――ごめんね、僕のせいだ。
目の前で消えると分かっていながら、何も手出しが出来なかった。
自分が術にかかっているともっと早く気づくべきだったんだ。
僕は、妖怪主治医どころか、医者失格だね…。
秋山家の寺院には、
百物語組の総勢が集合していた。
動けない数名と、居なくなったキリを除いて。
主である春美はいない。自室にこもっているらしい。
千尋は何もかもすべて話した。自分が見たことを正確に。
最後のほうは鮮明に思い出したのか、ぼろぼろと泣きじゃくる始末だった。
見るに堪えない彼の様子。誰もが彼を許す。
ただし、数名を除いて。
「…それで、本当に全部なの?」
真実の告白の後、数分の沈黙を破ったのは、彼のパートナーである
ミサキだった。
「ああ。僕が知る限り…。」
「本当にそうなの!?」
彼女は不意に立ち上がり、千尋の胸倉をつかんで持ち上げる。
驚いた仲間が止めようとするが、彼女はそれを聞かない。
「助からないと分かって見捨てたんじゃないの!?違う!?」
千尋は黙る。胸を持ち上げられた不自然な格好で押し黙り、ただ首を振り続ける。
やがて千尋を床に打ち棄てると、ミサキは鋭い目で睨みつけたまま言った。
「あんたなら…、あんたなら私の疑念を打ち消してくれると信じていたの。でもこれじゃ、酷い裏切りだわ!」
そのまま踵を返し、部屋を出て行った。
「医者ってのは、本当に最低ね!」
その言葉を残して。
「…千尋さん、大丈夫ですか?」
ヨシエが彼を抱き起こす。千尋は尚も無言のままだった。
「ミサキ、こればかりは言い過ぎだよ…。」
ミナミがあきれたような声を上げる。しかし、千尋は首を振り、自らその言葉を撤回した。
「僕が全部悪いんだ。キリ君を助けられなかったのは、事実なんだし。」
「クランケばかり背負う必要ないって!大丈夫大丈夫!」
ノラがなだめる。幹久朗はその様子を見ながら、首をかしげた。
おかしい。何か引っかかる。でも確たるものがない。
仮に千尋の話が本当だとしても、矛盾が存在しないか。
あの様子では嘘とも考えにくい。そうだ。例えば…。
「千尋、今夜はここに泊まっていけ。疲れただろ?」
幹久朗は口を開いた。ここに泊まるのは辛いかもしれないが、この機会を逃してはまずい。
「いいよ。僕は事務所に帰るから…。」
「明日、俺の店に来てほしい。詳しい話が聞きたいんだ。」
俺と親しい妖怪仲も一緒に連れてくるつもりだが、辛いなら俺だけでもいい、と付け加えて。
千尋は一度天井を仰ぎ考えたが、やがてこくんと頷いた。
「分かった。今日はここに泊まって、明日君と君の店に行こう。」
友達、何人でも連れてきていいから。彼はそういうと立ち上がった。
「私、彼についていきますね。」
とヨシエが肩を貸し、部屋から立ち去った。
残された妖怪たちは一斉に沈黙する。
追悼なのか、疑問なのか、憤怒なのか。それは定かではないが一様に黙っていた。
「…どうする?主暫く出てこれないかもよ。」
「どうするっていわれてもなぁ。」
「今は何も出来ないでしょうし…。」
それぞれが腕を組んで首をかしげる。
そのうち不意に
カイムが顔を上げた。ふいと障子側を仰いで数回頷くと、目を閉じた。
不思議に思った数人がカイムを見る。
次に彼がゆっくりと顔を上げた時、その眼は血のごとく赤く染まっていた。
「『少しよろしいですか?』」
その声に全員の視線がこちらを向く。
「『今、僕に
ハルミさんがとりついています。』」
「ハルミちゃんって、妖怪の方?」
「『はい。人間に体質が近く、あらゆる音を聞く僕に声をかけ、体を貸してほしいと。』」
ですのでこの先は彼女の意見として聞いてください、と前置きをし、彼は話しだした。
「『彼女の意見を端的に言います。』」
「『キリさんを、もう一度取り戻そう、とのことです。』」
全員が動揺する。
「ちょっと待って!カイム…じゃない、ハルミちゃん本気で言ってるの!?」
「『そのようです。正直僕も動揺しています。』」
「ふむ…。確かにそれは一理あるのう。」
タマモが顎に手を添え考える。
「じゃが、確率的にそれは難しいんじゃなかろうか?」
「そうですよ。殆ど無理に等しいです。」
一度「消えた」経験のある
エトレクも声を上げる。
「消えたばかりのキリさんが戻る確率がまず無いに等しいのに、意図的に戻せるんですか?」
「それに、これ以上語っちゃ百物語にならないじゃん!」
ノラも異論を唱えた。
「『無理、ではないでしょう。』」
カイムは頭の中にいる少女の声を逃すまいと目を閉じる。
「『百物語の本来の目的は何か忘れていませんか。100話語った後、どうなります。』」
「えっと、真っ暗になった部屋に幽霊が現れて…。」
「『そういうこと。つまり「101番目の怖い話」を作るのです。』」
「『意図的にキリ君が出てきやすい状況を作り、春美さんを説得して「第一〇一話」としてキリさんを連れもどす。確率は低いですが、やらないよりはましです。』」
本気かよ…とつぶやくエトレクにカイムは頷いた。
「『といっても、具体的な方法は思いつかないので自分は春美さんの説得に専念するからあとはよr』…え、ちょっと待ってくださいハルミさん!?」
慌てて目を開けた時には元の黒色に戻っており、カイムは慌てて立ち上がる。
部屋を見回すが、どうやらもうハルミはいないらしい。
「…提案しておいて何も考えてなかったのか。」
キエンの鋭い一言に、カイムはがっくりと膝を落とす。
「とはいえ、やってみる価値はあるかもね。」
ノラの言葉に一同は頷く。
「確率が低いのはもとよりじゃ。この確立をどこまで上げられるかが重要。」
「方法は後からでもいい。今は人数を集めよう。多いに越したことはない!」
「…やりますか、皆さん!」
誤解、疑問、そして行動
かくして始まった「キリ復活計画」
はっきり言って無計画だがやる気だけはある
…はず。
最終更新:2012年07月28日 16:38