我が﨟たし悪の華 ◆.pKwLKR4oQ



3人がそれに気付いたのは僥倖だった。
水銀燈が放った猛毒ガス弾MH5。
一度体内に吸い込めばたちまち身体の自由は奪われ、頑強な男でも解毒剤がなければ1時間で死に至るという恐ろしい兵器。
それに気付いた時には3人とMH5との距離は5メートルもなかった。

――――5メートル。

3人がMH5に気づいたのはほぼ同時だが、その中でもゼロが一瞬だけ早く気づく事ができた。
悪魔との契約。
それによって与えられた超人的な力によるものであった。
そしてゼロは放たれた物が形状からすぐさま爆弾か、或いはそれと同等な程に危険なものであると勘付いた。
危険を察知するや否やゼロは瞬間移動によるこの場からの離脱を試みて――

「ん!?」

――ふと頭に浮かんだ考えによって思い止まった。
確かに瞬間移動なら安全にこの場からの離脱が可能だろう。
だが頭に浮かんだ考えがそれは避けるべきだと告げる。
ゼロは次なる方策をすぐさま構築し始めた。

――――4メートル。

ゼロに続いてMH5に気付いたのはレヴィだった。
ロアナプラで鍛え上げられた神経は伊達ではない。
そして状況を理解するや否やレヴィが取った選択は――

「ちっ!」

――撤退であった。
何かしらの銃器さえあれば展開は違うものになっただろうが、生憎とレヴィの支給品の中には銃器の類を見つける事は出来なかった。
レヴィは後ろの二人に最大限の警戒を払いつつ撤退する事を選んだ。

――――3メートル。

3人の中で最後にMH5に気付いたのはカズマだった。
これは単にカズマが目の前の戦闘に注意がいっていた結果であり、別にカズマが二人に対して格段に劣っているという事にはならない。
寧ろ彼ら3人がすぐさま気づけたのは皆並みの人間ではないからだろう。
カズマが取った行動は飛来物をアルター能力で分解するというものだった。
今展開しているシェルブリッドを一度解き、再度飛来物も含めてアルターとして再構築しようとしたが――

「な!!」

――再構築できたのは先程と同様に周辺の物質だけで飛来物を分解する事は出来なかった。
いつもと違う状況に一瞬戸惑ったもののカズマはすぐさま次の行動に移った。

「衝撃のォォォオオオ、ファァァストブリッドォォォオオオ!!!」

カズマはその叫びと共に地面に拳を叩きつけた。
凄まじい程の破壊力を打ち付けられた地面はその反動で以てカズマを空へと飛ばす。
狙いは上空にいる黒天使。
カズマは上空でMH5を放った水銀燈に狙いを定め、飛翔した。


――――2メートル。

そしてこの場は光と風が闊歩する場となった。
巻き込まれたのは5人の参加者。
ローゼンメイデン第1ドール
魔王
二挺拳銃(トゥーハンド)
反逆者(トリーズナー)
超電磁砲(レールガン)

風が収まった後、古城跡には人一人として残っていなかった。


     ◆     ◆     ◆




「――ったく、どうなってるのよ!」

古城跡から少しばかり離れた森の中に水銀燈はいた。
黒い天使をも思わせる姿は少しばかり乱れていたが、動く事に支障はなかった。
水銀燈はひとまず何が起こったのか整理する事にした。
幸いにもデイパックも近くにあり、周囲に人の気配はない――

「お目覚めかね、黒の人形よ」

迂闊だった、と自らの不注意を悔んだ時には既に遅かった。
水銀燈の背後には全身を黒で包んだ不気味な仮面の戦士――ゼロがいたのだから。
いつもなら別に背後を取られたからといって水銀燈が焦る理由はあまりない。
初対面のゼロは水銀燈の事を知っている訳もなく、故に背中の翼で相手の目を眩ます事も可能なはずだ。
しかし、それはできなかった。
原因は自身の身体だ。
理由は分からないが、いつも通り動かしているつもりでも若干動きが鈍い気がする。
今の状態では万が一相手の隙を突いても、いつも通りに戦えるか確信がない。
そしてそれにも増して水銀燈を躊躇させるのはゼロが放つ不気味な威圧感。
その不気味さゆえに水銀燈は慎重な行動を取らざるを得なかった。

「無事みたいね。どういう手品を使ったのかしら」
「なに、ギラーミンが支給してくれた物を有り難く使わせてもらっただけだ」

ゼロに支給された物はうちわと卵型のアクセサリーとメスだった。
一見すると拳銃以外は何の役にも立たない外れに見えたが、実はそうではない。
うちわは22世紀の技術で制作された秘密道具の強力うちわ「風神」、卵型のアクセサリーの正体は高性能の爆弾だ。
瞬間移動を思い止まったゼロはすぐにデイパックの中身を活用する方策に出た。
支給された物はここに転送されてすぐに把握していたので、どう使えばいいかはすぐに考えつく事ができた。
まずは支給された5個の卵型爆弾の内2個を飛来物めがけて投擲。
制限されているとはいえ超人の域に達しているゼロの膂力によって投擲された爆弾は狙い通り飛来物と衝突。
MH5と爆弾は共に衝突のショックで起爆し、その内容された物を解放した。
その瞬間をゼロは狙っていた。
爆弾を投擲した手には既に「風神」があり、直後「風神」を『全力で』振り抜き、自然現象と同等もしくはそれ以上の突風を生み出した。
生み出された突風は爆弾による爆風と相乗して局地規模の嵐となり、発生した毒ガス諸共周囲に存在するものを根こそぎ吹き飛ばす程の結果となった。
もちろん、上空にて様子を窺っていた水銀燈、そこへ飛び掛かろうとしていたカズマ、撤退しかけていたレヴィ、近くにいた御坂美琴も例外ではなかった。
その威力は凄まじく古城跡をさらに崩壊させる原因となった。

そして今の状況になる。
嵐で吹き飛ばされた水銀燈を追ってきたゼロは背後に忍び寄る事に成功して、こうして手に持ったメスを突きつけるに至る。
突き付けられる冷たい金属の感触も水銀燈の動きを封じている一因であった。

「でも、毒ガス相手にそれって無謀じゃ――」
「いや、そうでもない。詰めが甘かったな」

ゼロは近く落ちているデイパックに目を向けた。
落下の衝撃からか中身が袋の口からはみ出している。
そこからは金属の鈍い光――槍の穂先が見えていた。



水銀燈が犯した小さなミス。

一つ目はMH5を素手で3人に投げつけた事。
本来MH5を撃ち出すのには専用の武器が存在する。
それはクリーク海賊艦隊提督こと首領・クリークが両肩に付けている盾、そこから発射されるのが通常の方法だ。
実はその盾も大戦槍として水銀燈には支給されていた。
問題は自身の身体との比率だった。
大柄な体格と類稀な怪力を併せ持つクリークが使用している物が、小柄な水銀燈に使用できる訳なかった。
単純に言うと、持ち上げるだけで精一杯だった。
だから仕方なく素手で放り投げるという選択肢を取らざるを得なかった。
これでは得られる推進力は最初の手投げによるものと自由落下による重力のみ。
如何に戦闘中とはいえ、あの3人が気づくには着弾までの時間があり過ぎた。

二つ目は場所。
3人が戦っていた場所は古城跡、つまりは屋外だ。
屋内なら毒ガスが充満して死に至る確率が上がるが、屋外ではそうはいかない。
境界線が不在のため放たれた毒ガスはどこまでも拡散していき、そして希薄になる。
それに加えて今回はゼロによる人為的な嵐が発生したために拡散は爆発的に早まった。

以上の事から、ゼロはあの場での毒ガスによる死を回避したのだった。

「……――ッ」
「そういう事だ。残念だったな、水銀燈」

ゼロは水銀燈のミスを簡略に指摘して、あの場で起こった顛末を説明し終えた。
MH5に気付く時間を与えてしまった事、あまりに急激に毒ガスが拡散されてしまった事。
その二つが水銀燈に失敗を齎した主な原因だった。

「さて、それでは……水銀燈、私と手を組まないか?」
「はぁ!?」

いきなりのゼロの提案に水銀燈は思わず声を上げてしまった。
自分の名前や目的は先程の説明の合間に行われた問答で聞き出されている。
とてもではないが虚偽を混ぜるだけの余裕はなかったので本当の事を最低限話すしかなかった。
だが目的については「ただ優勝狙い」とだけしか答えなかった。

「私は最後の一人になる気よ。悪いけど組むなんて――」
「水銀燈、お前も気づいているんじゃないのか。ここでは身体になんらかの制限が加えられている事に!」

その言葉を聞いた時、水銀燈は微かに息を漏らした。
ゼロがそれに気付いたのはカズマやレヴィと戦っている最中であった。
いつもより身体が重い。
気のせいかとも思ったが、いつもよりも疲労した事からも何らかの身体的な制限が加わっている事は確かであった。
だからこそ瞬間移動も自重せざるを得なかった。
普段なら何ら問題ないが、ここではどんな制限が掛かっているか分からない。
最悪の場合、使用不可能な状態にされている可能性もある。
その懸念があったからこそ、ゼロは一抹の不安がある最善の策よりも手数を踏むが堅実な次善の策を取ったのだ。

「制限が掛けられているからって何よ!」
「お前は私と話している間、ずっとこちらの隙を窺っていただろ」

水銀燈の小さな舌打ちの音が聞こえた。
ゼロはただ水銀燈と話していただけではなかった。
話している最中の水銀燈の一挙一動に注意を払っていた。
その結果、ゼロは水銀燈が中々油断ならない者であるという結果に至ったのだった。



「常に機会を窺う姿勢……君は優秀だよ、水銀燈。だからこそ組む相手に相応しい。
 二人でならより確実に敵を始末できると思わないか」
「私が後ろから殺すとか思っていないわけ?」
「私はそんな失態は犯さないさ。
 それに最後までとは言わない、残り5人になるところまででいい」

会話が途切れ、しばらくの間、その場には静かになった。
1分、2分、3分……――
いつまで続くとも知れない沈黙を破ったのは水銀燈だった。

「いいわ。手を組みましょうか」
「感謝するよ、水銀燈。友好の印にこの爆弾とメスでも贈ろうか。その代わり――」
「――私の支給品と交換する気? いいわ、あの槍と毒ガス弾はあげるわ。どうせ私じゃ使えないから」
「ほぅ、これはこれは有り難く使わせてもらおうか」

ゼロからは卵型爆弾3個と長メス、水銀燈からは大戦槍とMH5の残弾4つ。
それぞれが引き合いに出されて、ここに晴れて二人は各々の利害の一致から組む事になった。

「でも、本当に私でよかったのかしらぁ」
「ああ、少なくとも先程の二人よりはマシだ。それに――」
「それに?」
「君は私とどこか似ている気がするよ」
「はぁ、どこがよ!」
「守るべき者のために刃を振るうところ……だろうか」
「……バカじゃないの」

ゼロの言葉を聞くと、水銀燈は不機嫌そうに明後日の方角に顔を向けた。
まるで自分の心の内に土足で入られた事を咎めるように。

(少々厄介だが、これでいいだろう。待っていろよ、ナナリー)

ゼロはここにテレポートしてきた時の事を思い返していた。
着いてすぐに確認のために名簿を見れば、そこには最愛の妹――ナナリー・ランペルージ――の名前が記載されていた。
それを見た瞬間、ゼロの取るべき行動は決定づけられた。

――ナナリーを守る。

それは元いた世界と変わらぬもの。
その願いこそがゼロ、いやルルーシュにとっての至上の願いだ。
当初、支給品の確認を終えてすぐに起きてしまった戦闘では混乱を抑えて情報交換に望もうと考えていた。
しかしナナリーの安否に気を取られて、思わず思慮が足りない行動に出てしまった。
それを踏まえての結果が今の状況だ。
正直に言うと、水銀燈は油断ならない存在だ。
しかし、だからこそ手の届く範囲で監視しておきたい。
ゼロは別に水銀燈と約束した事を律儀に守る気はあまりなかった。
手に負えない状態になったら問答無用に殺すつもりだが、今は少なくとも手を組んでいいだろう。
そんな事に考えを巡らせつつゼロは水銀燈への警戒を怠る事はなかった。



(鬱陶しいけど考えようによっては使えそうね。上手く利用できれば儲けものかしら。
 今に見てなさい! 散々使い倒して、ボロ雑巾のように捨ててやるわ!)

表面では大人しく組むと言ったものの、水銀燈は大人しく従う気は毛頭なかった。
しかしゼロの力は魅力的だ。
味方なら心強い事は確実だ。
ならば利用すればいい。
そして頃合いを見計らって今度こそ殺す。
如何に隙なく振る舞おうと24時間も続けていれば必ず隙ができるはず。
水銀燈はそれを待つ事にした。
もちろん、殺すのは参加者の大半を殺してからだ。
そんな事を考えながら水銀燈はゼロとのうわべの同盟を演じ続ける。
心中に先程の質問への微かなわだかまりを残したまま。


【B-3 森の中/1日目 深夜】

【ゼロ@コードギアス ナイトメアオブナナリー】
【状態】:疲労(小)
【装備】:大戦槍@ワンピース
【道具】:基本支給品一式、強力うちわ「風神」@ドラえもん、MH5×4@ワンピース
【思考・状況】
1:ナナリーの捜索。
2:ナナリーに害をなる可能性のある者は目の届く範囲に置く、無理なら殺す。
【備考】
※都合が悪くなれば水銀燈は殺すつもりです。(だがなるべく戦力として使用したい)


【水銀燈@ローゼンメイデン】
【状態】:健康、服に若干の乱れ
【装備】:卵型爆弾@バッカーノ、チェスの長メス@バッカーノ
【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品0~1
【思考・状況】
1:優勝を狙う。
2:しばらくはゼロと組んで行動する。
3:守るべき者って……バカバカしい。


     ◆     ◆     ◆



「……ッイタァ――なに?」

身に付けた服装の損傷を確認しつつ、御坂美琴は大いに愚痴を零していた。
上条を探すべく決意を固め、いざその一歩を踏み出す――その瞬間、世界は風に包まれた。
荒れ狂った風が突如として美琴の後方より巻き起こり、抵抗も虚しく美琴の身体を吹き飛ばした。
何度か地面を転がり続け、やっと収まった頃には服は土埃に見舞われ、見た目にはボロボロだった。

「はぁ、とりあえずここは――」

自分がどこまで飛ばされたのか確認しようとしたが、それは空から降ってきたものに阻まれた。
それはいかにも短気そうな青年だった。

「――グッ、あの野郎!」

その青年――カズマは起き上がるや開口一番、怒気の含んだセリフを吐いた。
目の前には唖然とした美琴が一人立っていた。


【A-3 森の中/1日目 深夜】

【カズマ@スクライド】
【状態】:疲労(小)、墜落による全身に軽い負傷
【装備】:なし
【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考・状況】
1:とにかくあの野郎をぶん殴る。(誰かはよく分かっていない)


【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】:健康、困惑、土埃塗れ
【装備】:なし
【道具】:基本支給品 不明支給品1~3
【思考・状況】
1:脱出狙い。上条を探す。
2:目の前の青年に対処する。


     ◆     ◆     ◆


一方その頃レヴィは――

「あの野郎、タダじゃ置かねえ」

一人森の中で密かに闘志を燃やしていた。
だが彼女は気付かなかった。
北へ向かっていた自分が爆風の衝撃で――地図でいうH-2にループした事に。


【H-2 森の中/1日目 深夜】
【レヴィ@BLACK LAGOON】
【状態】:疲労(小)、全身に軽い負傷
【装備】:なし
【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品(銃器類なし)1~3
【思考・状況】
1:爆発?を起こした奴を許さない。(誰かは分かっていない)
2:とりあえず銃器がほしい。




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最終更新:2012年11月27日 00:19