《ミッドチルダに住む人々よ!今この地は未曾有の危機に直面しておる!!》
《先日起きた地下水路崩壊も然り!そして諸君らの記憶にも新しいアグスタ襲撃も然りじゃ!!》
《これらはガジェット及び不死者と、それらを造った者達の手によって引き起こされた事なのである!!》
《そしてアグスタ襲撃事件の際、我々管理局は最大の策を投じたにも関わらず敗れた!!》
《即ち!このままでは我々の滅亡は必死であろう!ならば我々はこの滅亡の危機を運命として受け入れなくてはならぬのか?》
《否!断じて否!!我々管理局はこの未曾有の危機に対し、新たな策を投じた!それが彼らエインフェリアである!!》
《彼らエインフェリアは人型のデバイスである!その姿形に人型兵器と思う者達も多いであろう……》
《しかし!!彼等はこのミッドチルダの魔導技術の粋を集め造られた存在!決して質量兵器などではない!!!》
《その証拠に見よ!彼らの勇姿を!!この映像は先日起きた地下水路崩壊の際に撮られた物である!》
《彼等は魔法を用いて!たった二体の手により、この複数存在するガジェット及び不死者の群れの悉くを殲滅させたのである!!》
《即ち彼等こそが、未曽有の危機に対する対抗手段なのじゃ!!》
《そして我々管理局はこのエインフェリアを量産する用意がある!その名も…アインヘリアル計画である!!》
《この計画が実行に移れば、もうこのような幼い子供にデバイスを持たせる必要は無くなるのだ!!》
《聞け諸君よ!彼等エインフェリアは弱き者を守る盾であり、強き者を挫く剣なのである!!》
《今!我々に必要な物は未曾有の危機を脱する力なのだ!その力は今まさに此処に存在しておるのじゃ!!!》
リリカルプロファイル
第二十話 陳述会
ガノッサ提督による演説は二時間にも及び、モニターにはエインフェリアの姿が映し出され、その中にはクロノ提督の姿も存在していた。
そして…その演説を冷ややかな目線を送り見つめるレジアス。
「いよいよ始めたか…ワシも急がねばならんな……」
そう一言呟くとモニターを切り、一人黙々と何かを打ち込む作業を始めるレジアスであった。
…一方此処は機動六課に存在する会議室、この部屋は防音機能が完備されており、外部に情報が漏れない造りになっている。
その部屋に、はやてとゲンヤそしてギンガの姿があった、目的は先日行われた共同戦線の情報交換を行う為である。
それぞれ情報を交換する中、はやては写真が貼られた資料をゲンヤに渡すと、黙って受け取り目を通す。
写真には後ろ髪を結った茶髪の少女の顔とその少女が持っていた無反動砲が写っており、資料の内容は少女が持っていた銃についてであった。
銃の名は表面上に書かれており、イノーメスカノンという。
解析の結果、命中精度・威力などが非常に高く多種多様な弾丸を撃ち出すことが出来ると、
だがその重さは尋常ではなく、とてもではないが写真に写る少女が持ち運び出来る代物ではないと綴られていた。
その内容に沈黙するゲンヤ、その表情に既に確信にも似た表情で話しかけるはやて。
「やっぱり…彼女達は……」
「あぁ、戦闘機人だ……」
ゲンヤの言葉に俯くギンガ、そしてはやては自分の考え出した答えが正しかったといった表情を見せる。
するとはやては失礼ながらゲンヤの妻、つまりギンガの母の事を調べたと話し始める。
…ゲンヤの妻、クイントは戦闘機人に関する調査を行い、その後原因不明の事故により死亡した。
そしてクイントの意志を引き継いだゲンヤが戦闘機人に関する情報を集めている事を掴んだと話す。
しかし当のゲンヤは自らの仕事が忙しく、中々情報を集められてはいない状況であった。
そこで今回の事件を機に、はやてが代わりに戦闘機人の情報を集めると提案、その為今まで得た情報を引き渡して欲しいと頼み込む。
するとゲンヤは目を閉じ腕を組み考え込む、その後暫くして目を開き、口がゆっくりと動き出す。
「…悪いがそれは出来ねぇな、事は戦闘機人だけの問題じゃあ無いんでな」
ゲンヤの答えに困惑するはやて、事は戦闘機人だけでは無い?
…それはどういう事か再度聞いてみるがゲンヤは一切答える事は無かった。
暫く静寂が部屋を包むと呆れた様子でため息を吐くはやて、その顔は諦めに似た様子を表していた。
「…分かりました、戦闘機人の件は諦めます、そん代わり……」
「あぁ、連絡役も兼ねてギンガの機動六課への出向を許可しよう」
機動六課が掴んだ戦闘機人の情報をギンガというパイプラインによってゲンヤに伝える、
その為の出向でもある今回の申し出に応えたゲンヤは、ギンガと共に席を立ち会議室を後にする。
一人会議室に残されたはやては大きくため息を吐くと、流石自分の師匠なだけあって一度決めた事に対してガンとして動かないな…と思うであった。
一方ゲンヤと共に機動六課の通路を歩いていると突然ギンガが質問を投げかける。
「何故はやて二佐の申し出を断ったんです?」
「…クイントと同じ轍を踏ませない為に……だな」
その意味深な言葉に首を傾げるギンガだが、ゲンヤの目は遠く何かを見つめているようであった。
その頃なのははシグナムが運転するワゴン車に同乗していた、その理由は先日保護した少女が眠る聖王医療院に向かう為だ。
そしてシグナムもまた聖王教会に用があるらしく、次いでに乗せて貰っているのだ。
そしてなのはは、ワゴン車をマジマジと観察していると、ふと質問をかける。
「このワゴン車…シグナムさんの車なんですか?」
「あぁ、渋いだろう?」
シグナムの含み笑いにになのはは頬を掻く、話によると聖王教会にいた頃、
食事の配給などの仕事が多くあった為、沢山の荷物を運べるという理由で購入したと話す。
そんなシグナムの話を聞いているうちに聖王医療院に着くと、なのははシグナムと別れの挨拶を交わし医療院へと足を運ぶ。
医療院内ではシャッハが出迎えており、なのはは保護した少女の詳細を聞くとシャッハは快く応える。
保護した少女は人工生命体でフェイトやエリオと同じ境遇であると。
故に現場に残されていた生体ポットの中身の可能性がかなり高く、周りのガジェットが破壊されていた事から危険性があると指摘されていると。
そんな内容を通路を歩きながら聞きつつシャッハと共に少女が眠る部屋へ赴くと、其処はものけの殻であった。
シャッハは驚き開いている窓を覗くと、対象の少女が外へ出ようと走っており、
シャッハは窓から飛び降りるとデバイスを起動させ少女の前を塞ぎヴィンデルシャフトを構える。
少女は目の前に現れたシャッハに驚き、しりもちをつくと―――
「ふ………ふえええぇぇぇぇぇぇん!!!!」
「えっ?…………えぇ!?」
少女の泣き声に思わず戸惑うシャッハ、すると入り口からシャッハを追っていたなのはが姿を現し、少女を慰める。
そして病室を抜け出した理由を聞くと母親を探す為に抜け出したと、ぐずりながら話す少女。
少女は人工生命体である、母親など存在するハズがない、その記憶は元の遺伝子が持っていた記憶なのかもしれない。
しかしそんな素振りを一切見せず、なのはは少女の目線に合わせ見つめる。
「お名前いえるかな?」
「ヴィヴィオ……」
ヴィヴィオはそう名乗ると、なのははヴィヴィオの母親が見つかるまで自分が母親代わりになると約束を交わす。
するとヴィヴィオは、「なのは…ママ?」と恐る恐る口にすると笑みを浮かべ答えるなのは、
そのやりとりが何度も続くとヴィヴィオはすっかり泣き止み、その光景を見て唖然としているシャッハ。
するとシャッハの後ろで聞き慣れた声が響き、振り返ると其処にはアリューゼの姿があった。
「あっアリューゼ!?いつからそこに!?」
「…デバイスを起動させて、そのガキに向けているところからだな」
つまり一部始終見られていた事であり、顔を真っ赤に染めるシャッハに対し呆れた様子を見せるアリューゼであった。
それから数日後、ヴィヴィオはすっかりなのはに懐き、そのまま機動六課で面倒を見る事となった。
だがその代わり定期的に聖王医療院にて検査を行うという条件付きであるが。
そして今日はなのは、フェイト、はやての三人で聖王教会に赴いていた、その理由とはなのはとフェイトに機動六課の真の目的を伝えられる為だ。
三人は教会内に存在する会議室に赴くと三人は敬礼を行う、会議室にはカリムを中心に右の席にクロノが座っており
はやてはクロノの隣の席、なのはとフェイトは左の席を順に座ると、クロノは早速説明を始める。
機動六課…いやかつての六課はカリムのレアスキル、プロフェーティン・シュリフテンによってもたらされた預言に描かれた、
ミッド滅亡を阻止する為に組織された部隊で、それは今も変わっていないと話す。
そして預言の内容を二人に告げると沈黙し、沈痛な面持ちを醸し出していた。
「取り敢えず今後は、中つ大地の奉の剣であるエインフェリアと、法の塔である地上本部を壊滅させない事だな」
今回の件でクロノは奉の剣をアインヘリアル計画の事と判断していると、するとはやてが質問を投げ掛けてきた。
「でも…あのエインフェリアって何なん?ただもんとちゃうのは分かるんやけども…」
「ガノッサ提督が説明していただろう、あれは人型デバイスだ」
命令を絶対に従う忠実なる存在、その姿はまさに奉公の剣であると。
そのエインフェリアの量産計画、アインへリアル計画の是非を問う公開意見陳述会が近く執り行われるという。
つまり、事を起こすとすればこの日が絶好ともいえる。
無論、事を起こそうとしている存在とはスカリエッティとレザードであるのは間違いない。
つまりその日こそが世界の命運を分ける日とカリムは考えており、皆もそれに賛同していると。
そして機動六課の真の目的の為に尽力して欲しいと綴ると三人は一斉に敬礼し、会議は終了となった。
それぞれが自分の部隊もしくは仕事場に戻る中、カリムは自分の予言に目を通していた。
一行目に書かれている“歪みの神”もしこれがレザードの事を指すのであれば我々は神と対峙しなければならないのか?
だが我々の信仰に神は存在しない、それにあのような傍若無人な存在が神であるハズがない。
そう自分を言い聞かせ不安をぬぐい去ろうとするが、それでも不安は募るばかりのカリムであった。
場所は変わり此処はゆりかご内に存在する生体ポットが並ぶ部屋、その中でルーテシアは一つの生体ポットを見つめる。
生体ポットにはNo.XIと書かれたプレートが掲げられており、ポットの中には紫の長髪の女性が眠っていた。
「お母さん……」
そう一言呟くルーテシア、自分の目的は母親の病気を治し一緒に暮らす事、その為にはNo.XIと刻まれたレリックが必要なのである。
そして母親を助ける為に自分は修羅にも夜叉にもなる、その決意を胸にルーテシアは一つお辞儀をするとその場を後にした。
その頃スカリエッティは管理局に潜伏しているドゥーエと連絡を取っていた。
その理由は地上本部壊滅のタイミングを計る為である。
「つまり公開意見陳述会、この時が最も適しているというのだね」
「はい、ドクター」
モニターに映るドゥーエは頷くとスカリエッティに地上本部のセキュリティ情報を渡す。
確かにドゥーエの言う通りこの機を逃す手はない、それにゆりかごの方もほぼ修復を終えている。
つまりこの日こそ決起する時!…そう考え狂気を含む笑みを浮かべるスカリエッティであった。
一方、自室にてレザードは陳述会の内容に顎に手を当て考え込み、先日の戦闘で現れたエインフェリアの姿と見比べる。
今回の陳述会に出されるエインフェリアは巨大で標準的な魔力を生む動力炉に遠距離砲が配備され、まるで戦車のような姿をしており、まさに質量兵器その物であった。
その量産機とは到底思えない姿に不敵な笑みを浮かべるレザード。
「滑稽な…質量兵器を禁じている管理局が、このような形を取るとは……」
その性能も自分達が造り出したナンバーズとは程遠い存在、寧ろレザードは人型のエインフェリアに興味を持っていた。
彼らの材質は恐らくベリオンの内部に使われている物と同じダマスクス、アーティファクトの一つであるダマスクス製法書によって作成したのだろう。
そしてこの異常なまでの戦闘力、それはまさしく管理局側の戦闘機人と呼ぶに相応しいと言っても過言ではなかった。
スカリエッティは今回の陳述会を機に本格的に計画を始める様子、そして陳述会には必ず機動六課及びエインフェリアを出してくるだろう。
つまりは総力戦、そして自分もまた出ざるは終えないだろう…眼鏡に手を当て真剣な面持ちを浮かべるレザードであった。
その頃セイン・ノーヴェ・ウィンディの三人は今回の計画の際に進むであろう道を知る為、町に繰り出していた。
…尤もそれは名目で本当はある目的のため、町を練り歩いているのである。
三人はスーツに備え付けられている私服モードを利用し、ノーヴェは紺のGパンに白い半袖のシャツ、ウィンディは膝ほどの深緑の半ズボンに赤いTシャツ、
そしてセインは黒いダボッとした長ズボンに白いパーカー、更に黒いキャップとサングラスを掛けていた。
セインは先日の戦闘にて顔が割れている可能性がある為の処置である。
それでも街に繰り出したい理由は、町の中に点在する公園で売られているアイスを手に入れる為、それだけの為である。
そして三人は公園に存在するアイス屋へ赴くと、ウィンディはストロベリー、ノーヴェはオレンジとバニラのダブル、
セインに至ってはチョコミントにチョコチップ、更にマーブルにトッピングチョコをまぶした物を注文する。
「…セイン、そんなに頼んで大丈夫なのかよ?」
「知らないのノーヴェ?こう言うのは別腹って言うのよ」
「なるほど…セイン姉は腹が二つ有る訳か」
「……そんな訳無いじゃないッスか」
ノーヴェの天然さに呆れるウィンディ、恐らく基礎となる遺伝子がそれをさせるのだろう。
そんな事を考えるも三人はそれぞれのアイスを手にし、ベンチに座ると食べ始める、
セインに至っては、がっついて食べており、その光景に頬を掻く二人。
そしてアイスを食べ終えるとベンチから立ち公園を離れ、当初の目的を遂行する為、行動を始める。
そして最短ルートを調べ、そのルートを進みセインの目標の地である地上本部へ辿り着く。
そして見上げる三人、この地を今度の戦闘で壊滅させてみせる、そう意気込む三人であった。
それから数日後、此処地上本部の近くに存在するホテル内では、翌日に行われる公開意見陳述会の準備に追われていた。
そして表の中庭にはアインへリアル計画によって創り出されたエインフェリアが三体並んでおり、
その大きさは十メートル以上にも及ぶ、どうやら動力炉の大きさに合わせて造られているらしい。
そして警備には本局の局員数十名、会場内は機動六課のなのはとフェイト、そして地上本部の局員の手によって行われ
残りの機動六課はホテル周辺を警備する事が決定していた。
そしてなのはとフェイトは一足早く会場入りする為、フェイトは車の用意をしており、
隊舎入口にはフォワード陣とヴィヴィオが見送る為に並んでいる、するとなのは達はスバルとエリオを呼び寄せる。
「スバル……レイジングハートの事お願いしていい?」
「私も…エリオ、バルディッシュの事お願いね」
会場ではデバイスを持って入ることは出来ない、その為最も信頼できる人物、スバル達に持ってて欲しいと頼むと快く応じる。
そしてなのははヴィヴィオに目線を合わせ、優しく話しかける。
「それじゃあ明日までには帰ってくるから、ちゃんと病院に行くんだよ?」
「ぜったいに?……やくそくだよ、なのはママ」
ヴィヴィオの問い掛けに力強く頷くと指切りをするなのは、そしてその光景に自分の過去が重なり暗い顔を見せるティアナ、
…かつて自分の兄は指切りした後、二度と戻ってくる事は無かった……
…だがなのはさんに限ってそんな事が起きるハズが無い!そう自分の考えを自重するように拳を握るティアナ。
その後なのは達を見送ったヴィヴィオは定期検査の為、ヴァイスが操縦するヘリで一路聖王医療院に向かうのであった。
翌日、他のメンバーもまたホテルへと赴き厳重な警備の中、公開意見陳述会は開始される。
陳述会ではガノッサがアインへリアル計画の必要性を熱く語っており、状況は賛成の方に傾きつつある中、レジアスの姿は見受けられなかった。
そして、陳述会会場から数十キロ離れた先にナンバーズとルーテシアにゼスト、
そしてベリオンがそれぞれの役割を果たす為の配置についており、それを確認したクアットロはスカリエッティと連絡を取る。
「ドクター、此方は配置は完了しましたぁ」
「ご苦労様…では始めるとしようか……」
スカリエッティの合図の下、今此処に“ラグナログ”計画は発動したのである……
最終更新:2009年06月09日 19:37