―――汝は己の胸の内に潜む闇に怯える弱き者か?―――

             ―――それとも闇に購い立ち向かう強き者か?―――

              ―――さあ…汝の強さを見せてみよ!!―――


                  リリカルプロファイル
                   第二十四話 二層


 見事第一層をスバル達が突破し第二層に続く下り階段を下る一行。
 その道中、なのはは試練を突破したスバル達に試練の内容を聞くと快く応じ話し始める。
 二人はそれぞれ一人ずつに分かれスバルは母であるクイントと、そしてティアナは兄であるティーダと対峙、
 そして勝利をモノにすると二人から新たな力を授かったと話す。

 そして二人はその力を見せると一同は驚きの表情を見せる、
 何故なら二人のその力は今までとは全く異なり、圧倒的な強さを感じるからだ。

 その力を目の当たりにしたはやては、まさか試練を突破するとこれほどの力を得るとは思っても見なかったが、
 逆にこれほどの力ならば、対抗手段として充分に発揮出来るかもしれないと考えていると、目的の地である第二層に続くゲートに辿り着く。
 そして一行は意を決しゲートをくぐると、その空間は一層と似た造りをした緑の空間へと辿り着く。

 そして一同は暫くその場で待機していると床の魔法陣が輝き出し、エリオとキャロが光に包まれ始める。
 どうやら此処での試練を受けるのは、この二人のようである。

 「今度は僕達の番か…」
 「頑張ろうね!エリオ君!!」

 二人は互いに激励をすると一同に目を向け敬礼を行う、すると二人に答えるように一同も敬礼で返す。
 そして二人は光に完全に包まれ転送されると、残された一同の中にいるフェイトだけが不安を募らせいた。
 するとなのはがフェイトの肩に手を置くと静かに、だが力強く言葉を口にする。

 「大丈夫、あの子達は強いから」
 「うん、分かっているけど……」

 二人の事は信頼している、それでもやはり心配は隠せない様子で、フェイトの瞳には不安や心配に似た色を宿していた。


 …エリオが転送された場所は闇に包まれ一筋の光すら無い場所であった。
 故に周りを見渡しても闇が広がるだけ、エリオは大声でキャロの名を叫ぶが虚しく声だけが木霊した。

 この近くにはキャロが居ない…となるとキャロとは別の場所に転送されたと顎に手を当て考え込むと、
 足元を蝋燭のような灯火がエリオの周りを円で囲み正面にて直線へと伸び照らしていく。
 エリオは意を決し蝋燭の道を通っていくと丸く囲まれた広場に辿り着き、広場の中心には赤髪の少年の姿が見受けられた。

 「“初めまして”かな?僕の“代用品”」

 少年の姿にエリオは目を丸くし唖然とした表情を隠せないでいる、何故ならその姿はエリオそのものであるからだ。
 彼の名は“エリオ”昔亡くなった本物のエリオ、つまりは“オリジナル”である。

 「まさか“代用品”である君が僕より良い暮らしをしているなんてね」
 「ぼっ!僕は“代用品”じゃ―――」
 「“代用品”さ、自分が生まれた理由を忘れた訳じゃないだろ?」

 “エリオ”はそう言うと隣にモニターが姿を表す、そしてモニターには昔の“エリオ”の映像が映し出されていた。
 “エリオ”はモンディアル家の長男として生まれ、跡継ぎとして大事に育てられてきた。

 しかし“エリオ”は病気に掛かりこの世を去るが、両親は“エリオ”の死を受け入れられずにいた。
 其処に過去の記憶を持つクローンの製作“プロジェクトF”の噂を両親は耳にし資金提供者として名乗りを上げ、そして今のエリオが製造された。

 「そして見事に僕の“代用品”は完成した、けど…その先の結末は君も知っているハズだよね」

 そう言いながら“エリオ”は手のひらを広げ肩をすくめると更に話を続け映像は切り替わる。
 その後完成したエリオは両親と共に約一週間暮らしていたのだが、管理局に突き止められ捜査を受ける事になり、
 モンディアル家は富豪の家柄の為、このような不始末で名に傷を付ける訳にはいかないという考えに至り、エリオを手放す事を決める。

 そして当日、エリオが連れ去られていく時、両親は見て見ぬ振りをしてエリオを手放した。
 その両親の態度にエリオは人間不信に陥り、更に施設に監禁され星すら見えない日々か何年も続いていく事となる。

 「君は違法に作り出された僕の“代用品”君という存在自体が罪、なのに何故幸せに暮らしている?」
 「僕は………」
 「本来ならその席は僕が座るハズだったんだよ?」

 “エリオ”もまたエリオと同じくリンカーコアを持っている。
 自分が生きていたらエリオ以上に順調に道を歩いていたハズ…
 そして両親も“エリオ”を自慢の息子としてくれるハズだと睨みつけ話す。

 それに“エリオ”はまだやりたいことがたくさん残っている、
 美味しい物を食べたいし、仲間や友達と日々を過ごしたい、
 人を好きになりたいし愛し合いたい、だがそれより何より両親と一緒に暮らしたい…
 “エリオ”の言葉は重く何も言い返す事が出来ないエリオは床に両膝を付け俯き落ち込む様子を見せると、“エリオ”は耳元で囁くように話し始める。

 「エリオ…その席を僕に譲ってくれないか?僕を哀れんでくれるのならさ」

 “エリオ”の言葉にエリオは言葉を詰まらせ静かになる、“エリオ”の話ではエリオが賛同すれば、
 神が自分とエリオの魂を交換させ生を受ける事が出来るのだという。
 …喜びも悲しみも知らない内に亡くなった本物の“エリオ”
 そして自分は“エリオ”の“代用品”その言葉がエリオの頭の中でぐるぐると回り続けるのであった。


 一方エリオとは別の場所に転送されたキャロもまた、エリオがいた場所と同じく闇に包まれていた。
 そして同じく足下に蝋燭のような灯火が照らし道になると、キャロはその上を歩き大きく囲われた広場に辿り着く。
 そして広場の中心にはピンクの髪の少女が佇んでおり、その少女の姿に戸惑いを隠せないキャロ。

 「そんな…私?!」
 「そう…私はアナタが“望んだ”私」

 自らの力を捨て一族に慕われる自分、それが自分だと答える“キャロ”。
 すると“キャロ”の隣にモニターが姿を現すと映像が映し出される。

 キャロは一族から黒き火竜の加護を受けし者と伝えられ烙印を押された。
 一族にとって過度な力は災いを呼ぶとして忌み嫌っている、その為にキャロは一族を追放され、
 管理局に拾われるものの、殲滅戦位しか役に立たないと烙印を押されフェイトに引き取られるまで施設で暮らすことになったのだ。

 だが此処にもう一つの可能性があると“キャロ”は話す。
 するとモニターの映像が切り替わり、族長と笑顔で暮らしていたり、一族と共に充実した暮らしをしている“キャロ”の姿が映し出されていた。
 その姿にキャロは羨ましさを感じていると、耳元で“キャロ”が囁くように語りかける。

 「大丈夫、アナタもこの暮らしが出来る方法を教えてあげる」
 「えっ!?それは一体」
 「簡単だよ、自分の力を捨てればいいんだから」

 “キャロ”の言葉に耳を疑うキャロ、すると話の説明を始める。
 キャロが追放される切っ掛けでもある巫女の儀式の際に契約したヴォルテール、そして卵の頃から育てたフリードリヒ…
 その双方と使役できる能力、竜使役を捨てる事で先程見た幸せを手にする事が出来るという。

 “キャロ”の説明にキャロは目を瞑り考え込む、自分は自分の力を疎く感じていた。
 制御できない巨大な力、その為に隔離され先日の戦いでは力を感情のまま解放し、大事な居場所を失った。

 …かつてなのははヘリの中でこう言った、‘キャロの魔法はみんなを守ってあげられる、優しくて強い力なんだから’と
 だが現実はどうだ、自分の力は守るどころか自分の居場所すら破壊し尽くした。

 …こんな力が無ければ一族から追放されずにすんだ、こんな力が無ければ大切な居場所を失う事もなかった…
 こんな力を捨てる事が出来るのなら、自分は……

 するとフリードリヒがキャロの手に噛みつく、その痛みにキャロはフリードリヒを見つめると訴えるように鳴き始める。
 キャロは確かに不幸な日々を過ごしてきた、キャロの隣脇でいつも見ていた自分もそう思う。
 しかしキャロの力は何も不幸だけを呼んできたわけじゃない、

 エリオやスバル達などの機動六課のメンバー、それに“拠り所”でもあるフェイトとの出会い
 それらは昔憧れていた日々と何ら劣るものではないと強く訴える。

 フリードリヒの訴えにキャロは再度目を瞑る、確かに“キャロ”の言う通り自分は自分の力を疎んでいた、
 しかしこの力によって新たな“絆”が生まれたのも事実である。
 そしてフリードリヒ、ヴォルテールの“絆”を捨て去る事が出来るだろうか……

 答えは否、もはや家族ともいえる二体の“絆”を断ち切ることなど出来ない。
 そしてフリードリヒが言ったように今の自分には“居場所”がある“拠り所”がある。
 それを捨ててまで過去にしがみつく理由はない…

 するとキャロはゆっくりと瞳を開けると、其処には決意の色を宿し迷いを振り切った姿があった。
 そして静かに囁くように詠唱を始める。

 「天地貫く業火の咆哮、遥けき大地の永遠の護り手、我が元に来よ、黒き炎の大地の守護者。
  竜騎招来、大地轟鳴!来よ、ヴォルテール!!」

 すると大地を揺らすようにヴォルテールを召喚するキャロ、その姿に“キャロ”は問いかけた。

 「良いの?此処で力を捨てれば、あなたが望んだ物が手に入るんだよ?」
 「望んだものなら、もう手に入れた」

 フェイトとの言う“拠り所”機動六課と言う“居場所”
 そして自分の力を信じて手を貸してくれるエリオやスバル達と言う“仲間”
 そしてそれらは“絆”で結ばれ強固になっている。

 「私はもう振り向かない!自分の力を否定しない!!」

 そう言うとキャロはギオ・エルガを命じると、周辺大地の魔力を収束し炎熱効果を持つ直射砲を撃ち抜く。
 撃ち出されたヴォルテールの一撃は“キャロ”を飲み込むと、辺りの闇が晴れキャロは光に包まれるのであった。


 一方でエリオは落ち込む表情を表しながら一点を見据えていた。
 するとそこに“エリオ”がゆっくりと近づくと左膝を付きエリオと同じ目線で座ると右手を肩に置く。

 「さぁ、その体を僕にくれ、どうせ君は何もないのだから」

 “エリオ”のその言葉に反応するエリオ、自分には何もない?そうなのか…
 いや違う、自分は何も無い訳じゃない、自分には“拠り所”であるフェイトさんがいる。
 それに幾らクローンであってもオリジナルに成り代わる事は出来ない、あくまで“別人”なのだ。

 「……僕は君じゃない、僕は僕だ!!」
 「何を言っているんだい君は?君は僕のクローンなんだよ」
 「確かに僕は君のクローンさ、でも僕は僕として生きている!」

 たとえクローンであっても生き方を変えれば一人の“人”として生を全う出来る。
 だからこそ自分は“エリオ”を拒絶すると語った。
 エリオの決意ある言葉に“エリオ”は立ち上がり怒りを露わにすると、怒鳴り散らすように叫び始める。

 「ふ…ふざけるな!“代用品”の癖に!!」
 「もう…“代用品”なんて言わせない!僕の名はエリオ・モンディアルだぁ!!」

 そう言うとエリオは立ち上がり右の拳を握り締め魔力で覆うと“エリオ”もまた握り締め右拳を魔力で覆う。
 そして互いの距離を詰め拳を振り抜く、振り抜いた拳は双方の顔に直撃し顔を歪ませるが、その目はしっかりと相手を見つめていた。

 「“代用品”が!オリジナルに勝てるわけ無いだろ!!」
 「勝つ!勝ってみせる!!」

 そう言うとエリオの拳に稲光が走りバリアジャケットの袖を破り、拳には電気が纏っていた。
 そして叩き付けるように拳を打ち抜く。

 「はぁぁぁ!!紫電一閃!!!」

 エリオの拳から繰り出された紫電一閃はそのまま“エリオ”を吹き飛ばす。
 そしてエリオの一撃により闇は晴れ光が射すとエリオを飲み込むのであった。


 場所は変わり此処はとある場所、其処には光に飲まれたエリオとキャロが佇んでいた。
 だがエリオの破れていた服は元通りになっており、キャロの後ろにはフリードリヒとヴォルテールもまた静かに佇んでいる。
 そして二人は互いに無事であることを確認すると、目の前に“エリオ”と“キャロ”が姿を現す。

 「やれやれ、まさか僕達が負けるなんてね」

 “エリオ”が頭を掻きながらそう言うと“キャロ”が説明する。
 今回は二人の内に封印していた闇を突破できるか否かを神は見定めていた。

 そして結果は合格、見事自分の闇を振り払った為、此処に呼ばれたのだという。
 そして合格した証拠として“二人”はそれぞれのデバイスに触れる。
 二人のデバイスが輝き出し落ち着くと、“二人”はモードエクストラを要求、二人は快く応じるとモードエクストラを起動させた。

 するとエリオの白いコートが黄色の稲妻に変化すると体全体を覆い、
 そしてストラーダは60cm程の細めの両刃の刀身に、バーニアと兼用のカートリッジシステムてが付いた四角い鍔、
 更に一回り短くなった柄にグリップエンドにもバーニアが付いており、
 その大きさは今までのストラーダとは大きく異なり片手でも振るえるような造りをしていた。

 “エリオ”の話では今のストラーダは片手でも振るえるほどに軽く、斬撃にも対応しやすくなっている。
 そしてバリアジャケットを電気化させる事によって軽量化、更に肉体の反応速度を高め今まで以上の高速移動が可能となり、
 この能力を最大限に引き出した奥義がエターナルレイドと呼ばれる技であると話す。

 次にキャロであるが、キャロの持つケリュケイオンから紅い玉が飛び出すとフリードリヒとヴォルテールの胸元に突き刺さり、紅い水晶に変化する。
 すると“キャロ”が説明を始める、今二匹の竜に付いた水晶は竜紅玉と呼ばれ竜の力を高めるという。
 更に魔力と竜紅玉の力によって撃ち出される奥義ドラゴンドレッドを使用することが出来ると伝えた。

 「折角迷いを振り切ったんだ、絶対に勝てよエリオ」
 「あぁ任せて」
 「キャロ、自分の力を信じて」
 「ありがとう、もう一人の私」

 二人は“エリオ”と“キャロ”に別れの挨拶を交わすと、手を繋ぎ光と共にその場を去っていく。
 そして残された“二人”は照れ臭そうに互いを見つめ合う。

 「…それじゃあ、僕達も行こうか“キャロ”」
 「うん、アナタと一緒なら何処までも“エリオ”君」

 そう言って二人は指を絡ませる形で手を握ると歩き出し、徐々に光の粒子となって消滅していくのであった。



 一方残されたメンバーの中、フェイトは二人の帰りを今か今かと待ち続けていた。
 すると丁度良く二人が姿を表すとフェイトは駆け寄り抱き寄せる。

 「二人共!大丈夫だった?」
 「フェイトさん、大丈夫です、ちゃんと自分の闇を振り払ってきましたから」

 エリオはそう言うとその瞳は迷いを振り切った印象を感じ、キャロもまた同じ目をしているのに気が付くフェイト。
 中で何があったのかはフェイトは分からないが、二人にとって大切な事があったのだろうと考え、
 二人の成長を嬉しくもあり、また同時に寂しく感じているとなのはが肩を叩き頷き、フェイトもまた答えるように頷く。
 すると奥に存在していた第三層の扉が音を立てて開き出し、
 それに気がついたディルナは一同を先導しつつ先に進むのであった。





  …神の居所に辿り着く日もそう遠くはない………








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最終更新:2009年07月19日 20:58