るコマになるべく、これまで通りに精を出してくれたまえ。
【第四回放送 終了】
【残り参加者 14名】
◇ ◇ ◇
【2】
「テメェが何人目かなんざ知ったこっちゃねえ。
ただよォ、『模造品』ってのはいったいどういうことだ」
「喩えでもなんでもない。そのままの意味さ。
私は、キース・ブラックの肉体と記憶を持つだけのクローンだ。
君の言う『上のヤツら』に作られた――ね。
最初に訪れたシルバーも、次のグリーンも、先ほどのバイオレットも同様さ。
ゆえに我々はとある世界にいる四人のキースシリーズの模造品であって、断じてキースシリーズのオリジナルではない」
「…………」
「ああ、安心していい。
君はオリジナルだ。殺し合いに呼び集められた不幸な参加者たちもね。
あくまで、君の言う『上のヤツら』がこの私に真実を話していたとしたら――だがね」
「……たりめェだ」
「当たり前? ふふ、当たり前か。そう思うのか、君は」
「なにが言いてェ」
「いや、大したことじゃないさ。
ただ、本当に『当たり前』なのかと思ってね」
「なにがおかしいッ!?」
「おかしくはない。ただ、あまりに不自然なだけでね。
私の言わんとしていることが、本当に分からないのか?
それは気付かない素振りであって、本当は訊くまでもないのだろう?
殺し屋として成り上がった聡明な君ならば、とうに勘付いているはずだろう?
演技などしたところで無意味だ。一度浮かんだものを完全に忘れ去ることなど不可能だ。
現に、『本人と変わらぬ肉体』と『本人と変わらぬ記憶』を持つクローンが眼前にいるというのに――
どうして、君は違うと言える? 言い切ることができる? ましてや、なぜそれが『当たり前』になる?」
「……テメェらと違って、本人だという自覚が――」
「自覚、か。
そんなものは私だってあったさ。クローンであると告げられ、証拠を目の当たりにするまでは。
君はどうだ? 自らが肉体と記憶を受け継いだクローンである可能性を前にして、それでも本人であると断言できるか?
君がクローンであるという証拠はないが、しかし本人であるという証拠もまたないはずだ。
それでも『当たり前』だと言うならば、その発言に至った確たる証拠があったのだろう?」
「それは――」
「それは……なんだい? 続きは出ないだろう? 口籠るしかないだろう?
いや、構わない。何一つ間違っていない。それで正しい。
誰一人として、自分が自分であるという証明などできない。
証明に至る裏付けが足りないし――そんなものは存在しない」
「…………」
「さて……そうして考えてみると、どうなのだろうな。
はたして、君は、本当に、ギラーミンという人間なのか?」
「…………」
「宇宙一の殺し屋として名を轟かせ、野比のび太との決闘に敗北し、宇宙警察に逮捕され、どうにか脱獄を成功させるも殺し屋を続けることは難しくなった――あの、ギラーミンなのか?
宇宙一の殺し屋として名を轟かせ、野比のび太との決闘に敗北し、宇宙警察に逮捕され、どうにか脱獄を成功させるも殺し屋を続けることは難しくなった――そんな記憶を持つだけの模造品ではないのか?」
「俺は――」
「俺は? 何者なんだい? 君は、いったい何者なんだ? 答えられるのならば、是非とも答えてみてくれないか?」
「…………」
「沈黙か。
正しい解答だ。本人にせよ、別人にせよ、断定できる人間はいない」
「…………」
「ふむ。考え込むか。
構わない。放送までは時間があるからな。せいぜい考えてくれればいい」
「…………テメェ、なにがしたい」
「なにが、とは?」
「そんな情報漏らして、なにを企んでやがる。
俺が混乱することなんざ、『上のヤツら』は望んでねェだろ。
少し考えりゃ分かる。今回の件は間違いなく、テメェの独断だろう」
「さすがに察しがいい。
君が乗り込んで解決しなかった揉め事が、唯一の例外を除いて存在しないだけはある」
「はぐらかすんじゃねえ。答えろ」
「その質問には、我が妹と同じ言葉で返答するとしよう」
「テメェ――!」
「『答える必要はない』」
「…………ッ」
「用は済んだ。
数時間後に、また訪れるだろう」
「…………待ちな」
「なに?」
「乗ってやるよ、テメェの口車に。
だが、勘違いするなよ。テメェのためじゃねェ」
慣れ切った動作で、ギラーミンは腰のホルスターに手を伸ばす。
銃口を扉に向けると、ずっしりとした重みが腕に伝わってくる。
随分と久しぶりに銃を握った――そんな気がした。
「他ならぬ俺に、俺が俺だと証明するためだ」
【ギラーミン 存在確認】
【ギラーミン 死亡確認】
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最終更新:2013年11月30日 19:08