(なぜだ? あれは一体どういうことだ!?)
姿を消したままの
エトレクは、クランケを追って疾走していた。彼が背負っていた女性……遠目にもわかった。
以前、「鬼門」に戻される少し前に一度だけ会った事がある。後にも先にもその一度しか会っていないが、「彼女」の物腰や言葉は強く印象に残っている。
(だが、彼女は……)
そんなはずがない、と思う。しかし、キリや
カイム、
ミサキのような事例がある。絶対に、とは断言出来なかった。
(とにかく、確かめなければ!)
決心を固め、怪人赤マントは人知れず、いかせのごれを走る。
「それで連れて来たわけか、クランケ」
「放っておくわけにも行かなかったし、このままだとウスワイヤに連れて行くわけにも行かなかったからね」
引っ越した
天河探偵事務所。その一室で星は、隣の部屋に寝かされている女性を連れて来たクランケと話をしていた。
「まぁ、前と違って部屋にはそこそこ余裕があるし、別にいいけどな」
「そう言ってもらえると助かるよ。……早速で悪いんだけど」
「ああ、素性調査だな」
身元不明者を保護した場合の基本は、安全の確保と身元の調査。これが鉄則だ。
「そういうことだ。……ただ、僕は
ホウオウグループにいた頃、何かの資料で彼女を見た覚えがあるんだ」
「何?」
にわかに星の目つきに鋭さが混じる。クランケが当初予測したのと
同じように、グループとの関連を疑っているのだ。
「構成員か、実験体か、何かのターゲットか……とにかく、こっちでも調べて見る」
「……わかった。私も手伝おう」
ホウオウグループ関連の資料は見つかったものの、数がそれなりにあり、調査は困難を極めた。
というよりは、単に時間がかかっただけなのだが。
「……これも違うか。クランケ、本当に見たのか?」
「間違いなく。……どういう資料だったかよく覚えてないんだけど」
「星殿、これは違うがか?」
「どれ……違うな。似てるだけだ」
月光を加えて3人で手分けをし、問題の資料に関連する部分を探していた。が、どうにもはかどらない。
「……ん? ダメか、これも違う。写真がない」
「こっちは結構最近のやつか……違うな」
「む、これはクランケの資料ぜよ」
そんなこんなで時間だけが過ぎて行き、2時間程してついに月光が音を上げた。
「だー! これではキリがないぜよ」
「た、確かになぁ……これだけ探して見つからないとなると……」
「見間違いだったとは思えないんだけど……」
さすがに自信がなくなって来たのか、クランケが小さく呟く。と、
「っと、忙しそうだな。何かあったのか?」
部屋に入って来た男がいた。ロングコートを着た、
霧波 流也。
「おぉ、流也。いや、実はな」
大まかな事情を月光から聞いた流也は、「ほう、そうかい」と頷く。
そして隣の部屋に目をやり、
「ならまずは、そのお嬢さんの顔でも拝んで来るかね」
「気を失ってるからね、くれぐれも騒がないでくれよ」
クランケを素でスルーし、流也は隣の部屋に入ると、ベッドで眠っている女性の顔を覗き込む。
と、
「ん?」
既視感を覚えた。確か、つい最近似たような顔を見た記憶が……。
「どわっ!?」
と思った瞬間、突然何かにぶつかったような衝撃と共に吹き飛ばされた。起き上がると、さっきまで自分のいた所にシルクハットを被った影が見える。
「あ、あんた、確かこの間の……」
だが、その男・エトレクは、その女性の顔を見て、わなわなと身体を震わせていた。
「ど、どした?」
「……間違いない……けどなぜ……主が『語った』わけでもないのに」
「……星殿、クランケ、隣が騒がしいぜよ」
「……騒ぐなって今言ったのに」
「しょうがない、私らも行くぞ」
部屋を出て隣に向かう3人。その時動いた空気に煽られたのか、一枚の資料が飛び、その裏から別の資料が出て来る。
「Rank-E」。「重要度なし」と規定されたその資料――UHラボという施設からの転送だった――に、写真と共に記されていた。
『能力概要:生命力というべきエネルギーの活性化と推測される。これは、応用によってはより強力な生体兵器の開発にシフトできる可能性を持った素体と言えないだろうか』
『―――月11日、追記。上記素体候補は頭書の日付以降消息途絶。死亡と推測される。これに伴い、確保の中止を決定』
―――写真は、眠る彼女と同じ顔をしていた。
合縁奇縁、どこまでも
(死んでいるのか、生きているのか)
(それはまだ、今はわからない)
(しかし、ここにいるという現実)
最終更新:2011年08月26日 14:04