イスカンダル大戦略 ◆SqzC8ZECfY






深夜の図書館。
暗い夜の帳に包まれた周囲の空間から、一際明るい光に包まれて浮かび上がった建物は、すぐに見つかった。
入り口には二つの車輪と鈍く輝く金属で構成された鉄騎を置いて、そして自らは重い足音を響かせてそこへ侵入する大男がいる。
分厚い胸板に丸太のような腕。
2メートルをゆうに越える巨躯を支える両の脚はまさに大樹の根にも例えられる。
褐色の肌。赤い炎のような髪。そしてそれと同じ色をした立派な顎鬚。
一目見ればまるで熊のような大男である。
それでいてただ凶暴とはいえない。ヒトとしての確固たる意思と知性の輝きが双眸には宿っている。
服装は金糸の刺繍で縁取られた赤いマントに古代ヘレニズムの鎧姿。
その男から発せられる雄大な威厳は、まさしく人を統べるにふさわしい、王たるそれであった。
彼の名はライダー。
このバトルロワイアルの名簿にはそう記されている。
だがこの巨漢にはもう一つ、本当の名前がある。

遥か古代のギリシャ地方の小国マケドニアに生を受け――、

齢二十にして暗殺された父王の後を継ぎ――、

僅か二年でギリシャを統一――、

そこからペルシア、エジプト、中央アジアを経てインドへ――、

王となってからその死まで僅か十三年で前人未到の大帝国を築き上げた――、

アレクサンドロス三世こと、征服王イスカンダルその人である。

「ふむ、これだけの爆音を響かせて走ってきたにもかかわらず誰も寄ってこぬとはな。
 このあたりには腰抜けしかおらんのか、嘆かわしい」

どすどす、を通り越して、どしんどしんと床を鳴らして図書館の中へ入っていく征服王。
彼のマスターであった矮躯の魔術師がいれば適切な突っ込みを入れてくれたであろうが、あいにく人の気配は周囲に存在しない。
ライダーはやや物足りなさを感じる自分に苦笑しつつ、目的の書物を手に入れるべく歩みを進めていく。
図書館は二階建て。エントランスの正面は吹き抜けのホールとなっていた。
そこに位置する閲覧者用の椅子や机を取り囲むようにして膨大な数の本棚が並べられている。
以前の聖杯戦争で訪れた冬木の図書館と規模は同程度くらいだろうか、とライダーは判断した。

「むぅ?」

そのまま真っ直ぐ歩いているうちに彼は異変に気付いた。
そこは読書のために用意された閲覧者用のスペースであり、丸テーブルに長方形のテーブル、集中して調べものを行うために左右に仕切り板を張ったテーブルなどがあった。
そのうちの一つが、ある一点を中心にして抉られたように綺麗に消失していた。
破片や汚れもなにもない。削り取られた分の物質は一体どこへ行ってしまったのか。


暗がりの暗殺者すら察知するライダーの感覚が研ぎ澄まされる。
この破壊と呼ぶには奇妙すぎる痕跡は一体誰の仕業なのか。

沈黙――静寂。

沈黙――静寂。

沈黙――静寂。

沈黙――静寂。

「なるほど、入れ違いであったか。惜しい」

楽しげに呟いた。
とりあえず周囲に何らかの気配は感じられない。
何があったのかはわからない。
だが、それによって怯えるなどありえないのがイスカンダルという男だった。
未知なるものは、何であれ彼の好奇心を刺激してやまない。
何せこの男は最果ての海を見たいがためにアジアの果てを目指して大遠征を始めた、規格外の大馬鹿にして大英雄なのだから。


   ◇   ◇   ◇


求めるものは結果としてさしたる時間もかかることなく見つかった。
英語版ホメロスの詩集、イリアス。
ついでに世界地図も探したが、どうにも奇妙なことがあった。
最後まで勝ち残って望みをかなえ、そして受肉して世界を征服するにもその対象を把握せねば始まらない。
ゆえに以前の聖杯戦争でも新たな戦いの舞台となる世界の地図を求めたのだ。
だが世界地図といって探してみれば、あまりに違いすぎる地形が描かれたものがずらりと並んでいたのだった。

「1st-Gだのノーマンズランドだのグランドラインだのなんだのと、わけの分からん地図ばっかりだのう……。
 悪戯にしてはやたら微細に書き込みおって……と、あったあった。ん? ナチス? こっちはブリタニア?
 ここはいつの時代だ!? ええい、面倒な。どうせいくらでも入るならば全部持っていくぞ!!」

そして探し物はとりあえず見つかり、それから鎧姿の巨漢は閲覧者用の椅子の一つに移動して、どっかりと腰を下ろした。
目の前にはやはり閲覧者用の大きな丸テーブルがある。
テーブルの周りを囲むように合計で十人分の椅子があったが、それは現在ライダーの手で隅のスペースに追いやられていた。
十人分の巨大な円卓に、デイパックから取り出した支給品一式と今しがた持ち出したイリアス、さらに合計18の世界地図を置いて、眼前のスペースにはこのバトルロワイアルの戦場が描かれた地図を広げる。
デイパックから取り出した支給品には他に正方形のカメラのようなものと、服のデザインが描かれたイラストが数枚入っていた。

説明書きが付いており、【着せ替えカメラ】と記されている。
このカメラで被写体を写すと差し込んだイラストに描かれた服装に一瞬で着替えることができるらしい。

「ほほう、興味深い!! うーむ、どれがいいかな。む、これに決めたぞ!」

満面の笑みでライダーはイラストを差し込んだカメラを自分に向け、シャッターを押した。
古代ヘレニズムの戦装束が一瞬で消え去って、新たな衣装に切り替わった。
バラライカレヴィといったロアナプラの住人ならばその服装を見て、とある香港マフィアを仕切る男を連想したかもしれない。
いや、ひょっとしたらそれは無理な話かもしれなかった。
本来、このコーディネイトに身を包んでいた男は「ベイブ」と呼ばれるほどの童顔だったからだ。
ダークスーツに黒のネクタイ。
さらに黒いコートと肩にかかったロングマフラー。
そしてティアドロップのサングラス。
2メートルを越える西洋人の偉丈夫がこんな格好をしていたら、そこらの子供は泣く。間違いなく泣き喚く。
――どうみてもヤクザどころの騒ぎではない大悪党です。本当にありがとうございました。

「はっはっは、セイバーがあの『すーつ』とかいう今世風の衣装を纏っていたときから興味深かったが、こうしてみるとやはりいいものだな!」

だがどうやら本人はかなりのご満悦らしかった。
征服王の好奇心はどんなときも未知なるものに魅了されてやまないようだ。

「さて――――」

そこでゆっくりと息をついてライダーは椅子に腰を下ろした。
僅かに、だが決定的に声の質が変わっていた。
目の前の円卓には8×8のマスに区切られた、この戦場の地図がある。
ここで征服王たるイスカンダルは何をすべきか――――問うまでもないことだった。


「征服王がなすべきは征服、よな」


だが征服すべき敵の姿が今のところ見えぬならば是非もなし。
ここはいったん布陣を敷いて、これからの戦略について思案すべきである。
名簿を眺めた。
これは聖杯戦争である。
自身が聖杯を望むべくサーヴァントとなった存在なのだから、呼び出されたとあっては是非もない。
だがこの聖杯戦争にはマスターは参加しない。
ライダーとアーチャーの名前が名簿にあって、何故だか他のクラスのサーヴァントが記されていない。
彼自身に供給されるはずの魔力経路を感知することもできないし、彼を召喚したのがギラーミンならば何故ともに戦わないのか。
あまつさえ最後まで生き残ったあかつきには自分と戦えという。

首輪の爆弾で――マスターであるなら令呪で――命を掌握しているのなら、勝ち負けなど分かりきっているであろうに。
そもそも召喚された時点でこの手のルールに関しては、自動的にサーヴァントにインプットされているはずなのだ。
それらの知識は一切与えられず、転生すれば覚えていないはずのマスターのことは覚えている始末である。

「そしてゴルディアスホイールも使えん……」

そのための発動装置であるキュプリオトの剣が呼び出そうとしても応えてくれぬ。
イスカンダルという英霊の宝具であるはずのあの剣が使えない。
だが知識はあり、自身がイスカンダルであると、疑いようもない自意識も確固としてある。
だから自分がイスカンダルではない――――ということはないはずだ、とライダーは考える。
そもそもこの聖杯戦争のルールによって使えないなら使えないなりに、この理由についても自動的にインプットされているはずではないだろうか。
わからんな――と、首を振る。
現時点で分からないことを考えてもやむなし、だ。
それよりも――――最後まで勝ち残るのはいい。
だがそれにはイスカンダルにつけられた首の枷、ひいてはその枷の鎖を握るギラーミンが障害となる。
何せ、望みを叶えたいなら自分に勝て、とはっきり言ったのだから。
ならば勝つためにはこの首から目障りな枷を外さなければならないという結論になる。

「むぅ」

こめかみに拳をぐりぐりと押し付けながら、円卓の征服王は更なる思案に耽るのであった。


【D-4 図書館/一日目 黎明】



【ライダー(征服王イスカンダル)@Fate/Zero】
[状態]:健康
[装備]:張維新の衣装とサングラス@BLACK LAGOON
[道具]:基本支給品一式 きせかえカメラ@ドラえもん きせかえカメラ用服装イラスト集 ヤマハ・V-MAXセイバー仕様@Fate/Zero
     イリアス英語版 各作品世界の地図
[思考・状況]  
 1:バトルロワイアルで優勝。聖杯で望みを叶えて受肉する。
 2:首輪を外すための手段を模索する。
 3:有望な強者がいたら部下に勧誘する。
 4:アーチャー(ギルガメッシュ)を警戒する。
【備考】
 ※ヤマハV-MAXは図書館入り口に停めてあります。
 ※原作ギルガメッシュ戦後よりの参戦です。
 ※深夜の時間帯にA-4からD-4にかけての道路沿い周辺でバイクの排気音を聞いたキャラがいるかもしれません。

【きせかえカメラ@ドラえもん】
 正方形のカメラの形をした道具。着せ替えたい服装のデザインをカメラにセットし、対象の人とデザインを合わせてシャッターをきる。
 すると対象の人が今着ている服を原子レベルにまで分解してデザインの服に変える。
 但し故障もしくは服装デザインの入っていない状態でカメラを使うと服が消えてしまい、対象の人は裸になる事がある。
 服の分子が分解だけされて再構成しないのであると思われる。

【きせかえカメラ用服装イラスト集】
 きせかえカメラ用の服装デザインが描かれたイラスト。
 いくつかバリエーションがあるようだ。

【イリアス英語版】
 詩人ホメロスによって作られたと伝えられている叙事詩である。英語版なのはFate/Zeroの原作に拠る。
 ギリシア神話を題材とし、トロイア(イリオス)戦争 十年目のある日に生じたアキレウスの怒りから、イーリオスの英雄ヘクトールの葬儀までを描写する。

【各作品世界の地図】
 参加作品中の時代と世界観に準拠した地図18種類。

【張維新の衣装とサングラス@BLACK LAGOON】
 きせかえカメラによって出現したのでサイズはライダー(身長213cm)準拠。
 香港マフィア・トライアドの幹部、『張さん』こと張維新の衣装とサングラス。




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図書館までは何マイル? ライダー(征服王イスカンダル) 戦いへの想い





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最終更新:2012年11月27日 23:19