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写し鏡と青行燈

「キリさんが……!?」

廃病院の霊安室、というまともな神経の人間なら恐ろし過ぎて立ち入れない場所で、百物語13話・ミナは吃驚していた。
同じ妖怪にして百物語の仲間であるキリが消滅した、という知らせがたった今、アカノミから入ったのである。

「それで、皆さんは……」

ミサキの離脱などのハプニングにも見舞われているが、100話・ハルミの提案により、キリを101話として呼び戻そう、という話が持ち上がっているという。

「………」

ミナは迷った。今の自分は、半端に顕現している、意思を持った現象にすぎない。他の皆のような「概念」ではない。そんな自分に、果たして何が出来るというのか?

「…………」

それでも、

「……今から神社に戻ります。アカノミさんは、もし流也さん達が来たらこの話をしてあげてください」

何もしないということだけは、断じて受け入れられなかった。


それから程なくして、霊安室からは一切の気配が消えた。





「……そういうことですか」
「ええ。具体的な方法はまだ未定ですが、キリさんが出てきやすい状況が必要となります。少なくともこれは確定です」
「……わかりました。それなら、私も少しは役に立てると思います」

意志ある怪奇現象であるミナは、現れた場所が一種の心霊スポットとなる。無論これだけでは不足もいいところだが、ないよりマシのはずだ。
ただ、

「……あの、カイムさん」
「はい?」

ミナには、一つ気になることがあった。

「ハルミさんの提案というのは、キリさんを101話、百物語の後に現れる本物の怪として呼び戻す、ということでしたよね」
「ええ、そう言っていました」
「……もしかして、それって凄く危険じゃないでしょうか?」
「危険?」

意図するところを図りかねたように、カイムが首を傾げる。
が、ミナは知っていた。ハルミの提案に存在する、一つの危険性を。

「キリさんは『切り裂き魔のとおりゃんせ』です。……百物語の内容は、語る人によって様々ですから、そういう人も出るでしょう」
「……ミナさん、何が言いたいんですか?」
「百物語を全て語った後に現れる怪……ハルミさんの案は、ここにキリさんを当てはめよう、ってことですよね」
「そうですよ、それが何か?」

さすがに苛立ちが声音に乗り始めたカイム。
だが、続くミナの言葉を聞いて、彼は文字通り言葉を失った。

「百物語の最後に出てくる怪は、幽霊ではなく『青行燈』という妖怪の女性とされているんです。主さんの能力は百物語限定ですから、その先にまで影響できるかは未知数です。今はまだ現れていませんけど、もしかするともうどこかに……」

盲点だった。
ハルミの提案自体は確かに理にかなっていた。だが、キリが戻るべき席である「101話」には、古からの先客が既に座っていたのだ。
しかし、ミナはこうも言う。

「百物語の起源は『巡物語』という、いわゆる暇つぶしの遊びです。これは話数が決められていませんから……」
「しかし、主の能力は百物語ですよ? 今あなたもそう言ったでしょう」
「特殊能力は不変じゃありません。何らかの要因によって進化、あるいは変化することもあります……」

ミナの話は「もし」「たら」「れば」の塊であり、決定的な証拠はない。ことに春美の能力に関しては、可能性の話でしかない。だが、看過するにはあまりに重大な内容だった。

「……わかりました。今はどんなものでも、手掛かりが欲しいところです。とりあえず、次に皆さんが集まった時にでも話しておきましょう。どの道すぐには始められませんし」
「はい」
「それでは、この話はひとまずここまでです。……ミナさん、改めて、協力をお願いします」

カイムの言葉に、ミナは無言でうなずいた。



写し鏡と青行燈



「……ところで、いつの間にそんな知識を?」
「時々遊びに来る女の子に教えてもらったんです……」

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最終更新:2012年07月28日 16:39