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狂人と「正義の味方」の邂逅

「………」

シン・シー……そう名乗った男の行動を、ヴァイスは一部始終観察していた。
言動から察するに、彼は人外……つまり、人間ではない存在を敵視し、人間の味方を自称しているようだ。
そして、そのために容赦をしないことも理解した。

「………」

理解した。……が、それだけだ。少なくとも、ヴァイスの価値観に照らし合わせると、その行動は全く許容できない。無論、この男に同情などと言う安い感情はない。つまり、結論は一つ。


『面白くない』。


ヴァイスの娯楽は、他人を利用して他人を「壊す」……具体的には、喪失や自己嫌悪の輪廻に叩き落とすこと。
あるいは、それらの発起点になるかとも思ったが、あれではとても使えない。
妖怪やその主などは心底どうでもいいが、あの男、シン・シーの行動は非効率的に過ぎる。

(下らない区分けに拘るとは……全く、ワタシの遊技場を荒らして回られては困るのですよ)

奴がこのまま動けば、いかせのごれの妖怪は一挙に危機に陥る。その中には、アースセイバー・ウスワイヤに属している者も少なからず存在する。仲間意識の強い彼らは対抗措置を取るだろう。あるいは、それに乗じてホウオウグループが介入して来る可能性も大いにある。

そうなれば、いかせのごれは人知れぬ混乱の渦に叩き込まれる。そしてそうなってしまえば、せっかく良い「役者」の揃っているこの場所で動くことが難しくなる。

ああいう効率の悪すぎる行動をとる人物は、ヴァイスにとっては嫌いなタイプだ。それだけなら放っておくが、自分の邪魔になりそうだというなら話が別だ。

(ここはまず……ん?)


「そこにいる人間は、人外の味方なのかな…?」


(む)

どうやら向こうは自分に気づいていたらしい。確か本人が「能力のオーラが見える」と言っていたから、その力によるものだろう。

「……さて。少なくとも味方ではありませんがね」

わかっているなら隠れる意味はない。軽く、ヴァイスは死角から姿を現し、その男、シン・シーに相対する。

「………」

改めて見ても、この男はかなり珍妙な格好をしていた。が、それがかえって、闇の中に溶け込むような、不気味な「非存在感」を現していた。





「……何ですか、その格好は」
「あなたに言われたくはないなぁ」

確かにヴァイスの格好も大概珍妙だが。

「確かに。ですが、今そんなことはどうでもいいのですよ」
「へぇ? ま、いいや。ところで、あなたは何をしてるのかな。どうして僕の後をつけて来たのかな」
「何……次のシナリオの種にならないかと思ったのですがね」
「シナリオ、ねぇ。もしかして噂に聞く、人を壊すためのあれかな」

帽子の鍔を片手で上げる。どうやら、向こうは思ったよりこちらの事情に通じているらしい。

「まさしくその通りですね」
「そうか……噂は真実だったってわけか」
「それで、どうしますか『人間の味方』。人を壊すワタシを排除しますか?」
「そうだね……今は他にすることがある。それは」

シンの台詞を、ヴァイスは先取りして言葉に変える。

「害なす人外、妖怪の完全排除ですか」
「あれ? 何だ、わかってるなら話が早いや。僕は、あいつらを全員排除するつもりなんだ」
「……単刀直入ですね」
「余計に言葉を飾るのは趣味じゃないんだ。……ともあれ、人外の味方じゃないならいいや。僕の敵はあくまで人外だからね。……じゃ、これで」

軽く言って、その場を立ち去ろうとするシンの、


「待ちなさい」


その足下に、ヴァイスの放った投げナイフが突き刺さった。
視線がわからないが、明らかに怪訝な顔をしている。

「……何のつもりかな」
「見ての通りですが」

瞬間、その場に敵意が満ちる。

「……嘘はつかないのが信条じゃなかったのかい? それとも、それ自体が嘘なのかな? やはり、人外の味方なのか、あなたは」
「いいえ、違います」

鋭い声で言うシンに、ヴァイスは明確な否定で返す。


「人外の味方をするのではありません。アナタの邪魔をします」


「理由は何かな?」
「アナタにこのまま動かれると、巡り巡って逆にワタシが動きにくくなるのです。それは困るのですよ」
「……僕は『人間の味方』だけど、振りかかる火の粉を払うのは吝かじゃない」

す、とシンもナイフを取り出す。

「殺しはしない……けど、少し大人しくしていてもらうよ。あの人外達を排除するまでは、ね」
「だから、それをされてはワタシが困るのですよ。あなたこそ、邪魔をするなら消えてもらいます」

他者から見れば、いずれも狂人。しかれど、互いに思惑があり、それが相容れない。となれば、戦うのみ。

「では、行くよ」
「来なさい、『正義の味方』とやら」





シンとヴァイスの戦いは、かつてこのストラウルで何度か行われた派手なものではなかった。でありながら、状況はシンの圧倒的不利だった。
「人間の味方」を自称するシンの攻撃は、あくまでも「人間」であるヴァイスの命を狙ったものではなく、動きを封じることを意図したもの。逆に、シンを邪魔者とみなしているヴァイスの攻撃は、殺せるならば今すぐ殺すほどの鋭さを持っていた。

「く、速い!」
「手加減している場合ですか? 死にたくなければ殺す気で来なさい」

しかし、対するヴァイスの方も攻めきることが出来ない。明かりのほとんどない闇の中、シンの姿は時折霞むようにして視界から消えるため、決め手となる一撃を叩き込めない。対するシンの方は能力でヴァイスの位置を捕捉出来る。この差は決定的だった。
シンはその心情ゆえに致命打を繰り出せず、ヴァイスはこの状況ゆえに致命打を打ち込めない。
おまけに場所が場所だった。ここはストラウル跡地、「アンバランスゾーン」だ。理由もなしに何かが起こる。ここで常識や「そんなはずはない」という観念は通用しない。予想外の何かが起きる可能性を常にはらんだ場所での戦闘だ、両者とも慎重にならざるを得なかった。

「むッ!?」
「させるか!」

互いに決定打を出せないまま、応酬だけが延々と続く。そんな繰り返しに、先に音を上げたのはシンの方だった。

「やれやれ……これ以上続けていても埒が開かない。ここらで退かせてもらうよ」
「逃がすと思いますか?」

シンが一歩バックステップしたタイミングに合わせ、ヴァイスがナイフを真っ直ぐに投げつける。が、

「む?」

その一撃は、闇の中に溶け込んだシンを捉えられず、カラン、と乾いた音を立てて転がった。

「僕は人間の味方だ。必要とあらば、あなたとも協力する。人外を排するためなら、僕は手段を選ばない」

闇の中から聞こえるその声に、ヴァイスはため息を一つつき、返した。

「……では、一つ忠告をしておきましょう。とある家に、近く人外がひとつ来ます」
「へぇ? それは見逃せないな……」
「ですが、手を出すのはやめておきなさい。下手をすると痛い目ではすみませんよ」

脅しではない、実感からの本音として、ヴァイスは答えを知りつつも言う。案の上シンの答えは、

「忠告は受け取っておくけど、人外は見逃せない。どんな力を持っていようと、全て排除するだけだよ」

それを最後に、気配は消えた。その場を去った男に、ヴァイスはもはや届かぬ警告を送る。

「問題は、その人外そのものではありません……『彼女』の許には、何人もの守護者がついています。アナタとは絶対的に相容れない者達が、ね。それに、アースセイバー所属の者を襲った以上、アナタももはやただではすみません」

真っ先に頭に浮かんだのは、赤と白、特徴的な髪を持った姉妹と、格闘の達人。そして、異能殺しの男。彼ら彼女らとは、シンは絶対に相容れまい。


「……まぁ、後は地球の剣達に任せるとしましょうか」


物憂げにひとりごちると、ヴァイスもまた、闇の中に姿を消した。


狂人と「正義の味方」の邂逅


(敵か、味方か)
(知る者も、知らぬ者も)
(容赦なく、巻き込まれていく)

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最終更新:2011年06月07日 00:31