『友達』 ◆o9OK.7WteQ
深い闇が支配する森に響き渡った声。
その声を発した
翠星石は突如表れた男、クリストファー・シャルドレートに言った。
「なんなんですかお前は!? いきなり現れて自然について語り合おうなんてわっけわかんねーです!」
その言葉を聞き、クリストファーはしばし沈黙した。
その赤い眼を足元で騒ぎ立てる少女に向けると、
「そうかな?
まあ、言われてみれば、いきなり語り合おうなんて確かに急すぎたかもしれないな。
いや、僕は別に構わないんだけどね? だけど君がそう言うんなら、とりあえず自己紹介をしようか。
僕の名前はクリストファー・シャルドレート。よろしく」
そう言って笑顔を振りまいた。
その笑顔のせいで先ほどは別の少女に逃げられたというのに、
クリストファーはそれを全く気にしていないかのようだった。
「あ……翠星石はローゼンメイデン第三ドール――って、そういう事を言ってるんじゃありません!」
つられて翠星石も名を名乗ったが、すぐに次の質問をクリストファーに投げつけた。
「お前は一体なんですか!?」
それは、突如現れたクリストファーがどんな人物なのか。
それに加え、特異な容姿に対する問いかけであった。
だが、
「さあ? 何なんだろうね?」
作られた存在――ホムンクルスであるクリストファーはその質問はそうは受け取らなかった。
「逆に質問するけどさ、君って何?」
何故ならば、その質問をした翠星石が人間ではなかったのだから。
・ ・ ・
「……なるほどねえ、ヒューイ氏が知ったら喜びそうだなあ」
クリストファーは翠星石から聞いた、ローゼンメイデンというものに興味を示した。
自分と同じ様に、作られた存在。
――そういう意味では、僕とこの子は遠い親戚みたいなものなのかな?
フリルのついたドレスから覗いいている翠星石の手には、球体関節が見える。
――ちょっと違うかな。……服装の趣味は合いそうだけど。
「? なんで喜ぶんですか?」
翠星石は、先ほどまでとは違い落ち着いた様子だった。
このクリストファーという人間。“多少”変わってはいるが、話の通じる相手のようだと翠星石は思っていた。
話を聞いてみると、自分と同じようにここに連れてこられただけのようで、自分と同じ様に困っているという。
実は人見知りをする性格の翠星石も、クリストファーの馴れ馴れしい態度に多少心を開いていた。
勿論完全に信用したわけではないから、他のドールズに関しては何も教えてはいないのだが。
「ああ、うん。こっちの話。それでさ――」
クリストファーは翠星石に向けていた視線をはずし、
「――そっちの子はこれからどうするつも」
北条沙都子に話しかけようとしたのだが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。
「……っ」
何故なら、その腹部には北条沙都子が体当たりと同時に突き出した包丁の刃が突き立っていたのだから。
「サメ人間っ!?」
夜の森に、翠星石の驚きの叫び声が再度響いた。
・ ・ ・
ここから逃げたい。
皆に会いたい。
死にたくない。
北条沙都子の心を満たしていたのはその想いだった。
あの『お化け』は、逃げてもおいかけてきた。
また逃げて、次に追いつかれたらどうされるかわからない。
いや、恐らく間違いなく×されるだろう。
ならば、どうすればいいか?
答えは一つ、シンプルだ。
×される前に、×してしまえばいい。
幸いあの『お化け』は自分よりも小さな少女と話し込んでいる。
きっと、あの少女を×すために何かをしているに違いない。
次はきっと自分の番だ――
……早く、早く、早く早く早く早く!
あの『お化け』を×すために武器を探さなくては!
そして、沙都子はディバックの中から凶器を一つ取り出した。
他にも二つ程あったが、説明書きを読んでいる暇すら惜しい。
それに、これならば普段料理をする時に使っているから問題はない。
『お化け』退治。
沙都子はそんな言葉を思い浮かべながら包丁を両手で持ち、静かに『お化け』とその距離を詰めていった。
・ ・ ・
「サメ人間っ!?」
夜の森に、翠星石の驚きの叫び声が再度響いた。
翠星石は自分の後ろから突然飛び出した影がクリストファーに体当たりをしかけたように見えた。
その影の正体は、先ほど自分とぶつかった少女。
身長的に見上げる形になるので、その少女が手に持っていたものの正体はすぐにわかった。
包丁。
それも果物ナイフのように小さなものではなくちゃんとしたもの。
人間がそれを腹部に突き立てられては――
「何をするんですかチビチビ人間っ!」
翠星石はとっさに沙都子に体当たりをし、クリストファーとの距離を離した。
足元が定まっていないためか、いとも簡単にその試みは成功する。
沙都子はよろけると握っていた包丁を取り落とし、そのままふらふらと尻餅をついた。
そして、定まらない視線で『お化け』と自分を突き飛ばした少女を見た。
「大丈夫ですかサメ人間っ!」
翠星石がクリストファーに声をかけた。
それに対しクリストファーは、
「大丈夫だよ? っていうか、サメ人間って僕のことかな?」
あっけらかんとした調子でそう答えた。
「そ、そんな……!?」
まず、それに驚いたのは沙都子だった。
確かに自分は包丁を突き立てたはずなのに、何故あの『お化け』はあんなにも平然としているのだろうか。
「備えあれば……」
クリストファーは種明かしを楽しむように、闇に溶け込むような黒いジャケットをはだけ、
その中に着ていた血のように赤いシャツのボタンをゆっくりとはずしていく。
そして、中に仕込んでいたものを二人に見せ付けた。
「嬉しいな」
……そこにあったのは、革製の学生鞄だった。
ただの学生鞄だったら、包丁の刃はクリストファーに届いていたかもしれない。
だが、その鞄には鉄板が仕込まれていた。
そのため、包丁は“突き立って”はいたが“突き刺さって”はいなかったというわけだ。
なんのために鉄板が仕込まれていたのかはクリストファーには関係なかった。
重要なのは、その鞄を使えば――
「アハハハハッ! 驚いた?」
相手を驚かせることが出来る。
「……お、驚くに決まってるじゃねーですかっ! 心配させるんじゃねーです!」
翠星石は当然のように抗議の声をあげた。
しかし、その言葉を聞いたクリストファーは目を丸くし――喜んだ。
「うわあ、君ってば僕のことを心配してくれたんだ? 嬉しいな。
……あれ? でも今のって僕が平気だったことを心配したのかな?
それとも、僕が不死身の化け物じゃなくて安心したっていう意味なのかな?」
そんな態度を見せるクリストファーに、翠星石はなんともいえない複雑な表情を向けた。
「……はぁ。……お前と話してるとなんだか疲れます」
「あは、よく言われるよ」
そんな呑気なやり取りも束の間の事。
「さて――」
クリストファーは未だ呆然としている少女、沙都子に視線を向けた。
「ひっ!?」
「――君は驚いてくれたかな?」
・ ・ ・
『お化け』がこちらに話しかけてきた。
恐ろしい赤と黒の服装と目、そして、尖った歯や飄々として口調など、その全てが恐ろしい。
失敗した。
だから自分は×され――
「あ、そうだ。安心していいよ? 僕は君を殺さないから」
「――えっ?」
『お化け』の言葉に沙都子は耳を傾けた。
「理由は――企業秘密で。って言っても、僕個人の問題なんだけどね?
だから、とりあえず――
この素晴らしい自然について語り合おうじゃないか」
そこでクリストファーの笑顔を向けられた時、沙都子の緊張の糸は限界を迎えた。
「ぁ……うぅ……」
時間帯や、走り回った時の疲労や精神的ストレス。
それは、まだ幼い沙都子には耐えられるものではなかった。
「……怖がられるのは慣れてるけど、さすがに気絶されると傷つくなぁ」
クリストファーは、“楽しそうに”そうつぶやいた。
【H-1 森/1日目 黎明】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:やや擦り傷 気絶 L4?
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 包丁@あずまんが大王 不明支給品(1~2)
[思考・状況]
1・部活メンバーに会いたい。
2・死にたくない。
※参戦時期は具体的には不定。ただし、詩音を『ねーねー』と呼ぶほどに和解しています。
※名簿は確認したようです。
※雛見沢症候群の進度は具体的には不明。L5まで進行した場合、極度の疑心暗鬼と曲解傾向、事実を間違って認識し続ける、などの症状が現れます。
説得による鎮静は難しいですが不可能ではありません。治療薬があれば鎮静は可能ですが、この場にあるかどうかは不明です。
・ ・ ・
翠星石は少女が気を失ったのを見ると、クリストファーに話しかけた。
「サメ人間、今の言葉って……」
「あれ? もしかして僕はサメ人間で決定なのかな?」
「……サメ人間は、この殺し合いに乗らないんですよね……?」
クリストファーの言葉を聞き流し、翠星石は重要なことを質問した。
『僕は君を殺さない』
自分を殺そうとした人物をこの状況で殺さないのならば、この男は信用出来――
「えっ? 僕ってそんなこと言ったっけ? 帰る方法がそれしかないんだったら僕は乗るよ」
――なかった。
「な、なんですって!?」
その言葉に翠星石は戦慄した。
「でもさ、ちょっと問題があるんだよねえ?」
「つっ!?」
歩み寄ってくるクリストファーに、翠星石は身構えた。
「だから――」
クリストファーはこう考えていた。
自分は人が殺せない。いや、殺せなくなってしまっていた。
何十、何百人という数の人間を殺してきた自分がそうなるとは思っていなかった。
きっかけは、ある人間に負けたことか、それとも一度死にかけたことか、あるいは別の何かかはわからない。
重要なのは、何故そうなってしまったかではなく、今自分は人が殺せないという事実。
それはそれで“楽しい”。
そう思っていたのだが、ここでは殺せないということは大きなマイナスになってしまうだろう。
ならばどうすればいいのか?
……答えは簡単に出た。
誰か他の人にトドメを刺して貰えばいい、と。
そして、その点では翠星石はクリストファーが考える限り最適な人間――いや、人形だった。
恐らく、自分は人間ではなく人形ならば殺す事が出来る。
最終的に自分と翠星石が残れば、自分は彼女を殺して無事生還。
しかし、翠星石が自分を心配してくれたというのも事実だ。
この自然も素晴らしいが、それ以上にこの出会いは素晴らしい。
結果的に彼女を殺すことになってしまうのだろうが、その問題にはとりあえず目をつぶった。
もしかすると、殺し合い以外での脱出方法があるかもしれない。
……なんて事にはほとんど期待していないけれど。
クリストファーは、笑顔で翠星石に言った。
「――友達にならないかい?」
【H-1 森/1日目 黎明】
【
クリストファー・シャルドレード@BACCANO!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 鉄板入りの鞄@WORKING!! 不明支給品(1~2)
[思考・状況]
1・ゲームに乗るか、乗らないかは未定。
2・翠星石と友達になりたい。
※ローゼンメイデンについて簡単に説明を受けました。他のドールの存在は聞いていません。
※名簿はまだ見ていません。
※参戦時期は、『1934完結編』終了時です。
※鉄板入りの鞄@WORKING!!
そのまんまです。
【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 不明支給品(1~3)
[思考・状況]
1・サメ人間と友達に!?
2・真紅たちに会いたい。
3・ゲームに乗るつもりはない。
※参戦時期は具体的には不定。ですので、
蒼星石についての反応は後続の書き手に任せます。
※名簿を確認したかは不明。
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最終更新:2012年11月27日 00:46