Doubt & Trust ◆YhwgnUsKHs
竜宮レナは迷っていた。
目の前に倒れる青つなぎの青年。
―彼をここに残し、自分たちの仲間を捜しにいくか。
―それとも、少なくても彼が目を覚ますまでここで待ち、返答によっては彼と一緒に仲間を捜しに行くか。
後者の方が自身や彼の身の安全を考えれば選ぶべきなのだろう。
だが、レナはそれによる時間のロスが、どうしても気にかかっていた。
もし、自分がここにいた数時間で、誰かが殺されたら……。
そう考えて、自分で身震いした。
つい考えてしまうその可能性。部活仲間が誰かに殺される光景。
「嫌っ……!」
頭を振るい、想像を振り払う。
こういうとき、全てを想定してしまう自分の頭が憎らしい。
やはり、彼をここに置いていこうか……。
考えてみれば、彼がこの殺し合いに乗っていないとは言い切れない。
自身の安全を考えれば、やはり……。
そうレナが考えていた、その時だった。
外から、声が聞こえてきたのは。
「ルフィ~~……。
ゾロ~~~……。
ウソップ~~…。どこだよ~~……」
****
数分後、市街地に二つの声が響いた。
それは、追う者と追われる者の叫び。
追われる者は、何が何でも捕まりたくない、と。
追う者は、何が何でも捕まえたい、と。
それはこの殺し合いの場で、どこで行われているかわからない、非常な現実の1つ……。
「はぅ~~! か、か、かぁいいよぉぉぉぉぉ! お、お、お持ち帰りぃぃぃぃ!」
「ぎゃああああああああ! だ、誰か助けてくれーーーーーーーー!」
*****
「……ごめんなさい」
「いや、わかってくれればいいんだけど、よ……はぁ」
30分ほど後、レナはさっきの民家の一室で正座で反省していた。
その視線の先には、小さな体に、ピンク色の帽子。鹿のような角に、茶色い毛皮。服も着、二本足で立っている……トナカイがいた。
彼の名前は、
トニートニー・チョッパー。
『ヒトヒトの実』という悪魔の実を食べてしまったトナカイ。それ故、二本の足で立ち、物を掴む事が出来るヒヅメを持っている。
そんな彼が、なぜレナに謝られているのかと言うと……。
この殺し合いに投げ出されたチョッパーにまず芽生えた感情は、怒りだった。
「許せねえ……人の命を、あんな簡単に!」
集められた場所で殺された2人の人間。
殺した1人の男。
チョッパーは悔しかった。
医者である彼は命の大切さをよく知っている。
それを簡単に、あっさりと奪い去ったギラーミン。そして、それをとめることができなかった自分自身。
「畜生……ごめん、ごめんよ……」
動けなかった。何かが自分を押しとどめていた。
それは野生の本能が動くなと告げたのか、それとも純粋な恐怖だったのかは分からない。
ただ、彼は動けなかった。それだけが事実だった。
許せない。
ましてや、殺し合いなんて冗談じゃない。
こんなの……絶対止めなくちゃ!
そう決めたチョッパーは、名簿を確認し、安心と。
「ルフィ……ゾロ……
ウソップ……全員じゃないけど、みんないるんだ!」
恐怖を、味わった。
「クロコ、ダイル……な、なんであいつが!」
仲間がいたことは嬉しかった。
勿論、ここはそんないいところではないのは分かっている。
けれど、仲間たちと一緒に今までどんな苦難も打ち破ってきた。
アラバスタの動乱も、空島での暴挙も、ニコ・ロビン救出も、全部できた。
仲間が足りない、なんて関係ない。
船長、剣士、狙撃手……不足なんてない。
絶対、大丈夫。
けれど、不安もある。
サー・クロコダイル。
ルフィに倒されたはずの男。
そして、ルフィを一度倒した男。
『スナスナの実』という脅威の能力を持つ。体を砂に出来るその能力は、無敵といっても差支えがない。
チョッパーは、クロコダイルは間違いなく他人を殺して回る、と思った。
自分の目的のために一国を混乱に陥れる男だ。生き残るために誰かを殺すなんて、禁忌にも思わないだろう。
「そんなことさせるもんか!また、ルフィが倒して……い、いや!会ったら、俺が……」
ルフィが倒してくれる、そんな甘い事を言っていられないのはわかっている。
できるなら、やらなければいけない。
チョッパーは今までの冒険でそれを知っていた。
それに、彼はルフィから後日、クロコダイルの弱点を冒険譚として聞いていた。
「水……それさえ、使えば」
クロコダイル唯一の弱点、それが水。
水をかけられると、砂になることが出来なくなる。
幸い、デイパックには水がいくつか入っていた。
対抗手段は、ある。
「よし!まずは、ルフィたちを捜そう!
そして、クロコダイルを倒して!
巻き込まれた人たちを助けて!
ギラーミンも倒す!
よし、いくぞーーー!」
具体的対策とかは特になく、チョッパーは決意の元走り出した。
意気揚々と、勢いにあふれ……。
「ルフィ~~……。
ゾロ~~~……。
ウソップ~~…。どこだよ~~……」
2時間後、その勢いはすっかり失われ、彼はとぼとぼと泣きそうな声を上げながら町を歩いていた。
なにしろ、彼の本来の性分に、怖がりと言うものがある。
人気のない暗がりの街は彼の恐怖心を煽るのには充分だった。
てんで仲間に会えない、という孤独心もそれを助長する。
「だーれーかぁ……」
情けない声を上げながら、民家の前に差し掛かった、そのとき。
バァン、と音を上げ、民家の扉が開き、そして。
「おぉもちかえりぃぃぃぃぃ!」
オレンジの悪魔が、扉から飛び出してきた。
その後、追いかけるレナとレナに恐怖し逃げるチョッパーは20分近くの追いかけあいを街中で繰り広げた。
その終焉は、1周して元の民家に戻ってきたチョッパーが民家に飛びこみ、ずぶぬれの男、グラハムを発見。
そこで追いついたレナも、グラハムを目にして我に返り、今に至る。
「はぅ~……窓から様子を見てみたら、チョッパーくんがあまりにかぁいくて……つい、理性がどこかに……」
「そ、そうなのか……(こええ……こいつこええ……)」
謝るレナに、チョッパーはどうしても最初の恐怖が拭えず、適当に相槌を打つ。
そうしながら、彼は民家で見つけたタオルで、眠っているグラハムの髪や顔を拭いていた。
「チョッパーくん……その人、さっき説明したとおり、銃弾がレンチに挟まったから、大丈夫なんじゃ……」
「いや、安心は出来ないんだ。いくら銃弾が当たんなかったからって、衝撃はそのまま来るはずだよ。
そのレンチ、左胸に刺さってたんだろ? 左胸は心臓もあるし、衝撃だけだって油断は出来ないんだ。衝撃の強さによっては、骨に皹が入ってるかもしれない。
それに、水をいっぱい飲んでた、ってレナ言ったよな。だとしたら、この人いくらか呼吸ができなかった時間があったかもしれない。
もし、そうだとしたらどんな後遺症が残ってるか分からない。
ずぶぬれのままにするのだって、体温が低下するだけでも人間辛いんだ。風邪もだけど、感染症が起こりやすくなる。とりあえず、まずはずぶぬれの体をなんとかしなくちゃ。
……どうしたんだ?レナ」
レナはぽかーん、としてチョッパーを見つめていた。
我に返ったレナは恐る恐るチョッパーに言った。
「す、すごいチョッパーくん……レナ、全然そんなこと思いつかなかった……」
「!?」
それを聞いたチョッパーは……。
「ふ、ふん! そ、そんなこと言われても、全然嬉しくねーぞ!このやろが!」
(って言いながらものすごく嬉しそうな笑顔で踊ってる……かぁいい)
チョッパーは、どうにも嘘をつけない性分だった。
*****
(チョッパーくん、医者っていうの本当みたい……。
この子に、この人を任せたら……)
踊りから覚め、グラハムの看病に戻ったチョッパーを見ながら、レナはそう考えていた。
それは、酷く打算的な考え。
(けど、チョッパーくんも捜している人がいるのはさっきの声でわかってる……。
私と同じなんだ……そんな彼に、押し付けるの……?)
そう考える自分が嫌になる。
けれど、仲間の命という、天秤の片方の錘があまりに重い。
つい、口に出してしまった。
「チョッパーくん……あの」
「レナ!」
言おうとしたそれを、チョッパーが遮った。
先を見透かされたのか、とレナは動揺したが。
「悪いんだけど、この人のツナギ、脱がしたいんだ。水をかなり吸ってるから、かえって体温を下げちゃう。
体も拭かなくちゃいけないし……だから、その……」
「あ、わ、わかったよ! レナ、部屋出るね!」
男性の裸を女性が見るわけには行かない。
レナはチョッパーの気遣いに感謝しつつ、チャンスとも思った。
部屋を出てそのまま家も出てしまえば……。
けれど、ここで疑問が浮かんだ。
それはさっきからのチョッパーの行動、そして今の発言。
「あの、チョッパーくん……この人の面倒、まだまだ見るつもり、なのかな?」
そう、さっきからそうだった。
チョッパーがしている処置は、すぐに済むような簡易的な感じではない。むしろ、これからまだまだ段階がある、と言う感じだった。
「うん、そうだけど。体をまず全部乾かさないといけないし、後遺症もあるかも。だから、この人が目覚めるまで俺はここにいる!」
「えっ……で、でも!チョッパーくん、捜している人がいたんじゃ……」
レナは驚愕した。
さっきまでレナが悩んでいた問題。それにチョッパーはあっさりと答えを出した。
目の前の男を優先する、と。
「うん。確かにルフィたちは捜してるぞ?」
「し、心配じゃないの? もしかしたら、今こうしている間にも……」
そういうと、チョッパーは少しくらい顔をした。
レナははっとした。自分はなんてことを言ったんだ、と。
チョッパーの不安を煽るような事をしてしまった。
「ご、ごめ… 「ルフィたちなら大丈夫!」 ……え?」
レナの謝罪が止まった。
チョッパーが表情を一転させ、笑顔でそういったからだ。
「ルフィも、ゾロも、ウソップも! みんな強いんだ!
俺たち、バラバラになったこともあったけど、最後にはみんな一緒になった!
今度も大丈夫!
3人とも、そう簡単に死んだりするもんか!
俺はルフィ海賊団の一員だけど、医者でもあるんだ!
だから、俺はルフィたちを信じて、目の前の命を救う!
俺は、仲間を信じてるから!」
「っ!!」
チョッパーの自信満々な答えに、レナの体が震えた。
仲間を、信じる。
そんな単純な言葉が、レナの脳裏をぐるぐる回る。
「レ、レナ? どうしたんだ?」
「な、なんでもないよ……へ、部屋から出たほうがいい、ってことだったよね。うん、そうする」
「う、うん……」
チョッパーが不思議そうにレナを見つめた。
レナはきびすを返して、部屋を出て行こうとする。
うちに大きな動揺を押し込めて。
そして、チョッパーが呟いた。
「水を含んだ服も乾かしたいけど……『熱貝(ヒートダイアル)』もないんじゃ無理かなぁ……」
*****
(……出て、いけなかった)
少し後、レナはチョッパーとグラハムがいる隣の和室で、ドライヤーを使っていた。
その手元には、チョッパーが脱がせて部屋のふすまの隙間からレナに渡した青いつなぎがあった。
かなり水を含んだそれは、かなり重かった。チョッパーがあらかじめ台所で絞ってくれたらしいが、それでもツナギは水を含んでいて重い。
レナはそれを、民家で見つけたドライヤーで乾かしていた。
レナは気付いてしまった。
チョッパーがドライヤーに気づいていない事を。
ちょっとした事。無視しても良かった事だ。
けれど、何かがレナを突き動かした。
それはこのまま去るのは嫌だという罪悪感か。押し付けてしまうチョッパーのロス時間を少しでも減らしたいという心か。あるいは……。
いずれにしても、レナはチョッパーにドライヤーを教えたが、使い方がよくわからない、という事で、結局レナがつなぎを乾かす事になった。
レナの服も濡れていた為、つなぎを乾き終えたら乾かす手筈になっている。
乾かしながら、レナの頭の中をぐるぐると言葉が回る。
*****
『仲間を信じてる』
レナもそのつもりだった。
けれど、揺らぐ。
自分は仲間と合流する事に固執している。
それは心配だから。仲間が殺されないかと心配だから。
そう、思いたい。けれど、さっきから片隅で誰かが囁く。
【それって、仲間の力を信じられていないんじゃない?】
(違う! いくら部活で鍛えてても、沙都子ちゃんや梨花ちゃんは幼いし!圭一クンたちだって、銃とかが相手じゃ……!)
自分の不安を煽るような声にレナは抗う。
けれど、声はそれを意に介さない。
【へー? じゃあ、何ですぐに行かないの? ほら、トナカイも繋ぎ男も見捨てて、速く行けば? 大切なんでしょ?】
(っ……で、でも……チョッパーくんたちをそのまま、なんて……)
【嘘。違うでしょ? あなたはここにいたいだけ。なにせ男2人だもんねぇ。トナカイもなんか変な能力あるし、ここでじっとしてれば自分はいくらか安全】
(違う! 違う違う! 私はそんなこと思ってない!!)
自分の闇が抉られる。
チョッパーたちを見捨てられないのは、本当は利己心から?
1人で町に飛び出すのが怖いから?
チョッパーたちを体のいい……盾にしたい?
(嘘だ嘘だ嘘だ! 私はそんな事、思ってない!!)
【はははは。出て行かないくせに何言ってるの?
怖いんでしょ? 捜しにいくのが。
怖いんでしょ? もし、見つけたとき】
(やめて、やめてやめて!)
【仲間が、殺し合いに乗っていたら嫌だもんね。
あんたはそれから目を逸らしたい。だからここでうじうじしてる。
なぁんだ、あんたって……】
そして声は、レナの禁忌に触れる。
【仲間の力も、心も信じてないんじゃない……さすがねぇ……『礼奈』?】
*****
「私を礼奈って呼ぶな!!」
ガシャン!!
レナが大きな音にはっとした。
気が付けば、持っていたはずのドライヤーが離れた床に転がっていた。
投げつけたのだ。
不安な自分の生み出した幻聴に耐え切れなくなったレナが、思いっきり。
(私は、圭一くんたちを……信じてない? 力も、心も……。
チョッパーくんはあんなに信じられてる、のに……)
軽い、嫉妬の心が浮かぶ。
信じているはずだ。そう信じたい。
仲間を信じられないなんて……そんなのは。
(違う! 『いやなこと』はもう、捨てた……私はレナなんだ……仲間を信じてる……はずなのに)
不安。不安がレナを支配する。
迷う。これからどうしたらいい?
―仲間を優先し、グラハムをチョッパーに任せて捜しにいくか。
―仲間が生き残ると信じて自分の安全を優先し、チョッパーやグラハムと一緒に行動を共にするか。
―あるいは……。
「どうしたんだレナ! 今、物音がしたけど」
ずんぐりむっくりとした体躯に姿を変えたチョッパーが、ふすまを開けてレナを見やる。
レナはそんなチョッパーに、なんとか笑顔を作った。
『レナ』としての笑顔を。
「ううん。ちょっと、ドライヤー落としちゃっただけだから……。
レナは、大丈夫……」
レナの逡巡は悪化し、もはや大きな迷いになり、混迷を極めていくばかりだった。
【B-4 市街地 民家内 1日目 黎明】
【竜宮レナ@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:健康 上半身が濡れている 不安
[装備]:小型レンチ ドライヤー
[道具]:支給品一式 未確認支給品1~3
[思考・状況]
1:グラハムをチョッパーに任せて仲間を捜しにいく?2人と行動を共にする?それとも?
2:部活メンバーと合流したい(ただし、積極的に探すかは保留)
3:何とかして首輪を外したい
※グラハムの名前は知りません。
※チョッパーから軽く自己紹介を受けました。ルフィたちやクロコダイルの情報はまだ知りません。
※『声』が果たして雛見沢症候群によるものか、無関係の不安による幻聴かは不明です。
【トニートニー・チョッパー@ONE PIECE】
[状態]:健康 人型
[装備]:タオル
[道具]:支給品一式 確認済支給品1~3
[思考・状況]
1:殺し合いを止める。
2:グラハムが目を覚ますまで様子を見る。
3:ルフィたちや巻き込まれた人たちと合流する。クロコダイルは倒す。
4:ギラーミンを倒し、脱出する。
※レナからはあまり情報を受けていません。圭一たちについての情報は知りません。
※参戦時期は不明。少なくともCP9編以降。
【
グラハム・スペクター@BACCANO!】
[状態]:健康(?) 全身ずぶ濡れ(拭かれている途中)
[装備]:無し
[道具]:支給品一式 確認済支給品0~2
[思考・状況]
1:気絶中
2:殺し合い自体壊す
3:ラッドの兄貴と合流、兄貴がギラーミンを決定的に壊す!
※後遺症等があるかどうかはわかりません。
※青いつなぎは脱がされて、レナが乾かしています。
時系列順で読む
投下順で読む
最終更新:2012年11月27日 00:29