上空50メートル◆SqzC8ZECfY
気が付けば、何の前触れもなくその場所にいた。
狭い部屋。明かりはない。
だが窓の外から入り込む月と星の輝きが僅かな光源となって、薄ぼんやりと自分とその部屋の中を照らす。
外を見た。
月と星、だが見慣れたものではない。
何度となく酒を楽しみつつ星の空を眺めたことがあるが、あんな様子の空は一度も見たことはなかった。
いつでもその位置を変えずにそこにあった北の極みに輝く星すら存在せず、あるのは未知の配置におかれた星だけだ。
そして反対に下方に目をやると、自分からかなり離れた場所に暗い大地が見える。
どうやらここは天と地の狭間か。
それにしてもこの部屋はなんだろう。
見張り台にしても随分と高度があり、身体能力に多少自信があっても、飛び降りるなどという真似は自殺行為だ。
「――――――――誰?」
そのとき声がした。
薄暗くも狭い部屋。
その広さは端から端まで一足飛びで余るほどに窮屈だ。
そこに自分以外の誰かがいる。
手を伸ばせばすぐにその誰かの命に届く。
そしてそれは向こうも同じことだ。
――殺し合いをしてもらう。
あの男の声が脳裏に蘇った。
全身に電流が走るような感覚で自分の中のスイッチが入る。
危機感によって闘争本能が発動。頭が考える間もなく体が動く。
目の前にいる何者かに向かって反射的に手が伸びた。
この未知の存在を無力化させるために。
己の身を危機から回避させるために。
☆ ☆ ☆
暗く、そして狭い部屋。
窓から差し込む星明かりの中で会話する者達がいた。
人間の身体に獣の耳と尻尾を付けた美しい女と、青い達磨に短い手足を付けた奇妙な生き物の二人。
いや、人間に見えない彼らを二人といっていいものなのか微妙なところではあるが。
「…………なるほど。それはすみませんでしたわ」
「いたたたたたた……いきなりなんてひどいなあ、もう」
「仕方ありませんわ。こんな暗くて狭い部屋で二人きりなんて、女性にとっては貞操の危機の前触れですもの」
「て、貞操って、僕はそんなことしないよ!」
どう考えても冗談なのだが、ムキになって返してくるあたりは随分と微笑ましい。
そもそもこの生物(?)の性別すらわからないのだが、反応をみる限りは男なのだろうか。
「ふふ、ごめんなさい。わたくしは
カルラと申します」
「あ、僕は……」
「
ドラえもん、でしょう? 先刻の出来事は見ておりましたので」
「う、うん……」
この二人は、気付いたときには既にこの狭い部屋の中にいた。
そしてカルラがドラえもんに飛び掛ったのだ。
殺し合いをしてもらうと言われていきなりこの密室に二人きりでは、自衛するべく他者に危害を加えるという、とっさの判断も無理からぬことだ。
そしておそらくギラーミンという男もそれを狙ったのだろう。
カルラはこう見えて成人男性の数倍以上の膂力を誇る無双の戦士だ。
逃げ場のない接近戦では圧倒的に有利。
カルラ自身は相手を無力化するだけで、いきなりとどめを刺す意思はなかったとはいえ、おそらくドラえもんが下手な抵抗をすれば最悪の結末が待っていただろう。
ドラえもんはそれをせず、懸命に殺し合いをしたくないと訴え続けたことが、この場合は功を奏したと言える。
「それでここはどこなのでしょうね……」
「うーん……観覧車の中じゃない?」
観覧車とはなんだろう、とカルラは首をかしげる。
それを見てとったのか、ドラえもんがその観覧車について説明してくれたが、どうにもよく分からない。
遊園地だの、電気がついてないから動きそうにないだのと理解不能な単語だらけだ。
とにかく随分と高いところにあって、降りるのは難しいということは分かった。
「どこ、というのはそれだけではありませんわ。この土地自体が一体どこの国なのか……それすらもわからない」
「たぶん……宇宙のどこかの惑星に隔離したんだ」
惑星。宇宙。
また分からない単語だ。
「カルラさんは多分、僕たちとは違う星から集められたんだと思うんだ――」
そこから続いたドラえもんの説明はカルラの常識をまるごとひっくりかえすものだった。
自分たちの世界は宇宙という巨大な空に浮かぶ星の一つに過ぎず、そしてカルラがいま見上げる星空の向こうには、様々な世界と人間が存在しているらしい。
「ではあなたの星……の人間は、あの星空を飛び回って他の世界を行き来しているのですか?」
「うん。でもカルラさんの星は文明の発展がそこまでたどり着いてないんだよ。
聞いた限りでは、僕らの星の二千年前の世界もそんな感じだったんだからね」
「二千年……つまりあなたは、わたくしたちの二千年先の力を持つ者たちなのですか。そして……ギラーミンも」
気付く間もなく拐かされ、首が吹き飛ぶ首輪をつけられ、そして見知らぬ場所にあっという間に移された。
カルラには全く理解できないが、これがその力なのだろうか。
「……ドラえもん、と呼んでもよろしいかしら?」
「え、うん、構わないよ」
「ドラえもん。あなたの世界の力ならば、あのギラーミンという男がやったような真似ができるのですか?」
「……うん、できる……と思う」
ならばドラえもんは、その力でこの殺し合いから脱出して、皆の待つトゥスクルに帰る方法を知っているのではないか。
だが淡い期待はカルラ自身の新しい考えによって霧散した。
よく考えればギラーミンもそれを防ぐための方法をとっているのが当然だ。
わざわざ殺し合いさせる連中に、それを止めるための力を持たせておく道理がない。
そしてその予想は残念ながら的中した。
「いつも持ってる道具があれば、脱出する方法はいくらでも考えられるけど……」
「とりあげられているのですね。当然と言えば当然ですけど」
「うん……」
正直言って明るい材料は見当たらない。
あの男の言いなりになって殺し合いをするしかないのか。
いかにカルラが無敵の戦士でも、それをここまでいいようにする相手を出し抜く方法など見当も付かない。
「それでも……あるじ様ならきっと」
「え?」
カルラの呟きが聞こえたのか、ドラえもんがいぶかしむように問う。
だがそれに構っている余裕はなかった。
そう――カルラの身も心も魂も、毛先の一本まで捧げた唯一無二の主君
ハクオロも、あの皆が集められていた場所に確かにいた。
ということは、彼も今この地のどこかにいるのだ。
その神算鬼謀をもって小国にすぎないトゥスクルに勝利と繁栄をもたらした偉大な主ならば、きっとよい方法を見つけてくれるはず。
だがいくらハクオロといえど、ドラえもんが持つ世界の知識とギラーミンの情報なしにそれをやれというのは、あまりに無茶無謀だ。
ならばカルラのやるべきことは二つ。
ハクオロを見つけ出し、この身に代えても守ること。
そしてもう一つ。
貴重な情報と知識を持つ、このドラえもんを何としても主の元へ送り届けることだ。
「ドラえもん、あなたには何としてもこの殺し合いを止めてもらわねばなりません。その覚悟がおありですか」
「も、もちろんだよ! こんなこと許しちゃおけない!」
その問いの言葉に込められた迫力に気圧されながらも、ドラえもんは真っ直ぐ前を見てそう答えた。
カルラはその視線を受け止め、僅かな沈黙の後でゆっくりと頷く。
「……分かりましたわ。ではこのわたくし――ギリヤギナのカルラ。身命を以って貴方を守り抜きましょう」
――――あるじ様の命が失われぬ限り。
守り抜くというあとに続くはずの、その言葉をカルラは心の奥にしまいこんだ。
愛しいハクオロを死なせるつもりなど絶対にない。
この命に代えても守り抜いてみせよう。
だが、もし――――ハクオロを見つけ出す前に、何者かの凶刃によって倒れてしまったら。
彼の智謀もなしに、二千年後の力を持つというギラーミンに歯向かえる可能性などあるのか。
いやそれどころではなく、ハクオロの死んだ世界など考えたくもない。
もしそうなってしまったらと考えることすら恐ろしい。
――――全てのものを生き返らせる。
ギラーミンの言葉が脳裏に蘇る。
そして、ドラえもんはそれが可能だと言った。
カルラの心の奥に、それらの言葉は消し去ろうとしても消えないシミのようにこびりついていた。
【F-2/遊園地・観覧車の中(上空50m)/深夜】
【カルラ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。ハクオロたちと共に脱出してトゥスクルへ帰る。
1:ドラえもんをハクオロに会わせる。
2:ハクオロを探して守り抜く。
3:とりあえずここから降りたい。
4:もし、あるじ様が死んでしまったら……。
【備考】
※ドラえもんやギラーミン、他の世界の参加者たちを異星人と考えています。
※支給品、名簿などは全て未確認です。
【ドラえもん@ドラえもん】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いには乗らない。ギラーミンを止める。
1:カルラさんと一緒に行動する。
2:のびた君は無事かなぁ。
【備考】
※他の世界の参加者たちを異星人と考えています。
※支給品、名簿などは全て未確認です。
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最終更新:2012年11月27日 00:15