死-Death- ◆YhwgnUsKHs




 タロットカード、というものを知っているか?
 知らない?
 メジャーなものだと思っていたのだがな……まあいい。
 起源については諸説ある。エジプト、ユダヤ、インド……だが製作自体は15世紀前半の北イタリアだ。
 22枚のカードで構成されており、それぞれが意味を持っている。
 それを並べて未来や現在を占うというわけだ。
 この22枚のカードの意味とやらも面白いものだ。
 例えば、8番目のカード、『正義』。これはそのままならば、『善行』『正当性』『正しい判断』の意味を表す。なるほど、確かに正義に相応しい意味だ。
 だが、この絵柄を逆にした場合、カードの意味は変わる。
 これを逆位置、と言う。その場合、『正義』のカードは『偏向』『不正』『均衡の崩壊』。
 逆。まさに正義とは正反対の意味だ。
 正義と悪が紙一重、ということをこのカードは言いたいかもしれんな。例えば、互いの似通った正義が少しの誤解により互いを悪としか断じなくなる。
 例えが具体的過ぎるかもしれないが……まあいい。

 では、『死』のカードについても教えてやろう。
 なあに、少しは付き合え。
 『死』は13番目のカードに当たる。解釈によっては『死神』とも言う。死神に13、あきらかに悪い印象があるだろうな。
 まあ、確かにイメージが良いか悪いかといえば、悪い。


 正位置の意味は……『終末』『結末』『終止符』。
 つまり……『死』そのものが……。


 *****


 目の前の少女は、瞼を閉じて動かない。

 もう、動かない。


 あの日、ハクリューから助けた少女は、
 あの日、コラッタの捕まえ方を教えた少女は、
 あの日、ジムリーダーになると約束した少女は、


 あの日から成長したその愛らしい眠っているような顔を晒しながら、もう、動かない。


 レッドは、彼女、イエローの手を握り涙を流しながらそれを見ているしかなかった。
 目の前の少女はもう動かない。
 もう笑わない。
 もう泣かない。
 もう喜ばない。
 もう怒らない。
 もう目覚めない。
 何故だ?

「俺の、せいだ……!」

 レッドは悲痛な声でそう呟き、唇を噛み締めた。


 負けるものはないと思っていた。
 長い旅の末、チャンピオンに輝いたあの日から数年。
 挑戦者には軽々と勝ってきた。強い相手など、会えなかった。
 自分に匹敵するであろう二人のトレーナー、グリーンとブルーとはあの日以来会っていない。
 だから少し冗長していたところはあったかもしれない。
 自分は強い。自分は勝てる。
 その自惚れが、否定しつつもどこかにあった。


 そんなわけがない。

 ポケモンがあればこそ、自分は強かった。
 ポケモンを使い、それで戦いあう中でなら自分は強かった。
 そこ、だけだった。
 ポケモンなしで拳銃を向けられればただの無力な子供。
 強くなど、なかった。

 その結果、彼女、イエローは死んだ。


「俺が、俺が、俺が……!」


 悔しい。
 そして怒りを覚える。
 あのスーツの男に。

 いや、それ以上に自分自身に。
 自分がもっとあの男に立ち向かえていたなら、フッシーを奪われるような失態を犯さなければ、イエローは死なずに済んだ。
 フッシーも奪われなかった。
 すべては、自分のせいだ。

「俺なんて……こんな、俺なんて……」

 次にレッドを包んだ感情は、絶望。
 自分自身に自信がなくなっていく。
 自分には何もできない。ただの子供。
 さっきのような男がうろつくこんな場所で、自分はもう何もできないのだろう。
 むしろ、誰か殺してくれないだろうか。
 誰かにこれ以上迷惑をかける前に。
 イエローのような死者を出す前に。
 誰か……。

「……何してるんだ?お前」

 若い声がした。
 さっきの男ではない。
 レッドが力なく顔を上げると、そこには童顔にスーツを着た青年がいた。
 青年は、ひざまづいているレッドを見下ろしている。
 その目に動揺はない。
 レッドの目の前には死んでいるイエローがいるのに、青年は顔色を変えない。

 まるで、そんなものは当たり前にあるものだと言わんばかりに。

 *****


 フィーロにとって、死体とは珍しいものではない。

 カモッラの幹部の身だ。
 そうなる前も後も、死は身近にあった。
 もっとも、ある時点を境に自身の死は少し遠のいたが。
 いずれにしろ、彼の周りに死はよくあることだ。
 自分で殺した、ということも……ない話ではない。
 冷徹に手を下す事も幹部には必要な事であり、組織にも必要な事だ。

 見えない敵が潜んでいるかも知れない病院から抜け出し、走ってきた先で彼はその二人を見つけた。
 地面に膝をつき俯く少年と、その目の前に倒れている少女。いや、死んでいる、なんていうのは見た時点で予想が付いていたことだ。
 フィーロとしては、そのまま見過ごすという手もあった。
 なにせ相手は子供だ。大した戦力にはなりそうにない。よって、一緒に行動するにはリスクが高い。メリットも薄い。
 それにこの状況だと、少年が少女を殺したという事もありえるわけで、むざむざ近づくのは襲われる危険を作り出す事になる。

 だが。

「……この状況じゃ、子供でもどんな情報を持っているかわからないからな」

 フィーロは少年に向かって足を進めた。
 少しでも情報を得る。情報は重要だ。それは今までの経験でよくわかっている。
 だから、あくまで情報の為だ。わざわざ子供に接近するのは。

 だが、そんなフィーロの姿はそれを近づく免罪符にしているかのように見えた。

 *****

 いつの間にか近くにいた青年をレッドは見上げた。
 だが、それだけだった。
 絶望したレッドにとっては、青年の登場など、イエローの死に比べればどうでもいい。
 何もかもが、どうでもいい。

「あんたも……俺を、殺すのか……?あのサングラスの男みたいに」

 心中にあるのは、絶望。
 幼い少女を死に追いやってしまった、レッドと言う自分への絶望。
 なんで生きている。お前が死ねばよかったのに。
 そんな自責の念。

 いや、それすらも言い訳かもしれない。

「……サングラス?」
「この子を……イエローを、殺した奴だ……サングラスに、黒いスーツ……イエローは、そいつから俺を庇って……」

 青年の問いかけに、レッドは虚ろな声で起こったことを話していた。
 それは、自分の罪を誰かに聞いてほしいという、懺悔の念からか。

「俺なんか……なんで、助けたんだ……。
 いっそ、死にたい……死にたいよ……こんな、心が苦しいのは……耐えられない……」

 レッドの心を締め付ける痛み。
 あの男からさっさと逃げていればイエローは助かった、という後悔。
 イエローは自分のせいで死んだ、という自責の念。
 少女の命が無残に散った事に対する、純粋な悲しみ。
 自分には何もできない、という無力感。

 少年が背負うには、あまりに重い負の感情だった。

「そう、か……死にたい、か」
 青年がそう呟いた。その顔には別に怒りも呆れもないように、レッドは思った。

「ああ……いっそ、あんたが殺」


「ふざけるな」


 レッドの声は阻まれた。
 その喉に、いつのまにか男が手に持った刃付きの帽子が突きつけられていたからだ。

 レッドはさっきの言葉を訂正せざるを得なかった。
 青年は、明らかに怒っていた。


 *****

「確かに、誰かに庇われて死なれるってのは辛いだろうよ。
 庇われて相手が死ぬっていうのは、庇われた奴にとっては一度死んだのと同じ事だからな。
 なにせ、相手は自分が死ぬはずだった一撃をくらうわけだからな」

 フィーロはレッドに喉に刃を突きつけながらそう言う。
 レッドの顔は、喉もとの刃に目を向けて蒼白になっている。
 やはり、いくら死にたいと言っていても、目の前に死が来ればこうなる。

(ちっ……いらつくな)

 フィーロはさっきからイラついた感情を抑えられないでいた。
 一体何故だろうか。
 理由はわかっている……はずだ。理屈では思い浮かんでいる。
 けれど、それでも説明できないほど、やけに。


「でもな……そうなったら……そいつの命はもう、そいつ自身の命じゃねえ。
 庇った奴の命なんだよ。庇われた奴の命は、もうそこで死んでる」
「!?」

 フィーロの弁にレッドの顔が驚きに満ちた。

「お前の命はもう、お前のものじゃない。その子の命をお前が借りてるだけだ。
 わかるか? つまりお前が俺に今ここで殺されるってのは、借りてる命を無駄にしてるだけなんだってな」
「む、無駄……?」

 レッドの言葉に、フィーロは嫌らしい笑顔を顔に貼り付けた。
 あくまで、貼り付ける。
 それは幹部として培ってきたスキルであり、そして、自らのある経験によって行うもの。

(あの爺なら……きっと、こう笑うだろうさ)

 思い返す、とは少し違う。
 自分の中にある下種なそいつを、少し抽出する。
 そいつの嫌らしい、嫌悪感を引き起こす笑顔を引きずり出す。


「そうさ。この子の命はそこで終わりだ。
 その子の命は、お前を数時間生き延びさせただけで終わりだ!はっ!お笑い種だな。
 たったそれだけの為にこの子は命を落としたんだからな。
 無駄死にだ。何の役にも立ちやしない。
 お前が、その命をここで捨てるばかりになぁ!」

 フィーロが嫌らしい笑顔をしながらそうレッドに叫ぶ。
 相手に嫌悪感を、怒りを抱くような嘲り笑いを。

「っ!」
 レッドの背筋に悪寒が走った。
 イエローが、無駄死に?
 そんなのは……嫌だ。
 でもそれは、俺のせいだ。
 俺がこんな所で、あの子に護られた命を無駄にしようとしていたから……。

 そこで気付いた。
 自身の行為が、イエローが最後にやったことへの大きな冒涜である事を。


「俺、は……」
 レッドはショックを受けた様子でいる。
 恐らく、やっと自分のやっていたことの意味に気付いたのだろう。
 そんな彼に対して、フィーロは喉元から刃を離してやり――

「死にたいなら死なせてやる……。
 あの世でせいぜい、バカな娘とよろしくやるんだな!!」

 その刃を思い切り振りかぶり、レッドに向けて振り下ろした。


 *****


 そうだ。

 俺は何をやってたんだ。

 イエローが俺を庇った。

 そして、死んだ。

 イエローは死んだ。もう、蘇らない。

 なら、俺ができることは……。
 イエローによって護られた、この命を……いや、イエローの命を……。


 *****

 この『死』のカード。
 『死』そのものが、一つの結末であり、終わりであると言っているのかもしれんな。
 確かに、死んだ生物そのものにとって、それは紛れもなく結末であり、他者にとっても、その死は何かの終わりなのだろう。
 もっとも、例外もいるのだが……まあいい。

 悪い意味しかない、と思っているだろうが、当然この『死』にも逆位置の意味がある。
 ある意味こちらは……その例外向きの意味かも知れんな。
 いや、そうでもないな。普通の人間にとっても、これは充分に当てはまる。


 『死』の逆位置は……『復活』、『再生』、『転換』を表す。
 それは、『死』という結末から復活するという意味なのかも知れんな。
 それは不死者という例外もだが、普通の人間でも……。

 *****


「なっ!?」

 フィーロの驚きが口から漏れた。

 帽子の刃がレッドに触れようとした瞬間、レッドが勢いよく後ろにとび、その一撃を大きく交わして見せた。
 さっきまで、虚ろな目だったレッドが……。

(いや。もう違うな)

 フィーロが見据えるレッドの目は、もう絶望に満ちた虚ろな目ではなかった。
 こちらをしっかりその瞳に捉え、攻撃した自分に対してしっかりした敵意を向けている。
 その瞳はフィーロもよく見たことのある目だ。
 つまり、『戦う者』の目だ。

「悪いけど、俺は誰にも殺されない」
「……その子のためか」
「うん」

 レッドは倒れているイエローすらも庇う形でフィーロの前に立つ。
 手にはデイパックを持っているだけで、武器はない。
 対するフィーロは武器を持ち、体格差も歴然。
 勝負は明らかにレッドに不利だ。

「俺はもう、誰にも殺されるわけには行かない。この子の命を、絶対無駄にしないために」
「なら、どうするんだ? やられる前に、ここにいる奴らを全員殺すのか?」

 フィーロはそう聞く。
 もしもレッドが、自らの命の為に他者を殺す道を歩むなら……。
 フィーロは、レッドを殺さなければならない。

「違う。そうしたら、イエローのやった事は本当に無駄になる。イエローを殺したあいつみたいになるなんて、きっと彼女は認めない。
 あの日、優しく笑ったあの子なら。
 だから、殺し合いなんて止めて、そして帰るんだ。」

 レッドは強いまなざしをこちらに向けながらそう言った。

(なるほどな。ただの子供じゃない、ってことか)

 ただ暴走するようなら考えものだったが。
 これなら……。

「かかってこいよ!俺は、あんたになんか殺されない!」

 宣戦布告。
 レッドがデイパックを探りながらそう叫んだ。
 戦いの中で、方法を模索する気か。
 行き当たりばったりだが……。


 フィーロは帽子を頭に戻し、そのまま踵を返した。

「……あ、れ?」
「ばーか。子供相手に付き合うほど、俺は暇じゃないんだよ」


 レッドは意表を疲れた様子で、しばし呆然とする。
 何故だ。自分の首に刃を突きつけておいて……。

 レッドは気付いた。
 もしかしたらさっきまでの言葉は……。

「もしかして、俺を煽って……」
「別に。ちょっとした気まぐれだよ。忘れろ」

 フィーロはそのまま去ろうとする。
 レッドは慌てて呼び止める。

「待ってくれよ!俺、やっぱり仲間が必要だと思うんだ!
 死なない為に、それでいてイエローの無念を晴らすようにここから脱出する為には!
 ポケモンみたいに……あ、いや、ちょっと失礼かも知んないけど……でも、互いに護れるようなそんな仲間が……」
「悪いが子供のお守りはする気ねえんだ」

 レッドの訴えをフィーロはあっさりと棄却する。
 戸惑ったレッドに向かって、フィーロはさらに言う。

「気を落とすなよ。結構いい線いってると思うぜ、俺は。
 仲間ってのは大事だ。ただし、その相手は慎重に見極めろよ。特に、こんな場所じゃな。
 そうだな……クレアなら、こんなゲーム乗ってないだろ」
「クレア?」

 フィーロが突然出した名前に、レッドは反応した。

「ああ。すごい強い。俺がこの殺し合いに乗らないのも、そいつに勝てる気がしないからなんだけどな。
 気分屋だから機嫌を取るのは難しいだろうが……幼馴染の俺の紹介って言えば、話くらいは聞いてくれるだろ。いいか? 赤い髪のクレアだ」
「わ、わかった……」

 フィーロの推薦にレッドは素直に従った。
 レッドもフィーロが悪人ではない、と判断したらしい。

「なら、俺はもう行く」
「あ、ま、待ってくれよ! 名前は? 俺はレッド! マサラタウンのレッド!」

 そう叫んだレッドに、フィーロは少し呆れた。

「あのなあ……こんなところじゃ、迂闊に本名をバラすなよ。慎重に行け、って言ったろ?」
「あ、ご、ごめんなさい」

 素直に謝ったレッドにフィーロはその童顔を苦笑に満ちさせた。
 そう言えば純粋なコレほどの少年にあう機会はそうそうなかった。
 精神年齢がこれくらいになりそうなのはいたが。

「まあいい、か……。フィーロだ。カモッラのフィーロ・プロシェンツォ。お前だから言ったんだからな? 軽々しく言いふらすなよ」
「わかった」

 頷いたレッドに満足すると、フィーロは今度こそそこから去った。

 *****


 イエローの手を胸で組ませ、辺りに落ちていた葉や茂みでできるだけその体を見つからないように隠した。
 本当は埋めるなりしたかったが、イエローのデイパックの中には穴堀りに使えそうなものはなかった。
 手で掘ろうにも、それはあまりに無謀だと思った。それに、それではやはり自らを危険に晒してしまう事になる。
 だから、レッドはひとまずイエローをここに隠し、仲間を捜す事を優先する事にした。

「イエロー、ごめん。できるだけ急いで戻るから。だから……待っててくれ」

 レッドは立ち上がり、しっかりと行き先を見据えた。
 まずは仲間だ。互いに信頼でき、互いに護りあえる仲間。
 それを捜し、みんなでここから生き残る。

(俺、守り抜くから。イエローのこの命……。だから、見ていてくれ!)

【D-5 中部/一日目 黎明】
【レッド@ポケットモンスターSPECIAL】
【装備】:なし
【所持品】:基本支給品一式、不明支給品1~3個(確認済み。スコップなどの類はなし)
【状態】:疲労大 背中に擦り傷、左肩から出血
【思考・行動】
 1:殺し合いを止める。必ず生き残る。
 2:仲間を捜す。ただし慎重に。
 3:赤い髪の『クレア』に会ったら、フィーロの名前を出す。
 4:絶対に無常からフシギダネと取り戻す。
【備考】
※未だ名簿は見ていません
※参戦時期はポケモンリーグ優勝後、シバの挑戦を受ける前です(原作三巻)
※何処へ向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※フシギダネが何故進化前か気になっています
※フィーロのことを信用しました。
※『クレア』を女性だと思っている可能性があります。

 *****

「柄にもないこと、したかもな」

 レッドから離れてフィーロはそう呟いた。
 レッドへのイライラ。それがあんな形で出てしまった。
 子供に発破をかけるなど……幹部の自分としては、利益にもならないことだろう。

 なら、彼に発破をかけたのは……幹部でもカモッラでもない、純粋なフィーロ・プロシェンツォとして、ということになる。

「……死、か。
 俺は……死なないってのに。あいつに説教するには、説得力なかったかもな」

 フィーロ・プロシェンツォは、死なない。
 フィーロはある酒を飲んで以来、切っても刺しても締めても焼いても死なない体になっている。『不死者』と呼ばれている。
 一部の例外はあるが、自分が死ぬことはまずない、と思っている。
 だからこそ……死というものに抵抗を無くしたレッドに、苛立ったのかもしれない。
 それは、まるで死に対する恐怖が薄れ、抵抗を無くす自分の未来のようで。
 それがフィーロにあの行動を起こさせたのかもしれない。


(……ともかくだ。俺がこれからすることは決まってる。
 なんにしてもこの首輪を外さないと)

 そう言って彼は忌々しい首輪をさすった。
 ここから出るには、主催者の意思で爆破ができるこれを外すのなにより先決だろう。
 でなければ、どんな叛逆好意も行う事はできない。
 フィーロはそう判断した。

(錬金術の知識はあるが……機械の知識は生憎それほどない。
 やっぱり、他の参加者を頼るしかないか。できれば技術者だ。
 かといって、それで終了とはいかないよな。
 それだけだったら、その技術者を参加させる意味がない。
 だから、奴らに想定できないような何かで対抗するしかないわけ、か。
 先は長いな)

 フィーロはそう考えつつも、歩を止めない。
 たとえ、皆殺しの方が道が近くても。不死者の自分が有利にもかかわらず。

(そうしたら、本当にあの爺と同じになっちまうからな)

 フィーロが殺し合いに乗らなかった、本当の理由。
 彼はその身に、セラード・クェーツという人間の記憶を持っている。
 先の不死者の死の例外、それが『喰らう』こと。
 不死者が右手で別の不死者の頭を掴み、『喰らいたい』と願う事で、捕まれた不死者はその右手に吸収され、消え失せる。不死者にとって、唯一の死だ。
 そして、それはただ消えるわけではない。喰らったほうは、喰らわれ消えた方の不死者の記憶を受け継ぐ。
 フィーロはセラードを喰らい、その記憶を受け継いだ。だが、それはフィーロにとって苦悩の始まりだった。
 セラードという男は、きわめて自己中心的な下種であった。自らの仲間を何人も『喰らい』、自分の手下もあっさりと切る。
 人間を殺すのにも躊躇しない。
 そんな男の記憶を持つ自分が、いつかセラードと同じになってしまわないか、それがフィーロにとっては不安だった。

 そして、殺し合いでの皆殺しなど、セラードをなぞるような行いだ。
 それをしてしまえば、フィーロは自分が自分でなくなるような気がした。
 帰りたい場所はある。他者を蹴落としても戻りたい場所が。
 けれど、それはできない。
 フィーロがフィーロ・プロシェンツォでいるためには。

「くそ、難儀な話だよな……まったく」

 フィーロはそう呟くと、その脚を進めた。
 まずは、技術者を見つけるために。

【D-5中部/一日目 黎明】
【フィーロ・プロシェンツォ@BACCANO!】
[状態]:健康、不死者
[装備]:スピードワゴンの帽子@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式、タイム虫めがね@ドラえもん
[思考・状況]
 1:脱出する為に、技術者を捜す。
 2:とりあえず”見えない殺人者?”から離れる。
 3:殺し合いを積極的にするつもりはないが、降りかかる火の粉は容赦なく払いのける。
 4:サングラスにスーツの男を危険視。
 ※タイム虫めがねは過去しか見れません。また、音声は聞こえません。
 ※不死への制限にはまだ気が付いていません。



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思い出の中で レッド 戦いへの想い
主役 フィーロ・プロシェンツォ 炸裂―エクスプロード―



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最終更新:2012年11月27日 00:45