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警察署にて。

ひとのざわめき

けんそう、あれたげんどう、ひとのあくい

まもるのはなんのため?

みんなのため?だれかのため?…じぶんのため?


「…気持ち悪い…」

 ここも、なのか。
デスクワークをしながらそう思えば、ふと気が付くと自分の胸を握りしめる私がいた。



 千年王国
その昔、ジングウが主任を務めていたという特別研究チームで、ジングウの事故死によりそのチームは一時解散された。
しかし何の因果か、死んだはずのジングウがホウオウグループに復帰し、かつ彼の進言により再びその悪夢は復活を成し遂げたのである。
その復活と共にホウオウが雑兵である私に使命を課せた。

『千年王国及びジングウの活動の後始末、報告』

要するに『監視』である。
元々与えられていた仕事にひとつ新たな項目が設けられた程度で、今までの活動には特に支障はない。
見たことを『記録』し、『形にして』、『報告』する。必要であれば、『作り変える』。
何ひとつ今までと変わらない。

「………」

 しかしまぁ、平静を崩されるとここまで空気が乱れるとは思っていなかった。
ウスワイヤが千年王国からの襲撃を受けてからほんの少しだけ日が経ったというのに、
それに連鎖するように事件が起こり、警察の動きも前と比べて随分と慌しくなった。
ウスワイヤが公的施設であるのが大部分かと考えられるが、ジンやアヤといった警察に身を置いているアースセイバーにとって由々しき事態だから、
動揺を隠せないのが一番であろう。…と予想してみるが、実質は分からない。

「………」

 まるでお祭り騒ぎと言わんばかりの喧騒の中、私はただ、与えられた仕事をひたすらと、黙々と、静かに机上でこなしていく。
ここではその動作をしているだけで耳に大量の情報が入り込んでくる。
「千年王国」「ジングウの再来」「怪人:木乃伊冥土」…そして、それらに対する怒りや不安の吐露。
情報だけではなく、各々の持ち合わせている心情や感情も、すべて耳に入り込んでくるのだ。それが知識として、情報として、私の中に加算されていく。
ただそれだけだ、何かを感じ得ることなど何もない。

「……はぁ、っ!?」

 作業に一区切りつき、一息吐こうと顔を上げた刹那、頬に何か冷たいものが押し付けられ、びっくりして立ち上がった。
横を見ると見知った『相棒』が缶ジュースを持ちながら、それはそれは楽しそうに笑っていたのであった。

「…何しているんですか、アヤセさん。」
「だから、先輩と呼べと何度言ったら…」
「質問に答えてください。」
「う…いや、ウツツちゃん何か疲れたような顔してたからさー、これ差し入れ。」
「結構です。」

 ぴしゃりと言って頬に押し当てられた缶ジュースを払い除ければ、アヤセランは不満そうに「えぇー」と呟いた。

アヤセ ラン
普段はいかせのごれ警察署の刑事として働いているのだが、その裏の顔は敵組織であるアースセイバーの戦士である。
元々、戦闘向きではないと自負している私にとってこのような前衛型の人間とは接触などないと思っていたのだが、
運命の悪戯とはよく出来たものだ。まさか就任してから早々に敵と組まされる羽目になろうとは、あのジングウでも予想は出来なかったであろう。
…いや、彼なら

「敵同士がバディとして組まされたのであれば、その行く末はどうなるんでしょうかね?いやぁ、考えただけでも実に面白いですよ。」

なんて答えるだろうから、私の頭が痛くなることが容易に想像出来る。

「『怪人:双角獣(バイコーン)』・・・ねぇ。若い子ってこういう噂好きだから、すぐ俺らの耳にも届いちゃうんだよねぇ。」
「…そうですね。」

 ふと思考に耽っていたら、いつのまにか彼は隣のデスク(の上だった)に座り、私の机に広げられた『怪人:双角獣(バイコーン)』についての資料を見つめていた。
『怪人:双角獣(バイコーン)』…その正体は、千年王国の一人、AS2ことアッシュである。双角獣の由来はおそらく、ジングウが開発した、
彼専用のバトルドレス『バイコーンヘッド』のことだろう。あれなくしてもアッシュ自身の力は相応のものである。なんせアースセイバーのエースの一人、
都シスイ…アッシュのクローン元に痛手を負わせ、打ち負かしてしまったのだから。
そのことはもちろん、この隣で缶ジュースを飲んでいる男にも伝わっているはずだ。だから、心境は恐らく穏やかではない…って、

「…アヤセさん、それ、私飲んでた奴なんですが。」
「え?そうだったん?」
「………」
「……ということは、ウツツちゃんと間接キへっじゃ!?」

 言い終わるか否かの前に彼の顔面へとハイキックをかまし、アヤセランを入り口付近まで蹴り飛ばしてやった。
むしゃくしゃしてやった。別に恥ずかしいとかではない、断じて。
同僚の誰かが「ア、アヤメさん何してるんですか!?」という叫ぶのを聞いたが、致命傷を与えたわけではないし、彼は放っておいても大丈夫だ。

(…いや、避けようと思えば避けれるはずだ。)

 甘んじて受けてるのだ、この男は。
手練れてる者ほど、こうした余興のようにわざと攻撃を受けたがる。
平和ボケだから、というのもあるかもしれないが、『その時』が来れば、能力を持って私を殺すことなど容易いであろう。
私はこの男に勝てるほど、自分の力を過信していない。

(だから、味方のフリをする。それが現状維持の『最も有効である策』だ。)

 アヤセランは味方である以上、こちらを寸分も疑わない。
味方といえば、心や思考を読む能力を持つキジマならば既にこちらの企みに気が付いている筈だが、
私にとっては一番近しい人物であるこのアヤセランの様子を見る限りでは、今のところ目に見えたアクションを起こしてはいないらしい。
いや、気付いてはいるがおそらく様子見だろう。どちらにせよ、警戒することには変わりはないのだが。
 …しかし、あぁ、なんだかもう、


「…気持ち悪いのは、私も、か。」


 周りの喧騒、ざわめく雑音。
誰に聞こえる筈がないからこそ、私はそう呟いたのであった。










警察署にて。


(いつからだ)
(疑わないと気が済まないようになったのは)

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最終更新:2011年12月31日 02:34